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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
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834/870

※七人の黒魔女1


【王国暦127年12月10日 5:03】


「なるほど、この体になってみればわかることもあるんだね」

「意外に快適かも」

「そうそう、意外だよね」

 今まで四番、と呼ばれていた私が生体コンピュータの中に入り、復活してすぐに五番、続けて六番も封入された。

「しかしなぁ、このダミー外装はどうなのよ」


挿絵(By みてみん)


「いやいや、謎のコンピュータらしいじゃん。紙テープこそないけど」

「声はそれっぽいからいいや。とりあえず守ってくれそう」

「うむ。侵入者がいたとしたら、最初に対面する、顔みたいなものさ」

「近代的なんだか前近代的なんだかわかんないよ……」


 生身の体として生体コンピュータ群のチェックをしているのは七番の私だ。

 私だらけで訳がわからなくなっているけど、ロンデニオン西迷宮の地下にある三つの生体コンピュータと合わせて、現在七人の私がいることになる。


 こびとが七人、白雪姫は……エミーなのかなぁ。先の一番~三番で問題なく成功したので、今回の四番~六番はあまり心配されなかった。でも、エミーからはこれ以上の生体コンピュータ増備は自重してくれ、と釘を刺されたけれど。なにせ、『不死』LVはついに9まで上がり、後はない状態だから。


 四番~六番はドワーフ村の直下にあった空間を利用していて、基本的な仕様は一番~三番と同じもの。冷却システムは直上にあったカルデラ湖を利用している他、地域的な要因で細かい箇所に違いはある。

「それじゃ、仕上げしてくるから。この姿ではさよならだ」

「うん、おつかれーって言っていいのかな。作ったのは私だからなぁ」

「いやいや、私でもあるんだからお疲れはないんじゃね?」

「はっはっは、よきかなよきかな」

 楽しそうな四番~六番に手を振ってから専用の保守部品を倉庫に収め、専用のグラスメイドを配置したあと、ハシゴを昇る。


 ハシゴを昇りきったらハッチを閉める。ほどなくして水が落ちる音が聞こえてきた。カルデラ湖から水が引かれているのだ。カルデラ湖の水量が激減するのは目に見えていたので、まずは水の補充が必要になる。

 いわゆる水系の魔法は、周囲にある水分を集めるところから始まるわけで、考えなしに放水したところで、周囲の環境を乾燥させてしまうだけ。カルデラの周囲には葡萄の段々畑があり、作物に影響を与えるのも問題がある。私自身は相変わらずアルコールは飲めないけど、ここの葡萄で出来たワインを楽しみにしている人がいるのだから、期待は裏切れない。

 そこで……水の補充は、あらかじめ氷の塊を湖畔に置いておいた。今は冬だし、ちょっと寒くなる程度で、あとは自然に溶けるのを待てばいい。なんなら溶かしに行ってもいい。このカルデラ湖は火山性のものではないので、それなりに生態系が作られつつある。持ってきた記憶もないのに魚がいるのも面白い。鱒の養殖をしても良さそうね。


 魚の養殖といえば、下水設備、浄水施設の拡充に伴い、ターム川の水質が劇的に改善されたので、大ウナギの食味も改善された。捕らえてから真水で洗って畜養する……方法を提案、さらに『女王陛下の夕食』で元の世界の某国関東風蒲焼きを紹介し、番組内部で密かに『ウナギゼリーはウナギに対する冒涜』というサブリミナル映像を流したところ、爆発的な大人気となった。禁漁時期を設けているので、ウナギが食べられるのは夏の三ヶ月だけ。

 まだ、完全養殖には至っていないし、ターム川の大ウナギは、微妙に私の知っているウナギとは違う。どこか大味なのよね。

 まあ、ここは蒲焼きが世に広まったことを喜んでおこう。



【王国暦127年12月10日 10:12】


 足元の空間が水で満たされたのを確認して、生身――――七番である私は地下にあるドワーフ村迷宮へと戻った。


 管理層に行くと、そこでは四番、五番、六番の私がアバター状態で待っていた。

「おっ、最終処置おつかれー」

「おつかれー」

「乙!」

 高精度アバターは人工皮膚を纏い、人間そのものの風情がある。この皮膚も何層かになっていて、血管をうっすら見せたり、薄く化粧、というか塗装……をしたりと工夫がある。化粧に関しては女王陛下の意見を取り入れさせてもらった。

 人間の骨格を元に筋肉を貼って、その上に皮膚を乗せる――――だけでも、かなり人間に近くなる。試作機に比べると稼働用のOSも熟成してきて、電気信号でやり取りできる範囲は増えた。難点があるとすれば、小型のモーターから多少の駆動音がすること、落雷など大電流が流れるような環境では行動に支障がでること、出力が小さく、まるで戦闘には向かないということか。


 黒ハカ○ダーであるラシーンに言わせると、自分たちの方が隠密、戦闘に向いており、精度の高い魔法も使えるのでは――――と、微妙にディスっていた。ハカイダ○素体だって私が作ったものなんだけどなぁ。オール魔法陣の方式を採用しなかったのは、主に味覚を検知する必要があるから――――なんて、ちょっと言えなかった。

 高精度アバターの外殻モデルも、一番~三番と協議の結果、♀ドワーフ型に統一された。一応、試作としてはエルフ、ダークエルフ、ヒューマンの、それぞれオスメスと作ってみたのだけど、どうにも違和感があるそうで、結局、自分をモデルにしたという経緯がある。


「ピノコの妄想みたいなのはノーサンキューだよね!」

「うんうん、丸顔で手足が長いのは、ねぇ」

「どこかの大手芸能プロダクションに採用されがちな感じ?」

「美人過ぎるのもアバターとして不自然だしねぇ」

「いいんだよ、控えめな胸、熟れる前の一瞬の輝きが永遠に!」

「おお、終わらない夏休みみたいな!」

「実際に八回放送しちゃったからなぁ」

「あれって毎回微妙に違うらしいね」

「いやいや、人工皮膚は二年くらいしか保たないんだよね? 永遠じゃないよ!」

「二年、って言ってたけど、一年で点検に回した方がいいね。アバター補修プラントはロンデニオン西迷宮だけに設置?」

「せめて生体コンピュータ群のある迷宮には欲しいな」

「いやあ、プラントを作るのがかなり面倒。それに機密を重んじるなら他に作る訳にもいかない」

「なに、乙女の秘密、ってか?」

「じゃあ、予備機を回して順次ロンデニオン西迷宮に送る、ってサイクルを決めなきゃ」

「ほら、それは先日、一番、二番、三番がギャーギャー言ってたやつでしょ」

「予備機は倍はあった方がいいとか、私の都合も考えてほしいよなぁ」

「おいおい、七番を通じて、ここの会話は共有されてるよ? 自分に文句言ってもしょうがないじゃん」

「そうそう、自分と戦っちゃいけないよ?」

「このアバターには戦う機能が付いてないからなぁ……」

「ライダースーツみたいなのはないんだっけ?」

「繊細過ぎてそもそも戦闘に向かない。伊藤敦史(チビノリダー)みたいなの、着たい?」

「鼻が黒いのはちょっと……」

「おいおい、魔法少女みたいなのはどうよ!?」

「魔法少女が戦闘向きのコスチュームだと思って言ってるの?」

「いや、ちびうさって言いたいんじゃないの?」

「セーラー服にレオタードとか……戦闘を舐めてんのか」

「舐めてるね。セーラー服界とレオタード界の両方に喧嘩売ってるね」

「でもさ、プルートみたいな、無理してる感じなのは好きだな」

「うんうん、明らかにコスプレ、イメクラのお姉さんだよね」

「熟女セーラー服か……ブリジット姉さんに伝授したら、フェイが喜ぶんじゃない?」

「ウルトラアリエール。90パーセント以上の主婦が普通のプレイより興奮すると報告した」

「なるほど、そういう文化ハザードこそ知識チートかもしれないね」

「ただの変態プレイじゃないの?」

「なにー! ブリジット姉さんが変態だと!?」

「そうは言ってない! しかし、あの熟した体、多少の変態趣味はない方がおかしい!」

「ゲテ食いなのは認めるけれど……」

「その説でいうとフェイはゲテモノって話になるわね」

「否定も肯定もできないなぁ。大体、フェイの年齢を考えたら枯れてるか、加齢臭が……」

「それだ」

「加齢臭好きなんじゃないの?」

「緑茶アリエールで加齢臭も驚きの消臭! ダークエルフが驚きの白さに!」

「で――――。何の話だっけ」

「セーラー服?」

「加齢臭?」

「え、変態プレイに対応するアバター用セーラー服の製作? 興味はあるが拒否させてもらう!」

「アバターの話よね?」

「っていうか、このアバターに性交の機能はないじゃん」

「倫理上、オミットしてあるよ? パスカルやマッコーに狙われたら、現状では逃げるのに精一杯だと思う」

「人形スキーどもめ。蝋人形にしてやろうか!」

「まだまだ、元の世界の日本に比べたら、変態度は劣るよ。まさか、私って変態を啓蒙するために召喚されたんじゃ……」

「それはロックバルーンは99(ネーナ)

「おー、脇毛があるのにネーナか!」

「あれは衝撃的だったよね」

「ちょっと待った、そこはシブガキ隊(ナイナイ16)でしょ」

「ジャニーズ論議はノーサンキューだよ!」

「むしろ円満退社のレアケースじゃないかなぁ」

「彼らがジャニーズだったことの方が驚き」

「うーん、タッキーが若かった頃はさ……」

「やめて! タッキーを情欲のはけ口にしないで!」

「ハッ、処女が何ほざいてやがる!」

「アンタだって処女じゃんかよ!」

「まあまあ、処女のままコンピュータの部品になっちゃったんだからさ、自らの境遇を嘆いていては始まらない。そうだろう?」

「おお、なんて建設的な!」

「ポジティブシンキング万歳!」

「処女コンピュータ万歳!」


 あー、我ながら話が全然進まないわね……。



【王国暦127年12月10日 12:37】


 建設的でポジティブで処女な協議の結果、七人の間では大事な、時にはどうでもいいことの幾つかが決まった。

 今までは独り言や脳内で完結していたものを、実際に会話で決めるとなると収拾がつかない……ので、魔導コンピュータ内部に掲示板を作り、そこで議論をすることにした。匿名制にしなかったのに、一時間で百スレッドが立つという盛況ぶりだったけど。

 想像するに、私は議論をしたかったのだと思う。七人の私が入り乱れる議論というのは一人ボケツッコミみたいなものなんだけど、事前に予習というか、六人の精霊たちが内在していたから、既に多重人格みたいなもの。

 状況としてはとても面白いんだけどね……。


 一番がグリテン王国国内の迷宮を管理。同様に四番がウェルズ、五番がアスコットランド、六番がイアラランドを担当。エリア制にしたわけね。まだ一番への負担が大きいけど、これは他の三人がフォローをすることにした。

 高精度アバターは基本、最低でも迷宮に一体は配備を目標に製作をすることになった。ほとんど大量生産の域なんだけどな……と、七番の私は溜息をついた。



―――――某アイドルグループメンバー並に増殖中。





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[一言] 他の6人が異なる性格ならば、アニメ”七人のナナ”似。
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