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2 生命力が84万

 俺は職業決定を行う「神託の間」というところに行った。

 建物の中で、先客の転生者がずらずらと並んでいる。まあまあ、時間がかかるな。


 前のほうの冒険者(候補)がなにやら話している。聞き耳を立てているわけじゃないけど、自然と聞こえてくる。


「じゃあ、あんたはサメに食われたのか」

「そうよ。そっちも崖から転落っていうのは災難だったわね」

 やはり、ろくでもない死に方をした人間がここにやってくるらしい。


 俺も大阪府にいきなり殺されたので、おそらくそのろくでもない死に方に該当しているんだろう。


「この世界の職業ってどういうのが多いんだ?」

「さっき聞いた話だと、元の人生の影響を受けるらしいわ。あなたの場合はガタイがいいから剣士とか武闘家だと思うわよ」


 なるほど。前世の生き方と関係してくるんだな。

 でも、俺の前世が影響したらどうなるんだろう……。兵庫県らしい職業とかってあるんだろうか。まったくわからん。


 そもそも兵庫県というのは、ただでさえ日本のいろんな要素が少しずつ入っているので、「日本の縮図」とか「日本の平均」なんて言い方をされることが多かったのだ。


 かなり面積が広かったせいで、都市部の公害の問題もあれば、地方の過疎化の問題もあった。なので兵庫県らしさというものは、はっきり言ってあまりない。


 たとえば姫路城や異人館、城崎温泉というものは有名かもしれないが、それは「兵庫県にあるもの」でしかなくて、兵庫県全体の特徴というものとは言えない。


 この点、石川県や宮城県などには少しうらやましさを感じる。


 石川県であれば加賀百万石押しが強いし、宮城県なら伊達押しが強い。そういう一体感みたいなのは兵庫県にはないのだ。


 そして、だんだんと列は進んできて、俺の番になった。

 床に敷かれている絨毯が魔法陣のようになっている。ここに乗ると、職業を取得できる仕組みであるらしい。


 目の前にここの監督官らしい女性が座っている。髪は短めでどことなくボーイッシュな感じだ。

「あなた、名前は?」とその女性が聞いてきた。

「ヒョーゴです」


「ヒョーゴさんね。そしたら、その魔法陣の上に立ってくれるかしら。それであなたの転職がわかるわ。今は不安も多いだろうけど、その職業に沿うような生き方をしていけば、きっと冒険者としても大成するから心配しないで」

 そう言って、女性は笑った。ちゃんとこちらの不安まで考えてくれているあたり、よくできた人だと思う。


「あっ、私の名前を言ってなかったわね。リーチェっていうの。ここの転生者ギルドの職員で、新米冒険者たちのお世話をするのが私の仕事なの。また何か困ったことやイレギュラーな事態があったら来てね」

「はい、俺はなんかイレギュラーなことになりそうなんで、気をつけます……」

「あれ、もしかして前世が王族だったとか、そういうこと? 悪いけど、身分がどれだけやんごとなき方だったとしても能力にはほぼ反映されないらしいの」


 身分とかそういう次元ではないのだけど、理解してもらないから諦めよう。

 意外とこれで、ごく普通の剣士とかだったりするかもしれないしな。


「全国にギルドはあるんだけど、ここの転生者ギルドはちょっと特殊なの。なにせ、転生者は冒険者にでもならないとやっていけないから、自動的にまずギルドに能力なども含めて登録させてもらうのよ」

「それはなんとなくわかります。俺たち、戸籍もないですから、その管理もできれば一石二長ですよね」

 リーチェさんは「まあ、そういうことね」と首を小さく縦に振った。


 いわば転生者というのは移民みたいなものなんだろう。

 しかも違う世界から来ているとしたら、就職できる技能があるかも怪しいし、とりあえず冒険者をやってくれというのは、よくできたシステムだと思う。



 俺はとくにこだわりもなく、魔法陣の描かれた特殊な絨毯の上に立った。


 頭の中に文字みたいなものが浮かぶ。日本語ではないが、ちゃんと読める。この世界の言葉も俺は理解できるということらしい。


=====

ヒョーゴ

職業:県者 レベル1

生命力:840093

攻撃力:???

防御力:???

素早さ:???

魔法力:???

使用可能魔法

兵庫県に関する魔法を使える。なお、この世界に存在する魔法では類例がないもののため、名称や効果などが表示されない可能性があります。

使用可能技能

兵庫県に関する技能が使えます。

=====


 やっぱり、なんかおかしいことになってるぞ!

 ただ、俺は困惑しなかった。先にリーチェさんがどういうことだという顔をしていたからだ。


「け、県者……? 賢者じゃなくて県者!? ない、絶対にないよ……。そんな職業は絶対にないって……」

「あの、これってどれぐらい強いんでしょうか?」

「わからないわ……。だって数字のところがバグってて読めないし……。あと、生命力もバグってるし……。生命力って伝説の勇者がいたとしても、おそらく600ほどのはずなのよ。初心者の冒険者は20ぐらいからはじめるのが普通なのに……」


 なるほど、とにかく異常に打たれ強いことだけはわかった。

 というか、多分死なないな、これ。


 ちなみにこのステータスに心当たりはあった。


 これ、兵庫県の面積だ。この平方キロメートルだった気がする。


 ひとまず俺はほぼ不死身の体を手に入れたらしかった。

 そりゃ、県が死ぬことはないからな。

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