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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
星に願いを
837/870

※星の子たち4


【王国暦128年5月24日 12:03】


 謎の天体Xが衝突、この星は絶滅する――――というニュースは、各領地の領主級と、その家臣たちに知らされた。もちろん、対処中であり、迎撃に出発するので安心してほしい、とも。

 このタイミングでサリーとレックスにも知らせがいったのか、二人から呼び出された。サリーとレックスは副迷宮管理人でもあり、私が七体に増えたことも当然知っている。


「二人一緒、っていうのも珍しいねぇ」

 呼び出されたのはロンデニオン西迷宮の管理層で、二人ともここの工房にはよく顔を出す。私がアバターのことが多いけど、サリーがカッパの時もある。得体の知れない新製品や新素材はこの場所から生まれることが多い。

「姉さんが黙っていた気持ちはわかります。ボクたちに出来ることはなさそうですし」

「でも、ちょっと寂しいなと思って……」

 二人は苦笑しつつも、自分たちに知らせなかったことに文句を言ってきた。けれども、私の気持ちも酌んでくれたのか、強くは言ってこなかった。広く知らせてしまうのはパニックになるし、衝突が確定したわけではないのだから。


「うん、レックスには宇宙服で苦労かけちゃったしね」

「いえ、そんな。新素材の研究は楽しかったです」

「レックスが役に立って、あの時の私は姉さんの役に立てませんでした。でも! 今回は違います!」

 サリーが珍しく興奮している。ハキハキしているサリーは、大人っぽくなってきている今でも可愛らしい。

「まさか、何か新機軸の新発明があったり?」

「その通りです、姉さん。従来の魔導通信より高速な通信方法を提唱します」

「なんと……!」

 サリーが提唱してきたのは地味でも凄いものだった。少々の改造で従来のハードウェアをそのまま使える点も大きい。

「従来の千倍の高速化が可能です。セキュリティ対策がまだ完全ではありませんけど」

 サリー曰く、遠隔地からカッパアバターにチェンジする時に、僅かなタイムラグを感じていたんだという。その解消策のために研究を重ねていたらしい。


「これはすごい……」

 説明と新作の魔法陣……まだ魔法陣のサイズは大きいし、粗い記述も散見される。だけど、より高速化できる周波数を見つけたことは奇蹟にも思えた。


 サリーは得意げに薄い胸を張った。ああ、あまり育ってない……背は高くなったけど……。クォーターエルフだからか、儚い印象はそのままに成長したサリーは、とても美しい。

 レックスは相変わらずのポッチャリで、凡人の風体をしているため、二人が並んでいると不思議な感覚がある。中身はパンツ汁で満たされているだろうけど、幾つもの仮面を被って使い分けているからか、レックスはこんなナリだけどモテるもんなぁ。あの黒ハ○イダー(ラシーン)でさえ、レックスには一目置いているし。魔道具にさえモテるっていうのも、ちょっと凄い話ではある。


「ここと……ここ……。ここも……修正すれば、もっと速いかも。セキュリティは別途、魔法陣を作った方がいいね」

「はい、姉さん。暗号化も可能になりそうです」

「うんうん。魔法陣は修正したらここに置いておいてよ。縮小化して量産の目処をつけよう」

「はい、姉さん!」

 サリーがパアッと笑顔になる。そんなサリーを、レックスは微笑ましそうに見ている。


 サリーも、レックスも、トーマス商店に引き取られなければ、私に関わることもなかっただろう。今、二人が幸せそうに笑っていることは、私が二人に笑える環境を提供できた……少なくともその一助にはなった……と言えるのではないか。手前味噌ながら、そう思えることは、私にとっても幸せだ。

 血は繋がっていないけど、二人は大事な弟と妹だ。ただまあ、ちょっと特殊な弟と妹ではあるか。


「というかですね、姉さん。ポートマットの三番ドックで建造中だった新型潜水艦は、艤装を途中にして追い出すように試験航海に出発しちゃいましたよね? その代わりに『アンドロメダ―』が入渠して、四番ドックの『クイーン・エマⅡ』も試験航海に行っては戻って微調整。こんなに頻繁に出入りしていたら、何やら不穏な動きがある、くらいのことは気付きます」

 サリーが拗ねたように言ってくる。『クイーン・エマⅡ』とは、ピンク色をした『アンドロメダ―』級の二番艦のこと。


挿絵(By みてみん)


「そうだよねぇ……。ああ、あの船、綺麗でしょ?」

「エミー姉さんっぽいなーと」

「戦艦をパール仕上げっていうのは凄いですよね!」

 あまり肯定的ではない感想をもらったわね…………。


「とはいえ、あれも実戦的な仕様なんだよ。一定の条件では魔力を弾く塗料でね……」

 一番艦には単なる魔力吸収塗料を塗布してある。二番艦には通常の魔力吸収塗料の塗膜の裏側にも魔法陣を仕込んであって、そこに魔力を通すと防衛モードになる。要人の乗艦としては防御力に拘って設置してみたのだけど、使いようによっては魔力砲を反射できる、ってだけね。そもそも敵方が魔力砲を使ってくるかどうかわかんないけどねー。ただ、『こんなこともあろうかと』って言ってみたいだけのために作ったというのが真相か。


「船はまあ、いいんです。それより姉さん。生体コンピュータが増えているということは……」

「ああ、うん。そうね。そういうことだね」

 サリーは『魂の複写、及び定着』魔法陣の存在を知っている。レックスは魔法陣の存在は知らなくとも、あまり良くないことの結果だ、と認識しているに違いない。

「姉さんが増えるのは楽しいからいいんですけど。ううん、言いたいのはそうじゃなくて……六回死んでるってことですよね?」

「うん……」

「…………」

「話を聞いたときは軽く考えてましたけど、あの、姉さんは……」

 サリーが言い淀む。

「うん、死期が近づいてる。ホムンクルスの寿命の件は知ってる?」

「はい」

 二人が頷く。


「カメラはもう、一年保たないと思うんだ。彼……彼女? は十五年くらい生きてる。これは私の同型ホムンクルスでは長寿な方ね。二人も知っての通り、元々、私と同型のホムンクルスはドワーフ村迷宮の防衛システムなのね。破格の性能と引き替えに寿命が短く、扱いづらい。どういう経緯か、『使徒』の道具になっちゃってたけどね。私もそろそろじゃないか、と思ってた時に――――二年半くらい前かな、同型を吸収する機会があってね。その分寿命が延びたみたい。それもどのくらい延びたのかはわかんない。この眼鏡さ。実用品なのよ。視力が衰えちゃったのよね。吸収してから視力の悪化は止まったけど、そうだなぁ……あと数年、ってところだと思う」


「数年………!」

 レックスの顔が真面目になった。あら、結構男前じゃん。こんなレックスの顔は初めて見たかも。

「うん、それとね、今回の天体X迎撃には私が行く。二人には説明したことはなかったかもしれないけど、星には目に見えない盾があるんだ。盾は危険な放射線から守ってくれてるんだけど、遠いお空には盾がないの。宇宙服を着ていたとしても、多少は浴びる」

 ここでサリーが手を挙げた。


「放射線とはなんですか?」

「光の一種、だから波の性質を持つよ。原子核……って言ってもわかりにくいかな……。モノが壊れる時にエネルギーを生むのね。そのエネルギーを持った光のこと。こうやって目に見える光だけじゃなくて、いろんな光があるってことね。その放射線にも種類があって……ここでは説明しないけど、人体に有害な放射線というものもあるわけ」

「目に見えない盾というのは、どういうものですか?」

 レックスも訊いてくる。子供科学教室みたいになってきた。


「この星の内部はドロドロに溶けた金属なの。誰も行ったことはないけどね。星って回転しているよね? 金属と金属が擦れ合うとパチパチするじゃん? あれは雷の元、電気って言う。この電気には方向性があって、電気を金属に通すと、金属の中にある電気の元の方向性が揃って、他の金属を引きつけるようになる。これが磁力による磁化ね。磁力はそうやって他の電気や磁力を引きつけて巻き込んでいく。太陽が何で光っているのかというと、中でモノを壊してるの。だから目に見える光と一緒に、放射線も放出してるのさ。全部を盾で止められるわけじゃないけど、磁力による盾で、激ヤバな放射線を止めてくれている」

 二人はふんふん、と頷いている。こんな説明でも即理解出来てるところが恐ろしい。


「雑な説明だけど、この星から離れたら、その放射線を浴びるリスクが高まる。放射線は遺伝子を傷付けるので、正常な増殖が阻害される可能性がある。癌などの病気の元になる」

「じゃあ、姉さんが迎撃に行くということは……」

「寿命を減らす可能性があるということですか?」

 私は頷いた。


「後先短いから、ってこともあるんだけどね。ついでに行ってみたいところがあってね」

「それは……?」

「お月様」

 私は宙に指先を向けた。

 二人は、えっ、と口を開けた。



【王国暦128年5月24日 15:34】


 レックスに言って、トーマス商店に宇宙食なるものの大量発注をかけた。開発は既に終わっている。だって……フリーズドライ食品製造用の魔道具が既にあるんだもんね。

 実は目敏いトーマスが、軍用の携帯食料を開発、売り込んでいた。それを真空パックしなおしたものを軍は採用していたわけ。空を飛べる迷宮艦は、ド級も含めて基本的に宇宙には行ける。『グレート・キングダム・オブ・グリテン』号が初めて宇宙に到達した時にも、試作の宇宙食を積んでいた。


 で、今回の大量発注は種類も大幅に増やして、フリーズドライだけではなく半固形のものも追加。乗員は魔物と私だけなので、私さえ何とかなれば、魔物に関しては魔力の補充だけで生存は可能。ではあるんだけど、乗員の魔物たちは普通に食事を摂ることを覚えてしまっていて、知能も人間並みとくれば、彼らにも食事の楽しみは享受されるべき。

 となるとかなりの量を積み込まなければいけないのだけど、『アンドロメダ―』級は徹底した少人数化が図られていて、あの巨大な艦を動かすのに必要なのは交替要員、生活要員を含めて、わずか三十名。これは元ネタに由来するものでもある。ちなみに『グレート』の方は五十人くらい。こちらは元ネタに沿ってないわね。


『アンドロメダー』級の二艦と『グレート・キングダム・オブ・グリテン』は、今は航宙訓練を、特訓と言えるレベルで行っている。『アンドロメダ―』は突出し、やってくる天体Xを直接迎撃する。これだけで脅威が去るはずだけども、万が一にも失敗した場合は『クイーン・エマⅡ』が迎撃。これは『アンドロメダ―』が天体Xを破壊した後に発生するだろう破片の処理も含まれる。『グレート』はさらに『アース』に近い場所で破片の処理を担当する。人工衛星への被害を抑えるためだけど、範囲が広すぎるからどうなることやら。破壊されたらされたで、サリー提唱の新型通信プロトコルに切り替えればいいか。『グレート』は地上への被害をゼロに抑えることに注力してもらえばいい。


 着々と出立の準備は整いつつある。

 あとは幾つかの工事を終わらせておきたい。直近でがんばったのは浮遊城の城壁。これは実質の増築で、半球状の周囲を覆うように建設した。現在、浮遊城はロンデニオン市の上空を、人がアリのような大きさに見える高度で回遊中。目が……目に関しては……まあいいや。


 ロンデニオン城にできた球状空間には、以前と同じような球体殻を作った。球体殻の天辺、ロンデニオン城の地下に相当する部分には、王宮関係者の目に触れる位置に、コレを設置した。


挿絵(By みてみん)


 もちろん、これもダミーで、内部は魔導コンピュータではなく、単なる端末。この桃色空間で王宮関係者と受け答えをして、サポートを行うことになる。傍目にはこの場所こそが大破壊を企む悪のコンピュータに見えるだろう。


 変わらず、ロンデニオン城は政治の中心地で、その直下にあるのだから。仮に敵軍(レッドマフラー)が攻めてきて、この桃色ブレイン様を壊したとしても、『ふっふっふ、残念だったな、これは仮の姿……』なんてことをやりたいがために作った……なんてことはない、と思う。

 いやいや、それ以上に親玉が桃色だった! という衝撃を与えたいがためのカラーリングだったり。エミーも喜んでたからいいよね。


 ああ、海中ドローンの運用も確立させておきたいわね。

 こちらは星の命運をかけて動いているというのに、周辺諸国の有象無象は……当然だけど、危機なんか知らずにちょっかいを出してきている。まったく、脳味噌がお花畑のおめでたい連中ですこと。広い視野を持たぬ野蛮人など滅びるがいい。


「いっそ……殲滅しようか……」

 と、思考が危険な方向を向いてしまったので、思い直して首を振る。些事はパスカルたちに任せよう。何もかもを私が実行することは、後々に何もできない無能を量産して後世に残すことになる。そんなことはさせない。だから、皆に任せよう。


 特にヴァイキングどもは度々斥候を送ってきては撃沈され、情報が得られないものだから躍起になっている感さえある。無警告で撃沈しているこっちも悪いのかなぁ。

「貴艦は撃沈する……」

 とかシャアヴォイスで言ってみるのもいいなぁ。


《って撃沈前提かよ!》

「おお、ツッコミが意外なところから……」

 自分でボケツッコミが成立するのは芸人としてありがたい環境だなと思う。

《この場合は、物作り芸人、かなぁ》

《ガンダム芸人だろ》

《土田じゃねえ!》

「あー、はいはい」

 工房に溢れるツッコミを耳にして、出発への不安が薄らいでいくのを感じていた。



――――――――『アース』滅亡まで、あと五百日ちょっとくらい。





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