動き出した時間
壁は開き終えた。
そこには、小さな小部屋が存在していた。
部屋の真ん中には、不思議な光を放つ「泉」がひとつ。
壁には、壁画が一面に描かれていた。
不思議な雰囲気を持つ部屋だった。
神秘的で、どこか懐かしく、そして安心できる空気を持っていた。
それは、三人とも同じだったようだ。
「まるで、お母さんに抱かれているみたい」
さくらがそう言った。
おれたちも同感だった。
「これはなんだ」
博士はぽつりとぼやくように壁画を指さして言った。
そこには驚きと興奮が同居していた。
おれたちにも、その興奮が伝わってくる。
おれは壁画へと近づく。
壁画には猿が立ちあがり、少しずつ文明を築いていく様子が描かれている。最後の絵には、天から赤い物体が落ちてくる様子が描かれていた。おれ、いや、おれたちはその様子を現実にみたことがあった。あの隕石の衝突。おれたちが転生前にみた最後の光景と重なる。あの事件で、文明は崩壊してしまったのだろうか。壁画にそのあとの歴史は描かれていなかった。
ここは異世界ではなく、未来なのかもしれない。
さくらとおれは、同じ考えだった。
おれたちがいた前世は隕石によって崩壊し、転生していまを生きている。
「人類の歴史ですかね。おれたちよりも前にあった文明の歴史」
おれは動揺する自分を抑えてそう言った。
「そうかもしれんな。これは大発見だ」
博士は大喜びしていた。まさに狂喜乱舞。壁画に飛びつくような勢いだった。
しかし、おれはそんな壁画のことはどうでもよかった。部屋の中央に位置する「泉」に導かれる。
誰かに呼ばれているような気がした。
そこにいかなくてはいけないような気がした。
「どうしたの、ユウト?」
さくらはおれの手をとりそう話しかけてきた。
おれは、その言葉に答えずに、そのまま「泉」に飲み込まれた……。




