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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
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カメラの問い


【王国暦127年6月10日 20:18】


「初めまして、同型。僕は『カメラ』。デジタル・カメラだよ」

 フードを取って、素顔を晒しながら、カメラは妙に低いアングルから舐めるように挨拶をしてきた。服装はグリテン風でもプロセア風でもなく、アスリムの衣装みたいだ。

 しかしいつの間に部屋に入ってきたんだろうか。怪しげなスキルでも持っているのかもしれない。

『人物解析』でカメラを見てみる。


-----------------

【デジタル・カメラ】

年齢:16

種族:ホムンクルス(ドワーフ型形質五番型二号)

性別:女

所属:

賞罰:なし


スキル:気配探知LV8(魔法) 気配探知LV9(物理) 強打LV10(汎用) 障壁LV4 高速突きLV10(汎用) 長剣LV10 両手剣LV5 槍LV8 短剣LV10 盾LV1 弓LV6 打突(短剣)LV10 急所突きLV10 乱打LV10

補助スキル:加速LV4 隠蔽LV10 死角移動LV10 遠見LV10 集音LV10 透視LV10 暗視LV10 鑑定LV10


魔法スキル:火球LV10 水球LV10 風球LV10 土球LV3

      初級   火刃LV5 水刃LV5 風刃LV5 土刃LV2

      初級範囲 火壁LV2 水壁LV2 風壁LV3 土壁LV2

      中級   火弾LV1


補助魔法スキル:道具箱LV3 光刃LV1 闇刃LV1 魔力制御LV9

ユニークスキル:紛れ

生産系スキル:

生活系スキル:採取LV6 解体LV6 料理LV1 計算LV7 洗浄 灯り 点火 飲料水 ヒューマン語LV9 エルフ語LV3 バラン語LV3

-----------------


――――補助スキル:死角移動LV10を習得しました(LV4>LV10)

――――補助スキル:遠見LV10を習得しました(LV5>LV10)

――――補助スキル:集音LV10を習得しました(LV2>LV10)

――――補助スキル:透視LV10を習得しました(LV3>LV10)

――――補助スキル:暗視LV10を習得しました(LV3>LV10)

――――補助スキル:鑑定LV10を習得しました(LV7>LV10)


 ユニークスキルの『紛れ』って何だ? それに『透視』LV10って……。じゃあ、椅子に座っている、今の状態で、私は下着どころか裸まで晒しているわけ?


「貴方がカメラ……。あのう……下着を覗かないでほしいのですが……」

 内心の怒りを抑えつつ、丁寧に接してみる。自分のこめかみがピクピクしているのがわかる。

「ああ、ごめんごめん、ちょっと興奮しちゃってね。カボチャパンツは滅びればいいと思うんだ。君もそう思うだろう?」


 カメラが直立する。顔は鏡で見る私そのもの。だけど表情はエキセントリックにコロコロと変わり、見慣れないものだった。この人物は私ではなく、やはり他人なのだと実感する。なにより、その瞳の輝き、だらしない口元は、ギラついた獣のような、性に飢えた男の顔、そのものだった。


 カメラの真意が見えず、何を考えているのかさっぱりわからなかったから、会話を引き延ばすことにした。

「そうですねぇ。アレにはアレで趣もあるんですけど。体型を補正するものが別途必要になるのは悪手ですね。矯正するにしてもコルセットは動きを阻害しすぎますし」

「そうなんだよね。脱がしてみたら、だらしない肉でさ。女性に幻滅したね」

 大げさな身振り手振りでカメラは同意し、また同意を求めてくる。

「はは、世の中には幻滅しない女性もいますから、それは巡り合わせが悪かったんでしょう」

「ああ~、そうかもね。ああ、お宅の女王! 下着はどうなってるのか、見てもいい?」

「絶対に駄目。見たら百八個の肉片に刻むよ?」

 私は柔和な雰囲気から一転、怜悧な視線でカメラを射貫く。助平の悪意をぶつけられて、耐えなくてもいいシチュエーションなら、エミーは躊躇わないだろう。


「おお怖い。戦闘能力は圧倒的に君の方が上みたいだし、女王陛下()を拝むのはやめておこう。でもね、やっちゃいけない、って言われたら、燃えるのも男なんだよ?」

「この身体は女性型でしょうに」

「うん、でも僕は男だよ? ホモっ気はないからね」

 そんなの知らんがな……。

「ホモはいいとして、どうやってこの部屋に入ってきたんですか?」

「ん~? 昨日の昼からここにいたんだよ。メイドさんが掃除をしにきたけど、まるで気が付かなかったね。背後からお尻をクンカクンカしたのに、まるで気が付かないなんで、どうかしてるよね」

 ケケケッ、とカメラは笑った。下品さを隠しもしないのは潔いけど、だからといって印象がよくなるわけでもない。

「『紛れ』の影響ですか?」

「ああ、君はスキルをコピーできるんだってね。信じがたいけれど――――。んっ? 君もまた変な名前だねぇ。『ペンタゴン・ペンタゴン』? これ、名前なのかな? それにユニークスキルは見えない……」

 へえ、『鑑定』LV10でも見えないのか。本当かなぁ?

「レディーを断りもなくジロジロと見るのはマナー違反ですよ」

「ああ、済まないね。『ハーケン』もそうだったけれど、どうにも興味深い存在だね、君は」

 言葉巧みに私の追及を躱し、話題を次々に変えていく。一方的に情報を抜き取られている可能性もある。これは危険な相手なのではないか。フレンドリーに話しかけてくる同型には自然と警戒感が薄くなるだけに、注意した方がよさそう。


「おおっと、そう警戒しないでおくれよ」

「黙って下着を盗み見る相手に言われても、説得力はありませんね」

「これは失敬した。どうにも興奮してしまってね。悪意はないんだ。と言っても信じてくれないか。少なくとも、僕は君の敵じゃない。それだけは信じてほしい」

 不真面目そうな顔を一転させて、カメラは口を真一文字に結んで語る。悪意がない敵なんて幾らでもいるから、警戒は解かないで、立ち上がってカメラとの距離を取る。

「参ったね。いや申し訳ない。本当に悪意はなかったんだ。『透視』しちゃうのはクセみたいなものでさ。今までそうやって生きてきたものでね。もっとも、元の世界では違うことをしてたみたいだけどね」


 カメラの()()に興味はないんだけどなぁ……。悪意の有無は判断できないけど、害意はないみたい。それはわかる。下着や裸を見られるだけなら減らないけれど、スキル関連を見られるのはよろしくない。ああ、その意味では私も同罪なのか。私だって黙って相手の情報を一方的に盗み見ているじゃないか。


 そう考えると急に罪悪感が湧き上がってきて、カメラの話を聞くことにした。ゆっくりと椅子に座り直した私を見て、カメラは少しホッとしたようだった。


「黙って侵入したことも謝罪するよ。ただ、僕が正式なルートで会談を申し込んでも門前払いがいいところだからね。こうやって、直接乗り込むしかなかったんだ。何しろ、君は()()()の懐刀で、国の重鎮と言っていい立場だからね。冒険者ギルドでも支部長クラスだよね? 大物過ぎて、僕にはコネクションが作れなかったんだ」

 私の情報はかなり知られているみたい。これは彼のチームが優秀だ、ってことでいいのかしら。

「サポートの人間がいるはずです。その人たちはどうしたんですか?」

 私の問いに、カメラは演技か、自然かは不明ながら、大いに嘆息した。

「死んじゃったんだ。同好の士に染め上げるほどに気の合う連中だったのに」

 盗撮か、透視か、どういう同好の士だろうねぇ……。死んだ、っていうのはどういうことだろう?

「事故か、病気か何かで?」

 カメラは首を横に振った。

「いいや。ちょっと前にさ。二年、いや二年半くらい前かな。ちょっとしたミスだったんだ。だけど代償は大きかったよ」

「…………」

 二年前っていうと、魔族領(アスコットランド)と戦って、ドワーフ村迷宮を攻略してた頃か。その頃、大陸では兄弟喧嘩、もといプロセアの内戦が始まるかどうか、ってところだったのかな。


「プロセア帝国が勇者を召喚したんだ。三人の勇者が召喚される、って話でね。プロセアは時々、こうやって複数の召喚をするんだね。元々、この地域は『ハーケン』が担当していてね。僕はヘルプに呼ばれたのさ」

 ヘルプに赴くのはままあることだ、というのはフェイにもトーマスにも聞いていた。私は無言で頷いて続きを促す。


「結論から言えば、三人の召喚勇者は思いの外、強力な個体でね。倒すなら、僕らじゃ力不足だったのさ。さらなるヘルプを求めるには時間がなかったし、そもそも君は動けない状況にあった」

「その通りです」

 同意せざるを得ない。

「ボクも『ハーケン』も熟練者とはいえ、寿命が近いからね。今生に執着はない……というのは言い過ぎかな。今の人生は間違いなく二度目以降だよね。だからもう、玉砕、相打ち覚悟で臨んだのさ」

「そこまでして『神託』に、『使徒』に盲従しなくても良かったのでは……?」

「意地になってたのは否定しないよ」

 ニヘラ、とカメラが笑う。


「で、その三体の勇者は処理できたんですか?」

「なんとかね。いやあ、意趣返しに召喚魔法を使った奴も殺してみたんだ。『ハーケン』も怒っていたからね。ただ、『ハーケン』は勇者の一人に受けた傷が元で死んだ。同型の死を見るのはとても辛いことだね」

「…………」

 その感覚はわかる。同型の集団に襲われた時、殺すのは問題なくとも、死体を見ているのが辛かったのを思い出す。


「僕らの理解では、勇者召喚に対する抗体として、僕らが存在するんだ、って思ってたんだよ。ところが前回は罠に飛び込んだ格好でね。『使徒』は僕らを消そうとしてたんだと気づいたのさ。信じ難い話だよ。今まで嫌々ながらも『神託』に従って、殺したくもない連中を殺してきたのに。都合が悪くなったらポイ捨てさ。僕はまだいい。宿に戻ったら、留守番だった僕のチームが襲撃されていてね。それ自体はフリードリヒの手の者によるとしても、ピンポイントでチームを襲うなんて、情報漏れを疑うしかない」

 そうか、『ハーケン』も『カメラ』も、直近まで『使徒』が上位で味方だと考えて行動していたのか。毎回無茶ぶりされて、今まではそれでも乗り越えられてきたんだろう。でも、寿命が迫っている中で、全てを乗り切ることはできなかった。

 そして、『使徒』の悪意にやっと気づいた。遅きに過ぎるだろうか。いや、それこそ無茶ぶり、私たちホムンクルスに、それを知る術はない。


「プロセア、いや、フリードリヒには、各地で内戦を誘発させておいたから、僕の手じゃなくても、いずれ罰を受けるだろう」

「プロセアの内戦に関与していたのですか?」

 カメラは頷いた。なるほど、それで同時多発的に内戦が勃発したのか。


「ああ、そうさ。有力な領主の枕元に立つのなんて、僕には難しくないからね。直接殺すより、ストレスをかけて苦しめたかったのさ。イジワルだと思うかい?」

「いいえ。権力者に対する報復なら、それが正しいでしょう。私ならもっと直接的にやるとは思いますが」

「それは趣味嗜好の違いだろうね。復讐なんて後ろ向きだと僕も思うけどさ。まあフリードリヒなんか、本当はどうでもいいんだ。問題は『使徒』の方さ。どうしても一発殴ってやりたいだけなんだ。そうしたら――――心置きなく逝ける」


「私に会いに来たのは、パンツを眺めるためじゃなく、『使徒』に会う方法が知りたかったから、ですか?」

「パンツは別腹だよ。情報では、君は僕らよりも苛烈な仕打ちをされていたのを知っていた。それを軽々と突破してみせているから、ノウハウがあるんじゃないかと思ってね。少なくとも僕らよりも『使徒』について知ってることは多いんじゃないかい?」


 どう答えたらいいだろうか。飄々とパンツについて語っている同型は、内に暗い闇を抱えている。私にはまだ、『使徒』を恨むところまで行っていないけれど、エミーを初めとして、近い存在を失ったとしたら、何を投げ打っても復讐に走ってしまうのだろうか。


 もう一度カメラを見る。

 狂気を孕んでいても、理性を保っているように見える。そういう演技をしているのかもしれないけれど…………。今のカメラになら、『使徒』について話しても、自暴自棄な行動には走らず、理性的な復讐を考えるだろう。

 うん、話してみよう。


「『使徒』の正体は、推察になりますけれど、おそらくは単なる思惟。情報体、魂に似た存在でしょう」

幽霊(レイス)みたいなものかい?」

「俗な言い方でよければそうです。ドワーフ村迷宮で、私たちと同型の身体に入り込み、私を処理しに来ましたから」

「会っているのかい……。驚いたね」

「『使徒』は複数いる、と言われています。それはご存じですか?」

「いいや、初めて聞いたね。いや、矛盾する『神託』に違和感があったのは確かだ……なるほど、そう言われてみればそうかもしれないね」

「確認されている()()は三つ。ところが、三つの個性はそのまま、一体の同型に封入されたんです。なので、恐らく『使徒』には個体の概念がない」

「多重人格者みたいなものかい?」

「その理解で正しいかと。カメラさんは、コンピュータについての知識は?」

「んっ、フォトショップ、イラストレータ、クォークくらいだね。ドングルがないと動かなくてねぇ」

 こりゃまた、ものすごく古いマックユーザーだな……。68kマック、ADBポートの時代じゃないか……?


「一つのコンピュータ上で動く、複数のアプリケーションのようなものかもしれないんです。三つの個性のうちの一つは、私の師匠でアマンダ・ナッシュ。エルフ型のホムンクルスだと言われています」

「え、あの、エルフの? 僕も会ったことがあるよ?」

「私も当時は単なるエルフだと思っていました。ですが、ドワーフ型形質のホムンクルスがいるように、エルフ型、というのも存在するんです。これは『使徒』が認めていますし、ドワーフ村迷宮のログにも記録されています。全てがそうだ、とはいいませんけど、ホムンクルスとして『使徒』の指示に従って活動することは、『使徒』に至るまでの試験のようなものなのだと」

「…………じゃあ、僕も死んだら『使徒』になれるのかな? 一発殴ってやりたいんだよね」

「どうでしょう? 先にも言ったように、個性はあれど、個体の概念がないかもしれないんです。『使徒』になった途端、自分の顔を殴ることができるかどうか」

「そうかぁ……。あっ、じゃあ、『ハーケン』は『使徒』になってるかもしれないのかい?」

 カメラがキラキラとした目で言った。

「ううーん、それは不明です。少なくとも、現行の『使徒』の面子に新メンバーが追加されたとは思えません。ホムンクルス経験者が『使徒』になるかどうかを決めるのは、『使徒』ではなく、どうやら、その上位の存在らしいんですよ」

「上位の存在…………。考えもしなかったよ……。暗殺の指令を受けて旅から旅の日々だったからね…………」

 カメラがキラキラとした目を伏せた。



――――実はまだ、映像を収得する撮影機としてのカメラは、この世界に存在してなかったりする。





「ドイ」じゃねえ!

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