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第五話 惚れた弱みと懐疑心

 その言葉に、ふむと頷き、飛鳥は口を開いた。


「なるほど―――――これはデートのお誘いだったか」

「どうして! そういう結論に、たどりつきましたの!?」


 あまりにも不意打ちな返答に、レーラは立ち上がり机を叩く叩く叩く。


「そこ、お前さんならアメリカンジョークとして、さらっと流すところなんじゃねーの?」

「……わたくしそういうの苦手でして、あの、真面目にお答えお願いできます?」


 頭が痛い、と言いたげに自分の額に手を当てるレーラ。

 そんなレーラを、飛鳥は目を薄くして眺める。


「なんですの?」

「いや、ただデートじゃなくて、すっごく残念だなあと思ってな」

「少なくとも! わたくしは! 虐殺デートとか! 嫌ですけど!? 後あなたジョークと言ってましたでしょうに!」


 丁重に四回も机を叩き、怒りをあらわにするレーラ。


「あー、そこらへんロマンチックが足りなかったか。異文化の壁は厚いなあ……」

「絶対にそういう問題ではありませんよね!? 今そういう事話してまして!? あなたは脱線するのが随分と激しいですわよ!」


 淑女にあるまじき吠え具合であったが、飛鳥はあくまでマイペースを貫いている。


「えー、でも俺と二人きりなんだろ? 相手の拠地があるなら、隠密とは言えども二人はキツイだろ? ましてや俺は力はあるとはいえド素人。となると――――こりゃデートだろ?」

「……わたくし、アナタが考えているかいないか、分かりませんの。さっぱり。本当にさっぱり」


 もうテーブルを叩きたくもないのか、真っ赤になった掌を放り出して、机に突っ伏す。


「そりゃこっちのセリフだぜお嬢様。何度も言うが、俺が強いからと言って、二人で行く意図がわからん。敵の根城があるならなおさらだ。日本じゃ籠城している敵には十倍の戦力がいると言われているんだぜ? 普通二人で行くのは、正直自殺行為なんじゃねえのかとすら思ってる。まあ俺はどうにせよ? ヒーローする分には構わんがな」


 右手首をスナップし、余裕綽々な飛鳥。

 緊張感が無いのだろうか、話す内容はおおよそ正しいと思われる発言だ。

 いくら砕けた話し方でもいいと言っても、ここまで偉そうだと気に食わない。

 だがレーラ今は流して話を進めておこうとする。


「……実は、今回が初めて襲われた、というわけではありませんの。その為偵察隊を放ち、戦力の確認をしました。ああ、そう言えばその時にあなたを回収したんでしたわ」

「その件に関しちゃ感謝している。ありがとうございました」


 帽子を自分の胸に当て、頭を下げる飛鳥。

 それに少し戸惑うレーラだったが、咳をするふりをして口を開く。


「ついでですのでお気になさらず。……それで、その偵察隊の話によると、山奥にある廃墟になった屋敷を基地として扱っているようですの」

「あー…そいつは困りものだな」


 山の中にある基地というのは、それだけで天然の要塞と化す。非常に厄介だろうと飛鳥は苦い顔を浮かべた。


「わたくし達二人だけというのは……今この国の騎士というのが、まだ育成途中なのです」

「騎士はいなくても兵士はいるだろう。何人か見たし話もしたぞ」

「……彼らではすぐにやられてしまいますわ。無駄な犠牲もいいところでしょうね」


 目を逸らし、気まずそうに語るレーラ。

 この世界観の騎士と兵士では、圧倒的な差がある設定があったことを飛鳥は思い出した。

 基本騎士というのは貴族がなる物であり、その分教育も行き届いている、という設定だった気がすると、飛鳥は必死に頭の中をひっくり返す。


「ですが、あなたとわたくしでなら、ヘルヘイムの残党を討ち、民の一人も犠牲になることなく……平和な日常が訪れます。ですから……!」


 少し震えた声で、懸命に訴えかけるレーラ。


「ああ、わかったわかった。男に二言はねえよ。俺たち二人でやってやろうぜ」


 そんなレーラ対して、笑顔で了承する。

 なぜそんな事を笑顔で了承するのか、レーラには理由がわからない。

 聞いてみたいと思ったが、余計な情が移りそうなので口にはしなかった。

 戦場でそういった情を感じて判断をミスしてしまったら困るし、何よりも今回はとても大切だ。

 今回で失敗したら、自分は一生家には帰れないだろうと、必死な気持ちを胸の内に隠す。


「そんじゃあ早速、地図見せてくれね?」

「今日は依頼する、ということでしたので、そういったモノは用意してませんの。本格的には明日話し合って、その日にいつどのようにして出撃するか決めようかと。アナタも活躍してさぞお疲れでしょうからね」


 そういってレーラは席を立ち、扉を開く。


「ああ、そういう感じか」


 流石に準備悪すぎると飛鳥は思ったが、こちらの身を案じてくれているのであれば従わざるを得ない。


「家政婦たちにあなたの世話をさせるように言ってあります。大分遅い時間ですので、食事は部屋で取ってくださいまし。わたくしも今回の事を今日中に書類にまとめたりしないとで、忙しいのですわ」


 口ぶりから、客人が来た時はともに食事する、という習慣がこの世界にもあることを察する。


「俺からしちゃ好待遇だ。ありがとさん。それと良い夜を」

「ええ、良い夜を」


   ○


 ――――その後、飛鳥は部屋の扉前にいた兵士達に連れられ、部屋へと案内された。

 案内されたのは起きた時の部屋よりも調度品の質が良い部屋で、装飾も細かいところまで行き渡っているのがわかる。

 お風呂とか、ご飯だとか、そういったモノをどうする気にもなれない飛鳥は、憂鬱な気持ちを吐き出すように溜息をついて、ベッドに倒れ込んだ。

 それにしても、あの姫様は色々と怪しい。

 彼女の今までの発言を思い返して、どういうことなのだろうかと考える飛鳥。

 しかし、考えてみても確信的なところまではわからない。

 頭にもやもやと疑問を抱えたまま、飛鳥武蔵は眠りについた。


  ○


 次の日、どういった経路で敵の根城に迫るかの話し合いが行われた。

 昨日任務を聞いた部屋で聞くということだったので、飛鳥は早起きして太陽との別れをしてから会議に向かう事にした。

 偵察隊の兵士などと言った専門の話を聞いても、飛鳥はてんでド素人なのであまり話についていけない。

 なのでわからないことはメモに書いて、区切りのいいところで質問していく。

 お蔭で飛鳥はどういった道筋を歩いていくか把握できたが、随分と遅くまで会議は行われることになってしまった。

 最後の議題として、それをいつ決行するか、と言うモノだった。


「明日でいいのではないでしょうか?」


 レーラには砕いて話してもいいと言われたから普通に接していたが、ここは真面目な作戦会議の場。

 肝の座った飛鳥とて敬語で話さざるをえない。

 普段がおちゃらけているので分かりにくいが、飛鳥は意外と真面目な性分なのだ。


「話を聞く限り、元々レーラ様一人で行くとの事でしたので、準備はできていると聞きました。この経路であれば特別な登山道具も必要なさそうですし、私は自分の荷物だけで大丈夫だと思います」


 偵察隊の長であるアルカス・ヘードヴィックは、その発言に苦言を示す。

 厳つい顔立ちをしており、全身を鍛え上げている。

 飛鳥の印象としては、『アメリカの俳優ってやっぱすごいなあ日本人もがんばらねば』というものと、『なんかおっかなそうだなあ』と言うモノであった。


「アスカ殿、確かにこの経路であればそういった類の道具は必要ありませんが、あちらには敵がいます。彼らの行動パターンも予測していますが、万が一ということもある。ある程度の道具もアスカ殿には持ってもらいますぞ」


 しかし、意外と物腰は柔らかく、この会議の間だけでも

 ふむ、と飛鳥は頷き、できるだけ簡潔に自分の意見をまとめて、言葉を返す。


「道具に関しては分かりました。出撃日程は明日、ということで構わないでしょうか。ヘードヴィック隊長」

「日程に関しては、私も異議はありません。今日はこの後十分体を休められて、明日に備えるべきかと」


 これで日程に関しては問題ないか、と話の流れで決まっていく。

 しかし、その流れをレーラはぶち壊した。


「ヘードヴィックは昼食の後、道具の使い方の指導をなさい。日が沈む前に出撃することにします」


 その発言に、レーラ以外の全員に動揺が走った。


「お待ちくださいレーラ様! それはあまりに早すぎるかと思われます。近くの山まで馬を使って進むとても、半日かかる距離です。その予定になさるのでしたら、到着するのはヘルヘイムの残党が活発な夜の時間帯です。それなのでしたら、明日の早朝に出た方がいいかと思われます」


 ヘルヘイムの異形の兵士達は基本夜行性だ。

 しかし、彼らは自分達が進化した将(大隊が昼行性になってしまう)や作戦に合わせて行動するので、昼に襲撃をかけて来る時もあるのだ。

 今回の襲撃はそうしたパターンの一つであると考えられていた。


「今は少しの時間も惜しい事態ですわ。そうやってもたついていたら、またヘルヘイムの異形の兵士達が推しかかってくるかもしれません。出撃は、早めにすべきです」

「ですが……!」

「おだまりなさいヘードヴィック! これはこの国の王女による決定事項です。覆されることはありません」


 ピシャリと、反論は許さないと黙らせるレーラ。


「これにて、作戦会議は終了と致します。各自昼食を取るように」


 それだけいって、レーラは部屋を出て行ってしまう。

 ここに座っているだけにもいかないので、各々昼食を食べに行こうと立ち上がる。

 飛鳥もその中の一人であったが、ヘードヴィックに呼び止められた。


「すいませんアスカ殿、何分レーラ様は責任感の強いお方で、尚且つ少し強情なところがありまして……今からでもお考え直してもらうように、言って来てまいります」

「進言なされずとも結構です。昼は彼女と食事することになっていますので、私の方からもなんとか行ってみます。それに、私がどうなろうとも、彼女だけは無事に帰ってきてほしいですからねえ」


 勿体ぶった言い方で言葉を返す飛鳥に、これは参ったとヘードヴィック後頭部を掻く。


「……彼女はこの国の宝ともいえるべき女性です。何卒、よろしくお願いします」

「わかりました」


 そういうと、飛鳥も部屋を出て、レーラを追いかけて行った。


  ○


 飛鳥はレーラと一緒に広い食堂にいた。

 装飾品はどれも綺麗で整っており、相変わらず自分にこう言った場は慣れないと飛鳥は感じている。

 この食堂では豪華な食事が並べられており、一応英国式のマナーで食事をとっていたのだが、特に苦言や曇った表情がないので、取り敢えずこの食べ方で進めていく。

 ワインはそれなりに慣れたつもりでいたのだが、少し酔いが回るのが早いと感じた。

 いつものお付き合いで飲むワインとここまで違うのかと、少し驚きだ。


「俺は構わんが、皆お前さんの事心配してるぞ。メイドさんもコン詰め過ぎだとか苦言を申し上げられておりましたし?」


 それでも飛鳥は食べながら、この城の主であるレーラに苦言を示す。それとこれは話が別という判断である。

 酔いの勢いでおかしなことを言ってしまったら、その時はその時だ。

 もちろん口の中に物はいれていない。この場合の食べながらというのは、食べて口を空にしてから話す、という作業の繰り返しだ。


「構いませんわ。結局のところ、彼らは指導者が必要なだけですわ。わたくしが最後の王族ということで、過保護になっているんでしょう」


 気品あふれた所作で、食事をとっていくレーラ。

 それなりに作法は知っている飛鳥だったが、レーラの所作は自分と違って綺麗だと感じる。


「そういうやつもいるかもしれんが、心の底から心配してるやつだっているだろうに」

「例えば誰です?」


 お行儀よく首をかしげるレーラ。それが飛鳥には可愛らしく映った。

 この時、もうすでに酔いがマズい所まで回ってたのかもしれない。


「目の前のナイスガイとか、メチャクチャ心配してるぜ?」

「あら、わたくしには真っ赤な人しか見えませんわ」

「今はどっちかというと真っ黒だろが」


 ジョークで受け流されてしまい、少し不満顔な飛鳥。

 レーラは溜息をついて、飛鳥に話を振る。


「だいたい、あなたがなぜわたくしの心配などしますの?」


 だがレーラにそう聞かれると、飛鳥蕩けたような笑みを浮かべて答えた。


「お前さんに惚れちゃったからに決まってるだろう」

「…………はい?」


 レーラのナイフとフォークを動かしていた手が止まる。

 いったいどういう意味かと、レーラにはわからなかったのだ。

 だがその言葉の意味を理解すると、顔を赤くして怒鳴り始めた。


「バカじゃありませんの!? 私達は出会って一日。いえ、それすらも経っていませんわ! だというのに惚れるととか、少し軽いのではなくて!? だいたい、アナタにわたくしの良さがわかって?」


 とっさに立ち上がり、飛鳥に指をさして軽くパニック状態のレーラ。

 お行儀がいいも悪いもあったものじゃないが、彼女からすれば今はどうでもよかった。


「何でもかんでも全力で取り掛かるところ」

「な!」

「なんやかんや怪しい身分の俺の事大切にしてくれるし、慈悲深く優しい」

「な、なな!?」

「というのは惚れてから気がついたことで、お前さんがあんまりにも綺麗だったもんだから、つい、な」

「なー!?」


 指を指したまま硬直するレーラ。すでに頬だけではなく、耳まで赤い。

 肌が白いと、ここまで真っ赤になるのがわかるんだなあと、変なところで飛鳥は感心してしまう。

 スタイルも良くて可憐な顔立ちだから。あとおっぱい。と言おうとも思ったのだが、セクハラ紛いなことをすると怒られるだけじゃすまなくなりそうだなと思い、今回は引き上げることにする。


「ごちそうさん。お返事待ってるぜ、姫様」


 レーラの肩をポンと叩き、飛鳥は部屋から出て行った。

 ……アルコールの所為で、言いたくない本音が滑ってしまったことに頭を抱えながら、飛鳥は倉庫室へと歩くのであった。


  ○


 倉庫室、飛鳥はそこでヘードヴィックと道具の扱いについて聞く為にやってきた。

 名前的に片付いていなく汚い部屋だと思っていたが、思いのほか整理整頓されていた。

 軍の道具置き場なのだから、それが当然なのかもしれない。

 飛鳥がやってきたことに気がついたヘードヴィックは、恐る恐る問いかけてくる。


「……出撃予定の方、どうでしたか?」

「話しになりませんでした」


 主に自分の所為で、とは口が裂けても言えない飛鳥であった。


「まあ、あのお方は頑固なところがありますからね……」


 溜息をつくヘードヴィック隊長に、飛鳥はすごい罪悪感を覚えた。

 酒の力でああ言ってしまったが、早計過ぎたかなと今更ながらに感じているのだ。

 無論、惚れているのは本当である、一目惚れだ。

 だが飛鳥という人間は猪突猛進であり、何事にも率先して参加するチャレンジャーという性分なので、ワインを飲んでいなくても近いうちにそうなっていたかもしれない。


「……アスカ殿、顔を赤らめてどうなさった?」

「え? いや、なんでもねーですよ!? それより、道具の扱い方を教えてくださいな!」


 自分の頬を掌で叩き、さー真面目にやるぞー! と意気込む飛鳥。

 ヘードヴィックは首をかしげながらも、飛鳥に道具の説明をしていく。

 中でも、個数を指定することで、大きさに関わらずなんでも入ってしまうバッグに飛鳥は興味を引かれた。このリュックサックの個数指定は、9つなんだとか。

 映画の中でも第四章の主人公が使っていた袋の個数指定が7つだったと思い出し、あれから進歩したんだなあと、感慨深いものを飛鳥に感じさせたのだのであった。


「あ、そういえば、封印から帰ってきた姫様の事聞かせてください。一応資料とかでは読んだんですが、他の人の視点も知りたくて」

「……構いませんが、そんな事を知ってどうするんですか? アスカさん」

「今回の遠征の為に決まってるじゃないですか」


 その後、他愛無いレーラの世間話などをしながらも道具の説明を受け、飛鳥は準備を整えていく。


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