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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
グリテンの海は俺の海
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※空への一歩2


【王国暦124年10月17日 15:51】


 ロンデニオン東迷宮の調査についてはブリジット姉さんが主導して行う、とのことだった。私自らが行くのはきっと、迷宮を過剰な防衛行動に走らせてしまう。『隠蔽』を継いで行くのも面倒臭いし、色々とやることがあるから、今はそれどころではないのだ。


 王城に戻り、地下の空間に行くと、そこには一隻の船があった。

 全長は八十メトル弱。細長い金属製の艦体を持つ…………。


挿絵(By みてみん)


 恐らくは二百年以上先取りをした、この世界初の甲鉄艦。……ではあるんだけど、これは実は見せかけだけなのよね。

 船体は完成で一次、二次塗装済み、武装は試射実験後に取り付け予定、現在はその他構造物の取り付けと艤装工事中。

「うん、順調みたいね。今晩の移動には間に合いそうね。うーん……しかし、格好良いなぁ……ホレボレするなぁ……」

 そう呟きながら、真新しい甲鉄艦を見つめる。(くろがね)の城がこれほどまでに人の心を打つとは思わなかった。

「ホレボレとはポリポリですか?」

「ホレボレとはドキドキかな!」

「おお、ドキドキですか! ジュンチョーとはナカナカですか?」

「うん、そうだね、ナカナカで正解」

「おお……」

 どの辺が正解なのかは自分でもわからなかったけど、ノーブルオークのイチはとても嬉しそうだった。


「乗組員の選抜は終わってるね?」

「はい、ノーブルオーク、ノーブルミノタウロスより百名ずつ選抜。予備人員としてもう百名。さらにゾクゾク教育中。人数が多いため、迷宮の方からは、専門課程の教書が必要だと指摘されましたな」

 イチのヒューマン語が流暢過ぎる。凄い、この時点でルーサー師匠を超えている! ちなみに、この場合のゾクゾクはドバドバってことにしておいたよ。ゾクゾクにはブルブルもあるからね!


 この甲鉄艦なんだけど、エミーによれば『キング・スチュワート』級の次に想定していたのがコレなんだと。ただし動力がどうあっても作れないので、提案には至っていなかったのだという。

 そんなエミーは私をチラチラと見ながら設計図を渡してきた。暗に造れ、ということらしい。それは設計図っていうか外側から見た三元図と、軽い内部構造が描かれたものだった。エミーじゃなければ、これだけの情報だけで作れるかボケェ~! と図を投げつけているところ。

 とまあ、それがこの船……中身はどうあれ、外見はどう見てもドレッドノート級だよなぁ。


 しかし、この船がないと『ド級』とか『超ド級』とか言えなくなっちゃうから、逆に言うと無いと困る。それ以前にグリテンならロイヤル・サブリン級を作れって話だけど、それなら初代ドレッドノートも作らないと駄目なので、そういうことならと、面倒臭いので一気にド級に行かせてもらった。誰に断ってるのかはわかんないけど、自分が納得するなら、どんな方便だって使うわよ?

 それにしても、いきなりド級を選んだところにエミーの慧眼に感嘆せざるを得ないわね。


 見せかけ、って自嘲気味なのは、設計図には素材関係の記述がなくて、どう作ればいいのかわからなかったので、ノーム爺さんと適当に作ったから。

 素材は新開発の、魔力を通しやすい鋼鉄。元々鉄の系統って黒鋼に代表されるように魔力の通りが悪かったんだけど、ルーサー師匠が言っていたようにニッケルの量を調整して少量の銀を混ぜたところ、ミスリル銀比五十パーセントほどの魔力効率を出す金属ができた。曰く『半魔鉄鋼』って名付けたんだけど、硬いので複雑な加工物には向かないのが難点かしら。


 この金属の積層を外側にして、同じ素材でハニカム装甲を作ってサンドイッチ、その内側にはミスリル銀ではなく、銀をケチってアルパカ銀を薄く張った。これら魔力通の良い金属は、外殻であると同時に()()()でもある。

 これだけ鉄と銅と銀ばっかりだと()()()が良過ぎてしまう。これは戦艦としては困るので装甲の内側に銅製のコイルを這わせ、内部で作った電気を通電させて消磁する。万全を期するなら、外部の消磁装置が必要になるんだろうなぁ。まだ磁気反応機雷なんかないわけで、むしろ対魔法、耐魔法を強化した方がいいんだけどさ。船体の帯磁を確認したことで、ますます、この世界が回転している星なんだと再確認できた。

 竜骨やら骨組みは、ロンデニオン城迷宮地下球体殻……つまりここで得られた謎金属。魔力通はよろしくないし重いけど、ニッケルと銀を混ぜて合金にすることで軽量化にも成功。


 ところでこのド級は、本物だと艦橋のすぐ後方に第一煙突があって、見張り台の櫓、第二煙突、って続くので、見張り台にいる人は風向きによって高温の煙に晒されるという欠陥構造だったんだけど、この船にはボイラーなんかないので、少し配置をいじった。櫓はマストに繋がるようにして、船体後方に倒れる形で折り畳まれる構造にした。

 そこで煙突は櫓とマストを避けるように平行に配置。邪魔なら取っ払え! と思わなくもないけど、それは様式美というやつね。第一煙突も第二煙突も、今のところは単なる飾り(ダミー)にしてある。もちろん、いずれは武装を施すつもり。やっぱり煙突ミサイルはロマンだと思うの。


 船体の側面……舷側に付いてる窓、舷窓(スキャットル)は、元の世界の現代日本人の発想で言えば、防御が甘くなるじゃろボケ、とか思ってたんだけど、内部()()()が湿気を抱えきれないみたいで、作業員から改善要求が出されていたのよね。他の事情もあって、結局穴を空けることにした。

 するとどうでしょう、灯り取りの導光管が単純化できて、外からの見た目もキュート! になりました。

 もう一つ、舷側についている棒みたいの。これ、外部補強かと思ったんだけど、どうも魚雷防御網を取り付ける支柱なんだってさ。魚雷が衝突する前にカーテンみたいに網を展開して防御する……っていうシロモノで、航行時はしまって、係留時に展開するものらしい。

 絶対に必要ないのは理解した上で、漁船にもなれるように……してどうするんだってツッコミは置いておいて……魚雷用じゃなくて魚網も用意した。ちょっとマグロとってこーい! と乗組員に指示が出せるなんて、ワクワクするよね!


 ここまでは普通の船っぽい(?)けど、段々怪しくなってくるのはお約束よね。


 武装に予定しているのは、主砲に相当する銅板発射装置――――『光弾』の発射装置――――が二門x五基で合計十門と、これは元ネタと同じ。基本的なスペックは『タロス03』のファンネルについていたものと同型で、回転する砲塔に乗せられる大きさに変更、装填数が段違いに多いのと、砲身があるという点が艦船搭載に合わせた仕様変更というところ。

 火薬を使うわけじゃないので発射の衝撃は驚くほど少なく、そのため砲塔に自重は必要なく、重量級にしなくて済みそう。通常時は砲身の存在を隠すために収納できるよう、シャッターが設置されている。


 砲身をつけたのは施条(ライフリング)を切るためで、より遠距離への到達を企図したもの。どのくらいの魔力を加え、どのくらいの角度で、どのくらいまで届き、どのくらい攻撃力があるのか、これについては実験をしていないのでわからない。元ネタだと三十・五センチの内径、四十五口径なので――――砲身の長さは十四メートル弱? だけど、もしかすると長すぎるかもしれない。ポートマットのロック製鉄所に三十センチの内径、四十五口径(口径長)、鋼鉄製――――で発注している。だからここに砲身はなく、受領してから、色々と仕様を変えて、試射実験してから最終的に決めるつもり。

 なので、まだ砲塔が入る場所は穴が空いていて、今は布でカバーがされている。


 なお、元ネタ通り副砲はなく、元ネタにあった機銃もなし。っていうか元ネタの機銃は、銃座にいる人が普通に死ぬよね。その代わり、艦首に二門、中央左右に五門ずつ、後方に二門、合計十四門の『氷弾』発射装置を取り付けた。これも新機軸の武装なのでテストが必要。

 試射は、一度ポートマットに寄って砲身を受け取り、主砲を設置してから、ボンマットを経由してストルフォド村から石の台地へ向けて行う計画で各方面と調整中。

 ポートマット、ボンマット、ブリスト、ストルフォドには告知してあり、冒険者ギルドの方で警備に人員を出してくれるそうな。勿論無料じゃなくて、私が人件費を払うんだけどね。


 主砲の取り付けはポートマットでやるんだけど、既にめいちゃんに言って、ポートマット西迷宮南側のゴーレム駐機場の、さらに南に穴を掘ってもらい、床と壁面を石で覆ってもらっている。防水処理が甘いだろうから、今のところは注水しない、文字通りの乾ドック。偽装のための屋根も作っていないので、今現在はポッカリと穴が空いているはず。巨大な懸架台も作らせたし、作業場の移動はスムーズに行けそうね。

 ところで何故、作業場を移動するのか、と言えば、


① やはり船を造るには海の側がいい

② 球体殻内部のドックでは来るべき超ド級の建造には手狭である

③ 飛行戦艦建造のノウハウは一通り蓄積できた

④ ロンデニオン城整備の一環で近場に居住環境が必要になった

⑤ 球体殻に使われている素材の回収をしたかった

⑥ 海神が酷使により傷み始めた

⑦ ロイヤルネイビーの基地といえばポーツマスだよね!

⑧ ポートマットに行く口実が欲しい


 という理由がある。

 現在使っている大型クレーン、もとい『海神』は元々モノを運ぶようには出来ていないので、メンテナンスが必要になるくらい関節なんかが傷み始めた。修理するなら完全に分解することになるし、ポートマットの港に立っているタロス01、02でさえちゃんとメンテしてないのに、先に海神を直すっていうのはどうなのよ? って話になった。

 そういう理由があってポートマットに生産施設を移すことになったと言う訳。⑦はデヴォンポートがまだ成立していないのよね。それよりも⑧の理由が一番大きかったんじゃないか、と自覚していたりするから、そこは突っ込まないでほしいところ。



【王国暦124年10月17日 15:55】


 さて、最大の難題であった動力は、というと…………。

「じゃ、ちょっと中に行ってくるから」

「はい、いってらっしゃいませ。案内は必要ですか?」

「必要なし。引っ越し作業に戻って」

「はい、マスター」

 イチを見送ると、私は設置してある階段を登り、甲板へと向かった。甲板はちゃんと木製、一部がスラリウム。艦内への出入り口は全部で四箇所。うち一箇所がゲスト区画への階段つき、三箇所は乗組員専用で魔法陣での出入りのみ。


《おかえりなさいませ、マスター》

「はい、ただいま、うみちゃん」

 と、出迎えてくれたのは『めいちゃん』ではなく、専用に調整した派生OS『うみちゃん』だ。


 そう、この船の動力として採用されているのは、内燃機関ではなく、迷宮だったりする。ウィザー城西迷宮を『道具箱』に入れた件から発想したもので、小型の迷宮を作ったら魔力源として使えるんじゃないか……と作ってみたもの。


 アマ○ン、○蛇で培った戦闘アバターの調整も、思えばこの『迷宮内蔵船』――――曰く『迷宮船』――――の布石で、あの二体は装甲材も魔核の代わりにして魔力を貯蓄していた。一時的に強い魔力が必要な場合は装甲材から魔力を供給する。この仕組みは通常の迷宮でも普通に使っているから、より規模の小さな迷宮なら、もっと親和性があり、有用に働く。


 可動できる迷宮、というものを作るにしても、内部に滞在させる魔物たちの数、レベルはどの程度がいいのか、どの程度の消費がされるのかは、実稼働させて調整してみる他はない。

 今回は単一の迷宮、単一の魔導コンピュータ、単一のOSによる並列処理、とハード、ソフト両方に負荷を掛けるつもり。管理する『うみちゃん』のプログラミングなどなど、まだテストする項目は多い。


 で、推進装置は三系統用意した。一つはウォータージェット。木造帆船に採用してたくらいだから、これは当然。スクリューを採用するにしても回転部分はボールベアリングだのかんだの……とトラブルの原因になりそうだったから、部品を動かさないで済むなら、その方が信頼性は高い。取水口は艦底の水密隔壁にも注水できるようになっていて、弁は迷宮の扉開閉システムをそのまま流用した。同様に隔壁の開閉でウォータージェット側に滞留した水も排出する。


 先述の湿気対策も、ここで排出できれば良かったんだけど、あまり一つのシステムにまとめてしまうと不良時に冗長性がなくなってしまう。想定できる状況、というのも、どこまで想定するか、によって変わってくるし。


 と、推進装置の二つ目は空力機関。重量を考えて合計八基を配置してみた。船体が仮に出来上がった時点でのテストでは問題なく動作したので、とりあえずこれで様子見。木造の試験船では空力機関が外部に露出していたけども、船内に内蔵した上で隔離した部屋を作り、その部屋ごと天井に向かって押し上げる格好で十分実用になっている。


 最後の一つは普通に風力。帆は元ネタでも補助的に使われていたんだけど、これは風力(を使った魔導船)である、という偽装という意味合いと、発魔力の意味合いがある。そのため、元ネタが竣工後の回収で撤去したと言われるマストは、むしろ大きな帆が付けられるようになっている。

 帆に使うのはスライム繊維で、布地の試作はポートマット西迷宮で行う予定。ロンデニオン西迷宮のスライム繊維製造魔道具は、レックスがフル稼働させていて使えないから。

 この帆には『塔』で使われている、日光から魔力変換する塗料を塗布、ミスリル銀線を通じて迷宮に魔力を補助的に供給する仕組み。これの発魔力/充魔力効率もどのくらいかわからないから、テストしてみないとわからない。


 この辺り、秘匿船なのに日光に当てないと試運転ができない、という事情があって、白昼堂々、航行試験をしなくちゃならない。

 一応は『不可視』魔法陣を船体各所に取り付けているので、光学的には姿を隠せるけど、示威行動などで姿を見せなきゃいけない場合もある。

 その対策としては発泡スライムで木目をつけた板を作り、それを最後に貼り付けようと考えている。塗装で誤魔化そうとも思ったんだけど、艦首の曲線は木製では出しづらく、船や木工の専門家にはバレてしまうのではないか、と判断したから。偽木(ぎぼく)で覆うっていうのも、後でキャストオフ! が出来て、ちょっとヤ○トっぽいじゃん?


 艦内迷宮を練り歩く。魔導コンピュータは艦中央の後方にあり、頑強な球体殻に包まれている。迷宮艦が私と私の許可した人以外に利用されることを防ぐための措置で、密封しちゃったので、私以外には取り出せないもんね。

 先にも言ったように今回は単体迷宮での限界を知るための実験でもあるので、酷使する可能性もある。暴走時のセーフティも三重じゃ怖かったので四重にしてみた。


 一応迷宮なので階層の概念はあり、十層ってことになるのかな。それぞれのフロアに相当するのは各階層の水密区画で、細かく仕切りを入れてダメージコントロールを容易にしてある。全体で一エリア、という設定は、エリアを分ける必要性がなかったってこともあるんだけど、一台の魔導コンピュータの処理能力を超えるかもしれない、と危惧したから。実際に魔物を配置して稼働してみて、問題がなければ別にエリアは分けてもいいかしらね。


 現在、この……ドレッドノート迷宮? の所属に設定されている魔物は現在百体。五十体のノーブルオークと同じく五十体のノーブルミノタウロス。残りの魔物は基本的にはオクさんミノさんで統一しちゃう予定。その他試験的に乗せる予定なのはエスモンド・ヘッド、人魚二体の(つがい)、閣下が三体、エレ様が五体、大型スライム一体。

 水中工作……この場合は破壊活動とか……をやる必要が出てくるかもしれず、パスカルの海軍との共同作戦を実施する可能性があり、こちらでもノウハウの蓄積が急務だろうと考えたから。人魚が爆発する魔法陣を持参して敵艦に密かに接近……設置……だなんて、かなり有用な戦術だと思うし。


 排泄物なんぞは迷宮に吸収されるに任せればいいので、本来はスライムによる汚物処理なんてしなくていいんだけど、艦内衛生を考慮すると、処理速度を優先した方がいい場合も多い。冷凍庫を設置する関係上、熱源も必要になり、それならスライムの死骸を乾燥させて有効活用ができそう。具体的には発泡スライムによる汎用部品の生産ね。ボートとかはまだ作ってないし、急に必要になるかもしれないじゃない?


 また、艦内の空気も、通常の迷宮のように集中換気ができず、一部の場所で酸欠の可能性もあったので、エレ様の電力を利用して電気分解で酸素を作る仕組みも作った。ついでに塩も作れるし、かなりの長期間、単独行動が可能になる。

 魔物は食事を摂らなくても魔力を得ることで生存は可能ではあるものの、一つの実験として、なるべく人間っぽい食事を摂らせてみようかな、とも思っている。だから艦内農園も設営予定。


 この迷宮は……カタログスペック上は、陸上も浮いて走れるし、海にも潜れる。()()は艦底に()()は設けなかったけど、必要があるなら作ることになると思う。ド級の次世代艦に。


「大いなるロマンのためにも、ド級の運用試験は重要……」

 船は船だけでは動けない。中にいる人員がいて、練度を維持してこそ海を進むことができる。まあ、この船の本分は海にはないんだけど、海ってことにしておこう。



――――そうさ、グリテンの海はオレの海!





やっぱりド級はロマンだと思うの!

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