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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
グリテンの海は俺の海
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ケダモノの騎士


【王国暦124年10月10日 23:09】


 いやあ、一時はどうなることかと思ったわ。

 汚れた体になってしまったの……だなんてエミーに言ったら、それはそれで戦争の火種になりそうで……。迂闊な行動をしている自覚はある。

 ケダモノ騎士の背後からやってきた、別の騎士さんが来てくれたお陰で、貞操の危機はとりあえず去った。保護の名目で駐屯地に連行されることになったのは、時間的にはうろついている不審人物には違いなかったから、かなぁ?

 でもまあ、スムーズに騎士団駐屯地の中に入れたから、現状としては結果オーライというべきか。


「パイン・ペン? ちゃん? 変な名前だな、お嬢ちゃん。年齢八歳? それは育ちがいいのか悪いのか」

 実直そうな騎士さんの隣には、面白く無さそうな顔をしている、先のケダモノ視線の騎士がいる。ここはガブリン騎士団駐屯地の一室で、まあ、保護というか尋問されていると。この実直そうな騎士さんは『鑑定』持ちで、偽装された名前を読み取っている。ランダムで適当な名前が表示されるみたいなんだけど、今回もまたいい加減なネーミングですこと。

「ごめんなさい、おにいちゃんとはぐれちゃって……」

 ぐすっ、と涙ぐむ。涙はシルフに頼んで眼球に少し風を当ててもらったら出るわよ!


「そうか。どこではぐれたんだ?」

「…………やどや? で……?」

 やべ捕まったよ! というのは眼鏡の端末を使ってラルフに送ってある。ちゃんと誤魔化して帰ってくるから心配しないで、とも。

「そうか。その顔のガラス? か? 珍しいな。高級な服でもなさそうだから貴族にも見えないし……」

 実直そうな騎士さん、なかなかいいところを突いてくる。

「うみにおちてたキラキラしたのをひろったの。それでおにいちゃんがつくってくれたの」

「そうか。見せてもらってもいいか?」

 さすがにこれが魔道具だとわかると面倒だ。外して、実直騎士に渡すフリをしながら床に落として、シルフに言って落下速度を速めて、バーンと割ってしまう。


「あっ。うぇっ、こわ、こわれちゃったぁ~。うえぇ~ん」

「そ、そうか、済まなかった」

 謝る実直騎士さん、ごめん、私こそごめん。騙してごめん。

「おにいちゃんがいっしょうけんめいつくってくれたのに~!」

 さりげなくしゃがんで床に散らばったガラスを回収する。ちっ、面倒なことをさせやがる。

「ごめん、ごめんよ、パインちゃん。壊すつもりはなかったんだ」

「ううっ、おにいちゃんのところにかえりたいよぉ……」

 チラッと様子を見るも、面倒な子供を演じている私に対しても、この実直騎士は油断を見せていない。せめて一人だけならインプラントか血肉を植え付けるんだけど……。騎士団員の総数も戦力も不明なところで暴れるのは良い選択ではない。

「そうか、じゃあ、街まで送ろう。おい」

「はっ」

 と、ケダモノ騎士に送らせようとする。うーん、『鑑定』持ちの実直騎士が、ラルフはまだしも、黄緑くんを見られるのはマズいから、この場合はケダモノ騎士の方がマシだけど……襲われるのもなんだし……釘を刺しておくか。

「おにいちゃん……わるいことしない?」

「えっ、ああっ、しない、しないとも!」

 ケダモノ騎士を見上げて、子供らしくお願いしてみる。悪い事したら、『風刃』で切り取って口に突っ込むわよ?


「ホント?」

「本当さ」

「よかった~。えへへ~」

 フッ、我ながら子供らしい。考えていることは野蛮だけど、私にだって、やればできるじゃないか。



【王国暦124年10月10日 23:38】


「じゃあ、()()()()()。私を無事に送り届けた、ってことで」

「ああ、わかったよ、()()()


 ちっ、このケダモノ騎士め、駐屯地から離れて街に入る手前の木陰に誘い込もうと、私の口を塞ぎやがったので、引っ掻いて、その傷に私の血を塗りつけた。それが十五分くらい前の話。


 短い昏倒から回復した後はそれから仲良く並んで歩き、街の灯りが見えてきた。

「なるほど、今のところは統合騎士団の設立に注力しているわけね」

「そうなんだ。グリテンかウェルズが攻めてくる可能性を高めてしまった。上は全く馬鹿なことをしていると思うよ」

 ケダモノ騎士は案外マトモなことを言った。


「その()っていうのは誰?」

「統一国家女王オリヴィア陛下――――ってことになってるが、これはお飾りさ」

 なんと、こちらにも女王が誕生することになってるんだと。正式には即位していないので――――っていうか二歳だってよぉ? リアルに生まれたてじゃんね。『イアラランド連合(仮称)』は小国も含めると五つの国で、オリヴィアはこのガブリンのある通称『中イアラ』唯一の世継ぎなんだという。実質は『南イアラ』の傀儡なんだとさ。

 体裁上は『北イアラ』と南は同等、ってことになってるけど、南が中を押さえた時点でパワーバランスは南に大きく傾いた。まあ、体よく中イアラを分割支配――――属国化するための手法でもあるらしい。


 他の二つっていうのは北イアラのさらに北にある小さな島々をまとめた『北方諸島王国』、パープルの港から真西に行ったマン島にある『マン王国』。この世界でもマン島なわけね。マン王国はそのままとして、諸島王国は正直言ってまとまってないんだってさ。統一国家の誕生を機に国家っぽい名前にしただけ、っていうのが実情みたい。


「ということは、北と南は本質的には仲が悪い?」

「そういうことさ」

「どうして都合良く、南の人は女王様を擁立しようだなんて思ったんだろうね?」

「どういうことだい、パインちゃん?」

 ケダモノ騎士め、もうパインちゃん呼ばわりかよ。おっと、私のウィルスによる発熱も完全に治まったようだね。母親呼ばわりよりマシかな。

「中イアラ王族は誰もいなくなってる、っていうけど、それが南イアラの謀略の結果だったんじゃないかなぁ?」

「ま、まさかぁ?」

「いや、事実は知らないよ? そういう噂はないの?」

「………………」

 ケダモノ騎士は真面目な顔になって考え込む。

「ということは、今後建国されるというイアラ統一国家も一枚岩じゃないってことね」

「それは認める。対外に仮想敵国がいるからこそ結びついているようなものだ」

「そっか。じゃあ、これからも色々情報よろしく。ちょっとしゃがんで、()()()()()()

「ああ、これでいいかい?」

 ケダモノ騎士は道端に寄って、かがみ込む。通信端末と迷宮大好きインプラントを埋め込んでおく。ちょっと見には、微笑ましい、少女からの抱擁に見えたかもしれない。内実は悪の手先になる儀式だけど。


「じゃ、ここでいいから。おくってくれてありがとう、おにいちゃん。ちいさいこにわるさしちゃだめだよ?」

「肝に銘じます」

「うん、またね」

「はっ」

 私の血肉とインプラントで、私が絶対者に見え始めたか。まあ、普通に騎士っぽく暮らしてくれればいいや。

 最後に親愛の情を込めて、拳を上に突き上げて、ガブリン風の挨拶をしてみたけど、ケダモノ騎士はそれを見てもぽかーんとしていた。

「ああ、あのパブでの挨拶ですね。それはあの店でしか通用しませんよ」

 それを聞いて、私のこめかみがピキピキと鳴った。



【王国暦124年10月11日 0:21】


「小さい隊長……心配はしなかったけど、心配させんなよな」

「どっちよ……」

 部屋に戻ると、ラルフはお冠だった。そりゃー怒った。陛下に何とお詫びすればいいのやら、みたいなことを言われて、私も反省した素振りを見せて、それもフリだと見抜ぬかれて怒られた。


「いい? 小さい隊長はもっと自分を大切に……」

「スミマセンスミマセン」

 説教が終わったところで、拳を突き上げる挨拶の件についてラルフに話した。私にとってはそっちの方が重要事項だったりして。

「え、トリスタンは、あれがイアラランド独特の挨拶で、ここの教会も推奨しているとか何とか言ってたよ?」

「トリスタンは以前にこの店に来たことがあるんだろうね。それでからかったと。許せる?」

「許せないね。義理の兄になる人とはいえ。いや、それだからこそ許せないね」

 だよねー。

 まだグッタリ寝ているトリスタンのパンツを脱がして、お尻に『正』の字を書いてやるか、毛を剃ってやろうと思ったけど、ラルフに止められた。


「そんなことより、トリスタンの目の前でルビー嬢とキスをした方が効果的」

 なんてゲスいことを言うんだ……。いやー、似たり寄ったりかな?

「そこで、『お前の大事な妹はオレが奪った』って言えばいい」

「あれ、それじゃあ兄に火が着いちゃうんじゃない?」

 ヤケボックリ理論ね。


「それで火が着くなら、それでいいよ。ブレンダンさん……父上もそうだけど、トリスタンも自分を律しすぎる」

「騎士だから、それは喜ぶべき資質だと思うんだけど?」

「恋愛に騎士道は要らないよ。畜生道でいいと思うんだ」

 なにラルフが格好いいこと言ってんの?

「それに、コーネリア嬢のお相手は、翻訳できないと駄目だろ? 多分オレには無理」

「おいおい……それじゃあ……」

「エイダさんは年長過ぎるよ」

 あはは、とラルフは笑った。何だよ、自分から恋愛迷路に飛び込んで袋小路にはまり込んでるじゃんか。


「だから、ルビー嬢への思いが強ければ、トリスタンが奪いにくるよ。でも、オレだってむざむざと取られはしないつもり」

 むざむざ取られる気満々じゃん。なにこれ、寝取られ属性? ついにラルフも変態の修羅道に入ってしまったのかしら?

「ラルフはそれでいいわけ?」

「いやほら、まだ会ったばかりじゃんか。何て言うのかな……まだ、二人の間に事件とかないしさ」

「ああ!」


 わかった、ラルフがイマイチ淡白で乗り気に見えなかった理由が。ギャルゲーで言うところの四月(ニューゲーム)の状態なんだわ。これからイベントが起きないと、ラルフの中の好感度が上がらないってことか。夏休みに海に行って……あっ、ジャミラは水に弱かったっけ……じゃあ山に行って……やべえ川を避けて……キャンプでカレーを食べて、体育祭と文化祭とクリスマスイベント、バレンタインでお返しにホワイトデーで卒業。

 あれ、卒業しちゃった。

 おっと、伝説の木の下で告白して、一生を添い遂げる呪いをかけてもらわないと。これってウンディーネの呪いみたいだなぁ。


 ラナたんとはずっと一緒にいたから、イベント山盛りだったわけで、フラグが立ちっぱなしだったと考えると、今回、壁妹と最初のフラグが立ったとも言える。今後、新幹線ルートか肉食ルートか、はたまたハーレムルートに移行する可能性もあるのか……これが恋の東海道ってやつかしら。


「恋の話はいいんだ。もう遅いしさ、明日もどうせ早いんだから寝ようよ」

「そうだねぇ」

 肝心のイアラランドの情勢については、ここで話さない方が安全かしらね。筆談でもしようかと紙とペンを取り出したところで、眼鏡がないのを思い出した。



――――め、メガネメガネ 3 3

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