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1 大阪府に負けた

 大阪府の攻撃が俺に炸裂する。


 くそっ! 俺は思わず舌打ちしそうになる。まあ、俺は県だから、舌などないのだが。


 人間も動物も知らないだろうが、現在、全国都道府県で最強を決める戦い、聖県戦争が繰り広げられていた。

 この戦いでこの俺、兵庫県はすぐに隣の大阪府の攻撃を受ける羽目になった。


「はははははっ! やはりな。兵庫県よ、お前の力はたかがしれているぞ」

 大阪府が高笑いする。ちなみに大阪府だからといって関西弁というのは早計だ。別に大阪府自体は人間ではないからだ。


「この聖県戦争では都や府は県よりも強い能力が与えられているのだ。だから、お前ではこの大阪府には勝てん!」

 また、大阪府の攻撃が来る。回避を試みるが、体が上手い具合に動かない。また、痛みが全身というか全県に走る!


「やはりな。兵庫県よ、お前の弱点は統一性のなさだ。面積が広いがもともと全然違う文化圏のエリアを一つの県にまとめているせいで、一体感がない。よって、動きに難があるのだ!」


「見抜かれていたか……」

 それはまさしく俺の弱点だった。

 兵庫県は、南北にも、東西にも広い。

 大阪のど真ん中からちょっと西にいったところも兵庫県なら、ほぼ岡山で関西弁とも違うような言葉のところも兵庫県だ。

 南にある瀬戸内海最大の島である淡路島も、北にある日本海に面した側も兵庫県だ。


 もちろん文化圏としても、全然違う。北のほうは歴史的に鳥取県の一部になる可能性すらけっこう高かった。淡路島も徳島県になる可能性もあった。同じ兵庫県になっているのは歴史のいたずらとすら言える。


 よって、攻撃を受けると防ぐことができない。


 やがて、体力をすべて削り取られて、この俺、兵庫県の意識は薄れていった。

 くそ、大阪府め。お前なんて、どっかの県にやられてしまえ……。


 しかし、まさか県が死ぬことがあるだなんてな……。



 気が付くと、俺は大きな絨毯の上に倒れていた。

 絨毯の上? そんなバカな。俺は県だぞ。面積は8,400.93平方キロメートルもあるんだ。五百万人以上の県民が俺の上に乗っていたんだ。そんな俺が収まる絨毯などどこにも存在しない。


 とにかく、立ち上がろうと俺は腰を浮かして、両足で立った。

 あれ? 俺には腰も足も何もなかったぞ。


 あらためて、俺は自分の体を見た。手も足もある。服は、現代日本であまり着られているようなもので、昔のヨーロッパぽい感じもあるが、とにかく全裸ではなかった。

 胸はぺったんこで、逆に下半身は何かついているので、これは人間の男だな。


「おっ、お前さんも目覚めたクチだな」

 俺のところに何やら背中からボードを提げた男がやってきた。ボードには紙みたいなのが何枚も載っているから、歩きながら記入でもしていくんだろう。


「ここは転生者が最初に送られてくる部屋だ」

「転生者?」

「そうだ。奇妙な死に方をした人間の一部はここに送られてくる。で、ここで大半は冒険者として第二の人生っていうのか、次の人生を送るってわけだ。別に冒険者になるのを拒否してもいいけど、知り合いも何もない世界で冒険者じゃない生き方をやるのは大変だぜ」


 奇妙な死に方をした人間と言っているな。たしかに俺も大阪府に殺されるとは思わなかったが。


「悪いが、俺は前世が人間じゃなかったんだ。大地だったというか……県だった」

「あっはっは! いきなり面白い冗談言ってくれるじゃねえか。たしかにこの国にも県って行政区画はあるけど、県が転生するだなんて聞いたことはねえぜ!」


 あっ、この世界にも県があるのか。とはいえ、千葉県や鳥取県みたいな知ってる県は一つもないだろう。


「ああ、もしかしてお前さん、冒険者って概念がない世界から来たのかい。じゃあ、案内役の俺が簡単に説明してやろう。できれば、きれいな姉ちゃんのほうがよかったかもしれないが、ここの担当は俺みたいな男だけなんだ」

「別に説明するのが男でも女でもいいが、教えてくれると助かる」


「この世界の冒険者っていうのは、つまるところ、ダンジョンを攻略する奴のことだ。ダンジョンって言っても洞窟に限らないぜ。森も山も、モンスターの住処になってるところは腐るほどあるからな」

「モンスターか。イノシシみたいなものか?」

 丹波たんばというエリアではイノシシを使った牡丹ぼたん鍋がよく食べられていた。あと、シカ肉を使った料理の店もかなりあった。


「ああ、野生のイノシシも狂暴なのはモンスターって扱いになるな。この世界は魔の物とそうでない物の区別があいまいなんだ。一言で言えば人間に害になる連中はモンスターってことだな」

「なるほどな。イノシシとかなら慣れている」


「このへんにいるのはイノシシというよりゴブリンとかコボルトのほうが多いけどな」

 それは兵庫県にはいなかったので、よくわからない。


「で、冒険者はそういうモンスターを倒して、アイテムを持ち帰って、それで生計を立てる。モンスターによっては角やら皮やらを持ってくれば金になるし、賞金首みたいな上級モンスターを倒してギルドに持っていけば、それも金になる」

 ほうほう。俺の腕一本で食っていけということか。

 学校に入ったりしないといけないとか、そういう面倒なことがないのはありがたい。


「このあたりのモンスターはそこまで強くないけど、できればパーティーを組むのをおすすめするぜ。といっても、いきなり仲間を作るのはハードルが高いって奴もいるかもしれないけどな。人見知りの奴だっているだろうしよ」

「人見知りも何も、俺はあんたと話したのが前世を含めても初めてだ」


 また、その男は大笑いした。よく笑う奴だな……。兵庫県が人間としゃべったら相手もビビるだろう。


「やっぱりあんたは冗談が上手いな。これなら仲間作りも問題なさそうだ」


「で、ダンジョンはどこにあるんだ? 早速行って様子を見てみようと思う」

 仲間を作ろうとして大阪府みたいな奴がいたら嫌だしな。

 とはいえ、大阪府の顔なんて概念はなかったから、人間の顔を見ても判断できないが。

「いやいやいや、気が早すぎる。まずは職業を決めてこないといけないぞ」

「職業? パン職人みたいなものか」

「たしかにパンを焼いてくれる人間も世の中にはいるが、冒険者としての職業だ。剣士とか魔法使いとか、僧侶とか、そういうのだよ……」


 自分の職業について意識したことがないからわからんな。どうも、この世界の勝手がわからん。


「ところで、お前、名前はなんていうんだ? ちなみに俺は転生者案内役のロバートだ」 英語系の名前だな。ここで日本国兵庫県と言うとまた変な顔をされるな。


「ヒョーゴだ」

「おお、男らしい名前じゃねえか」

 兵庫県は男らしいのか、よく考えたら兵器の倉庫って意味だな、兵庫って。


とりあえず、8話まで連続投稿予定です! よろしくお願いします!

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