10 二人での旅
「私たちのために戦ってくれるといっても、、お金もないから何も渡せませんよ……? 騙してとれるようなお金すらないですよ……?」
騙す気はないぞ。貧困ビジネスはクソ喰らえだ。
「いや、だって、俺、転生者だから、養う家族もないし、仕送り先の実家もないし、次に何をするかってことがすごくあいまいなんだ。冒険者にあこがれて、こうやって戦ってるのでもないし」
人間に転生するという発想すらなかったから、どうしても今まで場当たり的に対応するしかなかった。ひとまず、冒険者として最低限の強さは必要だから、まずは場当たり的にやって問題ないのだが。
冒険者として銅ランクになって、メシが食える冒険者とみなされたものの、長期目標が何もないというのは心もとないと思ったのだ。
自分が大きくぶれないようにする指針として、何か長期目標があったほうがいい。どうせなら、自分のためというより、誰かのためというものがあったほうがいい。
「わかりました! そういうことでしたら、ぜひよろしくお願いいたします! ヒョーゴさんみたいな期待の新人が協力してくださるなら百人力ですよ!」
にっこりと笑うニムニム。その顔を見ると、俺もなぜか心がほっこりとする。
これはもしや恋なのか?
人間になって初の恋情なのか?
違う。これは……きっと、俺が牛にやさしくしたいと思っているんだ!
牛は兵庫県にとって大事な要素だ。その牛(の獣人)が苦しんでいるのを見たら、放っておけない。何か自分の手でできることはないかと考えても不思議ではない!
俺の顔を見て、ニムニムはくすくすと笑った。
「俺の顔、なんかついてるか?
「なんだかヒョーゴさんって、私と大差ない年齢に見えるのに、もっとお父さん世代っていうか、庇護者って感じがするんですよね」
あっ、やっぱり。
「普通だったら冒険者の方にこんなこと言われたら、下心とか考えちゃうものなんですけど、そういうのとも全然違う感じなんです。よろしくお願いしますね!」
ニムニムのほうから俺に手を伸ばしてくる。
「まだ、こっちに来たばかりでわからないことだらけだけど、何か役に立てたらうれしいな」
俺もニムニムの手を握る。
握った時にちょっと視線がニムニムの胸にいってしまった。
「胸デカいな……」
「あっ……牛獣人はだいだいデカいそうです……。あと、子供がいなくてもお乳が出るらしいんですが……………………飲みます?」
「いや、遠慮する」
人間になっていきなりそんな奇妙な性癖に行くのはまずいだろう。
もっと、そこは堅実に、着実にやりたい。
●
その日から宿の部屋にニムニムも泊まるようになった。まあ、近日中にこの町を離れて、お金を稼げる土地に移動するが。
もちろん、ニムニムには何もしてない。
やっぱり下心があったのかって思われるのはよくないし、元が人間じゃないので、つまり何をすればいいかもよくわかってない。
兵庫県時代の人間の生活ぐらいはだいたいわかっているが、それは知識としてのことであって、自分の体験には根差していないから、よくわからない。
ニムニムはカバンを持って、俺の部屋に入ってきたが、武闘家だからなのか、とにかく荷物が少ない。足に巻いているサポーターみたいなのをはずしていた。
「ところで、ヒョーゴさんってどういう職業なんですか? 一見、剣士みたいだったのに、ものすごく特殊な魔法を使ってましたよね?」
そうか、まだちゃんと話をしていなかったな。
「実は俺は県者っていう職業なんだ……」
「賢者!? それ、最初に手にした職業としてはかなり破格ですよ! じゃあ、チート系の転生者じゃないですか! 強いはずですよ!」
「あ、違う、賢者じゃなくて、県者なんだ。賢者だったら剣を振り回して戦闘しないだろ?」
「そういや、そうですね。賢者って魔法で戦いますよね。ファイアリザードへの攻撃も基本的に剣で攻撃してましたね」
そういうことなんだ。
「俺もどういう職業かわかってないんだけど、今のところ、パンを作る魔法とため池を作る魔法だけが使える」
「いや、意味がわからないんですけど。それってパンつくりの天才ってことですよね?」
「違う。魔法でパンを生み出せるんだ。じゃあ、やってみようか」
俺はパンを召喚した。サンライズとチョココロネが出てきた。何が出るかコントロールができない。ガチャみたいなものか。スーパーレアみたいなのがあるのか。
なお、サンライズはくどいようだが、世間的にはメロンパンと言われている食べ物だ。兵庫県というか、神戸市のあたりではメロンパンは違うパンを差す。
早速、ニムニムはサンライズを口にしていた。
「とってもおいしいです! こんなおいしいパン、食べたことはないです!」
「さすが日本屈指のパンの消費地だっただけあるな。俺は食ったことなかったからよくわからんが」
「何の話です? ああ、転生前の世界の話ですね」
隠し事はない方向でいきたいけど、県だったことは黙っていよう。確実に変な奴だと思われる……。
「せっかくですし、ステータス見せてくれませんか? こちらもステータス見せますから」
=====
ニムニム
職業:武闘家 レベル9
生命力:81
攻撃力:56
防御力:57
素早さ:72
魔法力: 0
使用可能魔法
なし
使用可能技能
力溜め
煉瓦割り
急所突き
=====
俺の頭にそのステータスが表示される。味方にはステータスを見せられるらしい。このステータスでいろんな判断を行うから当然と言えば当然か。
ああ、平均的な冒険者の能力ってこれぐらいなんだな。
「じゃあ、俺も見せるけど、宿だからあまり大きな声出すなよ」
それでも、やっぱりニムニムはびっくりして大きな声を出した。
まあ、驚くよな。謎のステータス画面だもんな。
「県者……。奇跡みたいな職業ですね……」
「俺もそう思う」




