〜起〜episode3
戦闘開始から約2時間がたった頃。
相手の戦車はほぼ全壊し、兵士も残り数十人となった。
「んー、こっちは被害なしで、もうすぐ相手はやられるって感じの戦況だが‥‥」
素直には喜べない。なぜなら、今回の不確定要素である"妖術"とやらを使う幹部格が一人も現れていないからだ。
「どーなってんだ。まさか、このまま顔を出さないとか?」
そうこう言っているうちに敵軍の兵士が向かい側から走ってきた。
「ーーまぁ、待ってたら来るだろう」
そう言って俺は、剣を振るった。
「軍隊長!このままいけば、約数十分で我々の勝利かと!」
一人の兵士が、軍隊長に言う。
「‥‥ああ。だが、まだ油断はするな」
軍隊長の顔は優れない。無線機を取り出し、戦況を伝えた後、「くれぐれも油断はするな」という指示を出した。
「おらぁっ!!」
血しぶきが舞う。俺はその返り血を受けてしまう。
「うわっ‥‥」
最悪だ‥‥。
斬られた兵士は苦しむ声も出さず死んでいく。俺はせめてもの情けで即死させてあげているんだ。
周りを見渡すと、黒い煙をあげる戦車と血まみれの兵士の死体しかない。戦車の処理の大半は政府軍の戦車に任せたが、兵士は俺がほとんど受け持った。
俺は剣を肩に担ぎ、あくびをひとつ。
「くあぁ‥‥。‥‥もう終わったか?」
ピリッ
その瞬間、空気がかわった。
反射的に俺は空を見つめた。
鈍色の空に一つの裂け目が生じていた。
「な、‥‥んだあれは‥‥」
目を疑った。その裂け目はどんどんと大きくなり、やがて俺の視界をすべて覆うほどの大きさになった。
「なんだよこれ!!?」
その時、
『すぐに戻るんだ!!』
拡声器越しの、軍隊長の声が聞こえた。
「!‥‥今行く!」
そう言って戻ろうとした瞬間
ーー明らかに視界が暗くなった
俺は上を見た。
そこには、巨大な戦艦があった。
空気の胎動する音が聞こえる。
裂け目いっぱいに広がるほど大きな戦艦が、上空から落下してくる。
「ははは‥‥。なんじゃこりゃ」
思わず、乾いた笑いをこぼしてしまった。
ドゴオオオオオオオオオオオオ!!!
彼を含める、政府軍が居た荒野全域に、謎の裂け目から現れた巨大戦艦が直撃した。鳴り響く地響きは、遠く離れた都市街にまで聴こえた。
戦艦が残骸と化した頃、上空の裂け目から小さな球体が現れた。
その瞬間、裂け目と戦艦の残骸は消え去った。
✱✱✱
「う‥‥」
俺は軋む身体をなんとか動かし、起き上がった。
所々に痛みを感じる。頭、腹部、右肩に左脚。血も大量に出ている。骨も何本か折れているだろう。
「なんなんだ‥‥いったい‥‥」
あまりにも非現実的で、突然の出来事に、俺は戸惑いを隠せなかった。剣もどこかへいってしまった。
「おや?まだ生きていたのですか?」
その声の主は、背後から聞こえた。
俺はすぐに後ろを向き、その姿を確認する。
全身を黒のコートで包み、その素顔はマスクで遮られている。
「‥‥お前‥‥何者だ‥‥」
剣がない今、俺はこいつに無闇に攻撃できない。
「ふむ。どうやら剣はどこかへやったようですね」
「質問に答えろ」
「キヒャヒャ」
男は耳をつんざくような、甲高い声で奇妙な笑い声をあげた。
「私はこの世界を支配するものだ。私は、神になる」
「‥‥お前、1回病院行ったほうがいいぞ」
「ご心配ありがとう。しかし、君は1度死んだほうがいいですよ。なぜならーー」
そう言うと男は、コートから両手を広げた。その肌は、気味悪く白い。
「神になる私に逆らう君は、既に生きる価値を無くしたからだ」
刹那、男は手を前に突き出した。
その手からはどす黒い球体が蠢いている。
「なっ、なんだそれはーー」
次の瞬間、その球体は俺に向かって発射された。
まさに、目にも止まらぬ速さというのは、この事を言うのだろう。
眼前に迫る謎の球体を、俺は身体を思い切り仰け反らせ、寸でのところでかわした。
「ほほぅ。私の"魔法"を避けるとは、なかなかやりますね。キヒャ」
「魔法‥‥だと?」
リアリティに欠ける言葉に、俺は焦った。
「ふむ。神になりえる素質を持っている私しか使えぬチカラです。知らないのも無理はない」
こいつの言うことはおかしい‥‥。明らかに、俺とは別次元の話をしている。
男は手をコートの中へ戻すと、こう言った。
「さて、私は忙しい。ここで遊んでいる暇はないのですよ、すみませんね。キヒャ。そろそろ、剣を貰っていきますよ」
「!?‥‥お前、俺の剣を持っていくつもりか‥‥?」
「キヒャヒャ。当たり前ではないか。そのためにここへ来たのだ」
俺はここまでで、剣の位置を把握していた。
男の数メートル先に、地面に突き刺さってある。剣さえあれば、戦闘態勢には入れるが、そのためにはこの奇妙な"魔法"とやらを使ってくる男の横を通り過ぎなければいけない。
「渡すかよ」
迷っている暇はない。俺は全力で地面を蹴り、剣の元へと走った。
男は再び手を突き出し、黒い球体を生成した。
「キヒャヒャヒャヒャ。そうくると思っていましたよ。‥‥無駄だ」
その球体は一つに足らず、数十個に分かれて生成される。
(なんて数だよ‥‥)
男の横を通り過ぎ、剣まであと数メートルのところで、男が仕掛けてきた。
「ハアッ!!」
その声とともに、球体が一斉発射された。
背後から迫る球体を、俺はノールックで躱していく。
「キヒャッ!!これは驚いた!」
その速度はさらに増し、俺に襲いかかる。それを躱すため、俺は跳躍し前へ進んだ。
「‥‥キヒャァッヒャァッヒャァッ!!‥‥面白い‥‥」
「はぁ‥‥はぁ‥‥疲れた‥‥」
俺は剣の柄を握った。