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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
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823/870

※鎖の乙女

HJ大賞は二次で落選。

え、この作品が書籍化するわけないじゃないですかあ……。


【王国暦127年3月25日 6:15】


 気候が春っぽくなってきたある日、私はミネルヴァ・クィンをロンデニオン西迷宮の『塔』地下の秘密倉庫に呼び出していた。彼女はキャノンゴーレムの教練用マニュアルを作成していたところなので、作業を中断させられたからか不機嫌だった。まあ、いつも不機嫌だけど。


「……キャノンゴーレムだけでもかなり面倒なのに……また新型ですか」

 ミネルヴァは、テメエいい加減にしろ、と書かれた顔を歪ませて私に近づき、食ってかかってきた。これでも素直になってきた方よね。

「いやさあ、こういうのはミネルヴァにしか頼めないじゃん?」

 ほいほいっと持ち上げる。

「……えっ、まあ、そうかもしれないですけど?」

 すると、すぐに態度が軟化した。騙されやすい性格は相変わらずみたいで、実にポンコツ可愛いオバサン、いやお姉さん? よね。


「じゃ、説明するね?」

「……っていうかですね、これのどこがゴーレムなんですか?」

 こンの白黒エルフめ! 説明を聞けよ! とは言わず、冷静に解説を始める。

「うん、可動部分を極限まで減らしてみた。一見、ただの石の塊だけど、これでもゴーレム」

「……はぁ」

 ミネルヴァが気の抜けた返事をする。それも無理はないなぁ、と自分でも思う。半メトルx半メトルの大きさ、五十センチの高さの立方体。下部は適当に処理をしたので平滑だけど、置く場所によっては成形してもいい。ポイントは、上部に突き出た突起で、全部で八本ある。一定の角度をつけて、一組がVの字に配置されているので四対ということになる。

「この突起は交互に飛び出るようになってる。これ、五台ほど預けるので、秘匿プロジェクトとして作ってほしいものがあるの」

「……?」

 繰り返される突起の上下運動を見ながら、ミネルヴァは思案顔を続けている。

「これがその設計図」

 と渡した紙を見て、さらにミネルヴァの思案顔は強くなる。

「……猫バスゴーレム……じゃないですね。……魔道具ではない……?」

 猫バスゴーレムは現在十五路線ほど定期便が走っている。原価が安い割には多脚なので長持ちしてる。市民からは、動きがムカデみたいでキモイ、と思われてるらしいけど、エミーが言っていたゴーレムによる交通機関というお題目を実現するための一つは、確かに猫バスゴーレム。


 ミネルヴァに見せた設計図と仕様書を見ると、一見猫バスゴーレムに思えただろう。しかし、ちょっと精査すれば、違うということがわかる。

「何て言うのかな、動力としてだけ使うゴーレム。パワーサプライゴーレム? とでもいうのかな。動力だけをゴーレムで賄って、他の部分については魔道具ですらない。単なる道具? 機械って言って通じるかな?」

「……機械とゴーレムのキメラを作れというのですか?」

「うん。発想はキャノンゴーレムみたいなもの。迷宮で使っている土木用ゴーレムを研究した結果が、先のカーン防衛戦で使ったゴーレムだよね?」

「……そうです。……ウェンライト長官がキャノンゴーレムを提案したのは、ロイヤルトランスポーター、それにサリー部長が常用している『きゃりーちゃんV』を見たからです。……魔道具とゴーレムの組み合わせには将来性があると見たのでしょう。……しかし、現実に術者が安定して扱えるのは、あの平たいゴーレムくらいだった、というわけです」

「理想と現実に齟齬があるのは当然。魔法省はそれを近づけていくのも仕事だよ? で、これは現実に一番近いところにいるゴーレムなんだけど」

「……この規則的な動きを、走行に利用しろ、ということですか?」

 頭良いね。すぐわかってくれた。

「うん、これがシリンダーで、クランクを動かす。と、横に動くでしょ。それを車輪に繋げると……」

「……円運動ですか……なるほど」

 動きを見せることで、納得してもらえたみたい。

「……普段なら、完動する試作車を作って、我々に説明するところを、今回はその元の動力部分だけを提示した。……何か理由があるのですか?」

「うーんとね、実は別の用途で試作中のはあるんだ。それは後日見せるからさ。今回提示したモノは、最終的に望む形になるまでは、技術の進歩と工業的な発展が前提になるのよね。未だ、その時代は来ていないということかなぁ。だから地上を走る車より、これは船舶に利用する方が早いかもしれない」

「……船に……。……相応の推進システムがあればいい……のか……」

「うん。魔法的にはすぐに実現できるけど、動力だけがあっても、工業的にどうにかしないと、使えないよね。で、それには時間がかかる。おそらく五十年とか百年。船だけなら半年あればいけるかな?」

「……石と鉄でできた戦艦ですか」

「そういうこと。魔法だけじゃなく、錬金術、鍛冶、造船……その辺りと折衝して一つのモノにするには――――」

 私には時間がなさそう。数年なら生きてるとは思うけど、他にやることがありそうなので、これもミネルヴァに丸投げしておこうと固く決意した!


「……私の方が長生きするから。……そういうことですか」

 私は頷いた。適度に察しがよく、適度に察しが悪い。やっぱりミネルヴァが適任よね。

「……わかりました。……サリー部長ではなく、私にこの話を持ってきたことにも意味があるのでしょう。……他に引き継ぎの必要なものがあれば提示してください。……私の寿命の続く限り、実現させ続けます」

「うん、ありがとう」

 私にしては珍しく、真摯にミネルヴァに合掌をして、お辞儀をした。そして顔を上げると、『道具箱』から冊子を取り出して、ニヤリと笑いながらミネルヴァに渡した。

「……これは……」

「後年になれば製造可能なものを含めて、開発案件を図解して系統別にまとめておいた。全部で二百種類くらいあるのでよろしく」

 それを聞いたミネルヴァは、鼻の穴を広げて般若のような顔になった。



【王国暦127年3月25日 12:21】


 ド級を使ってポートマットに移動すると、私はすぐに第四ドックへと足を向けた。

「うん、いいね、ラブリーだ」

「マスター、ラブリーとはブリブリですな?」

「いや、ラブラブだね」

「おお……」

 実にならない会話をイチとしつつ、見上げているのは飛行船。『クイーン・エマラルダス』号と構造は似ているんだけど、外装はちょっと工夫した。


挿絵(By みてみん)


「フットボールの宣伝にもなるし、いいね、この方向でいこう」

「この方向、というのは北の方角ですか?」

「方向性の話だね。このやり方が正解である、ということ」

「おお、物事が進む道のことですか!」

 サッカーボールだけじゃなく、ラグビーボールなんかも作っていこう。


 これら新型飛行船は客貨両用で、お急ぎの荷物、人なんかを優先して運ぶことになる。フットボールチームは週二回の試合のうち、どちらかをホーム、どちらかをアウェイでやることになるから、迅速に運ぶ必要があるもんね。今は二チームしかないので、各地のスタジアムを回って模範試合をしてるだけ。それをこのボールの飛行船が運べば告知にもなるし、色々都合が良さそう。


「この飛行船は十日ほどで出来ちゃったんだっけ?」

原型艦(エマラルダス)に比べると装飾も抑えましたから」

「ああ、そっちに時間が掛かっちゃったのか」

「その分、座席を揃えるのに時間がかかりました。材料が全て揃ってから始めましたので、全体を含めれば原型艦と同じくらいではないでしょうか」

「わかった。同型艦(サッカーボール)はもう一隻作ろう。ちょっと仕様を変えたのをもう二隻作るよ。建造は一隻ずつでいいから、完成次第知らせておくれ」

「了解です、マスター」

 イチと話ながら、隣の第三ドックへと移る。


挿絵(By みてみん)


「おっ………できてるね………」

「はい、マスター。艤装も終了、試験航海は本日行いますか?」

 前衛武装宇宙艦、いや、敢えて言おう、これはアンドロメダ級であると!

「うん、この後に行ってみよう。命名権は女王陛下にあるけど、どんな名前をつけられても、私の心の中では、この船は今も、この先もずっと、アンドロメダだわ」

「マスター、アンドロメダとはドロドロですか?」

「ん~、アンアンかなぁ……?」

 少なくともメダメダじゃない。

「おお、アンアンですか……」

 珍しくイチが納得していないようなので、補足説明をすることにした。


「私がいた場所にあった神話でね。怪物の生け贄にされそうになった、鎖に繋がれた美女の名前なんだよ」

「では、この船は鎖に繋がれているのですか?」

「目には見えないけれど、そうだね。鎖は戒め。美しすぎる自分を律することのできる美女」

 というまとめかたにしてみた。


「おお……」

 ネビュラチェーンとかの必殺技は持ってないけど、英雄(ペルセウス)の奥さんになれる気品はあるかもね。

「由来はともかくとして、『グレート・キングダム・オブ・グリテン』に倍する火力を有するからね。扱いは慎重にしたいところだね」

「了解です、マスター。この艦の同型艦は作られるのですか?」

「『グレート』の時には訊かなかったのに、どうして?」

 あまりよくないけれど、疑問に疑問で返す。イチの感性は真っ直ぐで、曲がりくねった私とは違うから、別の視点から迷宮艦を見ているかもしれないから。


「はい、マスター。『グレート』は『ドレッドノート』があったとはいえ、新機軸を盛り込みました。迷宮艦として、未だ試作段階だったのではないかと考えました。そこにこの艦は、ほぼ完成形といっていいものです。量産を前提にしたものではないかと思ったのです」

「なるほどねぇ……。迷宮艦はいまだ完成形はないと言っておこう。当面、後継艦は作らない予定だけど、まずはこの艦を就役させてから考えようよ」

「はい、マスター」

 無論、アンドロメダの後継艦といえば三門のアレだよね。でもさ、エスカレートしていったら、『魔導砲』二十門装備とかになっていくのかなぁ……。って、どこに取り付ければいいんだろうねぇ。



【王国暦127年3月25日 16:06】


 試験航海のついでに、ロンデニオン城に寄り道することにした。

 エミーに『アンドロメダ(仮称)』の完成を伝えると、是非見たい、とのことなので、お堀に着水した。ちなみに、このお堀の幅が、迷宮艦の幅を決定するものであったりする。スエズ運河の幅とかは関係ないし。


「お姉様、この船は……!」

「うん、連合王国海軍には所属させないと思うけど、最大火力を持つ。ある意味では女王陛下の最後の剣、というところかしら」

「美しい乙女のような戦艦ですね。艦名は決まっているんですか?」

「私の心の中では」

 そう言うと、エミーはなるほど、と軽く頷いた。『グレート』の時も、私の心の中に、別の名前があると知っていたのだ。


「では、『アンドロメダー』と名付けましょう」

「えっ!」

「古代の神話に、美しい乙女の話があるのです。美しさに嫉妬した神々のせいで、怪物の生け贄にされそうになり――――」

 聞いてみると、まるきりギリシャ神話の話と同じだった。この世界に同じ神話があるのも驚きだけど、それをチョイスするエミーにも驚きを禁じ得ない。まさか、前衛武装宇宙艦の話なんて、例の書架にあったとは思えないから、偶然の一致というやつなのかしら。長母音の有無は、表記の問題として、同じ名前と考えていいわね。


「美しいですね。色がピンクならもっとよかったのに……」

「えっ!」



――――その一言で、後継艦の開発が決定した。





超細かいぜ! 泣けたぜ!

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[気になる点] 半メトルは100センチ?: 半メトルx半メトルの大きさ、五十センチの高さの立方体。
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