祭
おれたちは遺跡の前に到着した。
そこには、祭壇が作られていて、みんながそこに集まっていた。
「やあ、ユウト。ずいぶんと立派なかっこうになっているね」
ハル博士がおだやかな口調で、おれに話しかけてきた。
「馬子にも衣裳ですかな」
村長もそれに続いた。ふたりとも、おれの緊張感を解こうとしているのがわかった。
「ふたりとも、あんまりからかわないでください」
おれは、なんとかそう答えた。その答えに年長者ふたりが笑っている。
そんな二人を尻目に、さくらがおれの耳元に近寄って小さな声でこう言った。
「すごくかっこいいよ、ユウト、ほんとうにね」
機密性の高い鎧を身に着けているだけでない。体が急に熱くなる。
「ありがと」
めずらしく素直な言葉を返したおれだった。
「それでは、諸君。そろそろ、儀式を始めるとしよう。ハル博士とユウトはこちらに来てくれ」
村長は大声で群衆に呼びかける。
ついに本番がはじまるのだ。
おれたち、ふたりはうながされて、祭壇に上がる。
祭壇には、宝剣が一本突き刺さっていた。
伝説の英雄が所有していた妖刀。
選ばれし者が、それを握れば遺跡の封印が解かれる。そんな伝説を博士と村長は言っていた。
――選ばれし者――
おれがそれであるはずがなかった。
おれがそんな存在であるはずがなかった。
ただ、心の中には現実を見ようとするおれと、それ以外を望むおれの二人が存在していた。
仮におれが選ばれし者だったら……。
この退屈な日常が、劇的に変化するかもしれない。
小さな村で、一生を過ごす人生との決別。
それを考えると、おれのこころが躍る。
いつの間にか儀式は始まっていた。
おれは儀式の最後まで、出番はない。
博士による魔術の詠唱が続いている。
「世界を見守るすべての力をもってして、汝の封印を一度解き、新たな祝福を与えん」
ハル博士がおだやかにうなづいた。宝剣の封印が解かれたようだ。
おれは台本通りに、宝剣に近づく。
あとは、全力で宝剣を地面より抜き、博士に手渡して、おれの出番は終わりとなる。
おれは、剣に手を伸ばした……。




