6話 血の克服のために強制的にゴブリン狩りをしました。
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「うぅ…」
「リュウイチ様!」
「旦那さま!」
「…ジャニス…イルマさん」
目が覚めると、俺の顔を覗き込んで心配そうに涙を浮かべる2人がいた。
俺は女神たちとの会話を思い出し、自分に起こしたことが恥ずかしくなる。
モンスターを斬り殺して気絶だもんなー…。厭きられてもおかしくないのにこんなに心配してもらえると逆に居心地が悪い。
「ここは…どこかな?」
「冒険者ギルドの宿舎の一室になります」
「宿舎なんてあったんだね…」
「はい…。それでその言い辛いのですが…」
「リュウイチ様…ギルドマスターがですね…」
「ん?どうかしたの2人とも?」
俺の言葉に2人が何か言い辛そうに困ったような顔している。
何だろう…?何か嫌な予感がプンプンする。
俺がベッドから起き上がろうとした時、ドアがいきなり開いた。
「おう!起きたか?坊主」
「は、はい。え…えっと」
「儂は冒険者ギルドのマスターをやってるルースだ。ゴブリン斬って気絶したってなぁ?それじゃあ、不便だろう。ということで、1週間の実地講習を命じるぜ」
「…はい?」
「いやー…楽しい1週間になりそうだ」
「……」
返事も聞くことなく強制的に俺の冒険者実地講習会への参加が決定した。
なぜ、こうなった!?
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「ハアァッ!」
「ギャ―――ッ!」
「テイッ!」
「ギャワッ!」
「ドリャッ!」
「ギャウッ!」
ゴブリン3匹を相手に大剣で斬りつけていく。
袈裟斬り、横薙ぎ、兜割り。流れるような攻撃でゴブリンは倒れる。
「うむ。手際が良くなったなリューイチ」
「ありがとうございます、教官殿」
「1週間前のレタレがよくぞここまで立派な冒険者になったモノだ」
「すべて、教官殿のおかげであります!」
「お前は腕は超一流なのに血がダメと言うある意味最悪な症状だったからな。荒治療にと1週間でモンスター100匹狩りをさせたが…よく達成できたな。誇っていいぞ」
「教官殿…」
この1週間。始まったばかりの頃は達成など無理だと思っていた。
血を見ては気絶の2日間。次は血を見て吐くを繰り返した。胃の中が空っぽになっても吐き続けた。
3日前になってようやく血を見ても吐かなくなった。慣れたと言うわけでなく意識が変わっただけだったのだが…。
それもこれも教官殿の言葉のおかげだ。
「教官殿が言ってくださった言葉のおかげで今の自分がいます」
「言葉ただのキッカケにすぎん。達成できたのはリューイチ自身の実力である。だが…貴様の気持ち、ありがたく思うぞ。これにて、実地講習会の卒業を認める。自宅に戻り家族に顔を見せてやれ」
「今日までお付き合いいただきありがとうございました!」
「うむ。さあ、帰るが良い」
結局、この1週間で倒したモンスターの数は112匹だった。
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「ただいま…」
「おかえりなさい。リュウイチ様」
「おかえりなさいませ、旦那様」
「「「おかえりなさいませ!」」」
家族『たち』が出迎えてくれる。思わず顔が綻ぶ。本当に心から嬉しかった。
「1週間も会えなくて寂しかったです。リュウイチ様」
「俺もだよ」
「…なんだかおかしい。たった1週間合わなかっただけなのにリュウイチ様が前以上に逞しく見えます」
「…レベルが上がったせいかな?」
「いえ…そういう数値的なモノではない気が…」
どういう意味だろう?
まあ、少しは成長したかもしれないが…でも、たった1週間だし1センチ背が伸びたくらいじゃないかな?
それとも筋肉が付いたのかな?でも、この1週間はゴブリン狩りしかしてないしなぁ…。
「まあ、いいや。少しは成長したってことだし悪いことじゃないよね。それより、今日はゆっくり休ませてもらって、明日からは本物の冒険者として頑張るよ」
「では、少しお休みになられたらお夕食の用意をしますね」
「お願いするよ、ジャニス」
リビングでリズが淹れてくれたお茶を飲み、ゆったりとした時間を過ごす。
正直、この1週間は『ダウンロード』の機能は使わなかった。
余裕がなかったと言うのもあるが、まずはちゃんと冒険者として一人立ちしたかったからだ。
「それにしても…教官殿の言葉があったから俺は成し遂げられたんだよな…」
1週間の実地講習会4日目の日のことだ。血を見ると吐くを繰り返していた俺は当然今日も同じことになると思っていた。いつもの様に剣を抜き構えたところで教官殿が俺を見ていった。
「鬼気迫る顔だな…?」
「今日こそは血を克服したいのです…」
「うむ。お前の気持ちは分かるぞ。情けない自分を晒したくないのであろう?」
「はい…」
「儂はこう思う。お前の持つ優しさは大事なモノだ…とな。確かに冒険者は強いことが前提の職種だろう。しかし、強いだけでは真の強者と言えんと言うのが儂の持論だ。優しさは一辺から見ればただの弱みに映るだろう。だがな、優しいからこそ仲間を大事に思えるのではないか?仲間を大事にできない冒険者など儂は認めん。臆病…結構ではないか。臆病者こそ冒険者として成功する秘訣である。生き残ることができてこその冒険者なのだからな。肝に銘じて置け」
「はい!気分がだいぶ楽になりました」
「うむ。それで良い。要は切り替えだ。殺すと言うのではなく、守るために倒すのだと思うのだ!」
「守るために倒す…やってみます!」
そして、教官殿の言った言葉を胸に俺はゴブリンを倒した。
もう血を見ても吐くことはなかった。
『殺す』と言うことにばかり気持ちが集中しすぎて、『何のために殺すのか?』がすっかり抜け落ちていたんだ。『守るために命奪う』それもどうなのか?とは思うが、この野蛮な世界で生き抜くためにはためらうことは自分の命以上に他の人たちの命を危険に晒すことになるのだ。
考え方が変わっただけでゴブリンを倒すことに躊躇する気持ちも罪悪感も薄れていた。まったくなくなったわけではないがそれで良いのだと思えるようになった。これが、教官殿の言っていた『切り替え』と言うモノなんだと悟ったのだ。
「リュウイチ様、食事の用意が出来ました」
「ありがとう…。1週間ぶりのジャニスの料理…楽しみだな」
この幸せな時間を守れるなら俺は頑張れる。俺は改めてそう思うのだった。
「さあ、冷めないうちに食べましょう」
「そうだね」
立ち上がり食堂に向かう。それにしても2人で食べるには広すぎるテーブルだよな。
裕は20人は座れる長方のテーブルに向かい合って食べるのはちょっと寂しい。まあ、もうしばらくは2人きりの甘い時間を…とも思うのだが。
食事を終えて2人でお風呂に入る。気恥ずかしさはあるが前ほどではない。なんか落ち着くんだよなぁ…。背中の流しあい、浴槽に2人で入る心地良さは何とも言えなかった。
その後はベッドでお決まりの…である。ゆっくりと時間をかけてジャニスの身体を堪能しました。ジャニスも満足してくれたみたいで俺の腕に抱きついて幸せそうな顔で寝ている。俺はそれを眺めながら思う。この寝顔を守れるなら俺は『勇者』にもなれる…と。
そして、俺も深い眠りに就くのだった。
翌日、朝食を取った後で冒険者ギルドへと向かう。
ギルドに着くと、ルース教官殿が待っていた。
「教官殿。どうかなさいましたか?」
「うむ。待っていたぞリューイチ。これまでのゴブリン討伐の報酬の査定が終わったのでな。その知らせだ」
「そのようなこと。教官殿自ら言っていただけるとは光栄であります」
「そう畏まることはない。それだけの偉業をお前は成し遂げたのだ」
龍壱は報酬をもらうため受付に行く。
見計らったようにイルマがルースに声をかけた。
「あの…リュウイチ様は一体何を?」
「聞いておらぬのか?リューイチはなぁ、1週間でゴブリンを112匹討伐したんだよ。その上にだ、ゴブリンの集落を壊滅してる。それがどれだけの偉業か分かるだろう?」
「はい…。まさかそれをたった1週間で?」
「そうだ」
「…信じられません。いくらお強いと言ってもたった1人でゴブリンの集落を壊滅など…」
「いや、あれはゴブリンを狩っていたらたまたま集落の中に入っちゃって…」
「それで壊滅何て余計に無理ですよ」
「まあ、魔法があったからなー…範囲魔法の『サンダーレイン』でほとんど一掃できたしね」
「…『サンダーレイン』?あれは上級魔術師でも使えるのは一握りと聞いておりますが?」
「イルマ。私のリュウイチ様ならこの程度驚くことはありません。それよりもルース殿。リュウイチ様の腕前はどうなのでしょう?」
「超一流だな。レベルで言えば…100と言うところだろう」
「レベル100!?」
「そうだ。英雄と呼ぶに相応しい強さを持っているのは確かだ。儂がレベル78だからな…最低でも100はいっていると言う話だ」
「では、過去の記憶がないのと今回のこと因果関係は?」
「それはないな。アレはトラウマではなく罪悪感の類いだ。生き物の命を絶つと言うことへの抵抗だったのだな」
「そうですか…」
「そう心配するな。リューイチのアレは一時的なモノだった。儂の言葉があったと言えあれほどの変わりようは普通ではありえんよ」
「それほど…ですか?」
「アイツは根っからの善人だな。最強のと強さを持ちながら優しさを持ち合わせ臆病者でもある…まさに『勇者』だな」
「…『勇者』ですか?」
「ただ強さだけを求めるなら英雄だろうが…優しさや臆病などのマイナス面を持ち合わせる者はそうはいない。戦うのにマイナスとなるモノをあえて持つ者のことを人は『勇者』と呼ぶのだ」
「ですが、それだけで勇者と言うのは…?」
「まあ、『勇者の資質を持っている』ってところだな」
受付で話す龍壱を見る3人。
外見や性格からは『勇者』とは思えないが、過去の記憶がないことも踏まえるとあながち間違ってもいないのではと思えるのだ。
実際はただの異世界人でしかも社会不適合者にすぎないのだが…。
知らない者にとっては今見えている事実だけが本物になる…と言う話だ。