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17 靴を出す

 もちろん、救貧院の管理人の先生にも話をつけた。老齢だが、目の力が強い、しっかりした聖職者だ。

 パンの魔法なども見せつつ、より具体的に村のことと俺のことを語った。

 それこそ、俺が人さらいだなんて思われたら、話にならないからな。


「なるほど。ヒョーゴさんの熱意は伝わりました。信用いたしましょう」

 最終的には先生も納得してくれたようだ。

 同席していたニムニムもすごく喜んでいた。


「しかし……その県はかなりここから遠いですね……」

 そこで先生は顔を曇らせる。旅というのもこの世界では一筋縄ではいかない。

「ここの子供たちは決して丈夫とは言えませんし、まだ十歳にも満たない子もいます。全員がその村がある県までたどりつけるかどうか……」


 それを危惧するのも自然なことだ。この世界だと、冒険者みたいな職業を例外にすると、全然自分の町から出ない者も普通にいるのだろう。そして、救貧院の子たちはこの町の周囲が世界のすべてといった調子なのだと思う。


「実のところ、長距離移動用の立派な靴すら、これだけの数の子ですので、用意ができておりません。途中で足を痛めてしまうでしょう。私も昔は説法で各地をまわったのでよくわかります」

 仮にこの世界では丈夫な靴が三万円はするとして、牛獣人の子たちは二十人はいる。六十万円か……。ぎりぎりの経営をしているところではつらいだろうな。


「少し対策を考えさせてもらえますか? 俺も見切り発車をするつもりはありませんので」



 その夜は救貧院の空き部屋でニムニムと話し合った。

「靴代を稼いでから出発するのでもいいけどな。早く、アイウイ村に行かないといけないって理由もないし」

「でも、どうせなら早く村にまで案内してあげたいですけどね。自分たちの村ってことになれば、みんな生き生きすると思うんですよ。食糧問題もパンで解決しますし」

 パンだけ食えばいいという問題ではないが、飢えることがないのは事実だ。


「それはそうだけど、靴だけでも揃えないとな。途中でダメになることも考えて、呼びもほしいし。あと、着替えの服だっているよな……」

 考えてみれば、その他もろもろかなりの出費になるな。やっぱり、しばらくは稼がないとダメか……。


「こう、靴をバーンと出すような魔法ってないんですか? ため池が出せるなら、なんでも出せそうなんですけど」

「いやいやいや! 召喚できるわけないだ――――待てよ……」


 靴って兵庫県でかなり作られていた気がする。もしかして……。


 また、脳裏に言葉が浮かんできた。

「神戸市長田区は靴の産地として著名っ! 駅前になんかデカい靴のモニュメントまである!」


 すると、目の前に靴が――かなり丈夫そうな運動靴が一足現れた。


 長田で作ってる靴って、こういう靴だったっけ……? ケミカルシューズって地元では呼んでた気がするけど、まあ、靴ならなんでも生み出せるのかな。使用一回目なのでよくわからない。


「す、す、す、すごいですよ! 魔法一つで靴が出るとか、無茶苦茶とんでもないじゃないですか!」

 ニムニムはすっかりはしゃいでいる。そりゃ、とんでもない魔法には違いないか。


「ちょっと、ほかの靴が出せるかも試してみるな」


 そして、俺は何度か靴を魔法で召喚できるか繰り返してみた。

 結論としては、出すたびに違う靴が出た。

 中には「超特価! 八割引き!」なんてタグのついているものまで出てきた。というか、やけに激安になっているものが多かった。


 となると、これは無から生成しているというより兵庫県から呼び出してるのか? どうやらデッドストックみたいな売れ残りを持ってきているらしい。


 とはいえ、これで靴の問題は解決したな。


「早速、みんなを呼んできますね!」

 ニムニムは牛の尻尾を振りながら、部屋を出ていった。


 すぐに牛獣人の子供たちが集まってきた。

 みんな、靴の山を見て、本当に目を輝かせている。


「す、すごい……こんなに靴が……」「見たことないデザインばっかりだけど、頑丈そうだ……」「これって、金貨何枚もするやつなんじゃないかな……?」「ヒョーゴさんって、とんでもないお金持ちの冒険者なの……?」


 かなりのカルチャーショックを与えてしまってるみたいだな。たしかに衝撃吸収や防水にすぐれたのがゴロゴロあるし。


「サイズが合うかは試してもらわないとわからないけど、サイズさえ合えば、全部プレゼントする。足りないようだったら、また召喚するからケンカするなよ。あと、サイズが合わない靴を無理矢理履かないこと。足を痛めるもとになったりするからな」


 牛獣人たちはこくこくうなずいたあと、どの靴がいいかで早速取り合いをはじめた。

 ケンカするなよとは言ったけど、そりゃ、いいのを選びたくなるのも人情ってものか。


 俺は別室でそうっと追加の靴を召喚しておいた。

 数が増えれば、争いも起こりづらくなるだろ。魔力みたいなのは召喚のたびに消費するらしくて、だんだん疲れてきたけど、靴のほうはしっかり出せた。


 そんな靴をまた取り合いをしているところに持っていく。

「追加の靴だぞ。いいのがあれば、選んでくれ」


「あっ、これ超かっこいい!」「お前、もう選んだだろ!」「この靴だったら背が高くなるかな?」


 牛獣人たちはやたらと尻尾を振っている。うれしい時の意思表示なんだろうか。


 ひとまず、これで村への旅は問題なく、しかも快適にできそうだ。


 俺とニムニムは救貧院の先生とも話し合って、出発の日を決めた。

 救貧院の先生は、あくまでも神殿の神官という肩書なので、ここに残るらしい。


「集落を失ったこの子たちのために、この施設を使っていましたが、それも不要になりそうですね。少し寂しいですが、喜ばしいことです」

 ニムニムは何度も先生に「これまでありがとうございました」と繰り返していた。


=====

ヒョーゴ

職業:県者 レベル4

生命力:840093

攻撃力:ふつう

防御力:かたい

素早さ:ひくい

魔法力:ふつう

使用可能魔法

・パン製造

・ため池作成

・鎖作成

・温泉作成

・靴召喚

その他、兵庫県に関する魔法を使える。なお、この世界に存在する魔法では類例がないもののため、名称や効果などが表示されない可能性があります。使用が成功したものは以降は自由に使用できます。

使用可能技能

・パン調理

兵庫県に関する技能が使えます。

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