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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
王都で奇食巡り
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水の魔術師

「えー、こちら、冒険者ギルド本部所属のエイダさんです」

「わたくしはエイダ・ウィルソンと申します。皆様、どうぞよろしく」

 貴族でもないのだけど、エイダはとても上品に挨拶をする。縦ロールじゃなくてストレートで薄青の長い髪は光の加減で金色にも見える。服装は扇情的で露出度がちょっと高め。健康的な男子ならウホッとか言ってしまいそう。美人じゃない、と思うけど、小悪魔的で目が離せない女……。うん、まあ、とてもぶっちゃけて言えば、ものすごくお高いバーのホステスさんみたいなんだな。

「コイル・ボールですっ、よろしくお願いしますっ」

「ミラ………ブラナーです。よろしく……お願いします」

「おれおれっクリスティンセン・ヤングです!」


 コイルは相変わらず汗かきで、ミラは目の焦点が怪しいし、クリスは落ち着けよ……。

 という、いつもと変わらぬ三人だったのだけど、魔力だけはずっとずっと練っているのか、相当なものだった。愚直が功を奏している、見事な一例だと思う。


 エイダに稽古を付けて貰う、という話は、フレデリカを通じてアーロンから許可を貰っている。ついでに騎士団の演習場(というには狭い運動場でしかないけど)も借りておいた。魔法の演習だから穴だらけになるかもしれないけど、最後はちゃんと修復するからいいよね。


「本日は、このエイダ先生が稽古を付けて下さいます。先生、よろしくお願い致します」

「よろしくてよ。魔術師戦をお教えすればいいのかしら?」

 先生、と呼ばれたエイダは、腕を腰に当てて胸を張った。うーん、もの凄く豊かというわけじゃないバストが、逆にとてもエロティックだ。


「はい、そうです」

「ではまず、必要なことを説明して差し上げるわ―――――」

 少しの間、座学的なやり取りが行われた。


 魔術師戦、つまり魔術師が魔術師と戦う際の定石とは、言葉の装飾を排して要約すると、以下のようなものだ。魔術師として対魔術師は戦闘の基本でもあるので、本来なら省略するような内容も、私の要望でイチから説明してもらった。



 中距離、もしくは長距離での戦いを想定していること。近距離ではぶん殴った方が、お早いのだそうですわよ。

 魔法スキルの発動は自動詠唱で行われ、予め構築している魔法陣に魔力を通す行為でしかない。大きな魔法(初級、中級などではなく、込める魔力によって『魔法の大きさ』は変わる)は自動詠唱に時間がかかるため、隙ができやすい。

 基本的に同系統の魔法には同系統の魔法をピッタリ同じ魔力量の魔法を当てることで相殺できる。

 水系に火系を当てて無効化させようと思ったら、ほぼ二倍の魔力を込めないと相殺できない。これは逆も同じで、水系で火系を相殺しようと思えば二倍が必要。土系と風系の関係も同様。水系と土系、火系と風系は、一・五倍の関係になる。

 後出しジャンケンのペナルティ、と思えば、それがなるほど二倍になるわけだ。


『魔力盾』は、たとえば『魔法としての火』は防御できるけれども、『何かを魔法で燃やした物』は防御はできない。

 魔力で作った物理防護壁(『障壁』の魔法など)は物理的な衝撃は防御できるけれども、熱などは通してしまう。また、一定の攻撃を受けると破壊されてしまうので、過信してはいけない。


「―――要するに手数ですわ」

 おお、含蓄があるなぁ……。手数、と聞いて、元の世界にあったトランプの『スピード』を思い出してしまう。女の子は手が速いのですよ、フフフ。


「それじゃ、エイダ先生、実技をお願いします!」

 エイダと、スーパースリーが演習場の端と端に配置されると、私はエイダを見た。

「ふふ、よくってよ。かかってらっしゃい」

 強者の微笑みでエイダは手招きをした。

「はいっ! エイダ先生!」

 と、三人は同時に『火刃』を発動した。イイ感じに速い詠唱(詠唱は聞こえないので、魔法陣がサッと現出するだけ)で、三本の火刃がエイダを襲う。

「この、よう、に」

 エイダが水刃を出して火刃を相殺する。つまりジャスト二倍の魔力を込めているわけだ。三人は最初の火刃が相殺されるのを見越して、もう詠唱に入っていた。いい連携だ。わざとタイミングをズラして二発目。

「ま、りょく、を、みきっ、て」

 続けて三発目。

「け、し、て、」

 四発目。

「ちょっ」

 五発目。

「まっ」

 六発目。おお、スーパースリーは連打しても保有魔力量があまり減ってない。まだまだ連発できそう。しかもそれなりに『火刃』には魔力が込められている。エイダは……。二倍で相殺を強いられているからか、余裕がなくなってきてるか。

 七発目に入るところで、中断させた。


「はーい、中断ねー!」

「はあっ、はあっ」

 エイダはダラダラと汗を流して、息も荒い。十発目辺りで受けきれなくなって被弾していただろう。


「エイダ先生、ありがとうございます! ささ、こちらでお休みください」

 魔力回復(エロい)ポーションを渡して、エイダの身体を支えて椅子に座らせる。

「はあっ、はあっ。なん、でっ、あんなに強い魔力を込めてるのに、魔力がきれない、のっ!?」

「それは……コレ……がある……から?」

 ミラがコンチ杖を掲げて見せる。

「その変な形の杖は? なんですの?」

 息を整えたエイダが訝しげに首を傾げる。変な形でスミマセン。

「せんせせいがが、作ってくれれれたのです!」

 おー、クリス頑張った、ちゃんと意味が伝わるぞー。普段は何言ってるんだかわかんないもんね。

「貴女が………?」

「はあ、まあ」

 作れって言うんだろうけど、忙しいんですけど……。

「あの通信の魔道具といい、魔道具技師としての腕は素晴らしいのね……」

「せんせいはっ! 魔法もすごいですっ!」

 コイルが汗をまき散らした。拭いてから喋ってよね……。

「いや凄くないですよ。エイダさんの座学でも、知らないことが多かったですし」

 言葉で言われたら、なるほど、という事は多かった。これは本当だ。

「見せて頂きたいわ」

 うーん、エイダは魔力切れだし、これだけじゃ練習にならないから、三人組にはちょっと防御の練習もさせるか。

「えと、じゃあ、今度は私が攻撃するから、それぞれ相殺してみてください」

「はいっ、せんせいっ」


 再び演習場の中へ。

「いきますよー―――『火刃』『火刃』『火刃』」

 炎でできた刃が三人に向かっていく。

「っ――――『火刃』」

「わわっ――――『火刃』」

「うっ――――『火刃』」

 三人の放った『火刃』は、それぞれ正確に魔力量を反映して、無事に消せたようだ。

 もう一回いこう!


「―――『火刃』『火刃』『火刃』」

「うぉっ――――『火刃』」

「わわわわっ――――『火刃』」

「あああっ――――『火刃』」


 バシッ、バシッ、バシッ


 炎同士がぶつかり、その場で消滅する。余波で破片が落ちて、落ちた地面には焦げた穴が空いた。


「うん、イイ感じ。もう一回いける?」

「…………」

 三人とも肩で息をしていた。ここまでかな。

 先にエイダに向けて魔法を使った分、魔力も不足していたし、初級の火刃とはいえ、私の、あの魔力量を込めた魔法を二発も相殺してみせた。十分な成果だと思う。出会った頃なら一発も相殺できずに身体を焼かれていただろう。


「うん、じゃあ休憩で」

 演習場の端っこに戻る。休んでいたエイダが立ち上がって近寄ってくる。

「はぁ~、貴女やりますわねぇ……。なるほど五百発とか言ったのも道理ですわ……」

 エイダが何かブツブツ言っている。

「今度は、貴女が私の魔法を相殺してみて下さらない?」

「―――はい」

 プライドを刺激したようだ。上級冒険者が魔力切れギリギリの魔力を込めて、何かやってくるんだろうなぁ。しかしこれは程度の高い相手と戦う練習になる。

「杖、貸して下さる?」

 コイルの汗ばんだ杖は忌避して、ミラの杖を借りたようだ。あー、コイルの杖、大丈夫かな、ちょっと防水とか考えないとやばいんじゃ……。


 演習場の端の方に私が移動する。三人組はかなり離れてもらった。エイダは深呼吸をしながら、魔力を練っている。凄いのが来そうだなぁ。

「行きますわよ。――――――――――『水姫』」


ゴウッ!


 まじですかー。

 上級単体魔法『水砲』のさらに上の単体魔法。人魚の形の巨大な質量を持った水が、高速で向かってくる。これが水姫か。発動したのを見たのは初めてかも。


 はやっ!

 あ、これ火刃じゃ間に合わないや。水系で相殺も無理だ。


「――――『魔力盾』」

 とりあえず発動、一回弾く。盾に当たったのは水のはずなのに、ガイィイン、と金属音がする。発動した魔力盾は激突時に破壊されてしまう。けれども角度が変わったから、それでいい。破壊された魔力盾の破片が演習場の地面に突き刺さり、瞬時に霧散する。水姫は固く、盾への衝突ダメージは殆ど見られない。


 水姫は衝突で変わった角度を修正して、こちらを向いた。眼球など生成されていないのに、ギロリとこちらを見たような気がする。

 これを相殺するには同じ水姫がベストだろう。実は通信端末の配布時よりも前に、このスキルは覚えている。だけど、水姫、水竜は教示できる魔術師が多くない。使えるということは、コピーの元ネタであるウィートクロフト爺の弟子だという証明でもある。

 要らぬ腹を探られそうなので火系で完璧に相殺してみよう。

 二倍、二倍、と。魔力の大きさを合わせて……………。


「――――――――――『火砲』」

 本来、騎士団の演習場みたいな狭い場所で使う魔法じゃないけど、相殺なら大丈夫だろう。

 至近距離からの火系上級単体魔法。


グワッ!

ドバッ!


 よし、直撃した。

 水姫が暴れながら蒸発していく。

 放出魔力量は合ってたみたいだ。ピッタリ、消えた。


「おおお~」

 それにしてもさすが……『水姫』『水竜』は最上級に相当するんだろうけど、最上級というカテゴリはない。習得者が殆どいないから。

 多分、この世界で『水姫』を使えるのは三人だけ。もう一人は、ウィートクロフトの爺さん、そしてコピーをした私。

 今の『水姫』は発動に必要な魔力ギリギリだったに違いない。コンチ杖がなかったら発動出来ていないだろう。それでもこの威力か。魔力全快状態から撃たれたら、火系の相殺じゃ怪しかったかも。


「えーと、それでは、これにてエイダ先生の講習会を終わります。エイダ先生に礼っ!」

 私がエイダに合掌すると、三人も続いた。エイダは立っているのがやっとの状態だったにも拘わらず、気丈にも、

「よろしくてよ……」

 と力なく手を挙げた。


 しかしホントにレクチャーしてもらってよかった。『火砲』を使ったのは初めてだったし、相殺の感覚もわかった。スーパースリーの成長も嬉しい。十回に満たない回数しか指導していないのだけど、本当に真面目にやってくれた。

 いや! まだ終わりではない、始まりなのだっ。


「今後は魔法防御、相殺の練習を重ねるようにしてください。不意を突かれた場合や、系統不明の状態でやったりと、考えられる難易度は自分たちで設定してやってみてください。あ、あの練習(ねること)も忘れずにね!」

「はい! せんせい!」


「それではひとまず……私の教練はこれにて終了とさせて頂きます。皆さんよく頑張りました。また会いましょう!」

「せんせいっ!」

 えーい汗臭いわ!

「せん……せい」

 ミラは喋る方の対人スキルを次は何とかしないと……。

「せせせせせせ」

 クリスは落ち着け。

 また会おう! スーパースリーよ! あ、演習場は君らが直しておいてね!



「そう、じゃあ騎士団の方は一段落ついたのね?」

 私とエイダはアーサ宅に戻ってきていた。エイダを寝かせる場所が欲しかったので、連れてきたのだ。

「はい。ちょくちょく見にいきますけどね」

 パスタ生地を練るのを終えて、布巾で包んで放置。騎士団で演習の後、フレデリカに声を掛けておいたのだ。雑用を終えたらアーサ宅へ行く、と返事をもらったので、こうして仕込んでいる。


 続いて『道具箱』から王都土産を取り出して、軽く水洗い。

 うん、サナギだね。

「そう……。ところで、それは何を作っているの………!?」

「えと、これは蜂の、何の蜂かわかりませんが、サナギです」

「そうっ!」

「あまり食べませんか……? 一応王都土産、たぶん、本当に王都産なんですけど」

「そう……虫は食べなくはないけれど……積極的に食べるものではないわね。北グリテンでは割と一般的って聞いた事があるわ」

「あ、そうなんですか」

 ブリジットは魔族だし、北の方の出身なら納得のゲテ食いだわ。

 あ、そうしたら、この料理もブリジットに食べさせてあげよう。短文を送っておこう。『ツクル サナギ ハチノ ゴハン キマスカ アーサノ イエ』と。即答で来るかと思ったけど、少し間が空いてから、『ゼヒ イキマス』と返信があった。何か用事でもあったのかなぁ。


 サナギはから煎りしてから醤油と砂糖で味付け。本当は日本酒があればグッドなんだけど、残念ながらグリテンにはない。ニャックで代用するわけにもいかないので今回はなし。煮詰めている間に、土鍋で米を炊く。これは長粒種だけど、水はこぼさずに、元の世界の日本式に炊く。


「そう、お米ってそういう風にも調理できるのね……」

「白いままを尊ぶ人もいるんです。パスタの代用にもなりますけど」

 サナギも煮詰まり、ご飯も炊けたところで混ぜ込む。

「ふう……」

 お、気配探知にブリジットが引っかかる。もうノックする頃かな。

 コン、と一回ノックがあったきり、二回目のノックはなかった。

「?」

 気になって扉を開けると、ブリジットがしゃがんで、手を押さえていた。拳から血が出ている。

「どうしましたか! 大丈夫ですか!」

「あ、ああ、大丈夫です……しかしなんて固い扉なんですか………」

「ああ!」



――――扉も超絶強化したんだった。





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