7話 スラム街復興編①少女行方不明事件
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「それにしても、金貨150枚って報酬としては破格じゃない?」
「そうですね。ですがゴブリンの集落を壊滅させたのですから妥当な報酬ではないでしょうか?」
「それよりも、今回の依頼…どうしてお受けしたんですか?」
「だって…自分の住んでいるところで行方不明事件って放っておけないでしょう?」
実際、龍壱たちにはこの依頼を受けることはできなかった。
パーティランクが5以上でないと受けられないはずの依頼だったのだが、その緊急性からギルマス(ギルドマスター)のルースに頼まれたのだ。まあ、他の冒険者たちが誰も受けなかったと言うのもある。
「それにしても、少女ばかり行方不明っておかしすぎますよね?」
「普通に考えれば『拉致』だろうね」
「人買いが裏で手を引いているとか?」
「その可能性はあるだろうね」
「しかし、どうやって相手を特定するかよね?」
「それなんだけど…まずは情報を集めることと、この辺りの暗部を調べることだと思うんだ」
「暗部…ですか?」
訝しげに言うイルマに頷く龍壱。
どんなに発展した街でも、どうしても影ざる場所は存在する、それ自体が完全に悪いと言うわけではないが、行き過ぎればやはり『毒』となるのも事実。仕事で失敗して職を失ったり、怪我や病気で働けなくなった者たちは自然とそういう場所に流れていく。そして、スリや恐喝などの犯罪に身を染めていく。しかし、その程度で済めばまだ良い方だ。堕ちた者は殺しや人身売買などに手を染めていくのだ。
「やり方の雑さという手口からも素人に毛が生えたくらいだろうな。でも、こういうヤツらが1番厄介なのも確かだよ」
地球でもそうだが、暴力団よりも厄介なのがチンピラの方だ。暴力団は一見すると危険に思われるが素人に手を出すようなマネはまずしない。手を出す場合は法律ギリギリの悪事くらいで直接的な暴力には訴えない。下手をすれば捕まるリスクの方が高いし暴力団自体の存続にも関わる。だから素人には手を出さないのだ。しかし、チンピラたちは違う。彼らにとってはとにかく箔が大事なのだ。舐められたお終いみたいな考え方なので暴力や悪ければ殺しも辞さないのだ。そうまでしてでも自分たちの立場を重んじるただの馬鹿でもあるのだが…だからこそ怖いのだ。
「…「防御」を『ダウンロード』…」
俺の考えが正しければこの手のチンピラは嗅ぎまわれば確実に命を狙ってくる可能性が高い。
そこで俺は防御を鉄壁にするつもりでダウンロード機能を使ったわけだ。
ダウンロードにかかる時間はたったの2分だった。これがダウンロードVer.3になった効果だろうか?
「今日はあと4回か…とりあえずイルマは拉致された家族から話を聞いてきてくれるかな?俺たちは1回スラム街を見てくるよ。1時間後にギルドで会おう」
「分かりました」
俺とジャニスでラビオニアの暗部・スラム街へと向かう。
「……汚すぎない?」
「…ですね」
建物が汚れたり所々壊れかけているのはなんとなく予想していたが、生ごみがあちこちにばら撒かれコバエが集っている。よく見るとネズミも見えるほどだ。
そんな場所に座り込んでいる者たちが大勢いる。
「これはマズいな…」
「マズイ…ですか?」
「うん。俺の知る智識ではこの状況が続くと非常にマズイことになるよ」
「それってどういう…?」
「人に病気をもたらす…『ウイルス』だよ。それが発生しやしやすい状況なんだ。いや…もしかしたらもう発症している人がいるかも…」
「その…『ウイルス』と言うのは一体?」
「簡単に言うと『病原体』かな?まあ、本当の意味までは分からないけど…これは俺のイメージだね。風邪とかの病気はこのウイルスが発症元なんだけど…これは人の細胞に病気をもたらすものなんだ」
「では、どうやって人の中に?」
「空気感染や飛沫感染。粘膜汚染とかが普通かな?」
「と言うことは…?」
「つまりね。ウイルスは、カビや腐った物から生まれやすいんだ。そして…それは空気に紛れて人の中に入っていく。病気なるかはその人の持つ抵抗力がどれだけあるかで違いはあるけれど…ここで生活していれば時間とともに発症する可能性が高まるんだ。しかもこの『ウイルス』ってヤツは『ネズミ』や『渡り鳥』にも『感染』してどんどん拡大していく。ただの『風邪』程度ならいいけど…重い病気のモノだったら…」
聞いていたジャニスの顔が青ざめていく。
それはそうだろう。今俺が言ったことが本当ならとんでもない惨事が起きるかもしれないのだ。
「どうすればよろしいのでしょうか?」
「そうだなぁ…」
俺は考える。
病気になれば魔法で治せるだろうが、それは解決にはならない。汚染具合やこの地域の浄化に建物の建て直しや住人への仕事の斡旋。解決するにはやるべきことは多い。とても俺1人でどうにかできるレベルのモノではない。
「まずは…『地球医療技術』を『ダウンロード』…」
多分この世界の医療技術では病原体の特定は無理だろう。そのためには地球の医療技術は同支店必要になる。ただ、ダウンロードが可能なのかは正直不安だった。
だが、あっさりと歌詞ができるメッセージが出たときは小躍りしたくなった。まあ、気持ちは抑えたけどね。
ダウンロード時間は5分だった。次のダウンロードをしながら俺はジャニスに向き合う。
「ジャニス。すぐに国王様に会えるかな?」
「…まずはギルドに行ってイルマと合流。そのあと屋敷に戻ってリストに唾儀を頼みます」
「その予定でお願いするよ」
事はどんどん大事になっているがどうにかしないといけない。
俺は理由を作ってもう少し周りを見て周る。もちろんダウロード時間の確保のためだ。
「…よし。ダウンロードが終わったな。次は…『世界病魔』を『ダウンロード』…」
ダウンロード時間は3分。意外とかかるなぁ。しかし、今日できるダウンロードはあと2回。考えは決まったが、どう『言葉』にすれば良いのか思案していた。
「おい。俺の言葉が聞こえるかい?」
「……」
「やってみるか。…『中級快復呪文』!」
病気を治す魔法を男に施す。30秒もすると男は意識を取り戻した。
「身体のダルさや熱が引いた…あんたが?」
「話しが聞きたくてね。良いかい?」
「ああ…。答えられることならな」
「アンタみたいな病人は多いのかい?」
「ああ…。ここの所増えてきているよ」
「それはこのスラム街だけなのかな?」
「ああ…。この辺りだけのはずだ。まあ、オレらみたいなのは煙たがれるからなぁ」
「そうか…悪いけど、アンタみたいの症状の人を集めてもらえるかな?」
「…治療してくれるのか?」
「ああ。重症はこっちから出向くから集めるだけ集めてくれ」
「ありがたや、ありがたや」
男は拝むように感謝しながら走っていく。
ジャニスが俺の横に並び微笑んでいた。
「まあ…これくらいは良いどろう?」
「ええ…。さすがはリュウイチ様です。私は誇りに思います」
ジャニスはギルマスのリースの言葉を思い返していた。
リースの言った『勇者』と言う言葉の意味、龍壱の持つ優しさはまさにその言葉に相応しいと。
力あるものはそれを自分の利益のために使う。それが当たり前の権利であり、だからこそ皆必死になって生きる。だが…当然だがドロップアウトする者も少なくない。また、普通に生きる者たちが大半なのも事実だったりする。つまり、強さを求めるのが普通でありながらも、大半の者は今を生きてために生きている。
矛盾しているように思えるが、特別な力を持って生まれたなら前者の考えが普通ではある。しかし、何の能力を持たずに生まれた者は諦めて普通に暮らすのが自然の流れなのだ。
そう言うのが常識的な世界で龍壱の生き方こそが普通ではないのだ。無償で誰かに施しをすると言うのは普通なら問題だらけだ。なぜなら、力ある者はその力で報酬を得ているのだ。なのに、無償でやる者が現れれば当然誰もがそちら側に流れるのだからたまったものではない。
しかしどんなことにも例外は存在する。今回のように日々の暮らしさえ困難な人々には治療を受けることさえできないのだ。そう言う人々に限り無償で治療したところで文句は言われない。なぜならお金にならない相手だからだ。
「さあ、全員を治療しちゃおう」
集まってくる人々を目にし龍壱はそう言うのだった。