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16 救貧院の子供たち

 足湯で一息ついた俺たちは再び救貧院へ向かって進んだ。行程としてはすでに半分は過ぎているといったところだ。

 途中、モンスターも出現はするが、そんなたいした実力の奴はいなかったので一匹一匹確実に対処していった。


 そして、俺たちは無事に救貧院のある町に到着した。

 とくに栄えているでもない、小さな町だ。ただ、神殿の規模はかなり大きい。おそらくだけど、この神殿がまずあって、その周囲に町が形成されていったということだろう。


「救貧院もこの神殿の付属施設なんですよ」

 ニムニムが説明してくれた、第二の故郷みたいなものだからなのか、ニムニムもなつかしそうだ。実際、ニムニムに声をかけてくれている町の人も多い。


「おっ、そっちの冒険者は彼氏なのかい?」

「ニムニムちゃんも年頃だからなあ」


「そ、そういうのじゃありません! ヒョーゴさんとはなんでもありませんからね!」

 ニムニムが赤くなって照れていた。からかわれてはいるんだけど、町の人との関係性は悪くないようだ。ニムニムは人がいいもんな。


 俺のほうも町の人に話しかけられたが、転生してきた冒険者ですぐらいしか伝えられる情報がなかった。

 何人にニムニムを幸せにしてやってくれと言われたけど、俺が考えてる幸せと町の人が言ってる幸せはおそらく別のものだろうな……。


 そのあと、俺たちはいよいよ救貧院に向かった。

 なんとなく、幼い子供たちが育てられているイメージがあったが、どっちかというと中学生ぐらいの年頃の男女が一番多い。

 考えてみれば、牛獣人の集落が襲われてから、かなり時間も経っているわけだし、みんな成長してて当然だよな。

 それにある程度、成長してないと新しい村をスタートすることだってできない。


「あっ、ニムニム姉ちゃんが彼氏連れてきた!」

「ついにニムニム姉さんにも彼氏が!」


 ここでもそういう反応をされてる!?


 年頃の女性の横に謎の年頃の男がいたら、そういうふうに見られてしまうのはしょうがないか。

「違うの! ヒョーゴさんは彼氏とかじゃなくて、もっとすごい人なの! 一言で言うと救世主かな?」


「ニムニム姉ちゃん、詐欺師に騙されてるんじゃ……」

「ニムニム姉さん、すぐに人を信じちゃうところあるし……」


 あんまりニムニムに年長者としての威厳はないな……。ある意味、自業自得なキャラだけど。

 ここは俺が言ったほうがいいかな。


 俺は牛獣人の子供たちの前に立った。


「みんな、俺の名前はヒョーゴ。まあ、見てのとおり、冒険者だ。牛獣人がまた生活できるように平和な土地に村を買った」


 その言葉に牛獣人の子供たちは目を丸くしたり、戸惑ったりした。

 高校生ぐらいの、リーダー的な立ち位置の男子が前に出てくる。


「なんで、そんなことをするんですか? その……話が上手すぎるっていうか。俺たちを騙して、奴隷として売り飛ばしたりするつもりじゃないですよね?」


 話が上手すぎる、か。たしかにそのとおりだ。見ず知らずの奴がいきなりそんなことを言ってきても信用できるわけがない。


「君の言ってることはもっともだから説明するな。俺は転生者で、この世界に身寄りの一人もいないんだ。つまり、どういうことかというと、何のために生きるかっていう目的がない状態だったんだよ。君たちも大変立っただろうけど、ある意味、もっと孤独だったんだ」


 転生者という言葉で、その男子の反応も変わった。どうやら転生者という概念はこういう子にも知られているらしい。


「それで、旅の途中で偶然ニムニムを助けて、彼女の話を聞いて、救貧院のために何かするっていうのを俺の生きる目標にしたってわけだ。この説明で理解してもらえるかな?」


「ま、まあ……筋は通りますね……」

 その男子もひとまず俺を受け入れる方向で動いてくれたようだ。


「信用できないなら、ヒョーゴっていう銅ランクの冒険者について、ギルドで照会してくれればいい。若手の冒険者の中では、それなりに仕事をこなしてる。もちろん悪いこともしてない」


 けど、口だけで説得するのってなかなか大変だよな。

 そこで裏技を使うことにした。


「あと、お近づきのしるしに、パンをごちそうしよう」


 俺はパンを次々にその場に出現させた。召喚という言葉が正しいのか怪しいけど、とにかくどんどん作っていった。


 魔法が使える回数って謎だが、ひとまず問題なくパンはどんどん出てくる。

 これには子供たちも目を丸くして驚いていた。

「パンが出るなんて、聞いたことない!」「すごくレアな魔法なんじゃない!?」


「一人三個ずつぐらいはあると思うし、隙なのを選んで食べてくれ。足りないならまた出すからな」


 まだ小さい子たちがまずパンに飛びついていった。

 歳が上の子たちはそれよりは慎重にパンをとっていたが、一口かじって、「おいしい……」と声を出していた。


「うまいだろ。パンの味には自信があるんだ」

 これで信用も得られるだろう。

 見た感じ、救貧院の子たちは決して飽食という印象じゃなかった。質素な食事で生活してきたのだろう。

 そこにハイグレードのパンが出てきたら、みんな喜ぶのは当然だ。


 と、ぐうぅぅ~~~~~と呑気な音が後ろからした。

 ニムニムのおなかが鳴っていた。


「私も五個ほどほしいんですけど、いいですか?」

「けっこう食うな……。でも、育ち盛りって頃だし、それも当然か」


 俺はパンをニムニム用にも出した。


「うん、やっぱりどれもおいしいですね! この魔法だけで一生やっていけますよ、ヒョーゴさん!」

「それはそうかもしれないけど、冒険者として正しいのかって気はするな……」


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