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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
君の迷宮ボクのもの、ボクの迷宮ボクのもの
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パープル北迷宮の防衛


【王国暦123年12月11日 4:47】


 今日の私は生理休暇の日。

 なので、管理層のベッドでゴロゴロと横になりながら迷宮の各所に指示を出している。

 ここのところの生理周期は実にバラバラで……いや、普通なのかな、これが。大まかにはやっぱり三十日前後なんだけど、早かったり遅かったりもする。大体遅れ気味かな。


 最初の襲撃から七日が経過した。

 その間に、カディフ東、ミンガム北の迷宮をプレオープンさせた。これまでも第一階層は開けておいたんだけど、特に誰も来なくて寂しかったので、挨拶と宣伝替わりに、人間さんこんにちは、迷宮でーす! ゴブリンでーす! 大量発生でーす! とやってみた。


 もちろん、ウェルズ王国にも冒険者ギルドは存在する。

 すわ迷宮が活性化した、ということなら、本来は冒険者が先に動きそうなものだけど、このパープル北迷宮は領主と……おそらくは国が、銀鉱脈の存在を秘匿したため、冒険者ではなく騎士団が主体になって警備をしていた。冒険者の姿があまり見えないのはそういう理由なんだろう。


 事前に聞いていた、この国の騎士団員の総数は五百人いるかどうか。小さい国だし、治世を安定させるための陸軍としては、それで十分。騎士の手が回らないところは冒険者が活躍すればいい。

 ところが他の迷宮でも魔物が増殖、わざとお漏らしさせているから、冒険者は両迷宮に対応をしなければならない。

 今のところは、その仕掛けが上手く行っていて、パープル北迷宮に攻め入る者はいない。遠巻きに見ているのは感じるけど。


「女王蜂の方は安定したかしら?」

《三体の女王蜂を確認しており、営巣も着実に行われております。蜂の総数は六百五十四体、うち成虫が三百二十七体、となっております》

 今回は魔物ミツバチで代用してみた。ハーメルンや以下略はちょっと被害が大きすぎるしねぇ。


「植物系の方はどうかしら?」

《培養槽の半数を植物系魔物の生産に充てております。培養完了と共に地上へ排出、地上迷宮は順調に迷宮化しております》

「よろしい。ミノさん、オクさんは採掘を開始しているね?」

《三交代制で稼働中です。地上に露出した鉱脈を採掘し終わるまでは、現状のペースで百八十ヶ月ほどかかると推定されます》

 それを超える量が地下にもあるわけで……。うーん、思ったよりも巨大な鉱脈だなぁ。


 ユニークスキル『地脈探査』と、ノーム爺さんの調査、古い魔導コンピュータに残っていたデータを照らし合わせると、地表に露出しているのはほんの一部で、計算上はブリスト南迷宮の軽く十倍は埋蔵量がある。


 私個人としても迷宮としても、銀の確保は重要事。それ以前に、この量の銀があれば、ウェルズとグリテンの力関係は違ったものになる。

 仮にウェルズ側が鉱脈を確保した場合……。グリテン王国による強制併合の執行が行われることになり、それを拒否したウェルズ王国との間で戦争が起こるのは間違いない。


 銀鉱脈が発見された、っていう情報がエミーにもたらされて、私が動いた。

 一方でウェルズ王国内部には、戦争にしたくない、って考えている人がいる。実に想像力が豊かで、賢明な人物だと思う。もう一つの情報源はマザー・ウィロメラ、つまり『神託』ね。


 情報源がどうあれ、迷宮が銀鉱脈を確保するのは、両国の平和には必要なことなんだろう。思いっきりグリテン王国視点で物事を考えている気がするけど、ウェルズ王国視点で見るほどに思い入れがないし、状況もよくわかってない。

 ウェルズが属国のまま……という現状維持がベストである……と思いたい。



【王国暦123年12月11日 8:06】


 ウェルズの騎士団による干渉は今のところ止まっている。域内の情勢は安定したと判断していいかしらね。


 この迷宮の精錬施設はブリスト南迷宮にあったものと同様のもので、魔物を酷使する方式だった。

 いっそ、無人――――ゴーレムによる作業はできないかと考えて、腹痛を堪え、ゴーレム製造の魔法陣を作り、現在は試験的に作業をさせているところ。

 不器用なゴーレムによる作業は効率的とは言えなかったけど、魔物の労働環境を守る方が大事。

 加えて、採掘した鉱石の処理をしないと貯まる一方で、早晩、倉庫が満杯になってしまう懸念があった。

 だからどんな形であれ、処理サイクルを進める必要があったわけね。


 ゴーレムによる採掘~精錬が軌道に乗れば、採掘期間を相当に短くできる。地表近くから露天掘りと、既に迷宮側にも採掘孔があるのでそこからと、両方から採っていけば迷宮側が銀を総取りできる。そこまでやって独占、と言える。


「なるほどね。あの黄緑くんはカディフ騎士団の若手ホープってことね」

 さらなる情報を引き出すために、捕虜たちへは尋問を繰り返していた。尋問と言っても、見かけはまるで雑談だけどね。


「その通りですな。血気盛んではありますが、なかなか見所のある若者ですぞ。両親の七光りという話もありますが、それを抜きに考えても、将来の国を背負って立つ一人でしょうな」

 捕らえられてインプラントされている騎士は、誇らしげに黄緑の騎士を褒め称えた。あの若者は、低レベルだったとはいえ、デーモン閣下の腕を一撃で落としたのだから、弱者な訳がない。


「七光りっていうのはどういうことさ?」

「それはですな、あの監察官……トリスタン・レーンは、ブレンダン・レーン騎士団長の息子でしてな。ブレンダン騎士団長の奥方はヴィニー王女殿下で……」


 えーと、ヴィニー王女は、現国王ヴィクターの三女だっけな。何となくファイル交換ソフトの名前を思い出してしまうなぁ。

「じゃあなに、婿入りなの?」

「ヴィクター陛下本人が王配にならずに婿入りですしな。苦労なさったんでしょうなぁ……。ヴィニー王女殿下がブレンダン騎士団長の家に入る件も、一悶着も二悶着もありましてなぁ……」

 壮年の騎士は遠い目をする。この騎士さんはかなり事情通だなぁ、と思っていたら、この人がパープル騎士団の団長さんだったりする。

 初回攻撃でゲットできちゃったのは僥倖なのか、向こうに運がないのか……。


「今のところ、カディフも、ミンガムも、救援をくれるほど余裕はないと思う。魔物出現で大騒ぎしているところだろうしね。その状況で、パープルの街、騎士団、黄緑くんはどう動いてくると思う?」

「そうですなぁ……」

 壮年の騎士はあご髭を触りながら、自らが所属している騎士団が、どう()()()くるのかを真面目に考えている。そこには悪意も葛藤もなく、ただ、迷宮に害為す存在として捉えていて、なおかつ、自分も騎士団員として捉えている。それを矛盾に感じていない。

 我ながら罪深いことをしていると思うけど、うふふ、大義のためには仕方がないわよね!


「某が捕縛されている……と確証があるならば、奪還に()()でしょうな。しかし、死体同然の状況で運搬されたわけですし……。マブット伯爵閣下が、レーン監察官に信を置くかどうかでしょうな」


 マブット伯爵は、このパープルの街を含む領地の領主。この騎士団長さんは代々、マブット家の従士、という家系なんだそうな。

「伯爵さんは、黄緑くんを侮っている?」

「そう思いますな。今回の襲撃を防いだのなら評価は上がりますが……」

「まあ、そうじゃなかったもんねぇ」

「悶々としているうちに時間が経過する、と某は見ますな」

 騎士さんがそう言った時、めいちゃんからアナウンスがあった。


『警告:警戒設定範囲に一定以上の脅威を検出しました。五百()()()()の西方向に脅威度判定(中)の個体が五、脅威度判定(低)の個体が二十二、『魔境』エリアへの侵入を試みています。厳重な警戒が必要』


「攻めてくるって。黄緑くん」

「そうですか……若いとは素晴らしいですなぁ……」

 騎士さんはまたまた遠い目をして、自らの見立てが外れたのに、とても嬉しそうに笑った。

「五人のうち、一人は黄緑くんだと思うけど、残りの四人に心当たりはある?」

「上級冒険者チーム『ウィングス』でしょうな。王都(カディフ)から呼び寄せてはいたのですが、マブット伯爵閣下が止めていたのです。それを解禁したということでしょうな。なるほど、彼らなら一騎当千、迷宮を攻める人材として、ウェルズ王国に、これ以上の存在はありますまい。彼らを呼び寄せていたのはレーン監察官だと聞いています。カディフでもミンガムでもなく、この迷宮と鉱脈の重要性を知っている、ということでしょうなぁ」

「確かに」

 私は深く頷いた。


 黄緑くんの行動からは、国中が混乱しているのに、他の迷宮の処理は他者に任せて、自分はここを担当する、という強い意志が見えてくる。


 ウェルズ国内の混乱は、いくら隠そうとしても、商人などを通じて、グリテンにも伝わっていることだろう。

 そろそろ、グリテンにバレた……との自覚はウェルズにあるはず。

 しかし、ウェルズは国としてグリテンに救援を求められないでいる。


 窮余の策として、グリテンの冒険者ギルドから助っ人が来ている、なんてこともない。こっちはザンに言って、止めてもらっているから。

 ザン曰く、ウェルズの冒険者ギルド本部長は、プライドも高く、軽々しく救援を求める男ではない、とのことだった。

 ただ、関連団体でもあるし、両者は知り合いでもあるらしいから、救援要請があるならアクションは取らざるを得ない。

 私たちとしては、それが間に合わない程、迅速に行動するべきね。


 お腹が痛くなってきたので、尋問(ざつだん)を止めて、私は自室に戻って寝っ転がりながら指示を出すことにした。

「採掘組は避難させて。閣下一号、二号は?」

『LV上げの途中ですが、運用は可能です』

「よろしい、出撃準備を。アバターは?」

『準備出来ております』

 このアバターも、対人戦闘が行われると想定して持ち込んだ一品。戦闘用アバターは合計三体持ってきた。一体はグラスアバターベース、もう二体は全ミスリル銀製の試作品で、調整がまだ。

 今回はグラスアバターベースで行こうと思う。

 戦力は心許ないけど、何とかなるだろう、多分。



【王国暦123年12月11日 8:48】


 ベッドに寝っ転がっている私は、グラスアバターにチェンジした。

 ミスリル銀皮膜でコーティング、耐魔法・耐熱仕様外装を装着した。見かけはもう、ピカピカに光る宇宙刑事そのもの。本当に蒸着したしね! 陶器製の小剣と、例の毒の塊を削りだして剣の形にしたもの……を持って、現場へと急行した。


「――――『火域』」

 全く事件は現場で起きてやがる……。植物系、虫系が多いと判断したのか、攻略部隊はいきなり火系の範囲魔法を放ってきた。

 私だって多分そうするだろうけど、他者にやられると凄く腹立たしいのね。

 盛大に燃える魔物たち…………。

 ああっ、せっかくの蜂ちゃんたちが!


「グワァァァ」

「グエエエエ」


 悲鳴を上げる植物系魔物達の姿を見ていたら、さすがに私自らが対応せざるを得ない。かと言って姿を晒す訳にもいかない。お腹も痛いし、アバターでの対応は想定内とはいえ、苦肉の策だ。


 転送魔法陣から出現してすぐ、話し合いが通じるかどうか試してみることにする。

「やめなさい」

 私が声を掛けると、一同は異形の耐熱外装(ギャバン)を見て、目を丸くした。


「お……?」

「魔物……?」

「気をつけろ……!」

 驚いたものの、注意を怠らない。いい冒険者ね。

「ここは迷宮の一部。侵入者にはそれなりの対応をすることになりますよ?」

 どんな対応なのかは言わない。

「笑止だ。我々を襲っておいて、その言い草。殺された騎士たちの恨みも晴らさせてもらおう」

 黄緑くんは、ずい、と一歩前に出て、剣を私に向けた。


「この土地は、元々我ら迷宮のもの。侵略者は出ていっていただきましょうか」

 我ながら酷い言いがかりだと思う……。だけど、これが建前だから、宣言しておく。

「いや、この迷宮も、鉱脈も、ウェルズのものだ。断じて貴様たちのものではない」

「それです。我らは採掘さえ安全に出来れば良いのです。それさえ認めて頂けるのなら、街に被害は出さないと約束しましょう」

「交渉というよりは脅しだね」

 呆れたように、冒険者パーティーのリーダーらしき男が言った。パーティーは男女二人ずつの四人編成。なるほど、彼らが『ウィングス』か。ちなみにリーダーの名前はポールではないらしい。


 アバターの私は頷いた。

「その通り、これは恫喝であり、警告です。貴方たちが、いかに強者とはいえ、万の魔物が絶え間なく街を襲う事態に対応ができますか? 襲う、と宣言された街に人が居着きますか?」

「パープルの街の安寧は、迷宮……の管理人さん? の匙加減一つだと言いたいわけね?」

 リーダーの後にいた、勝ち気そうな女性が鼻を鳴らしながら訊いてくる。

「質問に質問で返すのはマナー違反ですよ。つまりパープルの街は引かない、と仰いますか」

「概ねその通りだ。この鉱脈はウェルズの未来のために必要だからな。ここの領主からは全権を任されている。魔物と戦う、と我々は決めた」

「愚かな………本当に愚かです」

 私はアバターに、息は出ないけど嘆息させた。


「侵略者には毅然とした対応を取るのが常道だね。微力ながら、僕らも手伝うよ」

「マンフレッドさん、恩に着る」

「いくわよ?」

「ああ、頼む、ルエラ」

 そう言うと、黄緑色も、マンフレッドと呼ばれたリーダーも、女……ルエラから強化魔法を付与された。そのまま突っ込んでくるか…………と思いきや、防御を固めてダッシュで後方に下がった。

 意外に思っていたら、その後方から、矢が飛んできた。

《弾けろ!》

 遠くから、これはもう一人の女の声。弓使いか!

 矢は私の直上で分裂して、破片と一緒に魔力の塊がシャワーのように降り注ぐ。


バババババババ


 おうふ。

 動きの鈍いアバターでは、こんな攻撃も食らってしまう。

 しかし! 耐熱仕様なだけではない、衝撃にも魔法にも強いのが、このメタル外装なのだ!

 イラッとして連中を睨む。けどアバターに目玉はないので迫力に欠けるかしら。

 続いて、やはり距離を取った魔術師が、魔法の発動準備に入った。

 体内での魔力移動が速い。こいつ……。かなり腕のいい魔術師だわ……!


 彼女がパーティーの要だと判断して、左右にフェイントを掛けつつ、私は宇宙刑事を前進させた。

「行かせん!」

「させん!」

「せん!」

 と、ここでもう一人の男……そんなに大きくない体躯に、大きな盾を持って、グッと前から出て、その左右からマンフレッドと黄緑くんが圧力を掛け、私の前進を止めた。

「チッ」

 三人とも盾を持って、私の視界を遮り、進路を塞ぎ、時には勢い良く当たりをかけてくる。上手い……!


「今!」

 三人が同時に体当たり。そして私のアバターは後方に押されて飛んだ。

 そこに――――――。


「――――『火弾』」


グワッ


 恐ろしい程の熱量を持った火の弾が、猛スピードで飛んできた。

 アバターに直撃して…………。


「やったか……?」

 どうして、いつの世もフラグを立てる人がいるのか。そんな呟きを我慢して、勢い良くアバターを立ち上がらせた。

 いいや、やってないね。さすが耐魔法・耐熱外装だ、何ともないぜ!


《マスター、一号、二号、準備できました》

 と、その時、めいちゃんから連絡があった。

《すぐに出して。転送地点Aでよろしく》

《了解しました、マスター》


 すぐに転送魔法陣から、デーモン閣下一号と二号が出現した。

「一号、二号、やっておしまい!」

「フハハハハ! 我が輩、技の一号!」

「クハハハハ! 我が輩、力の二号!」

「フハハッ! 二人!」

「クハハッ! 揃って!」

「「キョーデーモン!!」」


 ああっ! 色々間違っているから、ツッコミを入れたい!



――――次回も見るベス!





ミッチ―の声が聞こえる……!


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