夢
「ここはどこだ?」
気がついたら、そこはなにも存在しない灰色の世界だった。
すべての色彩は消えていて、荒れ果てた荒野がただ、延々と続いている。
そこには、おれ以外誰もいない。
しかし、謎のうめき声や悲鳴がこだましている。
「気味の悪い夢だ」
夢だとしか考えられなかった。こんな場所、おれは知らない。
「それは少しだけ違うな」
声がした。重苦しい声だった。
がしゃん、がしゃんと金属音がする。
白銀の鎧をまとった男が突然、出現した。
兜をかぶっているため、顔はみることができなかった。
「おまえはだれだ」
「それはまだ知る必要がないよ」
感情を押し殺したような口調だ。
「なら、ここはどこだ」
「ここはどこでもない。だが、たしかに存在する場所だ」
遠回しな言い方をするおとこだ。
「意味が分からない」
率直な感想だった。
「ここはたしかに存在する。それと同時に、世界に認識されない場所。簡単に言えば、そういうことかな」
なにが「簡単に」だ。
全然、意味が分からない。
「おれは、あんたと哲学的な議論をしたくはない。祭りがあるんだ。早く帰してくれ」
「それは失礼した。では、単刀直入に言わせてもらおう」
少しだけ沈黙が生まれる。
その後に彼は重い口を開いた。
「好奇心に負けてはいけない。今あるものを大事にしたほうがよい。そうしなければすべてを失うこととなる。」
「ありきたりな説教だな」
「説教ではないよ。アドバイスだ、こころからの」
「貴重な助言をありがとうございました」
「どういたしまして」
おれの視界は乱れていく。世界の色彩が少しずつ鮮やかになっていく。
「起きて。ねぇ起きてよ、ユウト」
慣れ親しんだ声がした。
「さくら?」
「もうすぐ、お祭り本番だよ。はやく起きてよ」
「やっぱり、夢だったのか」
自然と口から声がでてしまった。
「なにが?」
「なんでもない」
「変なの」
そして、おれたちは村長さんの家の外にでる。
外はかがり火で、美しく彩られていた。




