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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
限りなく混濁に近い美しく蒼きグリテン
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秋のドワーフ村9


【王国暦125年10月4日 7:11】


 仮眠を取りながら、このドワーフ村迷宮について、管理コンソールから得られる情報を基に構造を把握していった。


 どうも、頭から地面に突っ込んだ格好らしく、どうしてこの姿勢なのか、と言えば、逆噴射の制動をするには、こうするしかなかったみたい。

 全体は円筒形を重ねた形をしていて、その周囲に三つのエンジンブロックらしき構造体があった。発想そのものは固体、もしくは液体燃料ブースターのそれで、中央の円筒形はどうやら燃料タンクだったみたい。だから元々仕切られていた円筒形、という表現の方が正しいかもしれない。


挿絵(By みてみん)


 最下層である管理層の先は尖ってはおらず、何らかの接続口が存在した。サイズと見た目から、ロンデニオン西迷宮地下にあった卵形の構造物に接続するものではないか、と直感できた。いやもう確信しちゃおう。

 管理層の下は謎の空間があって、少し空間に落ち込んでいた。今すぐ空間に落ちる、というわけではなさそうだけど、崩落する可能性があるわね。


 私としては超未来テクノロジーを期待していたんだけど、残っているデータから得られたものは、私が知っている元の世界の技術から、そう遠く離れたものではなかった。

 恐らく、このエンジンでは恒星間航行が出来るかどうか怪しいだろう。この星から一番近い恒星系がどこなのかは知らないけど、精々、近隣の惑星圏への移動が精一杯ではなかろうか。何となく、木星帰りの男が乗っていたヘリウム3採掘船に形状が似ているのもその推論を補強する。


 ロンデニオン西迷宮の卵型構造物は明らかに落下したもの。反して、この迷宮の構造物は不時着したもの。だからところどころに無事な意匠が残っている。

 データからすると、建造途中に何らかの要因があって、軌道上から落下することが想定されたため、制御して不時着、とあった。無事に不時着した遺物を再利用したものが、この、ドワーフ村迷宮である、と。


 迷宮の魔導コンピュータで使われていた文字列と船内に見える文字列は同じ言語体系であることから、この迷宮を作った存在は、この()()()の乗組員、もしくは造船した存在と限りなくイコールに近い。


 結論としては…………。この宇宙船は、この星由来の製造物である。ただし、万年単位で過去の遺物である。


「むう……」

 迷宮としての機能は、と言えば、三層の広大な空間に、よくわからない生態系が発生していて、元々はそういった生物を管理するプログラムがあり、それを基幹システムとして構築しなおしたと。


 果たして、この宇宙船がノアの方舟的なものだとしたら、当時のこの世界に於いても魔物が溢れていたわけよね。

 そうなると、ヒューマンを初めとした、いわゆる人型の生物は逆にちょっと異質で、それまでの生態系とはちょっと違う気がする。

 迷宮から得られる情報には、その理由を推察できるほどには書かれていなかった。

 だから、この迷宮を作った存在の全てが、この星由来とも言い切れない。宇宙人が自分の星に帰ろうとして作ったものかもしれないし。


「ふうん、歴代『船長(キャプテン)』の情報もあるねぇ」

 初代船長の名前は一応読めるけれど、ヒューマン語では正確に発音できなさそう。意味も何とかわかる程度だし、言語体系や、もしかしたら発声器官の構造そのものが違うんじゃなかろうか。


 このことが示すように、初代船長は恐らくはヒューマンに類するものではない。下手をしたらノーブルオークのような、知恵のある魔物の可能性すらある。

 この推論をグリテン王国考古学界の重鎮であるナサニエル師に報告したら、彼はどう判断するだろうね?


 推進機関については余り得るものはなかったけれど、構造体としての金属には注目すべき点が多くあった。チタンっぽい合金が大量に得られたことになるので、これもウハウハではある。この先史テクノロジーは魔法的ではなく、元の世界に近い。

 本職としては新しい発想の魔法やら何やらが得られるといいなぁ、と思ってたんだけど。


 そんな訳で、私の同型――――ドワーフ型形質五型――――は、魔法的に作ったものではなく、科学的に培養されたものだった。これに関連する技術だけでも相当なオーバーテクノロジーではあるけど、応用範囲がとてつもなく狭い。


 残されたデータによれば、こういったクローン技術は、それこそノアの方舟的なシステムに付随するもので、安住の地で培養し、遺伝子を継承しようという意図が見られる。

 迷宮側は、このシステムを利用して、迷宮に使役される存在として製造していた――――というのが真相みたい。その一環で防衛モードになった時、迷宮内に滞在している魂を強制的に取り込んで封入、使役するようになっていた。目が虚ろだったのは意思に反して、ということだったみたい。


『使徒』はそこに何らかの介入手段を見つけているらしく、本来は迷宮と『使徒』の直接的な絡みはない。

 ついでに言えば、この迷宮と『勇者召喚』の絡みはなかった。『勇者召喚』でやってくる肉体はいったいどこからくるのか……。オダの再召喚で指定通りの風貌に調整できたことから、もはやこの世界の概念とは違う場所から来てるんじゃないか……。などと思ったりする。


 そうそう、『勇者召喚』といえば、『ハーケン』が『勇者召喚』スキル持ちと相打ちになったとか何とか言ってたわね。『勇者召喚』スキルが自然発生したり、恣意的に与えられるものではないとしたら、マッコーと私と、あと一人か。

 マッコーは『使徒』の手先でもあったわけだから、召喚情報は筒抜けではあったのよね。私を倒そうと自ら召喚した時もあったけど、基本的には、単なる召喚システムの一つでしかなかった。マッコーの場合は王宮が依頼元だったわけよね。

 となると、もう一人っていうのも、どこかの王族や王宮に飼われている存在なのかもね。


 もう一人の生き残っている同型(ホムンクルス)、『カメラ』は姿をくらましているそうで……。往々にして、私の同型は、元の世界での死亡時に手にしていた物品を名前の由来にしてるから、『ハーケン』のフルネームが『カナビラ・ハーケン』らしいので、きっと登山中の事故か何か。


 では『デジタル・カメラ』はと言えば、何かの撮影中に死亡したんだろうか。隠密活動が得意云々っていうのは聞いたことがあるので……。何だろう、写真週刊誌のカメラマンとか、盗撮マニアだとか……その辺が前世の職業だったのかも。

 私? は謎ね。死亡時のシチュエーションがまるで思い浮かばないわ。



【王国暦125年10月4日 8:29】


 近未来培養槽を始め、目に付くものはとりあえず『道具箱』に収納することにした。

 というのも、この迷宮の管理システムは、ロンデニオン東迷宮以降のシステムとは違って原始的で、言語体系も違うため、後付けでセキュリティシステムを組み上げるよりも、ゼロから作った方が早そうだったから。

 それに、『使徒』が絡むなら、得体の知れない絡み方をされるより、彼らが介在できないよう、自分で決め直した方が良さそうだし。他の迷宮にない施設もあるので、取り扱いが面倒ってこともある。


 培養槽を収納した時には、

《やめろ》

 とメッセージが直接脳内に響いた。とりあえず聞こえないフリをしながら収納しちゃったけどね。

《くっ》

 だなんて歯噛みまで『神託』でくるようになった。


『神託』を受け取る際にユリアンやマザー・ウィロメラみたいに意識を失うことはなく、脳内に単に話し掛けてくる人物が三人増えた、という感覚。気絶しないのはLV10、もしくはLV11だから? それとも『神託』の送り側になったから? その辺りはちょっと不明。


 周辺の事情からは察していたし、実際に三者、とも言ってたからわかっていたことではあったけど、『使徒』に類するのは三人の人格だった。


 私に批判的な人格、傍観している人格、親愛を見せる人格。親愛の人格がどうやらアマンダかもしれないんだけど、本当に名前を無くしているらしい。言うなれば元アマンダ、ってところだけど、『元プリンス』みたいだなぁと思ったり。まあ、元アマンダ、っていうのも記号に過ぎないのよね。


 空虚な議論になりそうではあるけど、もっともっと大きな枠組み、それこそ世界の成り立ちから見れば、個人を識別する存在概念でさえも記号に過ぎないことになっちゃう。

 ああ、自分で何言ってるんだかわかんなくなっちゃったわ。これが哲学ってやつかしら。


 それはともかく、迷宮システムを再構築しないと外部に連絡も取れないから、急いでやっちゃおうっと。



【王国暦125年10月5日 20:20】


《ドワーフ村迷宮の掌握を完了。鉱脈の位置も把握した。周辺設備の整備に一ヶ月ほどかかる。このまま当該地域に留まり作業を継続する》

 仮のシステム構築を完了したため、短文が送受信できるようになった。

 早速ファリスとリアムに送信すると、即返信があった。


《ご無事でなによりです。作業の件は了解、女王陛下にお伝え致します。魔族領との交渉では、伝統の球技があるとのことで、対抗競技として提案を受けています》

 へえ、そんなのがあるんだね。球技? って何だろうね?


《了解、詳細をまとめておいてほしい。月末までには一度王城に戻る》

《了解しました。数日内には各戦域の状況もお知らせできるかと思います》

《了解、当地域への部隊残留は必要なし。即時帰還行動を取れ》

《了解しました。ドワーフ村に派遣中の防衛部隊はどうなさいますか?》

《そちらへは恒常的なグリテン騎士団駐留の口実として残留を》

《了解しました。女王陛下と相談の上、ドワーフ村の制圧に向かいます》


 ふっ、さすがファリスはよくわかっている。ドワーフ村は豊富な鉱物資源の採掘権をグリテンに掌握されてはいるものの、何がどのあたりに埋まっている、という情報は村の方で把握しており、軍事的な侵略を受けず、むしろ保護されるような形になっていた。経済的にはグリテン王国に取り込まれているけれども、政治的には独立している……というのがドワーフ村だったりする。


 歴代グリテン国王はドワーフ村の鉱物資源を管理する数人の集まり――――賢人会などというらしい――――に手を出せずにいた。彼らが鉱物資源の分布に詳しいからなんだけど、直下の迷宮と鉱脈の位置を掌握した現在では、その賢人会に存在意義はない。素直に王国に吸収されてもらおう。


 もしかして、魔族側と通じて今回の侵攻を手引きしていた――――なんて事実が出てきたら、ニッコリ笑って村の政体を解体することになる。インプラントを施しておけば、そのあたりの事実確認や政体維持も上手くいくだろう。


 顛末は私の方からもエミーに報告するとして、他の戦域はどうなってるんだろうね。短文が通じなかった間に溜まっていた未読を読むと、ラルフ率いるパープル防衛戦は完勝で、魔族領に逆侵攻中とのこと。イアラ海峡攻防戦は海域を制圧、実質的にイアラの各港は封鎖、島内は麻痺状態になっている。


 方針としては、より近く、陸続きで、戦力の大きい魔族領を先にどうにかする――――のは正しい。

 ファリスからは続報として、()()()()()()セスから得た情報も報告されてきた。

 それによると――――。


「『信託』持ちがいるのか」

 魔族領にも『信託』持ちが存在する。これは話の流れからすれば当然のことで、想定されていたことだった。驚くべきは、セスの――――彼は最近結婚したらしいのだけど――――幼妻が、その『信託』持ちで、ラスゴ公たるセスと同格であろう、エンジンの街を中心とする勢力――――仮にエンジン領と言っておこう――――の領主、つまりエンジン公の娘だというのだ。


 ファリスは意地悪にも、その結婚さえも『信託』による指示によるものなのか聞き出していて、仲良くなった『親友』のファリスに対して口ごもったそうだから、案外当たりかもしれない。

 ともかく、エンジン公の娘とラスゴ公のセスが結ばれたことで、魔族領の二大勢力が手を組んだことになった。エンジン公とラスゴ公によって、大きく四つにまとまった魔族領は緩やかに一つになった、と。

 統一劇を演出した、そのキーマンこそがエンジン公の娘だと考えると、『使徒』の仕込みは迂遠ながら、なかなかの成果を出しているように思う。


 と、なると、だよ?

 だってばよ?


 イアラランドに齢二歳の女王がいるって話も、もしかしてもしかしたら、もしかするぞ? 『使徒』の仕込みかもしれないぞ?

 いずれ、私も、そんな迷惑な一味(しと)に成り下がるということか。

 本気で死にたくない、と思った。



【王国暦125年10月9日 10:07】


 迷宮の管理システムは、その施設に合致したものでなければならない。

 たとえば、以前、ロンデニオン西迷宮やポートマットで、遺品返却システムを作った時も、それに合う管理プログラムが必要だった。


 その流れで言うと、新規に起こさなければならない魔法陣が多く、テストして修正してを繰り返し、できたものはアッセンブリとしてまとめ、お腹が空いたら焼きそば弁当。


 いい加減体臭がソース臭くなったんじゃないかと自虐的に思ったところで、一通の短文が送られてきた。


「ほうっ!」

 やはり来たか、と唸ってしまう。程なくしてもう一通がやってきた。


「ちょっと時期がズレてるかなぁ」

 最初の短文は、グリテン島と大陸との間、ロンデニオン近くの海中に潜んでいる超ド級から。大陸の北部からグリテン島に向かう大船団を捕捉した、とのこと。その数四十四隻で、まあ、普通に考えれば商船団ではない。


 もう一通の送り主は、ポートマット南方の海中に潜む大型潜水艦、その名も『ホワイト・セプテンバー』から。この潜水艦は、かつてレックスから貰ったヒントを基に制作した超大型ミサイル『ハリケーン』を搭載するために作った。武装が超大型ミサイルしかないので…………大量破壊しかできないという大雑把な戦略級潜水艦。艦長はショーン・コネリーじゃなくて、ノーブルオークだけどね。


 で、その大雑把な潜水艦が南方よりポートマットに向かう大船団を大雑把に捕捉、大雑把な攻撃の許可を求めている。船団の数は大小併せて五十隻ほど。範囲が広いので、搭載している『ハリケーン』二発で全滅には追い込めないかなぁ。

 でも、私が動くに動けないから、艦に搭載しているアバターにチェンジして対応することになるか。


 船団が二方面から襲来中である、という報はエミーにも送った。

「うん、そうだろうねぇ」

 即返信があり、内容は『両艦に対して攻撃を許可。敵船団を殲滅せよ』だった。これで四勢力、五方面から攻撃を受けた事になるか。『使徒』め、どんだけ仕込んでたんだろうねぇ。

 まあ、受けきってみせますが!



――――やっちゃえ、バーサーカー! ってことらしい。





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