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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
勇者狩りの幼女
7/870

※冒険者の山歩き


 今日の私は、早朝から冒険者らしいことをしている。

 指名依頼があったのだけど、もちろん、私を指名したのはトーマスだ。

「急ぎ、魔力回復ポーションの材料を集めてきてくれ、かぁ」

 夕焼け通りを()()()()()()()私を、驚愕の視線で見る通行人たち。ああ、無視無視。


「月光草の採取と、タマスの肝か」

 この二つが、魔力回復ポーションのメイン材料だ。

 魔力は、この世界に溢れている。とても薄く、空気に紛れるようにして存在する。しかし、そのままでは魔法に利用するには濃度が足りない。そこで濃縮する手段が必要になるわけで、これには大まかに、二つの方法がある。


 一つは魔法陣などを利用すること。自動的に収集することで、疑似的な永久機関となりうる可能性がある……けれども、周辺の魔力が枯渇してしまうと(動作自体に魔力を消費するので)魔法陣は発動を止めてしまう。

 もう一つは生体を利用すること。というと大げさだけど、要は肉体が自然回復する仕組みを促進する、ということ。こちらの方が一般的ではあるのだけども、回復能力を強制的に高めるわけで、これはズバリ精力剤と言える。

 つまるところ―――魔術師の魔力回復だけではなく、夜の生活向けのポーションでもある。特に販売が規制されているわけではないのだけど、そういう目的での注文もあるらしい(実際、ポーションの色も紫かかったピンクで、加えてしっかり媚薬の効果も併せ持つ)。

 今回は発注元がポートマット騎士団とかで、まさか騎士団が横流しして利ざやを稼ごうなどということは考えまい―――。


 と、夕焼け通りを歩いていると、西門に到着する。

 西門は町の拡張とともに、位置がどんどん西に向かって移動している。そのためか仮設っぽいというか、北門が立派なのと比較すると安っぽい。まあ、北門は町の正門に相当するようなものだし、比べてもしょうがないか。


 門には二人の騎士が立っていた。

「おや? 採取かい?」

 門番のエルマは、女性なのに欠伸を隠そうともせず声を掛けてくる。薄い色の金髪のショートカットで、見た目の印象と変わらないサバサバした口調だ。

 私の今日の服装は、若草色のチュニックにズボン。山麓で薬草を集めるような恰好だ。エルマが採取、と決めつけるように言ったのは、この軽装を見てのことだろう。


挿絵(By みてみん)


「はい。ちょっと行ってきます。エルマさんもお疲れ様です」

 門番は騎士団が担当している。騎士団は『領地軍』の所属となり、国軍所属なのは王都の騎士団だけ。つまり、エルマはポートマットを領有する、ノーマン伯爵領の騎士ということになる。この場合、『騎士』の爵位持ちとは限らず、『騎士見習い』が圧倒的に多いのだけど、エルマがどうなのかは知らない。


 エルマの金髪が、昇り始めた陽光に照らされて光る。金髪なのは素直に羨ましい。私も染めようかなぁ……。でも、うーん、暗殺者(ラーヴァ)を連想させない方がいいか。

 エルマは女性としては高身長で、私との身長差は頭三つ分ほど。この点も、エルマを羨ましいと思う。

 何十年かしたら、もっと背も伸びるかしら。

 いや………本物のロリババアになるだけかな……。


「はいよー、気をつけてー」

 職務に忠実とは思えない態度だけど、平時の軍隊などこんなものだろう。平和に感謝しよう。

「はーい」

 エルマの目があるうちは、ゆっくり歩く。それでも『風走』がかかった状態なので冗談みたいな早歩きになる。まだ暗いし、それほど驚かれてはいないだろう。

 寝ぼけ眼のエルマを想像して、ちょっと苦笑する。


「よし……」

 木陰に入った。もうエルマからは見えないだろう。

 ということで、本格的に速度を上げて北西の山を目指すことにする。北西の山は『ヘベレケ山』と言うのだけど、別に酔っぱらい仙人が住んでいるわけではない。住んでたら酔拳とか教えてもらえそうだけど。教えてもらえるのは()()()()だけだったりして……。


 飛ぶように走り、しばらく北西にいくと、山道に入る。切り株があちこちにあるのが見える。この辺りには白い石柱が立っていて、ここから山、という目印にもなっている。石柱は過去にこの地域を占領していた大陸からの侵略軍が作った施設と言われているけど、何のための施設かは記録が残っていないのだという。


 ヘベレケ山はそれほど標高は高くない。せいぜい二百メトルほど。つまり四百メートルほど。北部の山脈を除けば、グリテン島に高い山はない。

 しかし、北部山脈もそうだけど、ヘベレケ山は、境界のように突然山になり、山の向こう、北西は違う町、ブリストになる。直線距離にすれば馬車で二日ほど、つまりウィザー城とそう変わらない位置にあるのに、ヘベレケ山があるお陰で迂回しなければならず、倍の日数がかかってしまう。実にバランスの取れた配置と言える。

 ちなみに海岸沿いに道無き道を徒歩で六日ほど西へ向かうと、ボンマット、という過疎漁村へ出る。こちらは距離的にはブリストより全然近いのだけど、難所を通らなければならないので陸上の交通手段は発達していない。ここは塩の産地で、船での交流が主流なんだとか。


 山道をしばらく歩くと植物の植生が一気に寂しくなる。そろそろ中腹かな。

 ここまで『風走』と身体能力を無駄使いしながら走り抜けてきて、まだ昼前だから、ペースとしては中々早い。

 陽が高くなってきて、夏真っ盛り、と言いたいところだけども、『元の世界』の日本の夏と比較すれば、冷夏といった感じだ。


『月光草』はヘベレケ山の中腹、それも日陰の岩場に群生している。夜には蓄光した葉っぱが淡い姿を見せてくれる。ちなみに、この世界の『月光草』は娼婦の隠語でもあり、生成される魔力回復ポーションが精力剤の成分とほぼイコールであることを考えれば、この世界の昔の人は上手い比喩をしたものだと思う。


 尾根沿いに岩肌をヒョイヒョイ、と、しかし慎重に移動していく。この辺りの岩肌は白く、崩れやすい。石灰岩かもしれない。

 岩肌と土の境目辺りを探索すると―――。

 あったあった、細かい毛がついたような葉。月光草だ。『鑑定』でも確認する。


-----------------

【月光草】

夜になると日中に蓄えた光を放出する。

食用可能。

-----------------


挿絵(By みてみん)


『道具箱』から、折りたたみ式の小さな短剣(ナイフ)を取り出す。『暗殺者』のスキル構成を連想させてしまうため、普段は刃渡りの長い短剣を腰から下げたりはしない。しかしながら採取や解体作業には必需品でもあるため、いかにも安物なナイフを用意している。トーマス商店で売っている普及価格帯の品だけど、安物なんて言うと怒られるかしら。

 短剣など武器の類は、本来は武器屋か鍛冶屋(両者を兼ねている店も多い)で買い求めるものだから、本当に入門用よね。


 月光草は群生していたので、間引きするように採集していく。取りすぎないのが自然に対する感謝、ということらしい。

「月光草はこんなところかな」

 十分な量が集まったので、束ねて右腰に結う。


 あとはタマスを探すだけなんだけど―――。

 トーマスから借りている地図と、地形を見比べる。タマスは川を生息域にしているので、このまま尾根づたいに川を探してみることにする。

 しばらく進むと、眼下が光る。微かに水の臭い。探索しつつ、さらに進む。

 おっと、気になる感じ。でもまだ『気配探知』の範囲外だね。止まってみるか。


「――『集音』」

 ここで『集音』スキルを使ってみることにする。遠距離の情報を盗み聞きする―――というスキル。このスキルを含めて、何かを広範囲で調べる……というスキルは各種あって、勝手に『探索系』みたいに名付けている。

 ああ、それを言えば『剣士』『盾職』みたいな分類は、スキルの習得具合(曰く、スキル構成)によって当人の戦い方が想像できるだけで、これは誰かが勝手に作って広まった俗称の分類項目だったりする。


 っと、話がずれた。『探索系』は、この『集音』に限らず、何らかの形で魔力を使って、魔力を持つ対象を調査する。調査の際に、五感のうち、どれかに集中することで効果を高めているだけ。『集音』の場合は聴力に集中しているわけだ。温度差を見たり(これはかなりファンタジーっぽいけど)、遠くを見たり(何らかの形で画像補正しているとしか思えない)、暗がりを見えるようにしたり。


 魔術師が使う『気配探知』は何故かちゃんと『(魔法)』みたいに書いてあって、これは魔力を使う探知全部を漫然と実行しているだけ、な気がする。そのため、何かに集中して調べた方がいい場合は、ちゃんとそれに合ったスキルを使った方が結果が良くなる。似たスキルである『魔力感知』と名前が違うだけで、魔術師的には同じスキルだと思う。

 ちなみに『気配探知(物理)』だけは、本当に気配を()()。同じ名前のスキルだけど、全然別のスキルだったりする。


「……………………」

 大型動物は動く音も大きい。じっと耳を澄ます……。

 水の音がする。

 ん……何かいるな。

『集音』を中断して、音のあった方角に見当をつけて歩き出す。

 お、『気配探知』で大型の生物を発見。水の音も近い。更に近寄る……。

 あれ、水の音は下の方だけど……。崖になってるのかな。


 おおっと危ない!


 崖から落ちそうになった。思わず木に抱きつく。

 あー。

 見つけた。

 四つの個体が渓谷―――というには幅広な川―――で水浴びをしているのを見つける。

 うん……カバっぽい。毛が薄くて薄ピンクの皮膚が露出している。

 水辺にいる大型のほ乳類。魔物ではない。


-----------------

【タマス】

LV:9

種族:肺呼吸脊椎動物

淡水の水辺で生息する。

草食だが気性は荒く、小さな群れで行動する。

胎生で一度に産む個体数は三~四。

-----------------


 元の世界のカバと違うのは、四肢が細く長い点か。陸上でも意外に素早そうだ。それにカバよりも圧倒的に小さい。全長一メトルほどか。水の中ではタマスに有利だろう。はぐれた個体を陸上で、というのが一番楽そうではある。


 水陸にバランスの取れた生物……。ズ○ックを思い出す。ビーム○ーベルでもあれば一刀両断できるかもしれない。ほんと、おもしろおかしい事は覚えてるのよね。


 こんなときは『ステルスウナギの革鎧』が使えれば、忍び寄って一閃――――なのだけど、魔術師として活動しているわけだし、暗殺者風味に狩りをするのは御法度だ。近づき方は暗殺者っぽかったけど……。まあ、冒険者ならこれくらいは普通だろうと思う。

 制限がある―――から工夫する―――のは、燃えるものがあるねー。

 ま、とりあえず川面に降りてみるかー。


 うーん、遠距離攻撃といえば魔法攻撃。

 本来、『暗殺者』っぽいスキル構成の私だけれど、他人のスキルをコピーしまくっているので、習得体系が自分でもサッパリわからなくなっている。一体何を覚えているのかが把握できていないのだ。というのも、自分自身は『鑑定』系スキルが対象として見てくれなかったりする。地味に不便だと思う。

 短剣で忍び寄って殺す、以外の攻撃を体得してはどうか、というフェイの提案もあって、最近では少しずつ魔法攻撃の練習もしているところ。

 でも、四体のタマスを一度に襲うには範囲魔法は強力すぎて、目的である肝も傷めてしまいそう。


 と、なると、群れから一匹だけを引き離して処理……となるか。

 いかんせん魔法攻撃は、魔力の高まりを察知されたり、音が大きかったりと、殺傷能力は高いものの、静かに殺す―――暗殺向き―――ではない。

 こういう時、『元の世界』では狙撃銃を使うのだろう。一撃で仕留める。もしくは発砲音で威圧して、群れの他の個体は逃げる……。

 逃げてくれるならいいけども……。『気性が荒い』とか書かれてるしなぁ。錯乱して反撃されると面倒だなぁ。


 銃に似た物は土系魔法で可能だろう。銃弾に似た形状の物をその辺の岩を使って形成して、螺旋状に回転をつけて発射すればいい。でも、狙いが正確ではないため、外した場合を考えると良い方法ではないかもしれない。

 となると、『物理的に何かをぶつける』というのはリスクが同じだということになる。

 ん~。電撃みたいのはどうだろうか。ここからタマスまでは五十メトルくらいか。ちょっと届かないだろうし、これ以上近づけばさすがに察知されそうだし、やっぱり着弾の音もするか。

 ああ、電撃といえばビリビリ中学生だなぁ。レールガンは再現できたとしても、川の流れを変えてしまいそうだしなぁ。それ以前に体が溶けちゃうしなぁ。

 あ、レーザーとかどうかな。って、レーザーってどうすればいいんだっけ。


 私は両方の人差し指につばをつけ、額に触れて、グルグルと回した。ポクポク、という(想像上の)効果音だけが頭に鳴り響く。

 レーザーを作るには精度の高い透過性の低い鏡が必要で――――密閉して触媒を封入しておいて―――光源は光魔法で赤外線を使って―――密閉した鏡の一方を半透過にすれば――――。


 って、できないって!


 自分にツッコミを入れてみる。方法はともかくとして、資材と時間がない。というかそれはもう魔法じゃないし。

 鏡はそのうち作ろうかと思ってたくらいで、今までは水鏡で……。あ、水で作ればいいのか。

 触媒って二酸化炭素でいいんだっけ。これも水系か風系、暖めて取り出すなら火系も使えるか。

 あとは光魔法で赤外線を線状に出してみればいいか。

 ま、やってみようか。


 音をさせないように川下へ。こちらが風下でもあるしね。

 ここなら水は潤沢にある。まずは魔力で操作して、筒状に水を形成する。『水姫』とか『水馬』とか『水竜』なんていうスキルもあるし、水で何かを形成する、という魔法は昔から研究されていたのだろう。

 筒状にするのは、人型や馬型に形成するよりは遙かに楽だし、その分、集中して魔力を使い、綺麗な直線になるように形状を微調整していく。長さは一メトルくらい。不純物を筒の外側に、遠心力を使って集め、薄くコーティングしていく。うん、こんなことで撃てるのかわからないけど。


―――補助魔法:水形成を習得しました


 何だ、水形成とか覚えたわ。視界の下にメッセージが出るのは、いきなりだとやっぱり驚いちゃうなぁ。

 うーん、鏡っぽくするなら筒の周囲を暗くしないと駄目かな。あー、闇系魔法の初心者用で『闇球』っていうのがあるな。光系の『光球』の闇版。周囲を暗くするだけの意味不明なスキル……。で筒の周囲を覆ってみますか。

 うーん、イメージイメージ。


―――補助魔法:闇覆を習得しました


 お、できたできた。補助魔法、っていうのは攻撃系じゃなく、嫌がらせに使ったり、便利魔法が分類されるみたいね。


 筒の両端を閉じる。

 筒の中に右手を突っ込む。

 光魔法で、不可視光になるように光らせる。


―――補助魔法:光源(赤外線)を習得しました


 んー、本数を増やしてみるか。

 あ、熱くなってきた。

 タマスは………まだのんびりしてるか。よし、最後尾の個体に狙いをつけて……。

 まあ、直進するよね?

 よし、銃口の部分を開放。光源の魔力アップ!


ドン!


「わっ」

 筒が爆発した。音に驚いた小鳥たちが飛び去る音が重なる。

 タマスは……。


 どうやら狙った個体には命中したようだ。まだ四足で立ってるけど。

 他の三つの個体は……。

 何事もなかったように、川上へと移動している。音は響かなかったのか、聞こえなかったのか。影響はなかったようだ。


 うーん、『レーザー』みたいなスキルは覚えなかったなぁ。光魔法って、基本的に光るだけなんだよね。フ○ーザ様みたいなスキルがあると便利なんだけどなぁ。

 その光源の役割をしていた右手の手のひらは赤黒く変色していた。火傷というか、炭化に近いような……。

「――『治癒』」

 幸いにも、ここは川の中だ。水系の治癒も魔力効率がいいはず………。多分ね。

 感覚がなかった手のひらに力がよみがえってくる。というか、大量の水がなければ焼け落ちていたかも……。

 身震いしながら、倒れたタマスへと近寄っていく。少しオゾン臭がする……。

 ……ちょっと怖くなって身震いしてしまう。


「うわあ……」

 その死骸の頭部は、直径五センチほどの穴が貫通していた。これは確かに一撃で意識を失うだろう。穴の周囲は炭化していて、血さえ出なかったのがわかる。

 この場所で血抜きをしてもいいのだけど……。離れた三体に気づかれないようにしよう。とりあえずは死骸を岸に揚げる。

「――『冷凍』」

 ()()魔法で水分を気化させていく。ああ、そういえばトーマスが言ってた、倉庫の話はまとまったのかなぁ。


 できあがった冷凍タマスを一瞥する。

 魔法の影響か、ちょっと両腕が冷たい。

「死体はアイテム扱いのはず……」

 解体した部位などは『道具箱』に入れられたんだけど、まるごと一匹が入るのかは、まだ試したことがなかったんだよね。

「よっ、っと」

 収納できた。問題無く。これでトーマスには新鮮な肝を持って帰ることができる。

 肉が美味しいといいなぁ……。



―――カバとトットを思い出した。



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