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祭りのあとで

「サクラ、どうしたんだ? 顔色悪いぞ」

 遺跡には、おれとサクラだけが取り残されていた。

 今までの祭りの歓声がウソのようだ。

 さきほどまで、光に包まれていたこの遺跡はふたたび闇に覆われている。


「ああ、ユウト。ごめんね、いろいろありすぎて少し疲れたみたい。少し休めば、良くなると思うから……」

 彼女は、本当に調子がわるいようだ。いつもよりも、元気がない。

 おれは、心配になった。


「そこに座れよ。立っているよりも休めるぞ。おれも一緒にいてやるから」

「うん、ユウトも疲れているのに、ごめんね」

「いいってことだ。気にするなよ」

 おれたちは、遺跡の前に座りこむ。

 レプリカの重い鎧を着ているせいか、おれも少し疲れていた。

 緊張のせいもあるだろうが……。


「なんだか、大変なことになっちゃったね」

 サクラは、不安な気持ちをこめながらそう言っていた。

 少しだけ目が潤んでいた。

 たしかに、大変なことになってしまった……。

 でも、どうしてサクラはこんなに不安定になってしまったのだろうか。


「だな。心配事でもあるのか?」

「うん、心配事っていうほどでもないんだけどね。なんだか、今までの日常が、壊れてしまいそうで。少しだけ怖いんだ……」

「怖い?」

 いつもは優しい笑顔を絶やさない彼女の表情は曇っている。

 サクラは珍しく弱気になっていた。

 不謹慎だが、その様子が、とても愛おしかった。


「うん、おとうさんとおかあさんが死んじゃった時みたいな。わたしの大事なものがなくってしまいそうで……。とっても怖い」

 他人から見れば大げさな発言だろう。

 しかし、彼女の声を聞いた時、おれはなにも言えなかった。

 思わず抱きつきたくなるような言葉だった。

 はかなげで、どこかに消えてしまうような震えた声。


「だいじょうぶだ。おれはどこにもいかないから」

 自意識過剰な発言かもしれない。


 でも、こういわなくてはいけないと思った。これがただひとつの正解だと確信していた。


「ユウト……」


 さくらは、そうつぶやくとおれの胸に抱きついてきた。

 そして、おれの胸が熱くなる。


 鎧を着ているのに、彼女から伝わる熱はどんどんとおれの体に伝わってくる。


「ありがとうね」


 十五分くらいふたりでそうしていた。

 もう、このふたりの世界に言葉はいらなかった。

 ただ、ふたりが、そこにいるだけでよかったのだから……。

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