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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
王都で奇食巡り
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魔術師の帰還

 上級冒険者ともなれば、冒険譚を話し出したら一晩でも足りない、なんて言われている。

 それがここに三人、もう一人は特級だ。

 本来は退屈な道中なのに、ただ話を聞いているのが楽しい。


「そこでアタシが盾で踏ん張ったわけさ。そんなアタシの後から魔術師がチクチクやって削ってさ」

「チクチクやってたのはレダですわ。わたくしは上級魔法を練っていたんですの」

「その水魔法を波にして、私が乗って、一気に接近して、背後からぶった切ったんだわ」

「そうそう、シェミーが美味しいところ持っていってさ!」

 カレンが文句を言う。陸竜を討伐した時の話が盛り上がる。ドラゴンって言うよりは単に大きなトカゲらしいけど、そんなのもいるんだねぇ。


「皆さんは割と同じパーティを組んでいたりするんですか?」

「アタシらは元々同じパーティだったんだ。シェミーもエイダも妹たちには負けられない! なんて言ってさ!」

「陸竜の時はさすがに合同でいけ! って言われたんだわ」

「本部長に言われてしまうと、わたくしでも折れざるを得ませんわ」

「エイダは熊っぽい人が好みでさ!」

 カレンの暴露にエイダが怒気を含んだ視線で睨み付けた。カレンはどこ吹く風で鼻を鳴らした。


「ところで―――護衛任務について、本部長は何と言ってたんでしょうか?」

「あー、アタシとシェミーだけが残るように言われてるのさ。『現地ではドワーフの娘の指示に従え!』とさ」

「私もそう言われたんだわ」

 シェミーも頷く。

「わたくしは帰りの馬車の護衛ですわ」

 エイダがチラッとブリジットを見る。

「私は……再戦です」

  ヒューマン語スキルの直訳だと……リターンマッチ? ということは、プロポーズの?

「フェイのおっさんに勝ったら結婚できるんだとさ」

「先生はおっさんではありません! 先生は……自分に勝ったら、求婚を受けると仰いました」


 あー、フェイなら特級相手でも普通に勝つかもね。盾の使い方が凄く上手くて、魔法で牽制されて、接近しても詰め将棋みたいに完封される。あれこそ経験で戦ってるというやつだ。

「でもよ、おっさん強いからさ。ほとんど同型のアタシじゃ歯が立たないさ……」

「まず、わたくしの魔法が通用しないって、どういうことかしら……」

「ワタシは水の中で戦うなら良い勝負はできるけど……」


 馬車の中では、フェイがいかに強いか、対策はあるか、などと討論が始まった。

「でもよう、あのおっさんに勝つなんて、『ラーヴァ』でも無理だと思うのさ」

「短剣使いの勇者殺しっていう? ブリ姉さんと同型だよね」

 ブリジットの目が光って、私に向いた。やめてよ、バレちゃうじゃないか。あれ、ブリジットも知ってるのかな。ザンの秘書官だし、事情が話されていても不思議ではないか。まあ、その辺はザンの裁量だし。


「たとえば、魔術師殿なら、どのように戦いますか?」

 縋るように瞳を潤ませて、ブリジットがしなやかに問う。なんだ、すごい色っぽいぞ!

「えっ? ええ?」

「わたくしも興味ありますわね。同じ魔術師として」

 うーん、フェイと戦うことは想定したことがないけれど……。


「そうですね……設置型の魔法陣を組んで、遅延式で五百発くらい、追尾で中級魔法を撃つとか」

「無理ですわ」

 エイダは即答して、論外ですわ、と鼻で笑った。だけど、ブリジットは違った。

「なるほど……」

 感心した表情を浮かべて、何事か頷いている。

「何がなるほど、なのさ?」

 カレンが訊くと、ブリジットは短く、

「手数ですよ」

 と答えた。シェミーは言葉の意味に気付いて、

「それは可能なの? いや、でも確かに、可能なら倒せると思うけど」

「何さ、どういうことさ?」

「つまりね、向こうに盾防御をされてもいいから、手を出し続ける、ってことだわ。魔法なら、防御されてもいいから撃ち続ける。そういうことでしょ?」

 と、解説をして、私に笑いかけた。私はその通りです、と頷く。


「でも―――でも、ですわ、中級魔法なんて、そんなに―――ああ、だから魔法陣……」

 一々構築する魔力を省いて、魔法陣に魔力を供給するだけにする。それなら常人でも十発は撃てる。五百発は本当に人外で、私でもできるかどうかわからない。練習次第というか……。私ももっと備えて、スキルに頼らずに特訓でもしてみようか。

「光が見えてきました。ありがとうございます」

 えー、特級の人はあれで光明になっちゃうんですか。人外はブリジットじゃないのか、とツッコミたくなった。



「あと半日でポートマットに着くぞ。いやあ、思えば長い旅路だった……」

 サイモンが嘆息しながら言うけれど、家に帰るまでが旅行ですよ、と言った方がいいのかな。


 私は関係者に短文を送り始める。まずアーロン。彼にはマシューの件を話しておかなければならない。フェイには帰着予定時間だけを伝える。どうせ詳細を報告せざるを得ない。アーサお婆ちゃんには、近くまでいる、という連絡だけ。カレンとシェミーの件をまだ話していない。フレデリカにもカルボナーラは遅れそうだ、と短文を送る。

 私が短文をポチポチ打ち込んでいるのを見て刺激されたのか、他の四人も何故か短文を送り始めた。

「うおおー楽しいなこれはさ!」

「レダ! 許せませんわ!」

「フフフ、この子は純情だからやめられないんだわ」

「先生が返信を下さらない……」

 端末に向かってわめいたり泣いたりしている姿を、サイモンは見ないフリをしてくれた。さすが特急馬車の御者さんだと妙に感心したり。

 端末を操作している四人を見て思うのは、やはり一覧性、表示性の悪さだ。早急に改良が必要かもしれない。



 夕方、ポートマット北門に馬車が到着すると、何だか人混みが見えた。

「あれ………。騎士団かな……」

 五十人くらいいるな。何かトラブルかしら。馬車を降りて先行してみる。

「おかえりなさい!」

 と思ったら、集団で挨拶されてしまった。おーい、どこの組の親分だよう。恥ずかしいじゃないか! やめてよ!


「え、はい、ただいまです。皆さんお変わりなく。お元気ですか」

 えーい自棄だ、丁寧に挨拶仕返してやる!

「はいっ」

「おかえり!」

 フレデリカが前に出てくる。

「カルボナーラ……待っている……ぞ!」

 まさか、それを言うために騎士団を動員したんじゃ………。

 あ、スーパースリーがいるや。

「せんせい! せんせいの仰る通り、我ら、鍛えて参りました!」

「ああ、はい、素晴らしいですね。魔力量が飛躍的に増えたようです。精進してますね」

 ここで私は馬車の幌に首を突っ込んで、

「エイダさん、ブリジットさん、二~三日はこちらにいられるんですよね?」

「そのつもりですわ」

「そのように御者殿にも話してあります」

「了解です。エイダさん、滞在中に稽古を付けて頂きたい連中がいるのですが」

「? わたくしが?」

「はい、是非、実践して、見せて頂きたいのです。一応、あの、恥ずかしいんですが、私の弟子でして……」

「よろしくてよ。明日のお昼で構わないかしら?」

「はい、よろしくお願いします」


 幌から首を抜く。

「王都の上級冒険者の魔術師殿が、稽古を付けて下さるそうです。明日の昼、騎士団に行きますので、体調を整えておいてください」

「わかりました、せんせい!」

 コイルが汗を流しながら礼をする。

「じゃ、すみません、みなさん、まだ色々寄るところがありまして。あ、騎士団長殿は?」

 フレデリカに訊く。

「団長は冒険者ギルドへ向かった……ぞ」

「うん、わかった。ありがとう。それじゃ、時間できたら連絡するから」

 コクコク、と頷いて、フレデリカは私を見送ってくれた。サイモンに馬車を出すように言うと、特急馬車はゆっくりと北通りを南下し始める。


 幌を開けて流れる風景を見る。一週間も経ってないのに、ポートマットが懐かしい。フェイに聞いたところ、『懐かしい』という感覚を言葉にできるのは、元の世界でも日本人だけなのだと。そんな言葉を思い出す。

「到着しました。皆様お疲れ様です!」

 改まった口調でサイモンが到着を告げた。指定通り、冒険者ギルド、ポートマット支部前。なんだか長い旅路だったなぁ……。時差のある距離じゃないはずなのに、何故か体内時計が狂っているよ……。



 冒険者ギルドに入ると、ベッキーとエドワードが出迎えてくれた。

「おかえりなさい」

「おかえり」

 ん? なんだか変な組み合わせだなぁ。

「ただいまです」

 受付にはアーロンもいた。

「お疲れ様です。早いですね。先に支部長に挨拶をしてきますので」

「早めに来てしまっただけだ――――気にしないでくれ」

 アーロンはそう言ったけれど、ベッキーに頼んで、応接室で待ってもらうことにした。


「こちらです」

 と、一行を案内するのは、まるでギルド職員のように振る舞うエドワード。服装は少し小綺麗と言えるけど、普通の冒険者のものだ。


 エドワードがノックして、どうぞ、と中から声がする。

 チラリとブリジットを見ると、顔が紅潮している。魔族の中でも成長が遅い種族なのかな、紛う事なき乙女なんだろう。


 結構な大所帯である一行が支部長室に通された。

 支部長室に入ると、フェイが立って待っていた。

「……よくきた。……というか先日も会ったな」

 苦笑しつつ座るように促される。和やかな雰囲気だ。

「護衛任務を仰せつかりまして、出向で参りました」

 おっさん、とか言ってたカレンは、ビシッと直立不動で挨拶をした。

「同じく、護衛任務に参りました」

 シェミーはもう少しだらしない姿勢で挨拶をした。

「……エイダとブリジットは、帰りの馬車の護衛だな?」

「その通りです。二~三日逗留する予定です」

「……宿は手配していないな? ……うむ。……このエドワードが世話係として就く。……エドワード、頼むぞ」

 ああ、人手不足というか……本来、こういう事を任せられるのは、事実上秘書を兼任してるベッキーか、副支部長。その副支部長がいないからか。こういう役割は柔軟な対応が取れないと駄目だし、それ以前に見た目…………ああ、それでエドワードがホストに選ばれたと。黙っていると色男だしなぁ。


 そういえばファリス騎士団長も色男だったなぁ。ファリスと比べると、エドワードは優男って感じか。あっ、エイダは熊男が好みみたいですよ?


「はい、よろしくお願いします(キラキラキラ)」

 うおっ、エドワードの背後に薔薇が幻視できるぞ? 薔薇? でいいのか? しかし、こんな古い手にひっかかるわけが……。

「はぅ……」

 あれ、引っかかってる。ソファに座ってからずっと、フェイを注視しているブリジット以外の三人は、キラキラエドワードから目が離せないでいる。


「では参りましょう。ご案内いたします、お嬢様方」

 キャラが変わってる……けどお世話は任せた。


 エドワードに連れられて、カレン、シェミー、エイダの三人は今晩の宿に向かったようだ。


 入れ替わりでベッキーがお茶を持って入ってきたけれども、丁度三人が出て行くタイミングを見て、再度応接室で待機していたアーロンを呼びにいった。

「……待たせて済まなかった。コイツが同席するように呼んだとか?」

「はい、そうです。関係のある話なので」

「いえ―――某が早く来ただけですので」

 ベッキーはお茶を置いて外に出ようとしたけれども、

「……ベッキーもいてくれ」

 で、いいんだな? と私に確認もしてくる。

「はい、聞いておいてください。身の安全に関わります」

 それを聞いて、ベッキーもソファに座る。


「……この男はアーロン・ダグラス子爵だ」

 初対面のブリジットにアーロンを紹介する。ブリジットは、一瞬、えっ、と小さな声をあげた。アーロンがこの場にいる意味を瞬時に悟り、挨拶をする。

「ブリジット・オルブライトです。冒険者ギルド本部所属の冒険者です。よろしくお願い致します、子爵様」

 今度はアーロンが小さく驚く番だった。こちらもすぐに持ち直して、挨拶を返す。

「アーロン・ダグラスだ。『陰影』のお噂はかねがね」

 挨拶が済んだところで本題に入る。


「まず…………。四日前に王都からの帰路、襲撃に遭いました。襲撃犯は王都第四騎士団、第四隊」

「なんと――――馬鹿なことを……」

 アーロンが漏らした言葉はそれだった。

「隊長であるマシュー・ダグラス男爵以下九名を拿捕。駆けつけた冒険者ギルド本部長ザン氏と、王都第一騎士団団長ファリス・ブノア伯爵を交えた協議の結果、証拠を隠滅、第四隊はその場にいなかったことになりました」

 アーロンを見る。目が合うけれど、その瞳には何の感情も現れていなかった。

「証拠を隠滅した意味は、おわかりかと思いますが、治安維持のためです。本来、臣民を守るべき騎士団が、あろうことか一般人に手を出しました。放置しておけば市民革命の萌芽となるからでしょう。よって、第四隊は騎士団員ではなく盗賊と認定され、その場で処分されました。ですから、盗賊は死にましたが、公式には第四隊は行方不明のまま、となっています」

「襲撃の理由などは? わかっているの?」

 ベッキーが訊いてくる。その質問に対しては正確なところを答えるわけにはいかない。


「不明です。ですが、直接の証拠こそないものの、第四隊を動かして襲撃を命令した者は判明しています」

「父か……全く――――馬鹿だ……」

 アーロンは大きなため息をついて、もう一度、馬鹿だ、と呟いた。

「その通りです。ダグラス宰相です」

「父と長兄、次兄は、魔術師殿をどういう理由をもってかはわからぬが――――あの勇者殺し(ラーヴァ)と認定していた。恐らく、もう正常な判断が下せなくなっていたのかもしれぬ。父と兄の愚行、本当に申し訳ない」

 アーロンはソファからずり落ちるように床に座り込み、合掌をしてお辞儀をした。グリテンでの土下座ポーズだ。

「最終的に次兄どのを殺したのは私です。世迷い言を叫んだ挙げ句に殺せと強要されまして。()()()()殺しました。男爵としての墓碑は建てる訳にはいきませんでしたので、新しく出来た温泉に、盗賊の名前を付けておきました。名はありませんが、墓碑の代わりにはなろうかと思います」

「おん……せん?」

「あー、はい、襲撃地点の近くで、新しい温泉が発見されたのです。私が第一発見者ということで、命名権がありましたので」

「……ほう……?」

 温泉と聞いて目が光るフェイはやはり、元の世界の日本人だ。

「温泉が今後実用になるかどうかは調査しないと……というか二日前に()()()()()()ですのでなんとも。っていうか話しにくいのでソファに戻って下さい、子爵様」

 私に冷たい口調で言われれば、アーロンは従うしかない。


 ソファに座り直したのを確認してから、話を再開する。

「と、ここまでが話の経緯であり、前置きになります」

「……うむ」

「前置きが長いわね……」

「………………」

「騎士団一個小隊を投入しても瞬殺されたわけで、今後、宰相たちが私を狙ってくるとなれば、私本人を狙わなくなるだろう、というのが読みの一つです。つまり、私の周囲の人間を狙ってくる可能性があります。これなら暗殺者を雇って一般人を狙わせればいいので、楽勝でしょう」

「じゃあ、エイダたちは護衛ってこと? 私たちの?」

 ベッキーは驚いた様子ではなく、へぇ、と他人事のように確認をしてくる。

「……エイダは二~三日で本部に戻る。カレンとシェミーが護衛に就くことになる」

「護衛付きの期間はどのくらいになりそうですか?」

 さすがベッキー、冒険者ギルドが綺麗事だけで成り立っていないことを理解している。すぐに実務的な話に入っている。

「宰相は更迭が確定していますが、後任人事が難航しているため、護衛が必要な時期は最短で半年、と本部は見ています。ダグラス宰相が離職後も存命で動きが確定していない場合を想定しますと、最長で二年」

 ブリジットが補足してくれる。

「騎士団も協力したい、が……」

 アーロンが口を挟む。言いたいことはわかる。領民が攻撃に遭う可能性があるのに、人材、人員不足で力を貸せない不甲斐なさ。でも、それは誰のせいでもないんだよ。

「ポートマット騎士団は、普段の警ら巡回コースにアーサさんの自宅とトーマスさんの自宅、及びトーマス商店を入れるようにしてくれるだけで十分です。目を多くしてくれるだけで抑止効果があります」

「それなら可能だ。協力させてほしい」

 力強くアーロンが申し出る。

「よろしくお願いします。カレンさん、シェミーさんとも話し合って、防衛体制を整えて頂ければ幸いです。ええと、ベッキーさん……」

「はい?」

「……家族への説明と説得は、私も顔を出そう。……今晩、そちらの方でも軽く伺いを立てておいてくれると話が円滑にすすむ」

「わかりました。よろしくお願いします」

 私はフェイに頭を下げた。

 だけどアーサお婆ちゃんたちが狙われるのは私のせいであって、それをやらせているのはフェイたちだから、出張るのは当然と言えなくもない。



―――国家の内憂を毎日見せられているよね……。





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