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大魔道のススメ  作者: カズー
序章
6/20

〜承〜episode1 彼の物語の始まりー

 

 彼はしばらくして、微動だにしなくなった。あまりのショックで気を失ったのだろうか?

 南を見ると、街から起こった火事で空が赤く染まっていた。


「いやぁ、まだ死んでもらっては困りますよ」


 彼にはもっと苦しんでもらわなければならない。彼のおかげで、私の計画は崩れたのだから。

 とは言っても、龍殺しの剣の力を元に戻す事など、時間をかければ造作もないこと。


「いつまで寝ているつもりだ。はやく起きるんだ」


 私は彼を起こそうと、ダインスレイフを彼に近づけた。

 すると次の瞬間、ピクリと彼の右腕が動いた。


「やっと起きーー」


「ああああああああああ!!!!」


 彼は叫んだ。その声に応じるように、龍殺しの剣が白く、光った。


「お、おお‥‥これは‥‥まさか‥‥」


 刹那、私の展開した次元空間は消滅し、白の光が私を覆う。


「ぎ、ぎゃあああああああ!!!」


 全身が痛む。

 間違いない‥‥これは‥‥。

 "神の力"


 爆発が巻き起こった。これは間違いなく、龍殺しの剣の力だ。いや、最早龍殺しの剣は神殺しの剣へと昇華したはずだ。

 辺りに煙が巻き起こる。モクモクと視界を覆い、私から彼の姿を隠した。


 私は即座に次元空間を展開した。


「"次元吸収(ブラック・ホール)"」


 次元空間は砂埃を吸収し、視界は一気に晴れる。


「む‥‥!」


 私は前方の眩い輝きに思わず目を覆った。

 私の目の前には、先程まで次元空間に囚われていた彼の姿があった。


 しかし、その姿形は全くの別物になっている。

 剣は煌々と白く輝き、それを握る彼からは白いオーラが放たれている。真っ黒だった瞳は白く輝き、その存在感は常軌を逸するものだった。


「何故、最初からその力を見せなかったんですかね?」

「‥‥」

「確かに、今のあなたは神に近い存在となっています。しかし、所詮はその程度。今まさに神に成ろうとしている私には敵いません」

「‥‥」

「さぁ、早くその剣を渡しなさい。そうすれば、痛みをある程度は抑えて殺してあげますよ」

「‥‥」


 彼は一向に口を開こうとしない。微動だにしない。その反応が、一々私の癇に障る。


「‥‥黙りを続けるつもりなら、力づくで奪わせてもらう。生命魔力を構築、出力は"3"」


 私は剣に力を込める。ダインスレイフは赤黒く、仄かに光った。それに応じて私の身体からも、赤黒いオーラが纏われる。


「今、私の体にダインスレイフの化身を纏わせました。あなたのそれ(・・)と変わりないものですよ」

「‥‥」


 私には分かった。一瞬、ほんの一瞬だけ、彼の瞳が動いたのを。

 次だ。次に彼と衝突する事となるだろう。

 私は地面を蹴る。

 コンマ数秒の出来事だっただろう。

 彼と私の剣がぶつかった。それは莫大な衝撃波を生み出し、周りの地面を隆起させ、空気を振動し、雲を払い、世界を動かした。

 圧倒的な力と力の衝突に、金属と金属のぶつかる音が鳴り響く。


 それから私は彼の右腕を狙った。

 つばぜり合う剣を右にいなし、突き出された彼の右腕を斬りつける。

 ーーだが、私が彼を斬りつける前に、彼が私を斬りつけていた。


「な‥‥に‥‥」


 神である私にですら見えなかった。

 彼はそれから十数の斬撃を放つ。私は研ぎ澄まされた神経と感覚で、何とかその斬撃を防ぐ。‥‥が、その衝撃は強く、私の身体は後ろに吹き飛ばされた。


「くっ‥‥!!」


 彼は剣を瞳の位置まで持っていき、こう呟いた。


「"ラグナロク"」


「!?‥‥生命魔力を使った魔法展開だと‥‥!?何故貴様がそれを使える!?」


 空を見る。巨大な魔法陣。

 そこから降り注ぐのは、隕石。それはまるでーー


 神の怒りを模した物のようだった。


 ドドドドドドドドド!!!!




『私は神殺し。この者の魂を借り、今まさに神を狩った』


 呟いたのは、彼でも、私でも無かった。


 ✱✱✱


 俺が見ていたのは、昔の夢だった。

 小さい頃に親に捨てられ、孤児として拾われた。

 その家は温かく、こんな俺でも歓迎してくれた。その家の一人娘がキョーコだった。

 キョーコは年代も近く、年下ということもあり、俺にとっては妹みたいな存在だった。誰よりも、大切な‥‥。

 街のみんなは優しい人ばかりだった。よそ者の俺をのけ者にしなかった。

 しかし、ある日、戦争がたまたま俺の住んでいた街の近くで巻き起こった。そして、その日はたまたま、キョーコの両親が旅行から帰ってくる日だった。


 ーー即死だったそうだ。


 不運。そう言ってしまえば、それだけで済んでしまう。

 でも、俺は納得いかなかった。戦争で死んでしまったことじゃない。何も出来なかった、自分にだ。


 それから、俺は軍に入った。大切な"両親"を失わせた、戦争を終わらせるためにーー




「目が覚めたか」


「‥‥ここは‥‥」


 俺はあれから、意識を失っていた。確か‥‥俺の街が破壊されて‥‥


「!!そうだ‥‥早く助けに行かないと!!」


 俺は寝ている身体を起こした。すると‥‥


 ゴンッ!!


 額に硬いものがぶつかる。


「いって‥‥」

「いったぁ‥‥」


 俺はヒリヒリする額を擦りながら、同じように額を擦る銀髪の女性を見た。


「あ、あんたは‥‥?」

「あ、ああ、ごめん。私は王国軍の者だ。一応、二軍の指揮官をしている。」


 王国軍。なんだ、それ‥‥?

 俺は周りを見渡す。見たことのない土地だ。あの男の"魔法"とやらで飛ばされたのだろうか‥‥?十分、有り得る話だ。


「なぁ、ここってどこか分かるか?」

「ええと、ここは北アーガルド平野だ。偶然、そこで倒れていた君を見つけてーー」

「いや、え?き、きたあーが‥‥なんだって?」

「だから、北アーガルド平野。君、どこの出身なんだい?」

「いやいや、何それ。そんなファンタジックな地名聞いたことも見たこともねぇよ。ふざけてんのか?」

「私はふざけてなんかいないよ。君、頭でも打ったんじゃないかい?」


 なんだ‥‥おかしい。この女性(ひと)が言っていることはもちろん、おかしいのだが、相手は真剣そのもの。かと言って俺がおかしいわけでもない。

 しかし俺は、ついさっき、非現実的な出来事に遭遇した。

 まさか‥‥


 と、次の瞬間


「危ない!!」

「おわっ!?」


 彼女は俺を抱き抱え、前へ倒れた。その背後で、"何か"が通り過ぎる。


「そこでじっとしていろ。"魔物"が現れた」

「‥‥‥‥は?」


 有り得ない。俺は今日、死ぬのかもしれない。どうか、夢であってくれ。


 俺の目の前には、巨大な恐竜が居た。

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