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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
ウォーク・ライク・ア・グリティッシュマン
750/870

火の神託

いつもご愛読ありがとうございます。

新章であります。


【王国暦124年11月3日 14:19】


 実のところ、ニヤリとした短文の表題(タイトル)というのは、ユリアンからものでも、ブリジット姉さんからものでもなく、マッコーからの短文だった。

「ご相談、ねぇ……」

 往々にして、国策会議の場では、エミーと私が提案して、マッコーが困惑して泣きながら譲歩を懇願する――――というのがパターンなので、マッコーから相談などされたことはない。


 マッコーの短文の内容は、ただ『相談したいことがあるので会いたい』とのことだった。水の精霊(ウンディーネ)以外に嫁が欲しい、とかじゃないよなぁ、だなんて訝しげに思っていたけど、ユリアンからの短文の内容が神託絡みだったので、ピン、と来た。

 マッコーに連絡を取ってみると、相談の場所が聖教本部だったので、余計に確信した。こちらは明日の朝に聖教本部へ向かうことで合意を見た。


 相談とやらを受ける前に、事前情報が必要だろうと思い、ポートマット西迷宮のアバターにチェンジして、ユリアンとフェイ、トーマスと話し合うことにした。


「グリテン山脈の頂上にて、火の精霊を倒してこい、とのことなんです」

「倒してこい、なんですか? 契約してこいとかじゃなくて?」

 ユリアンの説明に疑問符を投げる。

「そうなんです。今回は条件が付帯していまして、それが――――」

「……勇者オダを連れて行くことが条件らしい」

「はぁ?」

 何でまたオダ? ううーん?

「すでに勇者オダとは面談をしたらしいのです」

「? ユリアン司教がですか?」

 ユリアンが首を横に振った。

「いいえ、ネイハム司教がポートマットに来訪しているのです。何事かと思っていたのですが、オダと会っていたようです。そこで承諾を得ているそうですよ」

「えー? ということは勇者オダが、マザー・ウィロメラ一派の、新たな手駒ということですか?」

「状況を見ると、そう捉える方が合理的だろうな」

 トーマスが肩を竦める。本来、勇者は世界にとって歪みであり、害悪であるはずなのに、『使徒』は勇者オダを手駒にしようとしているのだ。以前から勇者召喚を行って手駒にしよう、という傾向はあったものの、ここまで顕著だと笑うしかない。


「……つまり、勇者オダが火の精霊? とやらと契約できるように補助しろ、ということだろうな」

「わざわざ敵を育てろという『神託』なんですか……」

「……確かに、お前を倒すには、一工夫、二工夫では足りなかったわけだしな」

「ここのところは、あからさまに殺しに来てますからねぇ」

 今回も罠臭がプンプンしやがる。


 ホムンクルスに魂を封じた召喚者―――――そう言い切っていいだろう――――が暴走を始めたから排除にかかる。それはわかる。そうならないように動いてきたつもりだし、そうなっても対処できるようにしてきたし、実際に対処した。


「うーん、細心の注意を払って言いくるめて無害化した勇者が、ここで復権してくるのは、何だか苦労を無にされたようで、気分の良いものではありませんねぇ」

「逆に言えば、ホムンクルスの補充がままならず、代替手段としての勇者召喚も使えなくなったが故の苦肉の策、ということではないでしょうか?」

 さすが司教様、私の愚痴を諫めてくれる。即座にポジティブ転換できるところは聖職者だなぁ。

 その通り、過去に召喚した勇者の再利用と言えなくもない。そうなるとフレデリカも怪しいなぁ。


「そういう言い方も出来るか。ネタ切れ、というやつか?」

「……『勇者召喚』が可能な人材はマッコーキンデールと……お前だけか?」

 グラスアバターの私は大袈裟に頷く。

「インプラントをする前提であれば、私の手駒として勇者召喚してもいいんですけど、面倒じゃない召喚勇者に会ったことはありませんしね」

 今の段階でも、やろうと思えば迷宮を大事に思う勇者軍団を作ることは可能だ。だけど元の世界に生きたことのある人間には不測の要素が多く、積極的にやろうとは思えない。


 歪みを生む勇者を召喚する人物が『使徒』の手先であるマッコーだったことを考えると、これはマッチポンプでもあったわけよね。当のマッコーによれば、『使徒』の要望によって勇者を召喚したケースもあったそうな。ところが、別の『使徒』が私に指示を出して処理されてしまったんだと。この世界にいる人間から見ると不毛なことをしているけど、『使徒』は『使徒』で色々あるわけね。エミーを女王に据えるのも一つの目標だった、とするならば、私へのフォローがあるのは必然で、その反面で疎ましくも思われていると。


 つまり、『使徒』にとっては、私の同型を創り出すことよりも、勇者としての召喚の方がずっと簡単らしいということ。どういう理屈かは知らないけど。

 勇者処理担当者を倒すために勇者を召喚しなきゃいけないのも、物凄く非効率な気がする。

 その意味では『不良債権』と化していた勇者オダを再利用しよう、と考えるのは正しいのかしら?


「まだ大陸には勇者召喚が可能な人物がいるはずです。伝え聞く話ではハーケン、カメラ、共に活動中とのことでしたし……」

「……しかし、彼女たちは活動を始めてからそろそろ十年を過ぎるころで、通例よりも長期間活動をしている。……いつもの――――」


 そこでフェイはハッとなって言葉を止める。()()()()、ホムンクルスの()()の時期が近づいているのだろう。幸いにして――――いや不幸にして? 私自身は亡くなるホムンクルスも、新しくやってきたホムンクルスにも出会ったことはない。

 ああ、ミイラになってたのには会ったっけ。あれはカウントから外してよね。


「気遣いには及びません。まだ研究を始めたばかりですけどね。どうにかなるでしょう」

 寿命の話には皆、敏感になってきている。薄々と、私がいなくなった時を想像し出したのだ。楽観的なわけじゃないけど、この場を安心させるために、そう言っておく。


「……うむ……」

「それで、支部長、一つお願いがあるんですが」

「……なんだ?」

「カレン姉さんを王都に寄越してはくれませんか? でっかい盾を持ってましてね。火精霊の攻略に必要そうなので」

「……わかった、手配しよう」

 フェイが快諾する。

「まともに正対するつもりなのか?」

「いえ、装備を調えてからですね。期限はあるんですか?」

「聞いていませんね」

 ユリアンが答える。

「では、せいぜいゆっくりやりますよ。オダはまだポートマットにいるんですよね?」

「……今朝、ネイハム司教と出発したはずだ」

 ということは、ネイハム司教……にオダに会うように伝えたマザー・ウィロメラには、もっと前に『神託』が来ていたことになるか。

「くれぐれも注意して下さい。『使徒』の真意が読めることなどあまりありませんが……」

「今回も読めないな……」

「まあ、何とかなりますよ。それではまた」

 心配そうな三人を宥めつつ、ポートマットのアバターから本体に戻った。



【王国暦124年11月3日 15:26】


 私は『ラーヴァ』用を含めて、有用な戦闘装備を一式『道具箱』に詰め込んで、日が暮れないうちに冒険者ギルド本部へと向かった。

 移動中にロンデニオン騎士団、ブリスト騎士団とその関係者に短文を送る。必要な人材を手配するためだけど、歩きメールは良くない! とわかってはいるものの、なかなかやめられないのよね。

 ああ、多忙感をアピールしちゃってるなぁ、と自分でも恥ずかしいのよ?


 本部に到着すると先に本部長室に通された。

「おう、ドワーフの娘よ!」

 ザン本部長と面会するも、ザンはこの一年、いや半年で随分老け込んだような気がする。

「どこか、お体が悪いのですか?」

「ん? 古傷がな。こういう、半端に治ったのが一番性質が悪いな!」

 ガハハ、と豪快に笑うザンだけれども、心なしか元気度が二割減に感じる。以前にティボールド・ヤングの欠損部位を治したことがあったけど、半端に修復されてる傷は治り難いのよね。


「時間が空いたら治療に来ましょうか?」

「そうしたいのは山々なんだがな……」

 ザンが腕を組んで首を捻ったところで、ブリジット姉さんがしなやかに本部長室に入って来た。なにやら色んな書類を抱えていたので、ドアも足で開けたようだ。やべえ、あのしなやかな足が伸びているのが気になる!


「不作法をお許し下さい。お待たせしてすみません」

 これも足でドアを閉めると、冷静な表情のまま、謝罪をする。テーブルの上に書類をドサッと置いて、『遮音』結界を張ると、しなやかに腰を下ろした。

「悪いが治療の話は後回しだ! 今回は割と緊急事態なのでな!」

 ザンが吠えるように緊急事態を宣言した。

「この書類を全部見て頂ければわかりますが、王都東迷宮に内在する魔物が、低レベルのものを含めると計算上は五万体を超えているようです」

 沈痛の面持ちをしているブリジット姉さんは、それでもしなやかで美しい。とはいえ、その量の書類を全部見ていたら明日の夕方になっちゃう。

「それはまた多いですねぇ……。ロンデニオン市内を制圧するつもりなんでしょうかねぇ?」

「うむ! 迷宮管理者たる立場からはそう見るのだな?」

 忙しなくザンは結論を急がせる。

 だから、私はわざとゆっくり、自分の発言を否定した。

「いいえ。迷宮を魔物で攻め入る場合には制限があるんです。魔物だけに攻撃させたところで、敵の迷宮の制圧範囲に踏み入ってしまった場合、『魔物使役』の影響を受けますからね」

「では東迷宮の意図は王都の混乱だと? 統制された軍勢としては動かないというのか?」

「いえ、迷宮管理者が側にいるのであれば――――」

 そこまで言ってから、迷宮管理者も一緒に攻めてくる可能性について、それは高い確率なのではないか、と思い直す。西迷宮の管理者が側にいないのがわかっているのなら、余計にその可能性は高い。

「その、迷宮管理者が東迷宮に存在するという前提で言えば、東迷宮から西迷宮へ攻め入る準備をしているのではないか、冒険者ギルドではそのように考えています」

「うむ! 現地にはキャロルに行ってもらっている!」

 それでキャロルがこの場にいないのか。


「わかりました、その想定で動きましょう」

「頼む。騎士団には今から掛け合うところだが、間に合うかどうか」

 戒厳令が必要になるかもしれないねぇ。

「冒険者ギルドで先乗りしましょう。市内への流入を阻止しなければなりません」

 ブリジット姉さんがしなやかに決意を見せた。


「冒険者を布陣するとして……迷宮が感知する範囲とはどの程度なんだ?」

 機密情報の一つではあるものの、非常事態にあっては開示せざるを得ないか。

「大凡、入り口から五百メトルに設定している場合が多いです。設定によっては千メトル、最大で二千メトル。迷宮の規模にもよります」

「わかった。感謝するぞ、ドワーフの娘よ」


 冒険者ギルド本部では、今晩にも展開を始める、とのことだった。

 王都騎士団との連絡は、ファリスとするようにザンには言っておく。以前、王都騎士団が何度も私と対峙したことで、冒険者ギルド的には騎士団との友誼を無為にされた、と捉えている。それもあって、ザンには少々のわだかまりがある様子だった。


「女王陛下にも緊急事態だと言っておきますから。今度は大丈夫ですよ」

「ドワーフの娘よ、お前の言葉を信じよう。お前はどうするんだ?」

「まだやることがありますので、明日の昼頃には冒険者ギルドの包囲網に合流しますよ」

 一応、朝には聖教本部へ行く予定にはなってるし。

「うむ。助かる!」

「各方面と調整をしなければなりませんね」

 すでに準備は出来ているだろうブリジット姉さんが淡々と言った。私がすぐに動かない、と言っていることについて、特に疑義を挟まない。

 チラ、とブリジット姉さんを見ると、軽く頷かれた。ザンはそれを一瞬だけ不思議そうに見て、得心したように頷いた。

「では、私はこれで」

「ああ、黒魔女殿、これだけは目を通しておいて下さい」

 ブリジット姉さんに渡されたのは、直近のロンデニオン東迷宮の案内図だった。

「はい、ありがとうございます」

 口元だけで笑って、私は冒険者ギルド本部を出た。


 そして『道具箱』から『隠蔽』の効力を持つ魔道具を取り出して、雑踏に紛れつつ、魔道具を発動した。



――――我ながら謎の行動ね。





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