14 高台の土地を買う
俺の案に最初、ニムニムはぽかんとしていた。
「村を作るって、そんな、いい土地は残ってないと思いますよ……。この額で買える土地はろくでもないものですし……」
「だとしても、故郷がないままよりはいいだろ。とにかく土地を扱ってる商会に行ってみようぜ」
俺はニムニムを連れて、三角尖塔の町で一番の紹介に行った。
商会というのは、いわばなんでも屋で、お金を出せばたいていのものは購入できる。そこで直接売ってなくても、ほかの商人のツテでモノを紹介してくれる。
商会の店主は珍しく、猫の獣人だった。
「いらっしゃいませ。冒険者の方とお見受けいたしますが、どういったものをお探しでしょうか? 武具のたぐいもいいルートで安くお売りできるかと思いますよ」
早速、こちらに声をかけてくる。そのあたりも商売慣れている印象を受ける。
「あの、それなりの広さの、安い土地ってないかな。今すぐ払えるかわからないけど、いくつか候補としてしぼりこみたいんだ」
「土地と言いますと、新居を建てる程度の広さのものでしょうか?」
「いや、一つの集落が収まるぐらいの土地だ」
俺の言葉に店主も少し困った顔をした。
「それは……ないことはないですが、ろくでもない土地ばかりになりますよ。売りに出されているぐらいですから……。土地は借金をした領主が手放すこともありますが、いい土地であれば、ほかの領主からすぐに買われてしまいますので……。一定の租税収入が見込めますからね」
「だと思う。そんなたいした土地を俺も求めてない。それこそ、むしろ、人が住んでないようなところのほうがいいんだ」
「ふむ……。少しお待ちください」
店主の目が妖しく光った気がする。
これはもしかすると、使い物にならないような土地を売ってしまえということなのかもしれない。
でも、それはそれでいいかもな。
俺としては安く買えるかどうかのほうが大事なんだ。
店主が出してきたところは、たしかにいかにも売れ残ってそうというのが多かった。
まず僻地すぎて不便なところ。
たどりつくのに、山の中の峠道を延々と行かないといけない。冒険者でも雇ってないと、行くまでの間にオオカミに食われかねない。
続いて気候が厳しすぎるところ。
寒冷にもほどがあって、よほど上手く入植できないと寒さで死んでしまう。
「こういうのは、ちょっと困るな。地の利はもう少しいいところにしたい」
ニムニムも論外ですと言っていた。ニムニムたち牛の獣人がいた集落はここまで辺境にはなかった。
「そうでしたら、こういうのはどうでしょうか?」
次に店主が出してきたのは、丘の上にある土地だった。
主要な都市からも割と近い。これまでの物と比べると、ずっとまともで、しかも金貨120枚と書いてある。もうちょっとお金を稼げば、どうにかなる額だ。
これにはニムニムも食いついた。それなりに魅力的に見えたのだろう。
「いいですね。日当たりもよさそうですし、丘を下っていけばほかの町にも出れなくもないですし。でも、逆に安すぎる気もするんですよね……」
ニムニムは長年、お金に苦労してきただけあって、そういうところにすぐに目がいく。
「この土地も、何か大きなデメリットがあるんですよね? そうですよね?」
「隠しても、どうせ買ってもらえるわけがないので、お教えいたします。この土地は一言で言うと、水の便が異常に悪いのです」
店主は何か統計の表みたいなものを持ってきた。
「この県は温暖ですが、その分、雨が降りづらい気候でして……過去も日照りによる農作物の不作が多いのです。まだ近くに川が流れているような地域ならいいのですが、こんなふうに水の手もまったくない丘の上となると、使い物になりません」
俺は瀬戸内海気候みたいだなと思った。
兵庫県の南側は瀬戸内海に面している。瀬戸内海というと、もうちょっと西側というイメージがあるが、文化圏としては近い。兵庫県の南西部、とくに姫路より西側は関西といより、中国地方と考えたほうがいい。
店主はさらに話を続ける。
「昔は住んでいた人ももっといたはずなんですが、水を得るためだけにかなり下らないといけなくて、結局みんなもっと低い土地に移住してしまい、廃村となりました」
「逆に言えば、水さえ手に入れば、生活もできそうということかな?」
俺は店主に尋ねる。俺もこれまでで一番気になっていた。というか、こういう土地を探していた。
「はい。ただ、井戸を作るにしても、一苦労ですよ。それができていれば、今も村として機能していたでしょうから……」
悪くない。水さえ用意できれば日当たりもいいし、モンスターが攻め寄せてくる恐れも丘の下みたいなところよりは小さいだろう。
「わかった。お金が集まり次第、この土地を買いたいんだけど、予約することはできるか? 今、手持ちの金はだいたい金貨100枚分ぐらいなんだ」
こっちの信用を得るためにまず貯金額を口にする。これで門前払いにされることはないはずだ。
「ほほう、金貨100枚……」
しばらく店主は考えているようだったが、そこで右手を木槌のように握って、ぽんと左の手のひらを叩いた。
「わかりました。サービスで金貨100枚でお売りしてもよいですよ」
「それはありがたい!」
かなりの割引額だ。日本円で二百万円相当安くなった。
「どうせ、こんな土地を遊ばせておいても維持費がかかる危険のほうが大きいですしね。ならば、この機会に手放してしまいたいなと」
「わかった。すぐにお金を用意する」
俺が話を進めてる横で、ニムニムはちょっと焦っていた。
「あの……ヒョーゴさん……。いくらヒョーゴさんがメインでお金稼いでたとはいえ、勢いで決めすぎじゃないですか……? やっぱり住めないってなったら、絶望しかないですよ……」
「まあ、大丈夫だ。集落を活性化させる策はちゃんとある!」




