~起~ episode1
彼はまだ日が登っていない時間に起きた。
そこから洗顔をして眠気を覚まし、トーストを焼く。
テレビをつけてニュースを見る。トーストが焼き終わると、バターを塗ってその場で食べる。
コップに牛乳を注いで飲み干すと、寝癖を直すためシャワー室へと向かった。
濡れた髪をタオルで拭き、洗面所でドライヤーで乾かす。乾かした後、入念に歯を磨き、目やにを取った。
時計を確認する。まだ5時を過ぎたばかりだ。
彼はクローゼットを開き、一番端に寄せておいた戦闘用の服に着替えた。彼のこだわりは、利き腕の左腕の方は袖無しのタンクトップにし、右腕には全体を覆う手甲を嵌め、それを隠す長めのマントを着るという格好だ。
最後に背筋の少し下あたりに剣を提げ、着替えが完了した。
「うし、後は昼飯だな」
間違いなく一日中戦うであろうことを想定した彼は、手早くにぎりめしを作った。それをラップで包み、ポーチに入れた。
「完璧」
すると、携帯電話が鳴る。
「はい、もしもし」
「おお、準備は出来たかね?」
「軍隊長。今ちょうど出来ました」
「今そちらへ向かっている。戦車でそっちに向かうわけにも行かないので、一旦街のはずれまで出てきてもらってもいいかな?」
「わかりました」
彼は電話を着ると、ベッドに乱雑に投げ捨てた。
それからテレビを消して、電灯も消す。玄関へ向かい、靴に履き替えた。
街に人の姿はまだ見えない。この街の住民は、今日、戦争が起こるため俺が出ていくのを知らないのだ。
「うし、気合入れて行くか」
子どもたちや、キョーコを守るためだ。
✱✱✱
「おお、来てくれたか」
俺は、街のすぐ近くにある山のふもとまで来た。そこには、何十もの戦車と、軍隊長が居た。
「こんなに戦車があるなら、俺はいらないんじゃねぇすか?」
「いやいや。君一人でこの何十もの戦車の何十倍もの戦力となる」
「それは流石に言い過ぎですよ」
彼は苦笑いしながら言う。しかし、軍隊長は笑わなかった。なぜなら、それが紛れもない事実だからだ。
「とにかくよく来てくれた。相手がここまで攻めてくるのはあと数時間後。その間、心の準備をしておいてくれ」
俺は近くの大きな岩にもたれかかるように座った。
剣を鞘から離し、横に置く。あぐらをかき、腕を組んで静かに目を瞑った。
久しぶりの戦争の前に、俺は高鳴る胸の鼓動を確かに感じていた。
(ダメだ。これじゃあまた元に戻ってしまう)
数時間後、軍隊長率いる兵士たちが俺の元へやってきた。
「さぁ、そろそろ時間だ。戦車へと向かおう」
軍隊長は俺に手を差し伸べた。俺はその手を受け取り、軍隊長の引っ張る力で一気に起き上がった。
もう後戻りはできない。すべては街のみんなを守るためだ。