ときのいずみ
おれたちは老人の後を追って彼の家にたどり着いた。いや、そこは家とも呼べるようなものではなく、洞窟のような場所だった。いやな予感がした。
おれたちは狭い洞窟の中に招かれる。そこには土で作られた椅子と机があった。
「むさくるしい場所で悪いな。いま、飲み物を出そう」
そう言うと、老人は水魔法を唱えて、ぼろぼろの容器に水を注いだ。
「よく考えれば、茶など切らしておってな。すまんが、これで勘弁してくれ」
不思議な老人だった。飄々としているせいで、逆に不気味だった。
どうして、こんな最悪な世界にひとりで住んでいるのだろうか。
「そういえば、申し遅れました。わたしはハルと申します」
博士は自己紹介を済ませる。
「ユウトです」
「さくらです」
おれたちも続く。
「失礼だが、わしは名前はなくてな。観測者とでも呼んでくれ」
「名前がないんですか?」
「あるには、あるんだが、忘れてしまったのじゃ。他人と話すのが、五百年ぶりくらいでな」
「五、五百年」
おれたちは愕然とする。
「まるで、浦島太郎になった気分だ」
おれは小声でそう言った。さくらはうまく聞き取れなかったのか、不思議な顔をしていた。
「では、なにを観測しているのですか?」
「世界の流れすべてだ。風、生き物、岩や物の風化」
「あなた以外に、人間はいないのですか?」
「うむ。みんな死んでしまったよ」
「死んだ?」
「そう、死んでしまった……」
老人はしばらく目をつぶると、おれたちに問いかけてきた。
「きみたちはどこから来たんだい?」
「遺跡の中からです。村の近くにあった遺跡を調査していたら、いつのまにかここに……」
「遺跡? そうか、そうか」
老人は納得した顔になった。
「なにか知っているんですか?」
「なにかを知っているといえば、知っている。だが、知らないといえば、知らない」
そんな哲学問答みたいなセリフを繰り返す。
「お願いします。教えてください。元の世界に帰りたいんです」
おれは、彼に必死にお願いした。
「“時の泉”。それを使って、きみたちはここにきたはずだ」
老人は重い口を開き始める。




