黒魔女の浄化
※前話でどのような回答を選んだのか、というのは作者の中では決まっていますが、作中ではボカしております。妄想して頂ければ幸いです(汗)。
【王国暦130年1月7日 9:05】
「……同じ女性として、考えさせられる回答でした」
ミネルヴァ・クィンはそんな風に、私の、三人の求婚者への回答を評した。
「うん、子供は作れるけどね。ミネルヴァの方はどうよ?」
「……仕事漬けにされて、まるで出会いがありませんが」
うん、全面的にそれは、私が悪い。ミネルヴァには色々やらせてるからねぇ。上司であるイーストン・ウェンライトは顔を出しておらず、もっともっと多忙なミネルヴァがこうしてやってきたということは、単に休みが欲しかっただけじゃないか、と邪推してみたりする。
「時々は弱みを見せるのも、男を釣るテクニックというものよ?」
「……私はそんなに弱くはないつもりです」
「ううん、そんなミネルヴァを癒したい、支えたい、って人はきっといるよ。何なら、あの三人みたいに、ここで婿募集を宣言してみればいいよ」
「……そんな恥知らずなことはできません」
「いやー、案外、恥を晒したら魅力的に映るかもしれないよ?」
ミネルヴァは顰め面をした後、顔を上げた。
「……ここへは男を漁りに来たのではありません。……貴女は敵対していた私の呪いを解いてくれました。……その上で重用して頂き、望む人生を送れています。……貴女に、謝辞を贈ります」
「いいえ、どういたしまして。でも、私がミネルヴァを徴用して、重用してるのは、努力を怠らない姿勢を評価してのことよ?」
ミネルヴァがフェイとアマンダの娘だってことが、彼女を助けた一因になっているのは確かだけど、本質はそうじゃない。有能な人材を惜しんだだけだもんね。
「……ううっ……」
ミネルヴァが泣いて、目指した先は、フェイだった。
「……うむ」
「……私、褒められたよ」
「……うむ」
それは、白黒エルフの呪いを、ミネルヴァ自身が断ち切った瞬間だったのかもしれないわね。抱きしめ合う親子を見て、そう思った。
ああ、ここにブリジット姉さんが来なかったのは、ミネルヴァが来るのを知っていたからか。アマンダとの繋がりを見たくなかったんだわ。
「母上……!」
っと、タイミングを計っていたのか、マッコーがやってきた。
「ふふん、カメラは火葬しちゃったし、私は『浄化』で消えちゃうからね。剥製は作れないよ?」
「そうですな」
得意げに胸を張る私に、マッコーは微笑んだ。ちなみに、その背後にいるパスカルは視線を逸らしていた。
「まあ、不死者の状態こそ、動く剥製みたいなものだけどねぇ」
「興味深いものがありますな」
「でも、不死者は個体としては強くないや。アバターの方がずっと可能性を秘めている」
「それはそうです。母上の作ったものですから」
「うん、私は別にハーキュリーズの母親じゃない。それは理解しているよね?」
「確かに、貴女は『ハンマー・ポンチ』ではありません。ですが、その姿、その物言い、母上そのものです。私は第二の母を得たのです。貴女は私の母です」
淀みないマッコーの発言は力強く、幾分かはインプラントの影響であり、私のウィルスの影響だろう。でも、元々、マッコーの遺伝子の半分は、ホムンクルスの――――私の遺伝子だ。本能が、私を母だと誤認しちゃってるんだろう。マッコー本人も、それを誤認だと知りつつ、インプラントやウィルスの影響だと理解していて、まだ、母だと呼ぶのだ。
「最大の敵だったマッコーキンデール卿からの、その評価は嬉しいわね」
「…………」
私が敢えてそう言うと、マッコーは俯いた。過去の所業を思えば、反抗期では済まないのだから。
「ハーキュリーズ。二度も母を失うことになって申し訳ない」
私はゆっくりと頭を下げた。急に動くと、不死者の体は折れちゃうからね!
「母上、頭を上げて下さい。二人も偉大な母を持てたこと、本当に私は幸福です」
エミーにも、私にも、コキ使われている宰相殿は、自分の境遇を幸福だ、と言い、言葉を継いだ。
「それに、母上は、息子も連れてきてくれました」
ラルフが近づきながら大きく頷く。
「小さい隊長はさ、ここにいる人たちだけじゃなくて、顔も知らない何十万、何百万もの人の命を救っておいて、その自覚がないんだよ」
「ラルフ……。他人の人生を強引にねじ曲げた自覚はあるよ。でも、救ったとは思ってないねぇ」
ラルフのくせに生意気な事を言うなぁ。
「そこだよ。確かに悪い方向にねじ曲げた人もいるだろうさ。でも、良い方向に向かった人の方が圧倒的に多いんだよ。俺だってその一人だよ。奴隷商から逃げた子供が、今や公爵家の跡取りで三人の嫁がいるんだぜ? 成り上がりにも程があるよ」
政治的に娶ることになった、壁みたいなとか、怒った顔しかできないのとか、年増エルフを嫁にしたことを成り上がりと評してくれる、ラルフの心根こそ、称えるべきだろうねぇ。
「そう言われてみるとそうだなぁ。実力に相応の環境に身を置けた、って考えれば何も優遇してないつもりなんだけど。女の争奪戦に勝とうとして、自分を磨こう、って決心した時からラルフは変わった。だから変えたのは私じゃなくて、ラルフ自身でしょうに」
ラルフは横に首を振る。
「変わらなきゃ、って思えたのも、また小さい隊長のお陰なんだよ。ラナのことは自業自得だった、と思えるようになった時、俺は目の前にいた、小さい隊長が神々しく見えたね」
ああ、本音の部分では、ラナたんを王都に連れ出したことも、実はちょっぴり恨んでいたと言いたいわけね。でも、それも試練であったと納得できるほどにラルフは成長した。頼りない弟のような兄のようなラルフは、今では一端の国家重要人物。出会った頃を考えると、一番成長、そして出世した人物こそ、このラルフではなかろうか。
隠遁生活中を含めてエミーを長く支え、女王陛下の懐刀とも言われ、今はイアラランド総督の立場。女泣かせになったというか、女に泣かされているともいうか。
「私は神様じゃないよ。神様は―――――」
いない、というのが私とユリアンの口癖ではあった。けれども、やっぱり神に相当するものは存在するんじゃないか。宇宙に行き、帰ってきた今は、そう思えるようになった。壮大なスケールの『天体』をこの目で見て実感すると、世界観が変わる、とは、元の世界では良く聞く話で、それは共感できる話でもある。
宇宙にも『使徒』の観察範囲があるのは確認できている。では、宇宙の全て、太陽系の全てが『使徒』の手によるものなのか、と言えば、それはきっとノーだろう。この宇宙、この世界は偶然の産物で出来たものではなく、何者かが意図してデザインし、創ったものだ。
だって。
元の世界と、こんなに似てる世界が存在するなんて、それこそ天文学的な確率なはず。地形にせよ、空気の組成にせよ、衛星と太陽の位置関係にせよ…………。それがこうやって存在するのは、絶対に偶然じゃないもの。『創った存在』と『管理する存在』はきっと別だ。何となくだけど、そう思う。
「――――神様は、みんなの心の中にいるさ」
まあ、それも真実の一つなんだろうけどね。いつも真実は一つ! とは限らないものだよ、コナンくん。
「それが聖教の教えでもあります。貴女は既に教義を超越しているようにも見えますが」
私の背後にいるユリアンが補足してくれる。
「なら、やっぱり、俺の神様は小さい親方、あんただよ」
勇者オダ……いまは勇者の力も失った、凡人オダ……がそう言った。オーガスタとは事実婚状態で、一見、主従関係のまま……に見えるものの、仲睦まじく暮らしているらしい。ポートマット騎士団に参加していたところ、騎士団が国軍に再編されたので、警察組織の方に異動したとのこと。
「オダさん。その後はお変わりなく?」
「うん、どこから見ても普通の人間さ。姫を諦めることなく、姫を救うことができた。俺の人生に意味があったんだと知ることができた。俺は……幸せだよ」
オダの持っていたスキル『不死』にこそ、私は何度も救われ、生体コンピュータを量産できた。残滓としてここにいる不死者の私に感謝されても、オダには何のことなのかわからないだろうけれど。
「オダさんの幸福は自分で作り上げたものです。おめでとう、そして勇者オダよ、ありがとう」
オダは、そう言われると、思い切り照れた。
「オダが二例目になったということか。私が最初に、彼女に救われた『勇者』だ」
フレデリカがカミングアウトする。彼女が元勇者だったことは、実は殆ど知られていない。もっと驚きを持って迎えられると思いきや、オダの方がインパクトがあったらしく、建設ギルドの面々から叩かれている。
「オダっ! お前っ! 隠してたのかよぉ!」
「ごめんなさい、ごめんなさいっ」
文字通りに叩かれて、オダは逃げ惑っている。けれども、叩いているガッド辺りは楽しそうだった。朧気ながら気付いていたのかもしれないわね。
カミングアウトした当のフレデリカはといえば、ああ、やっぱり、別に不思議じゃないね、とばかりにスルーされていて、何だか悔しそう。
考えてみれば、私の周囲に集まる人たちは、どこか特殊な人たちだ。もちろん、お店の客として接していた人もいて、私の異端の部分に触れたこともない人はいるだろうけど、あんまり普通の人はいないよね。
フレデリカは特にユニークスキルを持っていた訳じゃないから、その特殊性っていうのは、元の世界情報の有無と、その生かし方。突飛なアイデアや発言が注目される前にポートマット騎士団へ移動させて、早期に、世界に順応してくれた。
『勇者召喚』スキルが選んでくるのは、往々にして、元の世界では死にかけの存在だったりするから、延長戦として与えられた生に歓喜して、より良く生きようとする。良くできた仕様だなぁと感心する部分でもある。延長戦になってから頑張るくらいなら、その前でも頑張れよ! と思うんだけど、失ってから初めて、大切さに気付くのは、どの世界でも共通しているのかもしれない。
ユニークスキルは、ある程度召喚魔法陣で指定ができるけれど、それ以上に被召喚勇者の望みが大きい。そう考えると、ユニークスキルが一つもなかったフレデリカには、あるがままを受け入れて、特に望みはなかったことになる。
一言、二言交わした後には恭順を誓っていたし、排除しに行ったのに肩透かし――――だったのを思い出す。
余談ながら、『勇者召喚』スキルは、対象者を特定の世界から連れてくるのか、他にも異世界があって、そこからも連れてくるのか、その辺りは魔法陣からは読み取れない。
もし、他にも異世界があるのなら、どういう世界なんだろうねぇ。案外、今のこの世界と変わらないのかもしれないし、単なるパラレル世界なのかもしれない。
『使徒』側では詳細は掴めずとも、召喚されるだろう、というのは把握していたみたいだから、何らかのお知らせ機能が付属してると思う。ということは、『使徒』になれば、他の異世界の有無も確認できるんじゃないかと。
ちょっと沈んだ表情のフレデリカの肩に手を伸ばす。彼女とは身長差があるので、宥めようとしても頭に手が届かないから。
「うう……。私は、手助けできたかな?」
「うん。フレデリカがいたから、私は色々なところに行けたんだよ?」
「死にかけたし……命を助けてもらったし……」
「それは言いっこなし。生きていてほしいから助けた。それだけだよ」
「ありがとう。私を何度も助けてくれた。だから恩返ししたかったんだ」
フレデリカを助けたのは最初の勇者召喚時と、プロセア侵攻時の二回だと思うんだけど、そんなに何度も助けてないような……。でもフレデリカがそう思ってるなら、そうなんだろう。
「子供も作ってもらったし、子供達の教育もしてもらってる。こちらこそありがとう。子供達を……頼むね」
「任せて。女王陛下の助けになる、優秀な子供達を量産する」
「うん」
「小さいお母様、遠いところに行かれるのですか?」
長男ジョージが聡明そうな目を向けてくる。
「うん、ちょっと行ってくる」
「小さいお母様のちょっと、とか、すぐ、は信用できません!」
聡明過ぎるのも問題だなぁと思いつつ、頭を撫でる。
「手が冷たいです……」
そりゃ、不死者に体温はないからねぇ。『ヴァタリアン』じゃないけど、室温が体温だよ。
「小さいお母様、必ず戻ってきますよね?」
次男ウィリアムの目からは強い意思が見えた。
「うん。必ず」
「サリー先生も悲しがっています。たとえ小さいお母様でも先生を悲しませるなんて許しません」
「おお、そうかいそうかい、じゃあ、サリー先生を嬉しくさせる生徒にならなきゃね」
「はい! いつかモノにします!」
なんと……。ウィリアムの言葉を聞いていただろうサリーは首を捻り、ライバル宣言されたレックスは苦笑している。ついでにいえばジゼルの目が光ったのを見逃さない。まだ、レックスを中心に、恋のバトルは終わらない模様だ。もげろもげろ!
「じゃあ、いつか話しておくれ。ウィリアムの活躍を」
そう言って、私は頭を撫でた。
「小さいお母様。ボクは国で一番強い男になります」
三男ケネスは落ち着いた表情で言った。
「一番強い男になるのかい?」
確認するように、ケネスの言葉をなぞる。曲解すれば国王になる宣言とも取れるからだ。
「はい、武力と知力で母上と兄上たちを助けたいのです」
政治的に助ける、とは言わなかった。ケネスはあくまでも一歩引いて、兄、特にジョージを立てるつもりなのだ。この小さい体躯に、すでに三男の悲哀が見え隠れする……。
「いい心がけだね。心が苦しくなったら、そこにいるエドワードおじさんに話をしてみるといいよ」
えっ? 俺っ? とエドワードが自分を指差した。ドロシーがそのお尻を引っぱたいている。
「はい、小さいお母様。他者の言葉をよく聞き、よく考え、よき答えを出していきます。三男たるボクが乱れなければ、国が安定するのですから」
悲しいほどに己の立場を自覚しているケネスの、ちょっと長い耳を両側から撫でて、最後に頭を撫でた。
「お姉様」
満を持してエミーが講壇から降りて、私を抱きしめる。
力強い抱擁だった。
パキッ
あれっ、肩胛骨が割れた音が聞こえる。聖女オーラは私の肉体を文字通りに熱くした。
「お姉様……すぐに帰ると言ったのに。嘘吐きです」
エミーは口を尖らせて言った。怒っているというよりは、呆れ顔で、それは古女房の仕草にも思えた。
「お姉様……お姉様……」
エミーが目を瞑って私を抱きしめる。柔らかい体に包まれて、私のあちこちの骨が折れていく。不死者の体が脆いのか、エミーの聖女パワーが凄いのかわからないけど……。
「エミー、痛いよ……」
私が呟くと、エミーがやっと体を離してくれた。触れていた部分が焼けて、恐らく一部は溶け始めている。なんて痛くて、思いの伝わる抱擁だろうか。
エミーから離れると、何だか世界が傾いで見えた。じゃなくて、本当に体が傾いているのだった。
うおお、今になって痛覚が正常化したのか、全身に激痛が走る! いでえええええ!
「? お姉様?」
「んっ、うん、大丈夫」
幸いなことに痛覚は任意にカットが出来るみたいだ。しかし、人としての何かも失ってしまったような気がした。
「辛そうです……」
「大丈夫、でも、早く送ってくれるとありがたい」
「お姉様……」
辛いのはエミーに抱きつかれたせいだとは言えず、斜めになった世界を筋力任せに正す。なんか、またまたパキパキ言ってるけど、もういいや、早く浄化して……。
「うん、子供達と迷宮とみんなと……私たちをよろしく。そのうち戻ってくるから」
「はい、お姉様。期待せずにお待ちしております」
私の戻ってくる、っていうのも信用されてないや。仕方ないじゃないか、安心させるには嘘も方便、インディアン、たまには嘘をつくよ!
エミーが自分で目元の涙を拭くと、マリア、サリー、ユリアン、そしてシモンが集まってきた。
「ちっ」
シモンの舌打ちが心地良い。
「歌え~歌え~光の従者~光の精霊~♪ 集え、集え、昼の行灯、夜の松明~♪」
元々教会は光の精霊が多い場所に建てられる。それに加えて周囲からも集まってくる。マリアの歌声を呼び水に、さらに集まってくる。
濃密な光の精霊の集合は、それだけでも低級な不死者は浄化されてしまう。しかし残念なことに、私は雑な不死者ではない。エミーにはポキポキと骨を折られたけど、これは彼女が特別な存在なんだということなんだろうね。
「んんんっ! うっ……!」
あれっ、苦しむのは私のはずなのに、力が抜けてがくり、と膝を折ったのはユリアンだった。
「司教様!?」
エミーが駆け寄り、ユリアンを抱き起こす。ユリアンは意識を失っているみたいだったけど、しばらくすると、目に光が戻ってきた。
「ユリアン司教………?」
「うう……すみませんね。『神託』がありました」
「まあっ」
「ちっ」
「それで……『神託』は何と?」
一同の目がユリアンに集まる。
「ええ。『浄化』を中止せよ、なるべく来るのを遅らせよ、とのことでした。使徒は貴女が来るのを忌避、いえ、恐怖している様子でしたね」
焦り、興奮した『神託』だったらしい。この場には『使徒』のことを知らない人もいるのに、ユリアンは、その存在をバラしても平然としている。この期に及んでは秘匿する意味も薄い、ってことなのかな。
「司教様がお止めになっても、残りのメンバーで問題なく『浄化』は行えます。姉さんが不死者のままだなんて、あってはいけないことです。続けますよ?」
そう言い切ったのはサリーだった。
「サリーさん……」
「女王陛下、いえエミー姉さん。姉さんは世の中の汚く、醜い部分を一人で背負って、その結果が不死者なんです。あの姉さんが、ですよ? 枯れ木のように朽ちていくなんて耐えられません。ですから、最期だけでも綺麗に終わらせてあげたいんです」
「サリーさん。それは私も同感です。多くのものをお姉様から頂きました。そしてこれからも、その遺産に甘えていくのでしょう。女王などと呼ばれていても、私は経験の足りない小娘です。お姉様、お姉様は……」
エミーはそこで次の言葉を継げずに、ボロボロと涙を流した。
「チッ、ざっけんな、終わりだけでも綺麗にしてやるわよ。さっさとやるわよ」
うん、シモンの言葉が一番ありがたいわ。私はさっきのポキポキで声帯を傷付けたみたいで、もう上手く発声できない。光の精霊の高まりで不死者の能力が阻害されているのか、修復もできない。
「わかりました。進めましょう」
ユリアンが『使徒』に逆らうという決断をした。
「~♪」
マリアが歌を再開する。光の精霊たちが輝きを増していく。
《主よ、いいのかえ?》
ライト・ザ・ブライトが顔を出す。ブライト・ユニコーンも現界している。
《うん、いいんだよ。最上級精霊の座はブライト・ユニコーンに移るのかな?》
《奴が望めばな。望んではおらんようだがの?》
《うむ。ライト様こそ最上級に相応しい。聖女様の加護で同等以上の能力は発揮できるし、必要ない》
《そっか。ユニコーンがいいなら、そうしてよ。精霊たちの使役については強制することはできないからさ。ライトはこれぞ、と思った人を助けてあげてよ》
《いわれなくともそうする。しかし、楽しかったぞ。妾が精霊として存在を自覚してから、こんな主は初めてじゃ。せめて光の中で安らかに逝くがいいぞ?》
《うん、ノーム爺さん、テーテュース、シルフ、イフリート、ウォールト卿、ライト。みんなも元気で。また会おう》
光の精霊だけではなく、他の五体も同時に現界し、精霊たちが集まってきた。
マリアの歌を一緒に歌っているかのよう。
音が、光が、波のように、不死者の体を包んでいく。
不意に振り向く。
光り輝く私に向かって、全員が合掌して、動向を見守っている。
ああ、ぬるま湯に浸かってるみたいだ……。
今まで、何度も死を経験してきた。それは冷たく暗く、寂しいものだった。
だけど、この『浄化』は違う。全身に満ちているのは歓喜だ。
なるほど、お酒を飲むという行為は、この状態になりたいからなのか。幸せを感じたいのは誰しも同じなんだなぁ。
光に酔い、意識が朦朧としてきた。
そして、薄れていく感覚の中、その言葉だけがハッキリと耳に残った。
「――――――――――――――『浄化』」
―――――――さよーならー。
※最終回じゃないぞよ。もうちっとだけ続くんじゃ。