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15 回復の泉を出そう

 さすがに土地を見もしないで買うわけにはいかないので、俺とニムニムは一度その土地に出向いた。

 カグル県の高台にあるアイウイ廃村というところだった。

 下っていくと、港も比較的近く、栄えているのだが、そのだ高台自体はたしかに水が得られないらしく、廃村となっていた。朽ち果てた建物がいくつか並んでいるだけで、物寂しい。


 背後の裏山もここの廃村の土地らしいが、そこも薄暗くてかなり不気味だ。好き好んで入りたいとは思えない。


「たしかに、リニューアルすればいい集落になりそうですけど、水がなければ結局暮らせなくないですかね……? 水汲みって無茶苦茶重労働ですからね」


 そりゃ、水は重いからな。それをふもとで汲んでさらに水を上まで運ぶというのは地獄の苦しみだろう。しかも、基本的に毎日やらないといけない。


「でも、こんな時のために最適の魔法があるんだよ」


 まさかこんなにこの魔法が役に立つとは思わなかった。


「ため池よ、生まれろ!」


 何もない、草が生い茂っているだけの荒れ地に、直径二十メートルほどのため池が一つ出てきた。


「あ、そうですね! ため池を作っていけば水の問題は解決されますね!」

 ニムニムもこれで俺の意図に完全に気づいたらしい。


「そういうことだ。こうやってため池を量産すれば、生活用水はどうとでもなる。まあ、飲み水として機能してるかはわからないけど」

 見た感じ、水は澄んでいる。しばらく覗き込んでいると、魚がぴょんとそこから跳ねてきた。魚が住んでるようなら、水質もクリアしてるだろう。


「これなら、みんな住めると思うんだけど、どうかな、ニムニム?」

「はい! いいと思います!」


 俺たちは三本尖塔の町に戻って、商会に金貨100枚を支払い、土地の権利書をもらった。


「では、アイウイ廃村はこれでヒョーゴさんのものとなります。なお、農産物などの収入が発生すれば、県に収める必要がありますが、廃村復興法の関係で最初の五年は税も免除されますので」


「わかった。しっかりアイウイ村を再生させてみるよ」



 さて、じゃあ、次は救貧院に行かないといけない。

「救貧院なんですけど、ここから少し遠いんですよね。多分、二十日ほどかかります」

 宿でニムニムは地図を広げながら言う。


「まあ、ゆっくり行こうぜ。時間に追われてるわけでもないし」

「そうですね。なんか、私、これまで冒険者をやってきて、一番楽しい旅ができてるかもしれません。これまではずっといろんなことに追われてましたから」


 ニムニムは腕を伸ばして、リラックスしていた。俺もそんなニムニムの表情を見ていると、無性にうれしくなる。

 兵庫県として、牛が幸せなのを見るのはいいことだ。

 いや、ステーキになる牛は食べちゃうわけだけど……牛乳やバターを作るための牛もいるしな……。


 俺たちはだらだらと救貧院のある町を目指して、旅に出た。

 とくに凶悪なモンスターがいるわけじゃないし、とくにトラブルみたいなものもなかった。


 ――そのつもりだったのだが。


「いたたた……歩くたびに痛いですね……」

 ニムニムが旅の途中で足を止めてしまった。

 よく見ると靴が大きくすり減っている。その中で足のほうも痛めてしまったらしい。


「お前、こんなボロボロの靴で歩いてきたのかよ……」

 その様子を見て、俺はさすがにあきれた。


「立ち寄った町で新しいの買っておけよ。我慢して履きすぎだろ」

「靴ってけっこう高いんですよ……。貧乏な人は買わないという選択肢すらありますよ。とくに長旅用のものなんて相当な値になります」

 たしかに、この世界の人間は車も電車もないし、徒歩がデフォなので、靴が使い物にならなくなるのもかなりハイペースなんだろう。


「もしかして、救貧院の子たちも靴は持ってないのか?」

「近所を出歩く時用の薄っぺらいのしかないんじゃないですかね」

 マジかよ。アイウイ村まで相当な距離だぞ。ちゃんとした靴がないととても歩きとおせないだろう。


 いや、それよりもニムニムが足を痛めているから、こちらをどうにかしないといけない。


 その時、俺の頭にまた言葉が浮かんだ。

「城崎温泉・有馬温泉!」


 俺がそう叫ぶと、深さ二十センチほどのお湯の小さいため池? が出てきた。

 いや、これ、どう考えても温泉だな。かなり小規模だけど。


「ため池魔法ってこういうこともできるんですね。これは便利かもしれませんねー」

「多分だけど、全然別の魔法だな。ニムニムが足を痛めてたから、足湯を召喚する魔法を生み出したらしい」

「足湯って、足をお湯につけるってことですか?」


「だな」

 兵庫県は広いのでいくつも温泉地があるが、なかでも城崎温泉と有馬温泉の知名度が抜群に高い。

 城崎温泉は大阪や京都からでも特急が出ているし、有馬温泉は神戸市の市街地から三十分ほどで行ける距離だ。


「足をつけてみてくれないか。おそらく回復に寄与すると思う」

「わかりました。熱湯ってことはないですよね……」


 ニムニムは慎重にお湯に足を入れた。どうせ二十センチほどの深さなので、足湯としてしか使えない。


「あっ……じんわり回復してきた気がします……」

 見ると腫れていた足が元の状態に戻っていく。いくらなんでも効き目ありすぎだろ!


 そうか、この温泉は回復の泉みたいなものなのか。


「あ~、足をつけてるだけなのに、体から疲れがとれていく感じがあります~。ヒョーゴさんもどうですか?」

「じゃあ、俺も試すかな」


 靴を脱いで、足湯につけた。

 たしかに疲れが落ちていくような感覚がある。


「あ~、これはこれでいいな」

「ですよね~。心がぽかぽかになります」


 長旅もこの魔法があればもっと乗り切れそうだ。



=====

ヒョーゴ

職業:県者 レベル4

生命力:840093

攻撃力:ふつう

防御力:かたい

素早さ:ひくい

魔法力:ふつう

使用可能魔法

・パン製造

・ため池作成

・鎖作成

・温泉作成

その他、兵庫県に関する魔法を使える。なお、この世界に存在する魔法では類例がないもののため、名称や効果などが表示されない可能性があります。使用が成功したものは以降は自由に使用できます。

使用可能技能

・パン調理

兵庫県に関する技能が使えます。

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