5 リ-チェさんの提案
そのあとも俺は高すぎる防御力で、毛皮や角などを入手することを続けた。
そうしていると、レベルが上がった。
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ヒョーゴ
職業:県者 レベル2
生命力:840093
攻撃力:ふつう
防御力:かたい
素早さ:ひくい
魔法力:ふつう
使用可能魔法
・パン製造
その他、兵庫県に関する魔法を使える。なお、この世界に存在する魔法では類例がないもののため、名称や効果などが表示されない可能性があります。使用が成功したものは以降は自由に使用できます。
使用可能技能
・パン調理
兵庫県に関する技能が使えます。
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生命力がまったく変わってないな……。やっぱり、兵庫県に関するデータが元になっているようだ。
ただ、変化はそれ以外にもあった。
ステータスの???だったところが文字の表記に変わっている。
ただ、数字じゃなくて「ふつう」とか「かたい」とかなんだが。
結局、数字としてはどうなんだろう。扇風機の風速調整みたいだな。
とはいえ、なんとなくのことはわかった。
まず、防御力は高い。これはきっと俺が兵庫県だからだろう。大地だから硬い。とても硬い。
あと、素早さは低い。これもきっと俺が兵庫県だからだろう、県が敏捷に動きまわると何かと問題がある。
それと技能の中に「パン調理」というものが入っている。ということはパンの自作もかなりのクオリティでできるということだろう。
別に兵庫県民ならパンを作るのが上手というわけでもなんでもないが、そういう技能として入っているのでしょうがない。
その他のステータスはそこそこなので、冒険者としてやっていくことは可能なんじゃないだろうか。
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その日も俺はギルドに行って、そこにいたリーチェさんのところで換金を行った。
「今日の換金分の銅貨93枚分だけど、これだと重そうだから、銀貨9枚と銅貨3枚にしておくわね」
「ありがとうございます」
ということは銀貨一枚で一万円ぐらいの価値があると考えていいのかな。
「ほんとに、とても順調に稼いでるわね……。もう、すでに新米冒険者のペースじゃない。ううん、中級冒険者でもここまで効率よくは稼げないはずなのに……」
リーチェさんは、俺の職業を知っているから、まだ驚きは少ないはずなのだが、それでもやはり異様には見えているらしい。
「そうだ。リーチェさん、レベルも上がってステータスも変化したんですけど、これも特殊ですよね?」
俺がステータスについて説明するとリーチェさんは絶句した。
「やっぱり、あなた、おかしすぎるわ……。ステータスの意味を成してないし……。しかもパン製造魔法って、いったい何なのよ……」
「俺もなんだ、これって思ったんですけど、本当にパンは出せましたよ」
「…………本当なの?」
ちょっと、リーチェさんの目の色が変わった。純粋に興味を持ったようだ。たしかに「俺、魔法でパンが出せるんだぜ」って言う奴がいたら、気にはなる。
「じゃあ、出してみましょうか?」
「わかったわ。ちょっと個室のほうに来てくれる? ここでパンを出したら、ものすごく目立っちゃうから」
俺はリーチェさんについていって、誰もいない資料室みたいなところに入った。女の人と個室に移動するの、密会みたいで多少ドキドキするが――いや、そんなにドキドキもしないな。
リーチェさんはかわいいので、理由があるとしたら、俺が元々人間ではないからじゃないだろうか。
今の体は明らかに男だし、疲労感もあれば、腹も減り、眠くもなるから、三大欲求としての性欲もあるはずなのだが、人間になって間もないので、いまいち実感がわかない。たしかに、食欲や睡眠欲と比べると、極論、なくても個体の維持には必要ないからな。
「なんか、難しいこと、考えてるような顔してるけど、どうしたの?」
「人間でないものが人間として転生した場合、どうなるのかという思考実験をしていました」
不思議そうにリーチェさんは首をかしげてみせた。
「あなた、どこまでも変わってるのね。じゃあ、パン製造の魔法を見せて」
「わかりました」
ステータス画面の説明によると、一回魔法が使えるようになれば、自由に使えるといったことが書いてあった。
ためしにパンよ出てこいとだけ、念じた。
今度はクロワッサンと餡食が出てきた。
餡食というのは、餡の練りこんである食パンだ。小倉トーストというのが愛知県にあるが、あれの餡が最初から練りこんであるやつだと思ってもらえばいい。カロリーがとてつもなく高いが、美味い。
ただ、パンの内容以前にリーチェさんはパンが出たことに驚愕していた。
「ほ、本当に出てる……。すごい、こんなの初めて……」
「毒ではないと思いますので、食べてみてください。味はおいしいと思うんですけど、俺が転生して間もないのでそんなにパンに詳しくないんですよね」
パンの食べ歩きをしている都道府県などあるわけがないので、こればっかりはしょうがない。
リーチェさんはおそるおそるクロワッサンのほうをかじった。
「おいしいわ! お世辞じゃなくて抜群においしい! 絶妙のサクサク感!」
「よかった。多分、神戸のパンか何かが出てるんでしょう」
「コウベ?」
「あっ、なんでもないです……。パンが産地の地名です……」
続いてリーチェさんは餡食のほうも、なんだこれという顔をしながらかじったが、こちらも好感触だった。よし!
「甘くておいしいわ。これ、確実に売れるわよ。パン職人になれるわ!」
「パン召喚士なんですけど、厳密には……」
パンのギルドとかがあったら、規制とかされそうだな。
「パン職人は半分冗談だけど、ヒョーゴさん、あなたの実力なら、もっと本格的に冒険に出れるわね」
たしかに、最初のダンジョンだけで粘る必要はないのかもしれない。
「いっそ、賞金首モンスターを倒してみない?」