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動き出すセカイ

「やっぱり、ユウトもおぼえていたんだね……」

 おれがさくらを問いただすと、彼女は震える声でそう返答した。

 “ユウトも”ということは……。


 そうだ、“彼女”もなのだ。


「おまえもおぼえているのか?」

「うん」

 “なにを”と聞く必要はなかった。

 そんなことは話を進めていけばわかる。

 いや、もうわかっていた。

 この先は単なる確認作業だ。


「日本のこともか?」

「うん」

「むこうで過ごした記憶も?」

「うん」

「隕石が落ちてきたことも……」

「うん、ふたりで一緒に逃げたこともおぼえているよ」

「いつから、いつから……」

「もう十年くらい前。ユウトと一緒に住みはじめたときから……。ある日、急に思いだしたの」

 おれと一緒だ。おれはつい最近まで、その記憶がなかったのだけれど……。

 記憶を思いだすのに、時間差があったんだ。


「でも、ユウトはなにもおぼえていない様子だったから。内緒にしていたの。ごめんね」

 さくらが謝ることはない。

 こんなこと、記憶がなかったら絶対に信じない。

 変なことを言いだしたとしか思われないからだ。


「おれこそ、悪いな。前のことを思いだしたのは、ついこの間で……」

 さくらには寂しい思いをさせてしまった。

 とても不安だっただろうに……。

 両親が死んだショックでおかしくなったと怖くなっただろうに。


「そう、なんだ、ね」

 彼女の目が潤んでいる。


「でも、よかった。ユウトもおぼえていてくれて」

「うん」

「ずっと、ずっと不安だったんだ」

「うん」

「頭がおかしくなっちゃんじゃないのかなとか」

「うん」

「じつは、わたしは死んじゃって、この世界は夢のなかもしれないとか……。変な事ばかり考えちゃった」

「うん」

「だから、前の世界でも、この世界でも。変わらないユウトがいてくれてよかった。安心した。さびしくなかった」

 そう言うと彼女はおれの胸に頭を沈めてきた。おれの服が熱くなっていく。

 彼女のぬくもりがおれの体全体に伝わってくるのだった……。

 さきほどの抱擁以上に、おれたちはお互いのことがよくわかった。


 この世界では、彼女のことをしっかり守ろう。

 おれは、前世でできなかったことを心に強く誓った。

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