13 約一千万円
「く、来るなら来てください……。これでも青銅クラスの冒険者ではあるんですからね!」
ニムニムが啖呵を切ったが、どことなく声はふるえている。
「なんだ、青銅かよ」
「俺たちは元銅クラスの冒険者だったんだぜ」
じゃあ、普通に負けてるじゃないか!
やはり何か魔法を使わないと、ニムニムが大ケガしてしまう。
何か魔法、出てこい、兵庫県の力を見せてやるんだ。
一刻の猶予もない!
その瞬間、俺の頭に、とある金属製の道具が浮かび上がった。
「鎖を日本で一番製造していたのは、兵庫県姫路市っっっ!」
俺の剣を持たない手のほうから金属でできた鎖が勢いよく伸びていく。
その鎖が山賊一人の体に巻きついて、そのまま前に転倒した。
「なんだ、こりゃ! どこに鎖を用意してたんだよ!」
「えっ! ヒョーゴさん、こんな裏技を!?」
ニムニムまでぽかんとしている。
「偶然、発動したんだ! 今のうちに逃げろ!」
「いえ、これならなんとかなります!」
ニムニムは鎖はぴんぴんに張っているわけではなくて、かなりじゃらじゃらと転がっている。
それをさっと持ったニムニムはもう一人の山賊の剣をその鎖で防ぐ!
「ちっ! こしゃくな!」
「まだ終わりじゃないですよ!」
さらにニムニムはその鎖で剣を絡めとる。おお! 見事な作戦だ!
「喰らいなさい! ニムニムパンチ!」
頭の悪そうなネーミングだが、武器を絡めとられた山賊の顔にニムニムのパンチが炸裂した。
青銅ランクとはいえ、無防備な顔に一撃が入れば、かなりの威力になる。山賊がふらついた。
「ニムニムパンチ二発目です!」
さらにパンチが決まって、山賊はついに倒れた。
「そっか、ニムニムって本当に武闘家だったんだな……」
「どういう意味ですか、それ! 正真正銘の武闘家ですよ!」
とにかく、これで脅威は取り除いた。あとはなんとでもなるな。
二人がやられたことに俺と交戦中だった山賊も顔色を変えた。
「ヤバいぞ! こいつ、変な技を使いやがる!」
「逃げろ、逃げろ!」
仲間を見殺しかよ。とはいえ、いきなり鎖なんて出てきたらびっくりするのも無理はないかもしれない。
けど、逃げられるわけねえんだよ。
なにせ、敵を縛るのに最適の魔法を覚えたからな。
俺は剣を持ってないほうの手を前に突き出す。
「チェーン・スペル!」
名前は今、即興で決めた。鎖の魔法って言うのは、いまいちしまらないからな。
山賊一人の体に鎖が巻き付いて、そいつも転倒する。
ちなみに鎖の先端は俺の手に巻き付いている。その鎖がなぜか増殖して伸びている形だ。
一回、自分の鎖を離して、さらに逃げ続けようとするもう一人にも新しい鎖を打ち込む。
ニムニムもよけて逃げようとしていたが、出入り口が狭いのが徒になった。
結局、そいつも鎖に絡めとられた。
「犯罪者を捕まえるには最適の魔法だな」
「やりましたね、ヒョーゴさん!」
笑顔でやってきたニムニムと俺はハイタッチをした。
●
クエストを無事に達成して、俺はギルドから金貨20枚を獲得した。
日本円で二百万円だから、なかなかの額だ。
さらにそれとは別に副収入があった。
捕まえたのは山賊だけあって、そいつらはアジトに金品を隠し持っていたのだ。
持ち主が明確なものは持ち主に返したうえで一定額のお金をもらう(これは日本の落とし物の制度に近い)。でも、金貨や銀貨は金庫ごと奪ったとかでないかぎり、持ち主不明として冒険者の分け前にそのままなる。
この額がなかなかのものだった。金貨60枚相当あった。
つまり、ギルドの報酬と足して、八百万円分だ。
この収入を聞いたギルド内のほかの冒険者たちはかなり悔しがっていた。こんなことなら、多少無茶をしても山賊退治に行ったのに……などと歯噛みしていた。
でも、あんまりおすすめはできないけどな。あの山賊たちは銅ランク冒険者崩れだったし、うかつに進めば返り討ちってことは十二分にありえた。事実、だからこそ、クエストとして残っていたんだろう。
その夜、俺たちは宿でこのお金の使い方について協議した。
額が額なので、酒場で話をするのは危険なのだ。それこそ山賊が聞き耳を立てていないとも限らない。そうじゃないとしても、ゴロツキみたいな冒険者だって多いし、山賊が退治された話はすでに噂として広がっている可能性が高い。
「私たちのもともとのお金と合わせて、だいたい金貨100枚分ほどありますね」
ニムニムは床に置かれた、ずっしりと重い皮の袋を見つめていた。
そう、もともとニムニムはお金を稼いでいたので、一文無しなんてことはなかった。冒険者としては割と貯金しているほうだった。
とはいえ、救貧院に送るために貯めていたので、本人が裕福に生活していたわけじゃない。むしろ、食費などすら切り詰めていたほどだ。
「この額を救貧院に持っていけば、かなり経営も楽になるでしょうね。救貧院でいい教師を雇うことだってできますよ」
様々な夢が広がる額だ。ニムニムの顔も感無量といった感じだった。
ただ、俺の考えはニムニムのものとは少し違っていた。
「あのさ、ニムニム、もっと大きなことをしないか?」
「大きなことって何ですか? いくらなんでも救貧院をこの程度のお金で書いとるとか、そういったことはできませんよ?」
「あのさ、俺、この世界の相場は知らないんだけど――土地って買えないか?」
「土地、ですか?」
キョトンとした顔になるニムニム。尻尾が上下にちょっと動いた。
「そんなの、ピンキリですからなんとも言えないと思いますよ。もちろん荒れ地なんかであれば、安く買えるでしょうけど」
「土地を買って、新しい村を作らないか?」
俺はふっと、こんな野望を抱いていた。
この世界で土地を買って、第二の兵庫県を作るのだ!
「そして、その村に救貧院の牛獣人の子供たちを住まわせるんだ」
鎖が使えるようになりました。
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ヒョーゴ
職業:県者 レベル4
生命力:840093
攻撃力:ふつう
防御力:かたい
素早さ:ひくい
魔法力:ふつう
使用可能魔法
・パン製造
・ため池作成
・鎖作成
その他、兵庫県に関する魔法を使える。なお、この世界に存在する魔法では類例がないもののため、名称や効果などが表示されない可能性があります。使用が成功したものは以降は自由に使用できます。
使用可能技能
・パン調理
兵庫県に関する技能が使えます。
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