帰還
「ここは」
おれたちはさきほどまで、ローブを着た老人と荒野で話をしていたはずだ。
しかし、ここは……。
泉がある遺跡の部屋だった。戻ってきたのだ。あの荒野の世界から……。
荒廃した世界の終着点から。
この世界は、いつものように美しかった。生物のにおいがする。それらが、おれを安心させた。
さくらと博士はすぐ近くにいた。
「ふたりとも大丈夫か」
あわてておれは話しかける。ふたりとも、怪我もなく無事のようだ。
「さっきの夢だったのかな?」
さくらは、ねぼけたような声でそう言った。
「夢なわけあるか。三人とも同じ夢をみるわけがないだろう」
「だよね」
おれたちはそんな会話をしていると、博士は壁画を見ながら、考え事をしていた。
「とりあえず、今日は帰ろう。“いろいろ”決めるのは明日にしないかね?」
博士は疲れた声でそう言った。
“いろいろと”いう言葉に含まれる意味もおれたちにはわかっていた。
博士の言葉に同意すると、おれたちは遺跡の外にでた。博士は、もう少し壁画の研究をしたいとのことで、そこに残った。遺跡の外は、夕焼けが広がっていた。おれたちは、ふたりで村へと続く道を進む。
「大変なことになっちゃったね」
さくらは、疲れ切った声だった。
「だな」
たぶん、おれも同じ様子だろう。
いきなり、泉に吸い込まれて、未来の世界に行って、その世界では人間は滅亡していて、ただ、荒野が広がっていた。そこで、不思議な老人に出会って、世界の運命を変えて欲しいと頼まれる。どんな、SF小説のあらすじだ。RPGだ。そんな、ツッコミをこころで繰り返した。
無言で道を進んでいく。
<信じられない>
ふたりは、そんな顔をしているだろう。今日起きたこと。そして、明日から起きることを考えると、その言葉がこころで何度も反響する。
だが、おれのなかでは、もうひとつの感情があった。
<おれは選ばれたんだ>
その感情が、おれの虚栄心に火をつける。
転生前・後の世界で、つまらない日常に飽き飽きしていたおれが、特別な存在になることができた。うれしくないわけがない。世界の明暗は、おれの肩にかかっているのだ。こころが震える。まるで、RPGの主人公になった気分だ。
「ねえ、ユウト? これからどうするつもり?」
さくらは、不安そうな表情だった。
「おれは……」
聞くまでもない。不安よりも好奇心が勝った。
「世界を救おうと思う」
その返答を聞いた時のさくらの顔は複雑なものだった。
こうして、おれはパンドラの箱を開いたのだった。
まだ、それがパンドラの箱だとは気がつかない愚かなおれが……。




