8 賞金首退治
ファイアリザードは戦い慣れているのか、自分の体を赤く発光させた。あれは間違いなく炎だ! それもさっきの火球を吐く時と、動きが違う。
全体攻撃の火炎だ。回避が難しい攻撃でカタをつける気だ!
「そうはさせるかっ!」
俺はさっと牛の獣人冒険者の前に飛び出す!
案の定、火炎が周囲一帯に放たれるが、これを俺は自分の体で守る!
「えっ! あなた、危ないですよ!」
「君のほうが危ないだろ! しっかり隠れてろ!」
そこに炎が来る。大丈夫、俺は体力だけなら自信がある!
けど――想像以上にダメージが来た。
「つっ! なんだ、これ! かなり痛いんだけど……」
生き死にの次元のものじゃないが、これまでとは段違いの苦痛を感じた。
もしや俺は――火に弱いんじゃないか?
兵庫県に火を放っても大地が燃えてなくなることはない。でも、建ってる建造物も、野山なら植物も消滅してしまう。
おそらく、こういう理由から強くダメージを受けるのだろう。
「ど、どなたか存じあげませんが、助かりました……」
「うん、君が無事で本当によかった!」
「ただ、私のほうは攻撃手段がもうないんですよね……。この生命力で前に出ると、ほぼ確実に死にますし……」
「武闘家だもんな。わかった。ずっと俺の後ろにいてくれ」
それをできるぐらいの体力がある。
「ですが、賞金首モンスターともなると、知能も高いんで、向こうも計画的な攻撃を仕掛けてくるんですよ……」
その言葉のとおり、またファイアリザードは火炎を吐いてきた。
回避できないので、また受けるしかない。そして、かなりの痛みが走る!
やっぱり、この体、炎は弱点なんだ……。
「もしかすると、25相当のダメージが250ぐらい効いてるんじゃないか?」
「どんな呪いですか! そんなの即死ですよ! 白金の伝説の冒険者でも二度受けたら死んでますって!」
それが俺の場合、不思議とどうにかなってしまうんだけど、説明するのは後だな。
しかし、ある意味、厄介ではあるな。
もうファイアリザードは全体攻撃の広範囲の火炎でこちらの体力を削りとる戦術に出ているらしい。また、炎を吐いてきた。俺が唐突に動いて回避を試みると、牛の獣人ちゃんが死んでしまう。耐えしのぐ。
けど、このまま喰らい続けるんじゃ、状況が変わらない。
それに急にファイアリザードが動いて、俺の背後の彼女から倒そうとしないとも限らない。余裕はたいしてない。早くどうにかしないと……。
状況を打開するとしたら魔法だ。
でも、兵庫県に関するもので、この場を離脱するとして何がある?
「あのさ、ファイアリザードに効く魔法ってあるのかな……?」
「たしか、水には弱いと聞いています。なので、雨が降った時は神殿の廃墟の岩陰に隠れているそうです……」
なるほどな。草原の中で寝てたら、雨に打たれるしかないからな。
「水の魔法か……。兵庫県で水……。あんまり思いつかない……」
俺はどうにか兵庫県のことを思い出そうとした。広い県なので川も滝もあったが、日本屈指っていうのはなかった気がする。華厳の滝とか那智の滝とかそういう知名度では勝てない。
勝てないと言っている場合じゃない。
このままだとずっと体力を削られ続けることになる。
生命力:839276/840093
あっ、現在の生命力が頭に表示された。かなり喰らってるんじゃないかとか、心配してたからかな。
やはり、一般人なら死んでるほどのダメージになっている。それにしても喰らいすぎだ。この体が炎に弱いことは確実だ。
「こ、このままではダメです……。逃げましょう! 前を向いたまま、一歩一歩逃げましょう!」
情けない声が後ろから響く。
「逃げるって、数歩下がったら助かるとかって次元じゃないぞ! その間、ファイアリザードに攻撃を受け続ける! まず、君から全力ダッシュで逃げてくれ!」
「で、ですが……そこを炎で狙い撃たれる可能性も……」
「たしかに火球でも背後から受けたら、それでおしまいか……」
俺たちは地味にピンチに陥ってるのかもしれない。
「くそっ! 水だ、水! なんか、いい水はないのか!」
「う~ん……。川や池でもあれば、そこに身を隠せるんですけどね……」
牛獣人の女の子がそう言った。
待てよ。池……。兵庫県って、なんか池に特別な意味があった気が……。
「兵庫県はため池の数、日本一!!!! 宅地造成などで減っているがそれでも二位の広島県の倍近い38000ぐらいのため池がある!!!!!」
俺がそう頭に思い浮かんだ言葉を叫ぶと――
ファイアリザードの周囲が突如、池に変わり――
そのままファイアリザードも池に落下した。
「そうか、ため池を作る魔法かっ!」
相変わらず、派手な攻撃魔法と違って、やけに地味だけど、結果的に危機を脱した気がする。
ファイアリザードは溺れ死ぬということはなかったが、どうにか池から上がってきた時は、相当消耗していた。やはり、水は得意ではないらしい。
今が狙い目だな!
俺はその間に接近して、剣で切りつける。
また炎を吐いてきそうだったので、手でつかんで池に投げつけた。
「なんか、ズルい気がしますが……とても効果的ですね!」
一応、彼女にも褒めてもらえているらしい。
また、ファイアリザードが水からあがってきたところを剣で攻撃、攻撃!
弱っていたこともあって、やがてファイアリザードは絶命した。
「勝った……勝ったぞ! 賞金首モンスター撃破だっ!」
俺はこの世界に来て、一番大きな声を上げた。
「おめでとうございます! それと助けてくれてありがとうございました!」
牛の獣人の子も喜んでいる。
「そうだ、君の名前も聞いてなかったな。俺のほうはヒョーゴ。つい先日、この世界に転生したばかりなんだけど」
「そ、そうなんですか……。私の名前はニムニムです」
「変な名前だね」
「もー! 牛の獣人の世界では普通なんです! たしかによく言われるんですけどね」
少しニムニムは頬をふくらませたが、またすぐに笑みを浮かべた。
「けど、変な名前でも生きていられるだけで丸儲けです。ヒョーゴさんのおかげで助かりましたよ!」
じゃあ、ここで長居をするのも危ないし、転生者が出る町に戻るか。
ちなみにファイアリザードを倒したことで、ステータスはこんな感じになった。
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ヒョーゴ
職業:県者 レベル4
生命力:840093
攻撃力:ふつう
防御力:かたい
素早さ:ひくい
魔法力:ふつう
使用可能魔法
・パン製造
・ため池作成
その他、兵庫県に関する魔法を使える。なお、この世界に存在する魔法では類例がないもののため、名称や効果などが表示されない可能性があります。使用が成功したものは以降は自由に使用できます。
使用可能技能
・パン調理
兵庫県に関する技能が使えます。
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レベルが上がっても、ステータスの数値に変化が起きないのが空しいけど、どこかしら強くはなってるんだろう。