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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
迷宮を掌握する勇者狩り少女は巨人を操る土木作業魔術師兼魔道具製作者兼鍛冶師でガラス職人かつ道具屋従業員で、その正体は変な名前の、見かけより体重の重いドワーフである
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黒鋼の武器

「フンッフヌヌヌヌ!」

「師匠っ!」

 黒鋼のハンマーを持つ、ルーサー師匠の手がプルプル震えている。

「フン………ッ」

 大丈夫だ、地金を押さえていろ。そう聞こえる。

「フン!」

 ガィィィィン、と大音響とともに小さな火花が散る。

「フン!」

 ゆっくり、ゆっくりと。熱された黒鋼のインゴットが形を変えていく。

 加わる力もとんでもない。ヤットコを押さえる手が飛ばされてしまいそう。

「フン………」

 ジロリ、と私を見るルーサー師匠は、どうだ、なかなか難儀な素材だろう? と自らの興奮を抑えるような鼻息を漏らした。


「ヤットコ、交換します」

 金床は同じく黒鋼製、ハンマーもルーサー師匠が取り出した、秘蔵の黒鋼製。だけれどもヤットコに関しては黒鋼の物が無く、一番先に変形してしまう。

 もっと大型のヤットコを黒鋼で作ったとしても、それは一人が持てる重さではないだろう。つまり、この鍛造作業を二人だけでやっているのが、そもそもおかしいと言えた。


「どうぞ」

 ヤットコを交換し、黒鋼を十分に加熱し、真っ赤になったところで、また引き伸ばしていく。

「フンッ、フンッ」

 ん、打撃に対する衝撃の逃し方がわかってきたか。最適な角度で地金を保持できるようになってきた。


「フンッ、フンッ!」

「はい」

「フン!」

 予め、二人で話し合って(話したのは私だけだけど)、この地金は長めのメイス状に加工することになった。通常、メイスは頭部と柄の部分を別パーツにするのだけど、今回は一体加工をすることになった。黒鋼の場合、素材に重量があるので、素材をそのまま加工した方が強度が得られるだろう、という判断だ。

「フン………」

 こんなところでどうだ? 図面通りだが? と言っている。

「はい、いい形状ですね」

 先端はシンプルな菱形で、それほど鋭くはしていない。別段貫通力を求めたわけではないけど、あまり鋭くすると欠ける可能性がある、と踏んでのチョイス。反対側は槍に見られるような石突き、半球形にしてもらう。柄の部分は六角柱。ぶっちゃけ、元の世界にあるバールみたいなもの。


「休憩しましょう」

「フン………」

 私の提案にルーサー師匠は息を吐くように鼻を鳴らした。


「おじいちゃんすごーい」

「ひばなー」

「おじいちゃんちからもちー」

「フン………」

 かなり離れたところから見学していた子供たちは、昨日訪ねてきた、アイカさんのお子さんたち。アイカさん本人は家具屋のお手伝いとかで、子供達を置いてから戻っていった。

 照れたルーサー師匠は鼻を鳴らすけれど、まんざらでもなさそう。大人が仰々しく賛辞を述べるよりも、子供たちの素直な感嘆の方が十倍は効果がある。


「フ、フフン?」

 そ、そんなことよりだ、次はどうするんだ? と、助け船を求めるように、ルーサー師匠は私の方を振り向いた。

「そうですねぇ、メイスは先端をちょっと磨きたいですけど、後回しにしましょう。次は剣……いってみましょうか……」

「フン………フン?」

 いいだろう。だがな、こんな形状の剣なんて、役に立つのか? と訊いてきている。

「私にもわかりません。実用になるかどうか。半分は趣味みたいなものです」

 と、デザイン画を手に取って形状を確認する。


 両手で持つ、両刃の、諸刃の剣。柄の部分は中央に二段になっていて、中央付近と、手前に握る場所がある。奧側にも刃があるので、弓のように構えて、そのまま突進ができたりするのだけど、実用性があるかどうかはわからない。

 いや、この剣欲しかったんだよね。まさか実際に作れるとは思ってもみなかったし、素材が黒鋼だから、保持できる重さになるかもわからない。


「フン」

 ルーサー師匠が子供たちを見て鼻を鳴らす。

「もっとオレンジ食え! と師匠が言っていますよ。さあさあ、たんとおあがり」

 アーサお婆ちゃんじみてきたなとは思いつつ、ルーサー師匠の言葉足らずを補完しつつ、子供たちにオレンジを剥いてやる。


「ありがとーおねーちゃん!」

「うんうん」

「フン」

「師匠がそろそろやるぞ、って言ってる。次は剣を作るよ」

「すげー!」

「けんだって!」

「みたいみたい!」

「危ないから、遠くで見てるんだよ?」

「わかった!」

「うん!」

「うんうん!」

 ああ、この素直な子供たちも、いずれ世俗の毒にまみれて、ひねくれた大人になっていくのか……せめて、今だけは純なままでいてほしい……。

「フン」

 お前がいうな、と師匠の叱咤が入ったところで、第二部が開幕になった。心が読めるのか!? いや、私がいうのも何だがな!



 この剣は大きな半月刀……とも言えるので、大まかな成形をまず私が叩いて出すことになった。中央部分は炉に入らないので、私が火系魔法で加熱することになった。


――――生産系スキル:鍛造LV8を習得しました(LV7>LV8)

――――生産系スキル:金属加工LV9を習得しました(LV8>LV9)


 役割を交代するとすぐに、スキルレベルが上昇した。ルーサー師匠を見ると、やはり同じレベルになっている。叩くのと地金を保持するのはセットで、役割を交代してスキルを習得する条件を満たした、ということみたいだ。


 先ほどルーサー師匠が叩いていた時よりもリズミカルで、押さえるルーサー師匠の方も、それほど苦労して押さえている感じではない。結局のところ、スキル、特に生産スキルは()()の集合体のようなもので、何かをきっかけにコツを覚える、ということらしい。

 私の『人物解析』に伴うスキルコピーは、強いて言えば、コツを覚えるコツを習得しているようなもの……かもしれない。

 うん、自分でも何言ってるんだかわからないけど、感覚としてはそういうことだ。


 剣の大まかな形が出来上がっていく。両端が両刃、中央に取っ手が二段。

「フン」

「いえ、師匠もやってみればわかります。この素材を扱うコツを掴んだのではないかと思います」

「フン?」

「剣の形出しをお願いします。替わります」

「フン」

 再度役割を交代する。実際には私は筋力強化をすれば片手でハンマーを振れるので、一人で出来なくはない。だけど、この未知の素材を扱うには、恐らく過去に扱ったことのある、ルーサー師匠の協力が必要だ。コツ以上の何かが存在する。そう感じるのだ。


「フン!」

 先ほどとは別人のようにルーサー師匠がハンマーを振るう。火花は永遠に続く線香花火のように、規則的に花開いては散って消えていく。

 何と言う美しい動き。それに合わせて動く一体感。

 みるみるうちに剣は鋭くなっていく。片側をやってひっくり返して反対側。終わったら中央。


「フン……?」

 何でこんなに面倒臭い形状してるんだ、これは? と訊いている。

「ロマン……いえ、これを作らなければならない、そんな気分なのです」

 ロマンという単語が、どう伝わったのかはわからない。だけども、ルーサー師匠は笑った。


 ニヤッと笑ったのだ。


「師匠!?」

「フン………」

 ほれ、できたぞ。あとはどうするんだ? 仕上げておくか? と訊いてきた。

「普通に砥石で研げますかね、これ?」

「フン………」


 ルーサー師匠が困った!

 腕を組んだのだ!


 驚きを隠しつつ、私は提案してみる。

「黒鋼を粉にして、固めて、応急のヤスリを作りましょうか? どうせ今回だけですし」

「フン」

 よし、頼む。儂は休憩する。どうせ剣は冷やさなければならんしな、と言っている。

「わかりました」

 今のでわかっちゃう私もおかしいなぁ、と自嘲して、さっそく作業に入る。

 目の前に黒鋼の欠片を用意して、私も師匠と同じように腕を組む。


 この場合、『研磨』を使って磨いても良さそうではあるのだけど、正確に研磨できるかどうかの自信はない。自分から何か新しいものを創り出したり、産み出したりチャレンジしたり、というのは、『人物解析』から得られるスキルだけじゃフォローできないことも多い、ってことかもしれない。


「おじいちゃんやけどー?」

「いたくないのー?」

「フン……」

 ルーサーが賑やかに子供たちと会話(?)している。


「ふぅ~」

 息を吐いて。

 よし、今だ!


「―――――――――――――――――――――――――『粉砕』………。ぐ? ぐぬぬぬぬぬ?」

 魔力がっ? 何だこの消費量はっ?

 一気に体から魔力が抜けていく。

 ガクガクと足が震える。これが! 子鹿ちゃん状態ってやつかっ!


「フン……」

「おねーちゃん、だいじょうぶー?」

「おかおがあおいよー?」

「おねえちゃんびょうき?」


 黒鋼を粉にする作業が……ものすごくきつい……!

「だっ、だいじょうぶ……」

 舐めていた。この金属、魔力を弾くんですもの……。魔力を吸う、ミスリル銀とはちょうど正反対の性質なのかも。

 膝が折れそうになるのを、何とか太ももに力を入れて耐える。


 ルーサー師匠がこの金属を持ち出したのは、私が訪ねたから。

 ここを訪ねた理由は、接近戦用の武器が必要だと思ったから。

 それはブリジットとの模擬戦を行ったから。

 模擬戦を仕組んだのはフェイ。


 ぬぬぬ、つまり、フェイは、私がこの金属で武器を作ってくるという想定で動いてたってことか。相変わらず掌で踊らされている気がする……。


「ちょっと、休めば……大丈夫……」

 最近は魔力が枯渇するほどの事態に遭遇していない。エイダの時にもならなかったし。それを考えれば、これは異常事態なのだけど、魔力量を増やすのは筋トレと同じ。鍛えれば多くなる。多くの魔術師がそう言ってるし、私もそれは実感している。

 採取を静かにやっていたころはポーション錬成以外はあまり魔力は使わなかったのだけど、去年の夏以降、魔術師っぽく暮らしていたから、魔力量は増えた自覚がある。


「はあっ、はあっ」

 だから、これはきっと良い事。だと思おう。

 でも、ちょ、ちょっと休憩……。


 しかしこれ、どうしよう。

 粉にするのにこんなに魔力を使ったわけで、これを固めて砥石状態にするには『結合』を緩めに使えばいいんだろうけど……。間違いなく倒れる自信がある!


「師匠!」

 砥石は明日じゃ駄目ですか? と訊こうとして。

「フン?」

 お前の作業が終わるまで、儂はこの子たちと遊んでるから。そう言っている(ように見えた)。

「いえ、何でもないです!」

 退路はないようだ。グイッと一本、トーマス商店印の魔力回復ポーション。作ったのは私だけど!

「うぇっぷ」

 どのくらい回復したのかは判然としない。しかし、やるしかない。


 粉にした黒鋼を集めておく。

 四角く。

 煉瓦くらいの大きさに。

 固めすぎずに。

 いけっ!

「――――――――――『結合』」

 うっ。

 ぬっ。

 むむむむむ。


 ……………。

 いかん、いかんです。気を失いそう。

 耐えるぞ!

 砥石は……。

 粗めの、砥石が出来てる……。


「師匠、やりました」

「フン………」

「おねえちゃんだいじょうぶー?」

「かおがくろいよー?」

「おねえちゃーん」

「だ、だいじょうぶ、ちょっと、横になれば……」

 奧の部屋に転がり込む。

 記憶はそこで途切れた。



――――――――――。





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