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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
ウォーク・ライク・ア・グリティッシュマン
753/870

※ロンデニオン東迷宮の攻略3


【王国暦124年11月4日 1:52】


 第九階層は噂通りに水没したエリアで、見るからに電気系の何かがウヨウヨ泳いでいた。水中に時々紫電が見える。


「クラゲとエイ?」

 食材としては申し分ない。しかし、向こうもこちらを獲物だと見ているようで、虎視眈々と、私が水の中に入るのを待ち構えている。

 おっ、跳ねた。でっかいエイだなぁ……。エイって跳ねるものなのか……。その平べったい胴体は、まるで元の世界にあった潜水艦、タイフーン級を思い出させる。中に渋いオジサマ(ショーン・コネリー)がいるなら是非解体してみたい。


 岸の縁に立つと、水の中からバッと注視された。量産型綾波レイに見つめられたような錯覚に陥る。あのシーン、一人欲しいとか思ったのは私だけじゃないはず。赤木博士の罪は重いわね!


「うーん……」

 どうしようか……。とりあえず雷の杖を突っ込んでみるか。

「――――『蓄電』」

 水の中が電気で満ちているわけではないものの、それにしては一度に大量の蓄電がされた。そのまま、水の中に雷撃を放ってみる。

「――――『サンダーブレー○』」


ボンボンボン!


 複数箇所から破裂音が響き、大きな泡と共に、何体かのエイが浮いてきた。あれ、シビレエイなのに感電したのかしら? 爆発で気絶しただけかな?

 再度、このパターンを繰り返してみるも、さらなる釣果は得られずに落胆する。

「ちっ、時化てやがる」

 さざ波も立っていない迷宮内の池だけど、そう嘯きたくなる。


 仕方がないので水を抜いてみることにした。そのまま液体では『道具箱』に入らないので、凍らせてから。

「―――『氷結』」

 ビキッ、と岸から凍っていく。シルフに言って、凍ったところから切りだしてもらい、氷の塊を『道具箱』に収納していく。


 こうして『蓄電』『サン○ーブレーク』をして電気魔物たちを威嚇しつつ、凍らせて水量を減らしていくと、奥の方に出口があるのを見つけた。


 池の中央部にすり鉢状の凹みがあって、そこに残った水溜まりにクラゲとエイが密集していた。お互いに触れ合うことで感電しあっている、世紀末な光景が見える。どうも、このフロアの魔物バリエーションが乏しいのは、淡水に限っていたからか。キラキラ光るクラゲと、その幼生体と思われる小さな生物がヒクヒクと蠢いている。

「よっ、と」

 あれだけ密集していれば、そのうち酸欠で死ぬだろう。凹みに入れなかった、ピチピチ跳ねているエイと、グッタリしているクラゲの脇を通りながら、階層の出口に向かう。

「――――『○ンダーブレーク』」

 ご丁寧にも水路の出口だったところにあった転送魔法陣を吹き飛ばし、悠々と第九階層を突破した。



【王国暦124年11月4日 4:27】


 第十階層はもぬけの殻だった。ここは仕切りのない、一階層分が一部屋になっていて、本来は、いわゆる『迷宮ボス』に相当する魔物が鎮座するフロアだったのだろう。


 四角に一つずつ台座があり、それを動かすと、違うところで何かが動く音がした。パズルになってるみたいで、何度か動かして正解を見つけると、中央部に魔法陣が照らされるように現れた。

 転送魔法陣……。記述を見ると、外部に行くようにはなっていない。汎用のものではなく、下の階層、つまり管理層に向かうように書かれていた。

 疑うことなく魔法陣に乗ると、瞬時に風景が切り替わった。


「――――『障壁』」

 転送された地点には数十本の槍が放たれていた。こんなこともあろうかと『障壁』を展開しておいたので、難を逃れた。

『障壁』を維持したまま、そっと魔法陣から逃げる。十分な距離を確保したところで『障壁』を解除する。


 ドガッシャーン、と背後で槍同士がぶつかり合う。

 と、そこに赤いガスが流れてきた。こんなこともあろうかと耐毒マスクを被り直し、周囲を観察する。


 ここは罠部屋みたいで、出口は見当たらなかった。槍の射出口が空いているだけ。穴があったら入れてみろ、と偉い人は言ったとかナントカ。大量にあった槍の一本を手にして、穴の奥に穂先を向けて槍をセット。

「頼むねー」

《わかったわー?》

 有線で繋がっている関係であるシルフが、すぐに意図を理解してくれた。迷宮の防御というのは急な衝撃に対しては跳ね返したり、強固だったりする。その反面、弱い力であってもジワジワ攻めるとダメージとして構造物に蓄積していく。


 穴に入った槍はシルフによる方向付けの影響でジワジワと進んでいき、発射装置と思われる構造体を突き破る。それほど大きな衝撃ではないものの、奥の方から大きな破壊音が聞こえて来た。


「ふむ……」

 全周囲にある穴でこれをやれば、どこか破壊しやすい場所が見つかるだろう。地道な作業が時には大事なのよね。

 それにしても、迷宮の魔力吸収を高めてあるのは常道とはいえ、精霊たちも動きが鈍くなっているわね。精霊は意思のある魔力である、という説が正しいことを証明しているけど、魔力効率が悪くなるのは現状では死活問題よねぇ。



【王国暦124年11月4日 5:01】


 十四本目だか十五本目で、破りやすそうな場所を発見した。槍をその方向に集中させて挿入すると、施設の破壊に成功、罠部屋を覆っていた壁の裏に入ることができた。そこから無理矢理顔を出すと、そこもまた、部屋の中だった。


《警報:管理階層東南エリアで重大な破壊行為を確認》

《警報:侵入者が管理層に到達》

《警報:東南エリアの封鎖を開始》

《警報:施設の不具合により東南エリアの封鎖に失敗》

《警報:中央通路隔壁の封鎖を開始》


 部屋の中で警報が鳴り響き、侵入者である私に各種情報を与えてくれた。これさえも欺瞞情報だったら大したものだけど、知る限り、迷宮が発する警報は、そこまで捻くれていないはず。警報から得られる情報を信じるならば、今いる場所は東南の部屋ということ。


 罠の部屋であると同時に、魔物の保育施設でもあったようで、薄く生物の残滓っぽい臭いがする。

 出口の扉は施錠されていたけれど、テーテュースに言って、指先に精霊を集めてもらって壁に押しつけ、小さく円周の形をなぞっていく。精霊の使用を最小限にしているのは迷宮の魔力吸収対策。私が通れる大きさの穴が作れればいい。

《まわ……す?》

「うん、ゆっくり、削り取るイメージで」

 実はこれだけで迷宮の壁って破壊出来たりするのよねぇ……。実際問題としては、疑似魔法でゆっくり削っている間に使用者の魔力が枯渇するほどの硬度だし、精霊魔法使い対策をしておけば現行の防御魔法で問題なさそう。


 そうなると強引に突破できるのは、現状では私だけ、ということになるのかしら。人力でコツコツ削る突破方法も正解なんだけど、それに気付く人は変人か、コロンブスくらいだと思うのよね。


ゴトッ


 よし、穴が空いた。

 丸い壁材を蹴って押し出した後に穴をくぐり抜ける。

 キョロキョロ、と左右を確認する。左手は行き止まり、右手の、中央に向かう通路は隔壁で封鎖されていた。


「無駄なことを……」

 露骨な時間稼ぎに嘆息する。通常の迷宮構造物を破壊して突破できる存在に対しては、基本的には何をやっても無駄。これはロンデニオン西迷宮でも変わりはない。


「んー?」

 迂闊なのか、穴を空けた位置が良かったのか、正面、つまり西側には扉があった。

 ということで、一応は施錠してあった扉をこじ開ける。

「おや……?」

 西の部屋に入ると、布製品が多いのに気がつく。ガスマスクを外して視界を確保し、観察する。


 散乱した書籍と羊皮紙に残る真新しいインク痕。寝具や生活用品を使った形跡、生活の痕跡はあるのに、酸化した皮脂の臭いがしない。生物がここにいた感触がない。その代わりに、微かに漂う、嗅いだことのある、この臭いは……?


「干物……?」

 そうだ、乾燥肉の臭いがする。

 パッと思い浮かぶのは、先輩(ホムンクルス)のミイラだ。この階層が管理階層だとすれば、その面積の1/4を贅沢に私用できている事実に鑑みれば、迷宮管理者に間違いないだろう。そして、その人物はすでに人ではない。不死者である可能性がある。


 しかし、不死者はコントロールしやすい魔物の一つで、インプラントの発想の元になった魔物でもある。そんな魔物を迷宮管理者に据える感覚は危険に思えた。

 あ、でも直接の接触がなければ問題ないのか。なるほど、そりゃ逃げ回ることになるわけか。


 南西の部屋を家捜しして、特に面白いものがなかったので、北西の扉を開ける。内側からは問題なく開けられた。そこから中央方向を見ると、間抜けなことに中央管理室までの隔壁は閉鎖されていなかった。


 スキップをしながら中央管理室へ入ってみると、そこには人工魔核もないし、管理コンソールも、投影型ディスプレイもなかった。せり上がる形でコンソールが収納されている形跡はあったけど、ここに魔導コンピュータに至る転送魔法陣がなければ、この管理室を制圧したところで何の意味もない。

 損をした気分で北側の通路へ抜ける。

 と、左右に扉があった。

 ここまで時計回りに進んできたので、迷わず左の扉に入る。


「おお~」

 北西の部屋は、天井に届く棚が並ぶ、西迷宮に匹敵する素材、魔道具の倉庫だった。私にとっては最高のお宝だ。思わず顔が緩む。


 大型の魔道具置き場と思われる場所には、人型に整備されている状態の『ボル』があった。『ボル』はタロス03を簡易化する意図で開発されたと言われている。タロスシリーズが本質的にはアバターの類であるのに対して、『ボル』は最初から人が操縦する、という概念で建造されている。目的は、といえば、迷宮に配置されていたことから考えて、迷宮間戦争の兵器として、だろう。


『ボル』は記録上、三体が製造されたという話で、そのいずれもが私の手によって土建マシーンに生まれ変わっている。つまりここにある『ボル』は四体目ということ。

 一応人型にはなっているものの、装甲パネルは剥き出しだし、明らかに整備中の様子ではある。こんな大きさのものが西迷宮の入り口から内部に入れるとは思えないけど、迷宮外では魔物の軍勢の統制、その旗機として、『魔物使役』を防止する役目を果たす。それだけでも十分に脅威だと思う。


 問題は……三体ではなく四体目があったということは、これを作る能力が、この迷宮、いや迷宮管理人にはあるということ。ここまでは苦戦っぽい苦戦はしなかったけど、魔道具的に補強された個体ならわかんないわよね。


 備えあれば憂い無し、武器を確認しておく。光剣を右手に、雷の杖を左手に。第三腕の掌には銅弾を数発、第四腕は盾の保持のためにフリーにしておこう。闇短剣を二本、鞘に入れて腰に装着。念のためにガスマスクも装着しておこう。うーん、こうなってくると、もう少しラブリーなデザインのマスクが欲しいなぁ。さすがは女王陛下というべきか、ピンクのガスマスクが正解だったような気がして仕方がないわ。

 倉庫を出て、東北の角部屋へ向かう。何ががいるとしたら、ここよね。


挿絵(By みてみん)



【王国暦124年11月4日 5:41】


 東北の部屋の入り口には魔法陣がなかったので、キョロキョロしながら中に入る。入ってすぐ、背後の扉が閉まる。

 入り口の脇には全高一メトルほどの人型石像が二体、安置されていた。形状は違うけど、『阿・吽(あ・うん)』の口の形をしている。けっ、どうせ動き出すんだろうな……。前に視線を戻すと、グラスメイドたちが武器を持って四体ほど立っていた。さっきは痕跡だけだったけど、東迷宮にもちゃんとグラスメイドが存在するんだなぁ、などと呑気な感想を持つ。


『排除』

『排除』


 グラスメイドたちの咽頭に記述されている発声器官を模した魔法陣から、容赦のない怨嗟の言葉が発せられる。

 その言葉を聞くのはしのびないので、速攻で銅弾をお見舞いする。

『排……』

 ガラスが砕ける音と共にグラスメイドが倒れる。グラスメイドを動かしている中枢の魔法陣は胸の中央部にある。倒れたグラスメイドに、光剣を突き刺す。


『…………』

 魔力によって統制されていたガラス素材が結びつきを弱め、人型のガラスの粉へと変わる。


「アアアアアアア!」

「ウンンンンンン!」


 グラスメイドを処理している間に、石像が動き出していた。鉄製の槍を手に持ち、背後から襲いかかってくる。

「――――『粘糸』」

 銅弾を射出していたので第三、第四腕がフリーになっている。指先から糸を出して石像に絡める。造形は洋風なのに、阿吽、って言ってるだけで東洋風に感じるから不思議。

 この阿吽の石像は想像通りゴーレムの一種みたい。元々、ガーゴイルを運用する仕組みはOS(めいちゃん)に含まれているから、驚くことではない。

 動きが鈍くなったところで石像の背後に回り、手を触れて『魔力吸収』を行う。先にこれをしておかないと、内蔵されているだろう魔核を破壊した時に爆発することがあるから。


「――――『魔力吸収』」

 動きを止めた一体目の魔核を破壊しようと、光剣を逆手に持ち替えたところで―――――。

「!」

 急激に膨れ上がる魔力反応に、思わず飛び退く。


ブオオオ!


 水系魔法だ!

 第四腕のビームシールドで防ぐも、あまりの高圧に吹っ飛ばされる。

 ゴロゴロと転がりながら頭の中が『?』で満ちる。何だ? 魔法による攻撃? この部屋には、粉になったグラスメイドと、阿吽ゴーレムしかいないはずなのに――――。


 いや、もう…………五体? いる!?

 部屋の奥から、金属製? の――――アバター? しかしこれは………?


挿絵(By みてみん)


 荒いポリゴンでカクカクのデ○ラル…………?



――――十年早いんだよ!?





※CV:三木眞一郎。どうでもいいけど、ストⅡのサガットも三木さんなんですねぇ。

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