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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
君の迷宮ボクのもの、ボクの迷宮ボクのもの
714/870

※紫の蛇


【王国暦123年12月23日 10:49】


 グリテンの王都(ロンデニオン)冒険者ギルド本部所属では、現在新型ギルドカードを所持している冒険者に対して、現在もインプラント導入が進められている。


 その際の餌……として幾つかスキルを付与できるインプラントを提供しているんだけど、一番人気は『道具箱』だったりする。これは結構習得が難しいらしく、本人の資質によって容量も変わる(単純に魔力量の多寡だけで容量が決まらないのが面白い)。ただし、魔法陣さえ展開できれば、あとは自動で個体認識が行われて、『道具箱』スキルは行使可能になる。


 だから、一定の魔力持ちであれば、理論上は誰でも使えるはず。一応、生物じゃないと使えない、という制限があるんだけど、これは『道具箱』が空間魔法という特殊な種類に分類される魔法だから、と言われている。

 この辺りは魔術師ギルドの研究資料にもあったし、麻痺させたネズミを利用した罠も作られていた。飛び出ると障害になる尖った丸太とかを仕込んでおく罠ね。


 今回のウェルズ出張で困っているのは、私本体があまり前面に出られず、アバターで戦うことを強いられているということ。いかに戦闘用、と銘打った仕様にしても、強者に対しては決定的な戦力にはならない。

 ウェルズ王国冒険者ギルド所属の特級冒険者の一人、マンフレッドに対しては、毒も効いたし、グラスアバター改造品で対応できた。しかしアバターは損壊したし、倒しきるには至っていない。向こうが四人、というのを差し引いても力不足を痛感していた。

 対策としては複数アバターを同時展開、操作できればいいんだけど、これもまた精度を欠く。日常生活程度なら不備はないとはいえ、やはり戦闘は無理。慣れの問題と言えばそうなんだけどさ……。

 となると、その場で使役できる、しかも収容可能なサポートゴーレム的なモノがあればいいなぁ、と考えた。


 で、前述のように『道具箱』は生体に対してしか使えない。以前、サリーが皮膚代わりにスライムを利用したことがあったけど、あれを応用して、『簡易道具箱』と呼べる装着式の魔道具を作った。


挿絵(By みてみん)


 うん、まあ、焼きそば繋がりかな。コレを作っていたから焼きそばを作った……鶏か卵かじゃなくて、蛇か焼きそばか……。


 サポートゴーレムの形状は、最初に召喚物として作った感触が面白く、シンプルだったので、蛇をイメージしてみた。

 牙の近くに噴出口があり、そこから毒を出す。手持ちの毒が、例の、とっても淫靡な気持ちになる毒しかなくて、それを使えばいいや、と適当な処理をした。

 固形状にした毒を削り出しながら、生成した水と混ぜて吐き出す。一手間かけた『水球』だけど、毒の色が紫でいやらしい……。


 あとの機能としては噛み付き、尻尾攻撃、主人となるアバターの加速装置。頭の部分にアバターを乗せて、ウネウネと加速させて、必殺技の補助とする。

 戦闘用アバターは結構重いので、長距離の走破には向かない。蛇ゴーレムはその移動装置としての意味もある。出現と同時に主アバターの制御下に入り、半自動で主の攻撃している対象へ向かう。命令があった場合は必殺技……………の補助も行う。

 うん、コレ、かなり完成度が高いわ。


挿絵(By みてみん)


 となると、剣もこうなるよね。

 幾つかの便利道具を収納したベルトを装着したアバター……。生物利用をするために、このままでは私自身の『道具箱』には入らない。迷宮などの安全地帯に据え置き式、ということかしらね。

 状況に応じて武器を変更したりゴーレムを取り出すため、魔法陣を記述したカードで指定をするようにした。ベルトにカードデッキを装着して、手持ちの魔道具にカードを挿入することでベルトに内蔵された『道具箱』管理の機能が働く。


挿絵(By みてみん)


 たとえば、この『魔法杖』には四属性の初心者用攻撃魔法が記述されている。スイッチポン、で魔法攻撃のお手軽仕様。かなり精緻な作りなので格闘戦にはまるで向かない。そこで『剣』のカードを入れると、『魔法杖』は収納されて『剣』が簡易道具箱から出てくる。カードは入ったままなので、元に戻すにはカードを引いて、『剣』のカード挿入口に入れないと発動しない。

「…………」

 ムダなことをしているように見えて、これは合理的かもしれない。実はカードとかなくても任意に魔法陣を発動させればいいんだけど、アバターの状態だと、魔力のオン/オフは可能でも、特定の場所だけに魔力を送るという作業はとても難しい。

 問題があるとすれば、戦闘状況を想定してカードデッキを組んでおかないとスムーズに戦えない、ということかしらね。


 ベルトを装着した私は鏡に向かう。

「むふっ。やってみたかったんだよね……」

 左手にカードデッキ、それを鏡に向かって掲げ、右手でガッツポーズを作りながら顔の前に寄せる。


バッ!

バッバッ!


「変身!」


 といってみたはいいものの、特に何も起こらない。

 陶然とした気持ちになったのも一瞬だけ。

「……………………よいしょっと」

 寂しい気持ちで、ベルトを、カードデッキごと、アバターに括り付ける。

 床に毛布を敷いて、その上に寝転ぶ。

へんしん(チェンジ)……」

 意識を、『魔法杖』を持たせたままのアバターに移す。


挿絵(By みてみん)


「ふぅうううう。サバじゃねえ……!」

 首を捻って、さあ、出撃だ!



【王国暦123年12月23日 11:06】


 紫蛇の外装を着込んだアバターを第四階層に転送させる。

「魔力吸収を通常レベルに戻せ」

『了解しました、マスター』

 めいちゃんに指示を出す。迷宮は侵入者、及び内部に滞在する魔物などから魔力吸収をすることで構造物を維持している。アバターに内蔵する魔核から少量でも抜かれるのはよろしくない。迷宮内部であれば迷宮側から逆に魔力供給を受けられるけど、アバターのシステムって、継続して供給を受けてるわけじゃなくて、内蔵の魔核に一定量のチャージ――――を繰り返しているから。


 第三階層に徒歩であがる。

「第四階層を閉鎖せよ」

『了解しました、マスター』

 今現在、第四階層には魔物が一体もいない。巡回している討伐隊が漏れなく退治してくれちゃっているから。


 そこで、階層をどんどん閉鎖していき、魔物を揃える間を作る。現在閉鎖中の第五階層より下では今、壮絶な魔物同士の戦いをしていて、生き残った強者が各階層の覇者として君臨する予定。『階層の主』方式と呼んでいるけど、導入はこのカディフ東迷宮が初になるのかしらね。階層の主を倒さないと次の階層が開放されない、という仕組み。一定期間の攻略がなかった場合は階層の主が復活して、また通せんぼする。

 ウィンター村迷宮が実際にそういう迷宮だった、という記録はあったけど、運用についての注意点みたいなものは特に記述がなかった。


 これは攻略させる気がないぞ、という意思表示であり、攻略するには短期間で一度にやることを強要する。騎士団と冒険者たちが攻略する気になっているのなら一網打尽のチャンスだし、攻略を諦めるのならそれもよし。


 お。

 ニンゲン発見。

 格好からすると軽装の騎士団か冒険者か……ちょっとわかんないな。

「!」

 不用心に近づく私を見て、彼らはすぐに防御態勢に入った。攻撃態勢でもなく、逃げ出すでもなく、誰何するわけでもなく、防御に入ったのだ。

 私は杖を掲げて、スイッチを三回押して風刃を三連射する。杖に内蔵された機能なので、当たり前だけど無詠唱よ!


ビッ、ビッ、ビッ


 見えない風の刃が冒険者(仮)を襲う。

「――――『魔法反射』」


カーンカンカン!


 なんと! 風刃を跳ね返して、逆に攻撃してくるとは!?

 今持っている『魔法杖』には魔法を跳ね返す機能はない。少し動いて自分の撃った風刃を避ける。


「ちっ……イライラさせる……」

 別に全然イライラとかしてないし、むしろ感心しちゃったんだけど、このアバター外装を着込んでいたら、こう言わざるを得ないわね。


 次弾を撃とうと思ったところで目を向けると、冒険者(仮)は既に後退を始めていた。

 戦うつもりが全くなく、見かけたら後退、と予め決められていたかのような行動に違和感を抱く。


 警戒しつつ前に進む。

 そうそう、忘れてたというか故意的ではあるんだけど、このアバターの外装は防御手段がない。外装の防御力が高いから不要という話ではあるんだけど、だって、蛇の王にそういう機能がない、って聞いてたから、オリジナルに忠実に、って思っちゃったのよね。そこは拘るところじゃないだろう、とも思うけど、必要なら防御のカードを作るべきかなぁ? くらいの気持ち。確かガードベントってあったよね?


 追っているのか、釣られているのか。

 それはわからないけれど、冒険者(仮)たちは第三階層から第二階層へと逃げ続けている。

 私が第二階層に上がり、第三階層を閉鎖する指示を出した時に、めいちゃんから警告が入った。


『警告:迷宮内部に一定以上の脅威を持つ個体が侵入しました。第一階層、座標1-1に脅威度判定(高)の個体が一。厳重な警戒が必要』


 なんと、『高』に格上げか。迷宮内部の魔物を殺しまくっているから、単に迷惑なだけで脅威度が上がったということもあるだろうけど……。めいちゃんの判定に多くの要素があるとはいえ、舐めていい相手ではなさそう。

 追っていた冒険者(仮)たちが第一階層に上がる。脅威(高)が彼らと接触、そのまま第一階層の一番大きな部屋で待機しているようだ。


 つまり、待ち構えていると。

 ここ、自分の迷宮なんだけど……。まるで向こうのホームじゃないか。

 まあいい。


「アバターが第一階層に上がったら第二階層を閉鎖」

『了解しました、マスター』

 そして、アバターが第一階層に上がる。

 うん、こうやって迷宮を上がってくるのは、迷宮側の醍醐味ってところかしらね。攻略側にはあり得ない話だものね。


「ふむ……」

 一度アバターの動きを止めて、本体にチェンジ。

 本体に『隠蔽』をしてから転送魔法陣に乗り、第一階層に転送する。

「…………」

 アバターが視認できる位置まで来たら、アバターに戻る。


 第一階層の最奥の部屋は、いわゆるボス部屋として確保してあるレイアウトで、他の部屋よりも広く取ってある。


 アバターが部屋に入ると、中央に斧槍(ハルバート)を肩に担いでいる、重装備(フルプレート鎧とは言えない)の中年男性が立っていた。冒険者(仮)たちは中年男性の周囲に展開して、戦闘を補助しようと配置に着こうとしていた。


 その慌ただしい空気の中、チェンジを繰り返して、私の本体もボス部屋に入る。静かに壁を登り、天井近くで待機。

 アバターの方は注意深く動いているフリをさせつつ、ゆっくり、ゆっくり前進させた。

 本体の位置が安定すると、アバターの方に注意を向けた。


「ふうう……ここか。祭の場所は?」

 悪役感一杯に、アバターは首を傾げた。

「フン、貴様が迷宮管理人……か?」

「そうだとも。侵入者ども、会いたかったぜ」

「……。全員退避せよ。ここは俺が一人でやる」

「しかし! 本部長!」

「黙れ。行け!」

 冒険者たちを黙らせると、中年男がアバターに向き直る。

「ほう? 部下思いじゃないか」

「抜かせ。人形風情が」

 おや、気付かれていたのかしら。

「ふっ……」

 私はベルトのカードデッキから一枚を引き抜き、魔法杖に挿し入れた。

鑑定・降臨(サーチベント)

 魔法杖から、それっぽく聞こえる音声が聞こえてくる。ムダに高機能だと言わざるを得ない。


-----------------

【アンセルム・アチソン】

性別:男

年齢:45

種族:ヒューマン

所属:ウェルズ冒険者ギルド(冒険者ギルド本部)

賞罰:殺人:35

スキル:気配探知LV5(物理) 強打LV6(汎用) 高速突きLV8(汎用) 長剣LV8 両手剣LV10 槍LV10 短剣LV8 盾LV2 加速LV3

魔法スキル:火球LV3 水球LV4 風球LV4

      初級   火刃LV4 水刃LV1 風刃LV1

      初級範囲 火壁LV2

補助魔法スキル:光刃LV1  障壁LV2 魔法盾LV1 筋力強化LV3

生活系スキル:採取LV4 解体LV6 洗浄 飲料水 点火 灯り ヒューマン語LV5 エルフ語LV1 ドワーフ語LV2 

-----------------


――――スキル:両手剣LV10を習得しました(LV5>LV10)

――――スキル:槍LV10を習得しました(LV4>LV10)


 で、実はカードの機能なんかじゃなくて、天井に張り付いている私本人が見ていたりする。

 単なる勘でしかないんだけど、アバターの近くで制御の精度を上げた方がいいような気がしてさ。しかしなるほど、見にきて良かった。両手剣と槍がLV10だってさ。ははは……。同じLV10でも、ユニークと、そうじゃないのがあるのが不思議よね。


「何のマネだ?」

「アンセルム・アチソン。迷宮は貴様を排除する」

「人形がほざくなよ?」

 アンセルムはとっても楽しそうに顔を歪めた。

 アバターにカードを抜かせ、また魔法杖に挿入する。

剣・降臨(ソードベント)

 魔法杖が収納されて、ドリルみたいな剣が出現する。剣を左手で掴むと、そのままアンセルムに突進を始めた。



――――俺にも楽しませろ……! って言ってみたかったんだよ……!





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[一言] 招待客を迷宮階層に封鎖(閉じ込め)して数日放置、が鬼畜。
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