遺跡の中へ
朝食を済ませると、ハル博士が訪ねてきた。
「やあ、おはよう、ふたりとも。昨日は大変だったね」
いつものようにさわやかな笑顔だった。しかし、博士は目的の場所の中に入ることができる喜びで、いつもよりもハイテンションだった。
「今日はよろしく頼むよ、ユウト」
「はい、それで……」
おれはさくらの顔をみる。
「今日は、わたしも一緒に連れていってください」
昨日、一緒に答えをだしたことだった。ずっと一緒にいる。
だから、今日も……。
そして、明日も……。
「そうか、では、よろしくな。さくらくん」
博士はそう言いながら微笑んだ。まるで、なにもかも見透かしたような笑顔だった。
おれたちは、村長さんから預かっていた宝剣をもって、遺跡へと向かった。
やはり、昨日のようにこの剣はとても軽かった。
どんな力自慢ががんばっても抜けなかったのがウソのようだった。
遺跡は昨日のままだった。隠し階段は、そのままで、地下へと続いている。
「では、いこうか」
うなづくと、おれたちは博士に続いた。
地下は、思いのほか明るかった。用意しておいた松明は、無用となるほど明るかった。
「どうやら、照明魔法が使われているようだね」
「照明魔法ですか。いったいどうやって?」
魔法が得意なさくらは驚いていた。苦手なおれだって、驚いた理由はわかる。いったい、いつからこの照明魔法は有効となっていたのか。この遺跡が、作られた時からか。そうだとすると、数百年以上前からずっとっこの魔法が使われていることになる。そんなことができる術者ははっきり言って人外だ。莫大な魔力を、この魔法に使ってはじめて可能となる。
「それはよくわからんな」
博士は首を横に振る。
そうだ、そんな存在がいたとなると歴史に名の残るほどの大魔導士だろう。
しかし、学校で習った歴戦の英雄のエピソードを思い出してもそんな英雄は思いだせない。
おれたちは、狭い通路を一列に進んでいった。
やはり、光は延々と続いていた。
しかし、たどり着いた先は行き止まりだった。
そこには、なにもなかった。
「うーん、行き止まりか」
博士は残念そうにそう言った。
そこには、変な文字が書かれていた。
「なんだろうね。こんな文字、見たことないよ。解読するにしても、これはちょっと難しいかもしれないね」
「本当に……」
ふたりともお手上げ状態だった。
おれにもよく見せてくれと、文字に近づいた。
よくわからない文字だった。だが、頭に音が流れ込んでくる。
(……よくきた。選ばれし者よ。わたしはおまえを待っていた……)
「ユウトくん……まさか……」
(さあ、この扉の前で、宝剣を捧げるがよい。さすれば、道は開かれる)
おれは言葉通りに宝剣を天にささげた。すると、扉は大きな音を立てて動き出した。
(忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人の命の 惜しくもあるかな)




