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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
ウォーク・ライク・ア・グリティッシュマン
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ロンデニオン東迷宮の攻略2


【王国暦124年11月3日 23:19】


 胞子にまみれてしまったので一旦『洗浄』と『浄化』を行い、さすがにチュニックでは厳しすぎるので、黒いダイヤモンド鎧に着替えた。右手には光剣、左手には闇短剣。

「むんっ」

 第三腕、第四腕を出して、両肘にはビームシールドを装着。右の第三腕には雷の籠手を填める。左の第四腕は雷の杖を持っておく。これは通常の魔法行使と兼用ね。

 これでフルアーマー状態……でもないか。左手の闇短剣は腰の鞘に入れて、代わりに銅弾を十発ほど握っておく。


 上をチラリと見る。光るスライムは不承不承ながら第五階層に進出してくる魔物を足止めしてくれているみたい。

 視線を移して踊り場から下を覗き見ると、第六階層の入り口の扉は開放されていて、槍を手にしたリザードマンがウジャウジャと待機していた。

「――――『発電』『蓄電』」

 入り口付近には『転送』の魔法陣があった。まずはあれを――――。

「――――『サンダーブレ○ク』」


カッ


ドン!


 リザードマンごと魔法陣を破壊した。魔法陣そのものは破壊できなくても、それが記述してある床は強化されていない。周囲を吹き飛ばせば、結果として魔法陣は歪み、用を為さなくなる。

 大音響で恐れをなしたのか、リザードマンは近寄らずにジリジリと後退していく。私は雷撃を続けながら踊り場から階段を降りていく。

 第六階層は仕切りがなく、軍勢として展開が可能なフロアみたい。都合がいいので、入り口からバンバン雷撃を放つ。

「ギオエオオーン!」

 おお、大物がいるわね。煙で見えないけど、とりあえず雷撃をぶち込んでおこう。

「――――『サンダ○ブレーク』」


ドン! ドン!


「ギャオオオオオオオオオオォ!」

 当たってる当たってる。当ててんのよ!

 その後、二十発ほど撃ち込むと、第六階層からは生物の気配がなくなった。埃と、血肉の臭いが漂い始めると、私はいそいそと魔核の回収を始めた。



【王国暦124年11月4日 0:08】


 数が多けれりゃいい、ってものでもないと思うんだけど、このフロアのリザードマンは全部で五千匹近くいたみたい。でっかい高級魔核が一つ、中級の魔核が三千個ほど採れた。残りの二千は回収が間に合わずに迷宮に吸収された分と、破損して使い物にならなかった分。随分と急いで吸収されたなぁ。

 ボスは中型のドラゴンだったみたい。みたい、なのは大きな肉塊が残っていたから。ただし、それの元の形は判別が付かなかった。グチャグチャに肉がぶちまけられた床は、その肉塊の元が肉食だったことを示していて、とても臭う。


 ところで『中級魔核』と『中級人工魔核』は大きさも違うし、内在する魔力も違う。比較する対象にそもそも差があるわけね。昔の偉い人が迷宮管理用に作ったものが人工魔核。そのサイズからするととんでもない魔力量が注入できることになる。これもまあ、オーバーテクノロジーってやつなんだろうね。


「ふ~」

 魔核の回収に時間を取られた。でも、これをやっておくと地味に迷宮にダメージを与えられる。こういう、嫌らしい攻めをしてくる相手に対して、私ならどうするかしら? 戦力の逐次投入はこの場合愚策よねぇ。かといって密集させるとそれも雷撃で排除されちゃう。となれば、強い個体を一気に配置して、連携させて攻撃してくるかしらね。



【王国暦124年11月4日 0:39】


 第七階層はほとんど無人、っていうか無魔物? だった。うーん、敵も然る者、恐らく次の第八階層に魔物を集約してるんだわ。第七階層は割と細かく仕切られていて、大軍を配置しづらい、ということもあるんだと思う。

 第八階層の転送魔法陣を破壊して、意気揚々と扉を開けた途端、雷撃が襲ってきた。

「――――『蓄電』」

 ゴロゴロ、と転がりながら第八階層に入り、吸い取った電力で、雷撃が向かってきた方向へ撃ち返す。

「――――『サ○ダーブレーク』!」


ドン、ドン!


 着弾の音が響くと同時に、真正面から危険な魔力の高まりが感じられた。

「むん!」

 ビームシールドを二重に構える。


「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 迷宮の中では火系は御法度だというのに、大型の魔物は構わずに炎のブレスを吐いた。

《いじるわよ?》

 シルフが宣言すると、炎のブレスをねじ曲げて、他の、魔物がいそうなところに向けた。


「シャッ、シャアアアア! アアアアア!」

 こちらに迫ろうとしていた巨大カマキリが足を止めて、炎に包まれていく。十体ほどいたカマキリが暴れ、すぐに力尽きる。キチン質が焼けた匂いが香ばしい。

「……………」

 その背後にいたデーモン……鑑定結果を見るにアークデーモンだそうな……が、炎を寸断しつつ、こちらに接近する。

「フッ」

 左手に握っていた銅弾を指で弾く。

「……………!」

 アークデーモンの額に直撃、脳天に穴が空き、倒れる。も、さすがは悪魔というところか、どういう理屈かは知らないけれどすぐに再生して突進を再開する。

「むん、むん!」

 銅弾を連打する。アークデーモンはもう一体いる。そちらには雷撃を連発して足止めを行う。


ドン、ドンドン!


 手持ちの銅弾を使い切る頃には、再生が追いつかず、アークデーモンは呆然と足を止めた。

「逝ね」

 腰の鞘から闇短剣を抜き、アークデーモンの首と胴体を切り離す。音もなく、バターを切るかのように悪魔は二つに分かれた。ゴトン、と首が落ちる前に髪の毛……ちゃんと髪の毛があるんだよね……を掴んで、強引に『道具箱』に入れた。

 首の無いアークデーモンは、無いはずの頭を抱えるポーズを見せ、痙攣し、倒れた。心なしか体が透けて見える。


 悪魔も恐怖を感じるのだろうか、もう一体のアークデーモンは、露骨に背中を見せて、第八階層の出口へ向かおうとした。


「ゴアッ、ゴアッアアアアアアアアアア!」

 ドラゴンの一つ覚え、大型の魔物は巨大な地竜(アースドラゴン)だった。アースドラゴンは羽根が退化した代わりに四肢が発達しているようで、巨体の割には素早い。


 そのドラゴンがアークデーモンを威嚇して、私と正対することを強要する。意訳すると、何ビビッてんだテメエ、行けよ! って言ってるみたい。

 その意思が、ブレスに乗る。火のブレスは周囲に被害が及ぶだけだということに気付いたのか、火の属性を混ぜずに魔力だけを塊にして吐き出した。


「っ」

 ビームシールドで受け止めつつ、飛び散った魔力を吸収する。

「――――『魔力吸収』『死角移動』」

 逃げようとしていたアークデーモンの背中に移動、そのまま切りつける。

「っ! っ……!」

 すぐに傷が治るも、滅多切りを続けていくうちに動きが止まった。


 アースドラゴンはアークデーモンごと薙ぎ払おうとブレスを吐き、そのまま近づいてくる。

 そうそう。そもそも体格差があるんだから、そうやって肉弾戦を挑む方が正解だと思う。このアークデーモンみたいに背中を見せるのは論外だと思うけど。

 アースドラゴンの頭部は二メトルくらい? 全長で言うと十メトルくらい? 大柄な体躯にしては素早いわね。ある程度近づいたところでクルッと身を翻し、尻尾を振るってくる。

 尻尾というよりは壁が迫ってくるような感覚。

 これにはテーテュースが対応する。

《切れる……?》

 根元に向かって、空気中の水分を厚く束ねた水刃が放たれる。

 スパッ、と軽快な音を立てて、アースドラゴンの尻尾と胴体が切り離された。


「アゴアッ?」


 尻尾の方は慣性でそのまま迫ってくるも、切り離された体の方は、あらぬ方向へと飛んでいった。迫り来る尻尾は、ライト・ザ・ブライトが、ゆで卵の如く細かく輪切りにした。断面が焦げて、良い匂い。でも血抜きはした方がいいのに、流血も止まっちゃったか。このままだと臭みが出て、ドラゴン肉の真価は発揮できまい。ドラゴンステーキはまたの機会かしら。

「ま、いいか」

 輪切りの一つを『道具箱』に入れておく。

 吹っ飛んだアースドラゴンは、尻尾がなくなり、バランスが保てないのか、立ち上がることが出来ずに藻掻いている。


「ゴア……ア……ァ」

 ゆっくりと歩み寄り、『魔物使役』を行使して大人しくさせる。

 近くで見るアースドラゴンは巨大な爬虫類には違いない。断ち切られた鱗からは魔力が抜けていたものの、体に付着している鱗には魔力が通っていた。なるほど、これは魔法生物なんだわ。じゃないと、こんな大きな体を動かすことなんて出来ないもんね。


「この程度じゃ死なないでしょ。縁があったら治療してあげるから、それまで大人しく待ってて?」

「ギュァァ」

 くっさい息を吐いて、アースドラゴンは甘えるように了承した。ドラゴンでも強者には阿るものなのか、単に『魔物使役』の結果なのか、それはわからない。


 どうやらこの第八階層、本来の主力は昆虫で、カマキリの群れがボスに相当してたみたい。あちこちにカマキリのものと思しき卵鞘が点在していて、一部の卵鞘からは子供カマキリがゾロゾロと顔を出していた。巨大カマキリの子供だから、一令幼虫だとしても体長は二十センチメートルほど。白くて柔らかそう……ホワイトアスパラガスみたいな……焼いたら美味しそうだなぁ、なんて涎を垂らす。

 と、そんな私のゲテ食い気を敏感に察したのか、数百匹の子供カマキリが一斉にこっちを向いた。非業の死を迎えた親カマキリの無念を私に向けたというのか。ちょっとイラっとしたので『威圧』すると、体を揺らしながら、チラチラ、と波打つように逃げる様に、通報しますた、みたいなアスキーアートを思い出した。こっちみんな。


 第八階層の最奥にも私の雷撃、アースドラゴンのブレスの被害は及んでいたようで、すでに転送魔法陣は壊れていた。

「おや……?」

 魔法陣の痕跡と共に、ガラスの破片もあった。丁度グラスメイド一体分ほどで……。

「うーん」

 迷宮管理者がいるのは間違いない。戦力の集中を図ってきたし、このグラスメイドはアバターだったのかはわからないけど……様子を見にきたのかしら? 迷宮のシステム(めいちゃん)で見られるはずだけど、何をしにきたのかなぁ?

「ま、いっか」

 先を急ごう。



――――ここまでは順調……かな?





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