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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
さらばカボチャプリンよ、永遠に完結編パート2
865/870

世界との邂逅

※新章であります。そして、今章が最終章となります。カボチャプリン世界のネタバレを含みます。






 どれほど時が経ったのだろう。

 暗い音のない世界で、一つの細胞が生まれ……。

 正義の血とやらは流れていないと思うけど、とりあえず何でも良いから早く人間になりたい……。


 おやおや?

 ここはどこかしら?

 暗いといえば暗いけれど、暗闇とまではいかない。どこかからか明かりが入ってきているみたい。ということは、ここは建物の中で……。

 私はどうなったんだっけ。

 ああ、そうだ。『浄化』されて清められてしまったんだわ~。

 ということは、ここが死語の世界……。


「ナウい」


 お、声が出るじゃないか。

 それにしても暗がりでちょっと見にくい……と思ったら、突然明るさが調整されたかのように視界が開けた。


 うん?

 なんだここは?

 大きな、大きな…………体育館みたいな建物の中みたい。その広大な空間には、三つの大きな塔のような筒が立っていた。スケールがわからないけど、原子力発電所の蒸気塔みたいな感じ。ただし蒸気は出てないし、凄い熱が出ている、という訳でもなさそう。


 天井を見上げる。

 巨大なダクトがうねるように配管されていて、その先端には羽根(ファン)が付いていて、ゆっくりと回転している。時々太陽光らしきものが漏れて、まるでアンドロイドは(ブレード)電気羊の夢を見るか(ランナー)とかの世界みたいだなぁ…………。

 ここは――――工場だろうか……?


 死後の世界は工場だったというのか。

 それとも、私はまだ夢を見ているのだろうか。

 わかった、これが夢工場ってやつだ。フジテレビだ。

 今見ているものが夢かどうか、を確認するには、呼吸を止めて、何秒か真剣な目をしてみればいい……と聞いたことがある。


「………………………………」

 別に苦しくならない。

 ということは、これは夢の中なのだろうか。

 飛んだり、跳ねたり……は何故かできない。

「!?」

 不思議に思って足元を見てみると、それは足ではなかった。小さな無限軌道(キャタピラー)だった。

 ガンタンクに転生したのだろうか……。

 コアファイターはついているのかしら、と胴を見てみようとする。と、どうやら付いていない様子。よかった、リュウさんが死ななくて済みそう……っていうか……この体、機械っていうかロボットみたいなんですけど……。


 ガンタンクが当たらずといえども遠からずだと知って、普通ならショックを受けるところなんだろうけど……。これがまだ夢の中である可能性があるし、まだ慌てる時間じゃない。仙堂だってそう言ってたよ。


 否定できる要素を探してみるも、手の先は機械の手(マニピュレーター)にしか見えない。いっそ鏡でもあればいいのに、と思いつつ、建物の中を歩いてみることにした。


 自分の体の大きさがわからないので、正確なところはわからないけれど、こういう時は東京ドーム何個分、名古屋の人ならナゴヤドーム何個分、みたいに言えばいいのかしら。大雑把に言えば東京ドーム一つ分くらいの広さ? 比較するものがないから二つ分くらいはあるのかも。ナゴヤドーム何個分なのかはちょっとわからないけど、きっと誤差だよね。


 航空機の工場とか、天井が高い建物は、天井付近に雲ができる……なんて話を聞いたことがある。この建物もそれなりに天井の高さはありそうだけど、雲があるかどうかまでは確認できない。あの送風機みたいなのが、天井付近の水分を排出しているのかもしれない。

 三つの塔は天頂部にファンがあるみたいで、ダクトが時折、僅かに揺れているのが見える。


 ここは何かのプラントなのかしら?

 神の国? 天国? それとも地獄? なんにせよ、殺風景には変わりないか。


「おっ」

 お仲間? かしら。脚部がキャタピラーになっているロボットを発見した。そのロボットは動く素振りを見せず、朽ちたオブジェのようだった。

 某太陽の牙みたいに風化こそしてないけれど、動きそうにないのは明らかだった。

 頭部に相当する部分には二眼のカメラ、硬質のプラスチックに見える胴体、そこから延びる関節の付いた手は二本。

 同型なら、今の私も同じ姿をしているはず。『先行者』よりは、『ペッパー』に近いかしら。愛嬌がある、と言えなくはないけど、人間からは共感を得にくいデザインだと思う。


 カタカタ…………と建物の中を徘徊すると、ロボットみたいなのは私を含めて合計で十台いた。私以外のロボットはいずれも動きを見せず、稼働しているのは私だけみたい。

 ここがプラントだとしたら……ロボットは保守管理をするための存在で、稼働しているのが残り一台ということは、かなりヤバイ状況なんじゃなかろうか。


「んっ?」

 塔の一つ、その根元の部分が点滅しているのが見えた。

 ただ点滅しているだけなんだけど、それが誘われているような、呼ばれているような気がして、とりあえず行ってみることにする。

 気がついてから、このプラント? で、メッセージらしいモノはなかったので、ちょっと唐突な感じはする。でも、動きを見せたのも初めてだった。


 根元に到着すると、そこにはディスプレイらしきものがあり、幾つかの操作パネル、キーボード、コネクタなどがあった。

 これは……触れ、ということかしら?


 キーボードは使い慣れたものと同じ形状だけど、書かれている文字はアルファベットではなさそう。キリル文字とかロシア語みたいな感じだけど、それもきっと違うんだろう。見たことがない文字なのに、その文字が何なのか、スッと理解できた。

 不思議だ。

 初めてなのに初めてじゃない気がする……。


ブォン…………


 ディスプレイに灯りが点く。まるで、私が来るのを待っていたかのよう。

《ようこそ》

 ディスプレイに文字が表示される。

「……………………」

 何語なのかはわからない。日本語でも英語でもグリテン語でもない。でも、意味はわかった。

《私が。貴方を。呼んだ。この世界に》

 その文字列を見た時、全てを思い出した。

 この……人物? に私は会っている。月の深部で。いや、もしかしたら、もっと前にも……?


「神様……?」

《否。神。ではない》

 ああ、そうだった。

「この、サーバが、ジェネシス?」

《概ね是。個体名。私には。ない》

 そうだった、そうだった。

《端末から。アクセスせよ。概要。理解》

 端末、というのは、この操作パネル群のことらしい。指先からコネクタを伸ばして、パネルにある穴に挿入する。おお、活線挿抜(かっせんそうばつ)みたいね。


「お――――――――」

 本当だ。概要が頭? の中に入り込んでくる。そうか。この『塔』は、コンピュータで、サーバで……個体名はない、って言ってるけど、サーバの管理プログラムの()()()が『ジェネシス』なのね。


 そして、その『概要』とは――――――――世界の理だ。


「…………うそ、でしょ…………?」

 信じられないし、信じたくない、突拍子もない、まるでSFのような―――――。

「これが、『世界』の『形』だと?」

《是。真実。理解。求む》

 ディスプレイに表示される文字列は冷静でもあり、切羽詰まった懇願にも見えた。


 世界は。

 この、三つの『(サーバ)』の中にある。

 私たちの世界は――――サーバの中で蠢く、プログラムによって仕向けられた動きをする――――単なる信号の塊――――。


 私も。

 エミーも。サリーも。ドロシーも。

 電気かどうかはわからないけれど、信号に過ぎないのだという。

 風の囁きも、大地の呻きも、炎の揺らぎも、川のせせらぎも。

 草花の成長も、男女が愛し合うことも。カボチャプディングを食べることも。

 壮麗な建物も、巨大な船も、立派な石畳も。

 全てが。

 計算の結果なのだと…………。


「馬鹿な……」

 ロボットなのに、血の気が引いた――――気がする。

 否定の言葉が出そうで出ない。思い当たるフシがありすぎる。


 観察されなければ、そこに何があるのかは発見されない、ゲームのような世界…………。フラクタル理論によって増えていく細胞…………。

『アース』を観察した時も然り。太陽系を観察したときも然り。星空が観測する度に増えていく事象に、上手い説明を提示できないでいる……。

 宇宙はどうやって誕生して、どういう形をしているのか? 解明なんかできるわけがないのだ。

 だって。

 最初に『そこに、そのような形で設置』されただけなんだから。


『ジェネシス』は、この三つのサーバを統括する管理プログラムだ。なるほど、個体名ではないだろう。そして、一つのサーバにつき、二つから三つの『世界』が稼働している。三つのサーバで合計八つの世界が存在しているのだ。


 私が今まで暮らしていたのは『第七世界』――――の三周期目。

 周期とは…………。天変地異などで強制的に文明をリセットすることを指す。つまり、二度に渡って文明が途絶え、その度にやり直した世界だということ。


 記録を見るに……………。

 あの化石は自然にできたもので間違いない。

 宇宙船は外宇宙から飛来したものではなく――――先史文明の『アース』由来のものだった。

 迷宮システムとは、先史文明の遺産を活用したもの。

『空間精霊』LV10とは、ジェネシスからのアクセスを可能にする鍵のようなもの。そしてジェネシスがデータを配置するために行使するツール(ソフトウェア)だった。

『第七世界』は、世界の均衡を保つために『魔力』と呼ばれるエネルギーを設定し、運用するための実験環境だった。


 世界シミュレータによる実験!


 そう、『ジェネシス』で管理されている『世界』は、実験のために稼働している。つまり………シミュレーション環境……。世界は、シミュレータなのだと……!

「で、何のための実験なんだろう?」

 ロボットの私が口に出す。実験の目的は『概要』に掲載されていなかったから。

《不明》

 ジェネシスが回答する。

《但し。推測可能》

「ほう?」

 類推できる辺り、ジェネシスは人工知能よりも人間に近い存在なのかもしれない。人間っぽくデザインされていない、というだけなんだろうね。

 まあ、単なるデータである私の方が人間っぽいけどね。

 ああ…………自分をデータだと認めちゃったよ…………。


《一つ。条件の違う複数のシミュレーション環境を並行して実行していること。一つ。より良い結果を求めるように繰り返すよう指定されていること。一つ。より良い結果を求めるための介入は各種パターンが試されていること。一つ。シミュレーションの結果を生かす環境が存在しないこと……》

「結果を生かす環境が存在しない、っていうのはどういうこと?」

《この。世界。既に。崩壊》

「んっ? えっ?」

《正確な情報。知的生命体。存在しない》

「この世界には、今現在、知性を持つ生き物がいない、ってこと?」

《是》

「何があったの?」

《不明》

「外は見られる?」

《是。一定の手順を踏めばサーバルームより外出は可能》

「うん、外を見てみたい」

《『パペット』の修理後。許可》

 パペット、というのは、このロボットのニックネームらしい。何だ、修理屋さんとして呼ばれたのかな?

「私に、このロボットを修理しろと?」

《是》

 一応修理マニュアルはあるし、補修部品さえあればどうにかなるかしら。


「わかった。話の続きね。シミュレーションの結果を生かす環境がないのに、延々とシミュレーションを行っている。うん、ジェネシスの結論としては?」

《より良い歴史の検証。次代への礎。制作者たちの悔恨の発露》

 何のこっちゃ。


「この場合、次代っていうのは……?」

《他恒星系に住む知的生命体》

「その、知的生命体とやらが、このシミュレーターに接触する可能性は?」

《限りなくゼロ》

 ジェネシスは即答した。計算済み、ってことね。

「でもやるんだね?」

《私は。そのように。作られた》

「そっか……」

 これがプログラム、コンピュータの悲哀というやつか。ジェネシスは、教えられたことしか出来ずにいるのだ。

 でも、そのお陰でシミュレーターが稼働して、中で人が生きている……のだから、これを僥倖と言わずして、なんと言えばいいのだろう?


 コンピュータの中にいる人たちは、確かにデータかもしれないけれど、確かに生きているのよね。少なくとも、私はそう確信している。



――――他ならぬ、データであろう私がそう思ってるんだから、そのくらい、勘違いさせてくれてもいいじゃない?





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