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9 ニムニムの過去

 俺たちは敵に出会わないように、出会わないようにこそこそと町に戻った。

 俺は生命力が異常に高いせいもあって、回復アイテムをまったく用意していなかった。なので、牛獣人のニムニムを回復させる手段もなかったせいだ。


 町にたどりついた時、「ふぅー」とニムニムは息を吐いた。

「よかった、なんとかなりました……」


 俺はニムニムと一緒にリーチェさんのところを尋ねた。転生者がすぐに賞金首モンスターを倒したという話はあまり広がると面倒なので、できるだけリーチェさんとだけとやりとりをする。


「これがファイアリザードの死体です。証拠用にまるまる持ってきました」

 この皮も高く売れるかもしれないので、一匹をそのまま運んだ。証拠としてもこのほうが確実だろう。


「まさか、きっちり成功させるだなんて……。すごすぎるわ……」

 リーチェさんは自分で紹介してきたくせに、無茶苦茶驚いていた。この成果が非常識ということぐらいは今の俺ならわかるけど。 


「といっても、事前にこのニムニムって武闘家がダメージを与えてくれてたんですけどね」

「いえいえ、私は助けてもらった側ですし……ため池を作る魔法を使った時点で、ヒョーゴさんの勝ちは揺らがなかったですよ……」

 遠慮がちにニムニムは言った。


「じゃあ、ヒョーゴさんが一人でファイアリザードを倒したとギルドの本部に報告しておくわ。これで銅ランクまで昇格すると思うから期待しててね」

「ありがとうございます、リーチェさん」

「自分の格を早く知るのは大事だからね。銅ランクになれば、もっと各地に旅にも出る余裕が持てるし、自由度も一気に上がるわよ」

 たしかに真鍮ランクではこの近くの浅い洞窟ぐらいしか行けないもんな。


「ただ、このあたりには銅ランク用の依頼って少ないから、この町にあなたがいるのもあと少しかもね。いい意味での旅立ちだから、しょうがないけど」

「あっ、そうか……。ここ、最初の町ですもんね……。レベルが上がったらほかに行いかないといけないのか」

 でも、目的がないんだよな、俺。次は何を目的にしようか。


「それで、ファイアリザードを倒した賞金の金貨10枚だけど、どう分けるの」

「もちろん、ヒョーゴさんに全部渡してあげてください! 私はもらう権利ありませんから!」

 腰が低いのか、ニムニムは辞退した。これが普通の冒険者ならそれでもいいんだけど、ちょっと気になっていることがあった。


「でもさ、ニムニム、お金が必要とか言ってなかったか? 救貧院のみんなのためとか」

「うっ……。それはそうなのですが……。またこつこつとお金を貯めますよ。金貨10枚ですべてが変わるわけでもないですしね……」


 どうも、この子が言っていることが気になる。

「あのさ、これも何かの縁だし、その話、聞かせてくれないかな」



 俺は町の中でも、少し高い酒場に行った。冒険者が飲んだくれるには、ちょっと高いので、店が静かなのだ。話をするには安酒場ではうるさすぎる。


「この私ニムニムは見てのとおり牛獣人なんですが……実は生まれ故郷を七歳の時に失っているんです……」

 酒をちびちびと飲みながらニムニムは語りだす。

 もう、出だしからして、のっぴきならない話になるのは確実だった。


「ヒョーゴさんは牛を食べたことはありますか? あ、もちろん、牛獣人じゃないですよ?」

「ああ、うん、昨日が初だったけど」


「初!? そんなに貧しい暮らしをされてたんですか……?」

「俺、転生して間もないから」

「ああ、元の世界に牛がいなかったんですね」

 兵庫県なので食べようがないと言うよりはこの誤解のままでいてもらったほうが楽そうだな。


「で、牛っておいしかったですよね?」

「ああ、うん……」

「それはモンスターからしても同じなようで……モンスターに集落が襲われたんです……」


 ああ、おいしい食事扱いをされてしまったのか……。


「私はその時、同年代の子供たちと遊びに出ていて、なんとか無事だったんですが……。大人はほぼ全滅……。それでその県の救貧院で私やさらに幼い子供たちは育てられることになったんです……」


「きつい話をさせちゃって悪かったな」

「いえ。隠すことではないというか、これが私の人生そのものですから」


 そこで武闘家らしく、笑いながら腕でファイティングポーズをとるニムニム。

「それで、みんなのためにお金を稼ごうと思って、武闘家になったんです」

 ああ、冒険者ならお金を稼げるし、剣士と違って、武闘家なら高価な武器も必要ないし、動き重視だから丈夫な鎧も買うことはない。貯金にはちょうどいい職業だ。


「それで、一人でファリアリザードを倒しに行って……あのザマということです……」

「命は大切にしろよ……。お前が死んだらまた悲しむ人が増えるんだからな……。死んだらお金だってもう稼げないんだし」


 ニムニムの場合は、俺がちょうど助けに入れたけど、あのまま死んでいった奴も多いんだろうな。冒険者というのはカタギの職業じゃない。


「じゃあ、ニムニムはまたお金を稼ぎに行くんだな」

「はい。こつこつと、雑草魂で稼ぎます!」

 ニムニムの尻尾がふにふにと動く。


「あっ、雑草って意外とおいしいんですよ。ご存じですか?」

「そのあたりはちょっと牛っぽいんだな……」

「といっても、私たち牛獣人も牛は食べますけどね」


「それ、変な病気とか発症したりしないよな……?」

 共食いって、哺乳類がやると、まずいことになるケースがけっこうあるような……。


「ほら、大型の鳥類が小さい鳥類を食べるようなものですよ。それぐらい違う種族ですから」

 なるほど。そう言われればそうか。俺が必要以上に牛って認識しすぎなのかもしれない。


「とにかく、私はしっかりお金を貯めて……いつか自分たちの村を復興するんです! まだまだお金は足りないんで、頑張ります」


 ふっと、その時、名案が頭に浮かんだ。名案かどうかは俺が判断することじゃないんだけど。


「あのさ、ニムニム。俺もその村の復興、一枚噛んでもいいか?」

「一枚噛むってどういうことですか?」


「俺もニムニムの村を救うために力を貸す。ちょうど次の目的があいまいだったし、迷惑じゃないなら手伝わせてくれ」


「えええええ! いいんですか!」

 ニムニムの声が店の中で響きわたる。騒ぐような店じゃないので、相当目立つ。


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