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7 うしをだいじに

 リーチェさんから話を聞いたあと、俺は奮発して牛肉を出している店に寄った。

 牛肉はほかの料理と比べると明らかに値段が張る。銅貨3枚したので、日本円だと三千円だ。

 でも、強敵と戦う前の景気づけにはいいし、それに兵庫県だからな。兵庫県といえば、牛は避けて通れないだろう。

 世界に名高い神戸ビーフだ。


 といっても、神戸市内のいたるところに牛がいるわけではないので、俺も詳しく知らないが、どこか近郊で飼われているのだろうか。

 そういえば、神戸牛という言葉以外にも淡路牛、三田牛、但馬(たじま)牛といった言葉を聞く。但馬は県の北部だから全然違う地域だが、淡路島も三田市も神戸市の隣なので、何か関係があるのかもしれない。


 ここの牛のステーキの味は、まあまあだな。

 というか、牛肉のステーキ初体験なので、これを基準点にするしかない。



 翌日、俺は目的地である廃神殿の草原を目指した。

 この名前のとおり、ここにはかつて神殿があったがモンスターの攻撃や、収入の基盤の荘園を領主に奪われたりして、経営ができなくなってつぶれてしまったらしい。


 日本でも消滅した寺院も神社もたくさんあるはずだから、ありえない話でもなんでもないな。


 空は曇っていて、風が強い。六甲おろしほどじゃないが、さえぎるものが何もないので、けっこう打ち付けてくる。

 草原の入口あたりには冒険者がちらほらいたが、洞窟と比べると数は少なかった。


 俺を発見した魔法使いらしき女性がやってきた。よく見ると、腕に小さく腕章みたいなのをつけている。そうか、これでギルドランクを示してるんだな。

「ちょっと、ちょっと! あなた、腕章なしの真鍮冒険者じゃない! 一人で草原に行くと危ないわよ! それなりに強いモンスターもいるんだから! ノコギリワシも空から襲ってくるし、オークの山賊団に囲まれるかもしれないのよ!」


 ああ、腕章なんてもらった覚えがないと思ったら、真鍮冒険者は何もつけてない状態を言うんだな。たしかに最下位の序列なら何もなしにしてもいいか。


「それがギルドの人からファイアリザードを倒せるから行ってこいと言われたんです」

「えー!? 無理でしょ。ファイアリザードって、全体攻撃の炎だけじゃないんだよ。おっきな火球をぶつけてくるけど、直撃したら一発で50ぐらい生命力を持っていかれるよ!? 真鍮冒険者な即死しちゃうよ!?」

「その点も大丈夫です。生命力は84万あるので」


 俺の言葉の意味がわからなかったらしく、その魔法使いは黙ってしまった。適当なことを言って、煙に巻こうとしてるとでも思っただろうか。それとも、単純に意味がわからないという状態なんだろうか。


「まー、秘策はあるから行くんだろうけど、危なくなったら全力で逃げるのよ。正々堂々とか意識してるビギナーほどよく死ぬからね。ちょっとセコいぐらいの奴のほうが強かったりするものだから」

 この人、なんだかんだで初心者想いだな。でも、このまま死にに行きそうに感じる奴がいたら、引き留めるのも無理もないか。


 そうだ、こっちからも聞いておこうか。

「ちなみに青銅クラスの冒険者の生命力ってどんなものなんですか?」

「私は魔法使いだから生命力もたいしたことなくて、73だね。でも青銅クラスなら三桁ある奴はまずいないと思うよ。逆に銅クラスになると、三桁から150ぐらいの生命力なんじゃないかな」

 ギルドで84万の俺を見た時の職員の反応から見ても妥当だな。


「ありがとうございます。とても参考になりました」

「ていうか、あなた、そういうことも知らずにファイアリザードと戦うの……? 炎はとにかくかわしてね! しょぼい炎でも全体に25ぐらいはダメージいくからね! 真鍮冒険者なら一撃で全滅ってことすらあるからね!」

「ほんとに84万なんで大丈夫です」


 信じてもらえるわけもないけど、まあ、いいだろう。

 途中、野生のオオカミみたいなモンスターと出くわしたが、こいつも俺の体力を削り切れるわけもなく、俺の剣の餌食になった。皮をはいで持って帰りたいけど、今日はファイアリザード退治を優先しよう。


 草原は洞窟と比べるとエンカウント率は低い。そりゃ、駅前みたいな人口密度でモンスターが草原にいたら嫌だよな。


 やがて遠方に石壁が崩れた廃墟が見えてきた。

 こんなところに町があったなんて話は聞かないし、あれが廃神殿でいいんだろう。


 すぐにファイアリザードが見つかったらいいんだけどな。まあ、いなかったら、パンを食って待ってもいいか。もしかしたら、パンのにおいに釣られて出てくるかもしれないし。


 だが、俺が近づいていくと、どうも殺気みたいなものを感じる。それだけじゃない。激しく何かが動き回っている音もする。


 これは戦闘が起こってる!


 そこにいるのはファイアリザードとおぼしき巨大なトカゲと――

 リーチェさんが言っていた武闘家らしき女性だ。


 まだ二十歳にもなってないと思う。金色の髪をなびかせながら、動いている。豊満な胸はさらしで巻いているけど、いまいち胸の大きさを隠しきれていない。下半身のほうは動きやすさを重視してホットパンツみたいなものをはいている。武闘家の理にかなっている。


 けど、もっと気になったのは、彼女の頭に牛みたいな二本の角が生えていて、同じくお尻から牛みたいな尻尾が生えていることだ。


 牛の獣人ってことだろうか?


「ああ、もう! しぶといですね……。そろそろやられてくださいよ……」

 息を切らしながら、その子はファイアリザードに愚痴をこぼした。


「どうしましょうか……。回復アイテムはすべて使い切ってしまいましたし……。でも、動けなくなったら、確実にいい餌ですよね……」

 ファイアリザードが火球を吐いた。

 あれが喰らうと大ダメージになるって火球だな。


 彼女はどうにかその火球をかわしたつもりだったが――

 尻尾にわずかにかすっていた。


「あちちちちちっ! やってしまいましたっ!」

 そこで隙ができまくったところを、ファイアリザードが尻尾を容赦なく、彼女にぶつける。


 バシイイィィィ! 大きな音とともに彼女が吹き飛ばされる。

 すぐに起き上がったが、疲弊しているのは明らかだった。


「まずいことになりましたね……。このままじゃ、おしまいですよ……。救貧院のみんなのために勝たないといけないのに……」


 ダメだ、このままじゃいけない。

 俺の心にある気持ちが宿る。

 助けなきゃ。

 それは義侠心とかそんな気持ちだけじゃないものだった。


 牛は大事にしなければ!

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