第28話 また陽は昇る
一応、この次の話で章完結となります。
大量のわらぶきの上に布を被せた即席ベッドに横たわりながら、俺はのんびりと空を見上げていた。
夜明け前。雲がオレンジ色の光を反射している。
俺より早く日の出を拝んでいるのだろう。
「ふぁー」
あくびをし、目尻の涙を指先で払う。
眉を上げたり下げたりして眠気を追い出していると、ふわふわとした白いものが俺の腹にぱさりと乗せられた。
リナの尻尾である。
隣では、俺に背を向ける形で狼少女が寝息を立てている。
無防備に差し出されたその暖かく柔らかな無垢の象徴に俺の手が伸びたのはもはや条件反射と言ってもふもふもふ。
(もふー……ここが理想郷か……)
身動ぎ一つせず眠りこける少女だが、やや熱があるのかその頬はほんのり赤く、眉も八の字に寄せられている。
息遣いも少しばかり苦しげだった。
しかし俺は尻尾を愛でる動作を止めることができない。
生まれ持った業は如何ともしがたい……とはいえ、俺だけが満足したって意味はない。押し付けがましいスキンシップなど、リナにとっては不快なだけである。
故に、触るにも撫でるにも丁寧さは欠かさない___できる限りの愛情と尊厳を込めて慈しむのだ。
ああしかし、素晴らしきかなリナの尻尾。
もふもふエネルギーがみるみる充填されていく……
「幸せそうね」
「!!?」
いつの間に起きていたのか、リナの目が半開きになり、じとーっとした目付きでこちらの方を睨んでいた。
俺はわたわたと尻尾を撫でつつ目を彷徨わせる。
……ここは正直に謝罪しておこう。
「ま、魔が差して、つい……ごめんなさい」
「素直に謝った割に尻尾から手を離そうとはしないのね」
「だって良い匂いなんだもの」
「あなたってほんっとうに我慢を知らないわよね」
すいませんちょっと自覚してます。
直そうとは思っているのだが、一日経てば忘れてしまう。心の中で『直さなくてもいいや』と考えている証拠だ。
きっと俺は、リナから本当に拒絶されるか非難されるまで直そうとは思わないのだろう。
「……まあ、別に。尻尾ならいくら触ったって構わな___」
「Yes, sir」
「___あっやっぱりちょっと待っ、んひゃぁ!?」
全く、リナがこれでは俺のわがままが直るのも当分先だ。
それまで思う存分甘えさせてもらおうではないか。
「ちょっ、あ、や、ダメ、やめっ……ぁああぁぅう___ッ!?」
三時間ほどノンストップで堪能させて頂き、俺のもふエネ充填率が百二十パーセントを超えたところで打ち止めとなった。
古龍との戦いから一週間が経ったらしい。
と言うのも、俺は最後の一撃を放った直後にぶっ倒れ、それから五日間も寝込んでいたようなのだ。リナは二日、村長やアウローラに至っては一日休んだだけでほぼ復帰したらしい。
まあ、これについては、俺の体がひ弱なわけではなく獣人の方が化け物じみているだけだろう。
俺に次いで重傷だったのはリナだ。
肉体的負担の大きい身体強化の多用、天稟術という獣人族特有の魔法の使用。更には感染病からの病み上がりであり、今朝の様子を見る限りまだ熱もあるはずで、実際アウローラから絶対安静の指示も出ているのだが、リナはそれを全無視していそいそと俺の看病に勤しんでいた。
俺は諌めるべきなのだろうが、主にもふエネ供給、そしてリナの心境を憚った上で、素直に看病を受け入れることにしていた。
ともあれ戦いは終わり、村は無事守られた。
昨日、一足先に目覚めたリナから後日談を聞いた。
結論から言うと、戦果は赫々たるものだった。
死者はわずかに一名。重傷者は古龍討伐班から俺とリナ・村長・アウローラ、魔獣群撃退班からはティモとエドゥアルドの計六名に留まったという。軽傷者はそれなりにいるが後遺症の残るような傷を負ったものはいないそうだ。人的被害の他には、選別結界の一部損傷、リナの震脚で倒壊した俺のログハウスぐらいだった。
これ以上は望めないような特上の成果。全滅すらありえた防衛戦を、最小限の損害で切り抜けることができた。
リナは極めて淡々と語っていた。
久しぶりの稼働で低電圧状態の脳の判断力でも、リナがラウルの話題をあえて避けていることぐらいは何とか察することができたので、俺も粛々と話を細嚼するに務めた。
そんな俺のなけなしの配慮もこの後ルシによって跡形もなく粉砕されることになったのだが、無論当時の俺は知る由もない。
さておき、そのルシであるが、彼女は外見上何某かの傷を受けた形跡こそなかったものの、俺と同様最後の一撃の際に限界まで力を消耗したらしく、現在一切の魔法を使えない状態で寝込んでいる。
禁呪『血の連乗』。
未来分の魔力を前借りして、自分の現魔力を一時的に増幅させるという、ご利用は計画的にと言いたくなるような魔法を、無計画に使ってしまったからだそうである。
今後一ヶ月ほどの間、ルシの魔力は回復しないのだそうだ。
昨日のお昼時に、次のようなやり取りがあった。
「なんでお前まで寝込んでんのかな……」
『リナちゃんと二人っきりで合体技なんて、個人的にも倫理的にも字面的にも許せません!!』
「ふむ、本音は?」
『仲間外れが嫌だっただけです!』
「別にルシが無理しなくても倒せたと思うけどな」
『……ふぇ』
「冗談だ。仮に俺とリナで倒せたとしても、その時は俺の脚は両方とも無くなってただろうしな。助かったよルシ」
『えへ……ふ、ふんだ! 嬉しくなんてないんだからね!』
相変わらずのチョロさを見せてくれた相棒であった。
しかしながら、ルシが無理を押して助けてくれなければ、本当に俺の脚は無くなっていただろうと考えてみると___全て終わった今だからこそ笑える冗談なのだなと思う。
古龍のブレスに焼かれ、俺の脚は変わり果てた。
より具体的に言うと『炭化』している状態だ。
腿辺りから黒く変色しており、膝や脛などの部分はガラスのように結晶化し、脹脛は殆ど蒸発して削ぎ落とされたようになり、爪先などに至っては指同士が癒着している。
まるで萎びたミイラのような脚。
もちろん感覚はない。
神経系は完全に死んでいた。
もう二度と自分の脚で立って歩くことはできないのかとしみじみ考えつつ、車椅子の設計図を頭の中で組み立て始めた昨夜。
……ぴくりと爪先が動いた時は一瞬何の怪奇現象かと思った。
なんとこの脚、今も再生しているらしい。
生命の飛躍と言ってもここまで飛躍されると別次元の生物にでもなったような気分であるが、再生し終えたところで脚としての機能が復元されているかどうかは分からない。ルシやリナに教えるのはまた後でいいだろう。
今後はともかく、第二の心臓とも呼ばれる脚部がこんな有様では合併症や健康障害がひどいことになりそうなものだが、今のところ体調に変化は見られない。戦いが終わった直後は熱やら脱水症やらがとんでもないことになっていたらしいので、そういった体の不調が粗方回復した後に意識が戻ったといったところか。
というか、そう考えないとまたしても『生命の飛躍さんのおかげだな』という暴論に帰結してしまう。
万能すぎるのも考えものだ。
と、俺自身や周りの人々の変化で俺が把握しているのは、こんなところだろうか。
……では、最後に魔獣側の損害について補足しよう。
一時的に結界が壊され村に向かって流れ込んできた魔獣は、全て獣人に殺されてしまったらしい。
当然のことだろう。
殺さなければ殺される、道理である。
その中でも、重傷者の一人であるゴリラ獣人・エドゥアルドは、俺が足止めに留めた雷角のサイ魔獣から仲間を庇う形で傷を負ったという。俺が倒していればそんなこともなかった。
俺は色々と欲張りすぎた。
古龍と刃を交えて痛感した___あれもこれも守りたい助けたい救いたい、ただでさえ片腕で抱えられるものにも限りがあるというのに、業突く張り、分不相応、身の程知らず。
自分がこんなにも強欲であったことに、十八年も生きてきて全く気付かなかった。前の世界でそれなりに特殊な環境に暮らしていた影響もあるかもしれない。
まあ、今のところはそれでいい。
そういう人間だったということなのだから仕方ない。
問題はこの先だ。
五日も寝込んでいたからか、目が冴えて眠れずにいた今夜、俺は自分がこれからどうすべきかを考えていた。このまま無謀な歩みを続けるのか、それとも堅実に片手で拾える範囲を拾っていくか。
最後に選んだのは、そのどちらでもなかった。
(……みんなで、がんばろう)
ちらりと視線を動かして、俺は『左腕』を見た。
禍々しい籠手みたいな形状の黒く歪な腕が、俺の左肩に根っこを張って生えている。
俺はもう隻腕ではなくなったのだ。
ノエリアが頼み倒した結果、腕の形に変形したノアが俺の補助をしてくれるようになったのである。
何もノアだけではない。
古龍を倒したときのように……一人で足りない手は仲間のそれで補えばいい。支えてくれる人がいるではないか。
いかにも呪われた道具っぽい、そのうち宿主を乗っ取ってきそうな感じの義手は、ぎしぎしと不満気に音を立てながら、しかし俺の視線に応えるようにグーの握り拳を形作り、
「んがっ!?」
俺の顔面を、思い切りぶん殴ってきた。
いつまでも悩んでないで前を見ろと叱られたようだ。
は、鼻がひしゃげた……。
「どうかしましたか、ユイ?」
「……な、なんでもない」
「そですか。こーねこね、こーねこね」
若干涙目になりつつ、俺は前に視線を戻してみる。
俺の目の前では、白髪赤眼の幼女が至極真面目な顔ですり鉢の中の大豆をごりごりとすり潰していた。
建て直し中のログハウスの中、俺はわらぶき布団に体を横たえ、手元には拳大のきびだんごが山と積まれている。家の外周をを囲むべき壁、ログは積み途中で、外から中が丸見えだった。当然ながら天井もない。とぐろを巻いた雲がこちらを見下ろしている。
(五日間ぶっ通しで爆睡して、起きたらすぐ長話、それから夜通し考え事か……眠いんだか眠くないんだか分からんな)
やはり、体内時計のリズムが不可思議なことになっているせいで思考回路が混乱しているようだ。
「さっきからぼーっとしてるわね。寝る?」
「や、大丈夫。というか、これ以上寝たら冬眠しそう」
「冬はまだ大分先なんだけど……」
……しばらくはのんびり休むとしよう。
やたらと過保護に気遣ってくるリナを制しつつ、俺は作りかけのきびだんごの一つを手に取り、ぎこちない手付きで丸め始めた。
「冬眠……うゆ。ツクシさんです?」
『ツクシは冬眠しないと思うよ』
「じゃあ私が冬眠しますね」
『「じゃあ」の使い方を間違えてるとだけ言っておこう』
「ルシも一緒に冬眠しましょ?」
『連れ冬眠とか聞いたことないよ……』
俺の手に合わせて動くノア。
どこかズレたやり取りをするルシとノエリア。
そしてリナは、さらりとした控えめな動作で散らかった小物やら何やらを片付けながら、ちらちらと俺の方を見て様子を窺い、並行して麻紐を撚り合わせ南京袋を作っている。
気配を感じて外を見てみると、猫少女の白いはねっ毛がログの縁からぴょこんと覗いていた。目敏く気付いた幼女が魔導書を踏み台に跳躍し、アホ毛目掛けて突撃する。フリアは一目散に逃げ出す。
そのまま裏庭で子供たちの鬼ごっこが開始された。
平穏そのものの和やかな光景を前に、何か暖かいものが心の中に染み渡っていった。
***
リナは悪夢を見ていた。
ラウルや、五年前に人間に攫われた獣人、或いは殺された獣人が黒い大きな塊になって付き纏うのだ。追っているわけでもなければ追われているわけでもない……表現し難い義務感に駆られて、ただひたすらに永延と走っていく夢だった。
いつ終わるのか、どうすれば黒い塊を振り払えるのか分からないまま、遠くへ遠くへと。
どうしようもない恐怖を感じた。
唐突に、腰の後ろに妙な違和感を覚えた。
その正体が、いつの間にか黒い塊と別に纏わり付いていた白い塊であると気付いた時、走る速度が少しだけ落ち着いた。
白い塊は黒い塊を追い払うでもなく、ふわふわ漂いながらリナの尻尾をずっとつついていた。
くすぐったくも暖かい感覚が尻尾を撫でるたびに、走らなければならないという焦燥感と使命感は消えていき、回り廻り疾走する脚は、次第に速力を落としていった。
恐怖で凍えていた心のしこりが少しずつ溶かされていった。
いつしか、リナは立ち止まっていた。
黒い塊たちは、そのまま遠くへ離れていった。
一つ息を吐いてからゆっくり瞼を上げる。
目覚めてから一瞬の空白を置いて、今のが夢であったことは理解したが、尻尾を触る誰かの手の感覚は逆に鮮明になった。
誰かの手というか、尻尾や耳をやたら触りたがる変態じみた趣向の持ち主など村で一人だけだ。
(……いやな夢)
しかし、今度ばかりはその趣向にお礼を言いたいところである。あんな夢をずっと見続けていたいとは思わない。
それに尻尾ぐらいなら、少年の寝相に巻き込まれて全身を隈無く愛撫されるよりはずっとマシである。
あの時みたいに、唯葉の誤爆発言でラウルが激怒したり___
「幸せそうね」
父の記憶に思考が繋がりかけ、リナはそれから顔を背けるように振り向いた。尻尾に抱き付いている少年と目が合う。
古龍を撃退した立役者とも言える彼は、リナが起きていることに気付きもしていなかったのか、過剰なまでに驚いた顔で目を見開きしどろもどろになった。
本当に、あの鬼神の如き強さの面影はどこにもない。
「ま、魔が差して、つい……ごめんなさい」
「素直に謝った割に尻尾から手を離そうとはしないのね」
「だって良い匂いなんだもの」
「あなたってほんっとうに我慢を知らないわよね」
言い訳臭く並べられていく唯葉の声を軒並み跳ね返していくと、段々と眉尻が下がって泣きそうな顔になる。
それを見て、夢の影響からか暗い感情を引きずっていたリナの頭の中がいくらか晴れた。
(あーもう……ユイに当たり散らしてどうすんのよ……)
思わず謝罪しかけるが、唯葉は以前として申し訳なさそうな顔のまま尻尾を撫でたり弄ったりしている。
全く懲りていない。
罪悪感は波が引くように消え、残った感情は『悪夢から起こしてくれたし気にしなくてもいいか』という許容のそれだった。
結果、次のような失言を招くこととなる。
「……まあ、別に。尻尾ならいくら触ったって構わな___」
「Yes, sir」
「___あっやっぱりちょっと待っ、んひゃぁ!?」
その後、リナがどんな目に遭ったかは……ここでは、あえて明記しないことにしておこう。
目が覚めてからの五日間、リナは事後処理に追われていた。
主に怪我人や、局地的な大災害が過ぎ去った後のような凄まじい戦跡の片付けなど___獣人族の真髄たる天稟術に覚醒し、古龍の討伐を取り仕切った者としての責務である。
とりわけ始末が大変だったのは古龍の死骸だった。
死してなお強固な鱗や牙は貴重な資源なのだ。長い年月を生き、独自の言語を操り、畏怖の念を与える堂々たる存在も死体となれば獣人族にとっては他の魔獣と同じだ。
素材を剥ぎ取って、糧にする。
唯葉にとって古龍はもっと尊厳を込めて応対すべき存在で、この淡々とした処分の仕方は些か不満の残るものと思われた。
なので、リナは彼に詳細を知らせていない。
古龍の解体では、村長の『白虹貫日』やアウローラの『極光』に相当する頑強な刃を用いる必要があった。
エドゥアルドの『渦雷』は武器に徹甲性を付与するものであり、解体にも有効ではあったのだが、本人はまだ『渦雷』を使えるまでに回復していない。従って、解体作業は村長とアウローラ、補助役にリナの三人だけで行わなければならなかった。
四肢と翼、首の部位分解に三日。
各部位の加工には、それを生業としている職人が村にもいるので彼らに任せて、最後に腹から尻尾まで切り開こうとした時、中から巨大な卵が転がり出てきた。
その殻の表面は硝子を砕いたような虹色で凸凹しており、天稟術を用いても傷一つ付けられないほどの硬度だった。
リナたちは与り知らないことだが、それは単なる卵の外殻の硬さだけではない___古龍が太古より研鑽してきた秘術の結晶、最後の力を振り絞って我が子を守ろうとしたホワイトレス・ドラゴンの加護だったのだ。
この卵殻を破るには相応の知識と、膨大な魔力が必要となる。
それと、中身の龍の赤ん坊の成長度合いにも寄るか。
ともあれ、壊そうにも壊せず、動かそうにも動かせず、結局リナたちは卵を放置し、解体作業も切り上げた。
その翌日のことだ。
倒壊した唯葉のログハウスの端っこで寝泊まりしていたリナは、何者の気配を感じ取り、朝早くに起きた。
唯葉を守るような態勢で家の淵から外を覗き見てみると、二つの小さな影が卵の周りをぴょんぴょこ跳ね回っていた。
ノエリアとフリアである。
「うゆー!」
「ふあー!」
そのまま二度寝を決め込もうとした狼少女であったが、飛んだり跳ねたりする二人の幼女の珍妙な動きがどうにも気になって寝るに寝れず、寝惚け眼で眺めていた。
リナが見守る中、やがて白幼女と猫少女は『せーのっ』と仲良く一緒に手を突き出して卵の表面に掌を当てた。
直後___卵殻が粉々に砕け散った。
「え?」
いえーいと呑気にハイタッチする幼女二人の背後で、殻の中から黒い塊が首を伸ばし、キュルキュルと啼き始める。
ぱちくりと目を瞬いてからリナは慌てて起き上がった。
「二人とも何したの!?」
「うゆっ。お、起きてたのですかリナ」
「あわわ……ノエルさん、どうしましょ」
二人はわたわたと顔を見合わせる。
「私たちは、その、ルルがきゅーくつそうで、助けたくて」
「そ、そうです。決して皆さんを、び、びっくりさせちゃおとか、そんなつもりはなくて……」
どうやら、ノエリアとフリアは早朝に卵を割り、起き出してきた村のみんなを驚かせようと画策していたようだった。
とんでもないことを考えるものだ。
ただ純粋に『みんなをびっくりさせたい』と思っての行動だったのだろうが、もし最初にこれを見たのが村長であれば村を守るべく問答無用で攻撃していたかもしれないのに。
そういうところも含めて子どもならではの発想だが、それを実行して実際に達成せしめたのは一体どういう手段によるものなのか。
問い質してみるも、結局どうやったのかは分からなかった。
身振り手振りと擬音から為される説明を言語化するのは唯葉の方が得意そうである。
ひとまずリナは二人に村中の獣人を叩き起こしに行かせ、自分は天稟術を纏って古龍の赤ん坊を警戒していた。
ノエリアとフリアは『絶対ルルに危害を加えるな』といった趣旨のボディランゲージで念を押してきたが、逆にこの雛がログハウスにいる唯葉へ危害を加えるような行動をした場合は、然るべき反撃に出るつもりだった。げっぷと一緒にブレスでも吐きそうで困る。
孵ったばかりの龍の子とにらめっこすること一時間弱。
皆が集まってきたころ、しかしリナは臨戦態勢を解いて困惑顔になっていた。
古龍の雛は、ただ母親を探すようにきょろきょろ周囲を見回してひたすら啼くばかりだったのだ。
脅威性は全くの皆無。ただ、ノエリアとフリアが来ると卵の殻を踏み倒して近寄ろうとしてきたことで、リナはそれを利用して雛を唯葉のログハウスから遠ざけることに成功した。
雛は現在、集会所ログハウスに移動し、ノエリアとフリアが一日置きに交代しつつ村長と二人で見張りを行っている。
無論、雛を殺すべきだと意見もあったが、魔導書の『マスターが怒るよ』という一言で却下となった。
古龍の直接的死因となった傷、袈裟懸けに刻まれていた真一文字の傷跡は唯葉が付けたものだと知っていたからだ。正確には彼だけではなく、リナやルシの魔法を合わせた一撃なのだが。
何事にも実力を重んじる獣人族である。絶対強者を怒らせてまで逆らおうとする者はいない。
今の唯葉に強者の自覚があるかどうかは甚だ疑問なところだが、そんな彼が目覚めたのは、約一日後のことだ。
後処理を終えてすぐ、リナは唯葉の看病に努めた。
機能を失った脚に代わって唯葉の移動の補助を行ったり、近況を話して聞かせたり。
休む間もなく働いていたせいで未だ熱が引いておらず、頭も体もかなり倦怠感を引きずっているが、リナは自分でも驚くほど積極的に働いていた___理由は自分でも分かっていた。
ラウルのことを考えたくないのだ。
戦いの中、リナはラウルの死を受け入れ、自分の過去と正面から向き合ってそれを乗り越えた。今日まで積み重ねてきた力で唯葉を守ろうと決めたのだ。
だが、同時に嫌なことも思い出した。
決別してから最期まで……リナはラウルに娘らしい態度も言葉も向けることができなかった。
後悔よりも、自分への激しい嫌悪感があった。
だから、ルシがラウルのことについて話を切り出した昨日の夜、リナはその場から走って逃げ出したい衝動に駆られた。
その時リナは、唯葉の体を濡れた布で拭きながら、魔獣の群れが全滅したという話をしているところだった。
単刀直入に話を切り込んだルシに、唯葉は何かを問うように小首を傾げたが、ルシが『うん』と応じたのを見て黙り込んだ。
そのやり取りの意味は、なんとなく分かった。
唯葉はおそらく、リナがラウルの話を避けていることを分かっている。だから彼はそれを問い、ルシは肯定で返したのだ。それ以上は必要ないと言わんばかりの問答。
それだけの信頼を得ている魔導書に嫉妬のような女々しい感情を覚えて、リナは半ば意地のような心持ちで話を聞くことにした。
《二週間前に、ラウルがボクに会いに来た》
話の導入はそこからだった。
二週間前と言えば、リナが病気に感染する直前だ。
そんな時に、洞窟に捕らえられた魔導書にラウルが会いに来た。問題なのは後の『何の用で』の部分である。
《ラウルはボクに、取引を持ち掛けてきたんだ。ボクを縛っている縄を解く代わり……頼みがあると》
閉本状態だと魔法を使えない___そんな自らの弱点を明かしたのはルシ自身であった。
獣人族が魔法を嫌忌していることはルシも知っている。
唯葉がサナトリウムにいる間、獣人たちに包囲され、その敵対的な姿勢の意味を瞬時に理解したルシは、敢えて自分から劣位に立つことで少しでも互譲を行おうとしていた。
結局戦いは避けられなかったが、その後も縛られたまま大人しくしていたことで、村から唯葉への風当たりは少なからず軽減されたという経緯があったりする。よく考えれば囚われの身であるルシが刀を作って唯葉に送ったりできるはずがなかったのだが、誰かに縄を解かれていたとすれば納得ものだ。
それはともかく、ラウルの行動は不可解なものだ。
獣人族にとって不倶戴天である人間族の象徴・魔法を封じていた縄を解くというのは、余程のことでない限りありえないことだ。
ラウルの信用をルシが勝ち取ったのか、或いは何か___魔法に頼らざるを得ないほどの理由でもあったのか?
答えは、すぐにルシが告げた。
《……リナちゃんを助けるための方法を教えろと》
ラウルはルシに全てを話したという。
リナが唯葉の『善悪』を判断するための布石として使われ、その結果、病で死ぬかもしれないということまで。
この裏事情を知らなかったらしい唯葉は、話の途中でリナの手に自分の手を重ねてきた。
その暖かさが、この時のリナにはひどく有り難かった。
《最初にいくつか方法を提示してみたんだけど、全部否定された。もう全部やったって。結局ボクは……最後に『血の履行』について話した。代償と引き換えに願いを叶える禁呪魔法》
《ダメ元で話しただけなんだけど、ラウルは食いついてきた》
《代償がどれぐらい大きくなるか分からないって説得しようとしたけど……聞こうとしなかった》
《どうしようもないまま縄が解かれて、ボクは……》
魔法を、使った。
消え入るような言葉の後、ルシはしばらく沈黙した。
リナは『血の履行』が何の効果を齎す魔法なのか知らない。
だが、代償を払って自らの望みを叶えるのならば、ラウルは禁呪とやらを使って何を得たのだろうか。
自分のために、何を犠牲にしたのだろうか。
その結果は……あまりにも残酷なものだった。
《発動した魔法は『遺薫の守護霊』だった》
遺薫の守護霊。
この魔法の使用者の手の甲には、守護霊の起動キーとなる魔法陣が刻まれる。媒体として、その魔法陣と同様のものを刻んだ道具か何かを対象者に渡すことで魔法の起動準備が完了する。
魔法が起動すると、媒体の所持者に何らかの危害が及んだ場合、使用者の魔力又は生命力がその者を守る。
リナを守りたいというラウルの意思を発現したような魔法。
ただし。
この魔法が起動するのは___『使用者の死後』。
禁呪『血の履行』は、現実を愚直に考慮した上で使用者の願いを叶えるのに最も適した魔法を与える。
使った分の代価として使用者の肉体を喰らう。
そして禁呪は、死を以て発動する魔法をラウルに与えた。
これが示す所はただ一つだ。
《ラウルが生きている限り、リナが救われることはない》
禁呪は淡々と宣告した。
娘を救いたくば___死ねと。
《死ぬことでしか娘を救うことができない……って理解した瞬間、物凄い大声で叫びながら大暴れして、洞窟が半壊した。人払いしてなかったら色々とまずかったかもしれないね》
《それから、静かになって……洞窟から出て行ったんだけど、その帰り際に託けを預けてきたんだ。リナに伝えてくれって》
ルシは床に身を横たえたままだったが、しかし、リナは魔導書の視線が、意識が、自分に注がれたのを確かに感じ取った。
《……俺のようにはなるな、って》
そこまで聞いたとき、リナは、頰に何か熱いものが伝っていくのを感じた。
死んでも娘を愛そうとした父は、最後に自分を否定した。
彼の『芯』がそこで折れた。
だが、違う。間違っていたのは私だった。全てを水に流そうとは言わない___ただ、ありがとうと。
これだけの愛情を受け取って、私は幸せだったと。
お父さんは正しいのだと。
一言だけでもいいから、伝えたかった。
けれど、リナの声はもう一生届くことはない。
顔をくしゃくしゃにしながら泣いた。
火傷しそうなほど熱い想いが胸から止まることなく溢れていた。
不意に前が真っ暗になった、唯葉が抱き締めてくれていた。
少年の胸に顔を埋め、泣きながらリナは考えた。
ルシは、禁呪がラウルに『死ぬことでしか娘を使えない』と暗に示したと言ったが、リナはそうは思わない。むしろ逆だ。
禁呪はおそらくこう言ったのだ。
魔法に頼る必要はない、と。
村長が言っていたように……リナを守り通せるだけの礎は、すでにラウルの内側に築かれていたのだから。
事実、リナはラウルに守られ、こうしてここにいる。
(私は今まで……ずっとお父さんを否定し続けてきた)
その過去を今さら覆すことなどできはしない。
終わったことを後悔するくらいならば、いっそこれからもずっと否定し続けてしまえばいい。
最後の最後で『自分のようになるな』などと言った父親を、否定する。ラウルの後をそのまま追いかけてやる。ずっと目指してきた父の背中___追いつき、追い越し、置き去りにしてやるのだ。
そしていつか、胸を張って堂々と言えるようになろう。
ラウルは、正しかったのだと。
父親の生き方が、生き様が、正しいものであったと証明しよう。
唯葉が自分を肯定してくれたように。
私が引き継ぐのだ。父親の命を、道を、意志を。
最後は半分開き直りのような結論に辿り着き、でも少年の体温をもう少し感じていたくて、リナはしばらく唯葉に身を預けた。
結局、そのまま朝まで眠ってしまったが。
あの悪夢は、そんな話の名残だったのかもしれないと今になってリナはなんとなく思った。
「フリアとかサラって、アホ毛あるよな」
「あ、あほだなんて……い、言わないで、ください」
「あほって言う方があほなのです!」
「いや待て、そういう意味じゃなくてだな」
リナが麻袋を作り終えた頃、唯葉はフリアの頭頂から生えているはねっ毛を弄り、ノエリアとじゃれあっていた。
見てて飽きないほのぼのとした光景だ。
「人を傷付けるような言葉はめーなのですっ! てい!」
「んごっ!?」
……本当に飽きないなとリナは改めて思う。
顎に一発頭突きをもらってひっくり返った少年の手が、粉末大豆の入ったすり鉢を倒しそうになる。リナは慌ててそれを退けて二次災害を避け、ついでに団子の山も部屋の隅に寄せておいた。
と、その時___全く唐突に、リナの感知能力が、裏庭に一人の竜獣人の存在を感じ取った。
「……」
あまりにも突発的で、リナはしばらく動けなかった。
リナは、感知に意識を集中すれば一キロ先の熱源でも探知できるが、通常状態でも百メートル程度の範囲内ならば鼠一匹すら逃さず捉えられる自信があった___しかし、その探知網をこうも容易く突破されたのはこれが初めてだった。
まるで瞬間移動でもしてきたかのように忽然と現れたのだ。
しかも現れたのは裏庭。つまり唯葉の背後だ。
「……ちょっと外行ってくるわね」
「うん? トイレか?」
「でりかしに欠ける言葉もめーなのですっ! とりゃ!」
「おうっ!?」
「……ぼ、暴力も、めー、だと思う……よ?」
「うゆぅ!?」
天然幼女と不思議変人を二人で放っておくと収拾がつかなくなるのだが、常識人が一人いるだけで変わるものだ。
リナは苦笑しながら家を後にした。
「……」
朝日に明るく照らし出された少年たちの表側と打って変わって、影となる裏庭はまるで別の世界のように暗く見えた。
その暗然とした場所で一人、ログハウスの壁に寄りかかって座る村長は顔を上げ、リナをちらりと一瞥する。
「来たか」
「かくれんぼが趣味だとは思わなかったわ」
リナは茶化すようにそう言って返した。
村長はにこりともしなかった。
ログハウスから場違いに楽しげな声が響いてくる。
「何の用?」
「様子を見に来ただけだ。幸せそうで何より」
「からかってるの?」
冗談めかした口調で小さく肩を竦める村長。
意図が分からず、リナは村長をじろりと睨んだ。
「ユイに用があるのかしら?」
「そう身構えなくてもいい。少年を殺したりはせん」
「暗殺者みたいにこそこそと近寄って、私に混じり気のない殺気を向けながら、唯葉には気付かれないよう気配を潜めてる。そんな人の言葉を信用しろって方が無理な話ね」
唯葉は村長のすぐ後ろ、壁の向こう側、距離にして一メートルも離れていないような場所にいる。万全ならまだしも、脚が使い物にならない状態では襲われても為す術がない。
リナが介入できるかは五分五分といったところか。
ただ、村長が何の意図もなくそんな状況にリナを置かせるというのも考えにくいことだった。
「もう一度聞くわ。何の用?」
リナは改めて竜獣人に問いかける。
今の村長の顔はいつにも増して感情が窺い知れず、何をし出すか分からない。だが、唯葉にだけは危害を加えさせてなるものか。
身構えるリナをじっと見つめ、村長は呟いた。
「……健気だな。あの少年がそんなに大切か」
そして、微かに肩を揺らす。
リナは目を丸くした。
全くと言っていいほど表情を動かさない村長が笑うところなど、リナは生まれてこの方見たことがなかった。
「血は争えんということだな……今のお前は、ラウルがリリアナを娶ると決めた時と、よく似ている」
「お父さんと、お母さん?」
母は小さい頃に別れたきり、一度も会ったことがない。
ラウルから『お前の母親は城下町で暮らしている』という断片的情報を聞いただけだ。
自分の双子の片割れだって実在しているのかすら分からない。
だか正直、村長から母の名が出てもピンと来ない。
「それから……そうだな。ノエルの母親を守ろうとした時の奴も、今のお前のような感じだったか」
だが村長は、そんなリナの心境などほったらかしで、交戦の意思など一切見せないまま虚空を見つめていた。
まるで、遥か昔の記憶をゆっくり手繰り寄せるかのように。
しばらくして目の焦点がリナを捉え、像を結んだ。
「……それと、五年前のあの時。激昂するアウローラの前で、お前を渡すまいと立ち塞がっていた時もそうだった」
それから、またしばらく村長はリナを見た。
黙ったまま観察するような視線だ。
やがてその視線は滑るように下に落ち、その動きと共に、村長の顔から何かが地面に零れた。アホ毛も小さく揺れた。
「人間族の檻から逃げてきた俺を……助けてくれた時と、同じだ」
リナは目を見開く。
迫害から逃れてきた獣人族の生き残りと、その子孫たちの集落が今のアルトゥンハ村だ___が、出自が秘匿された獣人もいる。
小さい頃、父に一つ尋ねたことを思い出した。
《そんちょーの名前、ほんとはなんていうの?》
父は口を半分開いて何か言おうとしていたが、やがて『まだお前には早いか』と言って口を閉じた。リナの頭を撫でながら。
ただ、その時からラウルは一層過保護になった。
「村長……あなたは」
言いかけるが、結局リナは口を噤んだ。
ログハウスの影になって、村長の表情は見えなかった。
だがその後、顔を上げた彼の顔はいつもの仏頂面に戻っていて、リナに不機嫌そうな声を浴びせた。
「ラウルが死んだと聞いたとき、一番泣いたのはノエルだ。だが、あの子は翌日から、いつもの笑顔に戻った……自分ができることは皆を元気付けることだと、涙の跡だらけの酷い顔で、それでも自らの職務を全うせんとしていた」
「……」
「奴の死を一人で背負っているなどと思うな。お前だけが辛いわけではない……それを、伝えておきたかったのだ」
静かにそう締め括ると、村長はおもむろに立ち上がり、服の汚れを叩く。それから目を細めて、建て直し中のログハウスの壁の隙間から中を見た。リナもつられて中へ視線を向ける。
「___ほーれ見てみ、俺もアホ毛生やしてみたんだよ」
「わ、わー。私と、おそろい、です」
「うゆ。そんちょーとサラも同じのがありますー」
「だがしかし、驚くなかれ、俺のアホ毛はしゃべる」
「ふぇ……さすがに、うそでは……?」
「髪の毛がおしゃべりするわけないのです!」
「ふふん。ほら、アホ毛ちゃん、ご挨拶」
『……こんちわー』
「!?」
「!?」
少年の白髪の中で一本、真っ黒な毛がぴこぴこ動く。
誰がどう見てもノアのものだと分かる。発している声も腹話術のものだろうが、幼い少女たちは物の見事に騙されて歓声を上げた。
相変わらずあの少年は子供の扱い方が上手い。
「うゆ。そういえば、ルシにもアホ毛ありますよねー。ほら」
『……それはしおりの紐だよ、ノエルちゃん』
その後、くだらない茶番に付き合わされて不機嫌になったノアが唯葉に往復ビンタを食らわせ始め、アホ毛の正体が露見し、幼女がノアを叱り始めたところで、
「良い人間と出会ったな、リナ」
横からの声に、リナは村長へ視線を戻した。
村長は唯葉たちを眺めたまま、独り言のように続ける。
「その背中、まだ焼印は残っているか?」
焼印。恐らくラウルが付けたものだ。
肩に手を当てつつ、リナは頷く。
「……ええ」
「もうお前には必要なかろう。治してやってもいいぞ」
リナは一瞬硬直した。
「え、治せるものなのコレ?」
「当たり前だ。同胞に消えない傷を与えるわけなかろうが」
尚も目を合わせようとしない村長をまじまじと見ながら、リナはその言葉の意味をよく考えてみる。
五年前に背負った罪と罰、その証たる焼印。
それを消すということは……つまり、
「お前は、少年と共に、二度村を救った。不治の病を治療し、古龍を討ち取った。過去の罪を帳消しにするには十分すぎる」
それらの功績は殆ど唯葉のものだと思うのだが、リナがきっかけであることは事実である。
まず最初にリナが自らの命を賭けて村長たちを説得しなければ、唯葉は村に入ることさえできなかったはずだからだ。
赦免してやっても良いということだろう。
___しかし、
「悪いけど、遠慮しておくわ」
リナは首を振った。
この傷は、五年前に犯した大罪の証明であると同時に、ラウルが最後まで貫こうとした『芯』の象徴でもある。
少なくとも、今はまだ消していいものではない。
消すならば……もっと自分が成長してから、父に恥じない獣人になれたと確信してからにしたい。
「そうか。分かった」
村長はまたリナをじっと見てから、頷き、そして踵を返した。
次の瞬間には、そこから竜獣人の姿は消えていた。
「……ふう」
それほど長いやり取りではなかったが、異様に疲れた。
尤も、休んでいられるだけの時間もなさそうだ。
「おーい、リナ、随分長いお花摘み___」
「めーっ!」
「___へぐっ!?」
どんがらがっしゃん、と普通の家庭では凡そ発生し得ないようなデシベルの騒音が盛大に響いてきた。
フリアだけであの二人を抑えるには少々無理があったらしい。
やれやれとため息を吐きつつ、狼少女は足を踏み出す。
冷たく暗い影の世界から。
家族のいる、暖かい、光に満ちた世界へと。
お読みくださり、ありがとうございます。




