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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
ホムンクルスは魔導兎の夢を見るか?
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ウィザー城西迷宮の攻略3――キメラの不死者―――


【王国暦123年10月26日 20:25】


 四体目の首を刈った時点で、残ったエレクトリックサンダーは怯み、各々が勝手な攻撃をするのを止めた。

 力尽くの雷撃が通用しない相手だと悟ったようで、二体ずつが組になり、連携を始めた。茫洋としたミネルヴァの指示だとは思えないから、本来の迷宮管理者の指示か、エレクトリックサンダーに元々備わっている本能というやつかもしれない。


「チッ」

 黙ってエレ肉になればいいものを……。余計な面倒を掛けさせるわね!

 エレクトリックサンダー残り六体は、三組になって、時間差で雷撃を放つ。

「サンダ○ブレーク!」

 両手と『雷の杖』、三つの人差し指から一点をめがけて、私の雷撃が放たれる。

「!!」

 エレクトリックサンダーから驚きが伝わる。同じ技で攻撃されるとは思っていなかったみたい。

 一匹は足元を吹っ飛ばされて倒れ、もう一匹は雷撃をまともに受けて、蓄電量をオーバーして爆散した。


バン、バン


 それでも連携を怠らず、残り四体は二組とはいわず、四体それぞれが絶え間なく雷撃をすることにしたようだ。

「――――『蓄電』」

 しかし、それは燃料にしかならない。三発分の電力が揃ったところでサンダーブレ○ク。


ドガッ


 自分で作り出した光景とはいえ、土でできた床は穴でボコボコになっている状況は酷いなぁと思ったり。

 残り二体のエレクトリックサンダーは戦意を喪失して、立ちすくんだまま。

「むん」

『雷の杖』で電気を吸い取りつつ、ポコッと頭を殴る。

 もう一体もポコッと殴る。

 気を失ったところで『魔物使役』、ついでに『魔力吸収』をして、完全に気を失わせた。


「もういいよー?」

 扉の外で待機中のパーティーメンバーに声を掛けると、四人は恐る恐る、爆撃跡みたいなフロアに入ってきた。

「ギッ、ギヒッ、ギヒヒヒ……」

「ハハ、ハハハハ……何だ、この惨状は……」

「眷属になっててよかった……」

「……なんてことを……」

 ミネルヴァだけは悲しい顔を、他の三人は引き攣った笑みを浮かべていた。

「血抜き手伝ってねー」

 爆散したのが二体。原形を保っているのが四体。三体は死なせずに済んだ。

「黒魔女様、すぐに『道具箱』に入れてしまえば現状は保全されるのでは……?」

「うん、でも、血抜きしてからの方が美味しいのよ」

 そんな理由で進軍速度が遅くなることに、ミネルヴァ以外の三人は呆れた顔をした。ミネルヴァは死んだエレクトリックサンダー一体一体の名前を呼んで、涙に暮れていた。



【王国暦123年10月26日 21:02】


「………………」

 さすがに精神が怪しくなった顔をしているミネルヴァの前で、エレ肉を頬張るという訳にもいかず、肉を回収した後は早々に第六階層に降りた。


 降りてから食事などの小休止をしよう、と考えていたんだけど、強烈に漂う腐臭に、そんな甘えは吹き飛んでしまった。


「くせーな!」

 糞便などは迷宮が魔力に変換してガンガン吸い取ってしまうので、実質どこで排便しても問題はない。衛生的には多少問題はあるけど。

 だけど腐臭が漂っている、ということは、迷宮に消化されずに存在している、ということ。

「不死者がたむろしているってことよね?」

「……意図せずにそうなってますね」


 この階層はキメラたちの保育庫……ということになっている。

 お触り爺さんたちがキメラをどうやって作り上げているのか、というと、生物Aに生物Bの一部を外科的に移植して、魔物化によって生着を促すというもの。

 やり方を聞いた時は無茶やってんなー、と思ったけど、遺伝子をいじる方法なんて彼らには不可能だし、唯一可能だったのが、この手段みたい。


 安定した組み合わせというのは、たとえば哺乳類に哺乳類、爬虫類に爬虫類、みたいに近縁の生物同士に成功例が多かった。

 ここから経験則が導き出されて、リスとネズミ、リスとコウモリ……のように組み合わせを増やしていった。


 ブリスト南迷宮がやっていたのはもう少し高度で、どういう理屈か、哺乳類と爬虫類と鳥類のキメラ、なんていうのもホルマリン漬けになっていた。

 爺たちの研究は、ブリスト南迷宮の資料なんか見てないわけで、百年後も爺たちが生き続けて、生物を切り刻み続けたら、あるいは到達できるかもしれない。


 3Gのやっている研究とやらは、それぞれが野放しにすると大変に危険なものばかり。早々に乗っ取って管理下に置けたのは僥倖だったと思わざるを得ないわね。


 というのは、グリテンには小型哺乳類の他は、家畜っぽい動物しかいないので、バリエーションがそれほどない。となると、自然に目が向くのは人間ということになる。


 さすがのマッコーも止めさせたみたいだけど、それは被検体に手術を施した後だったりする。一時的に組織が生着したとしても、拒絶反応を抑える仕組みが確立されていないので、早々に壊死、そのまま死亡、魔核が働いているので迷宮に死体が回収されずに不死者になるケースが多い――――。


「爺の研究室はそこ?」

「……そうです。……大分前に閉鎖されています。……彼らはもう迷宮のアカウントを剥奪されていますし」

 マッコーがミネルヴァに、3Gのアカウントを剥奪するように指示したのは、見境無く迷宮の魔物を切り刻み始めたから、という理由もあるんだという。


 実は高レベルの『融合』スキルがあると、生体同士も接合することが出来る。

 くっつくだけで、新生物が産まれるとは言い難いんだけど。

 ただ外科的に切って貼り付けただけじゃ上手くいかないのは明白で、魔物同士はさらに難易度が高かったりする。どの魔物も、成り立ちが違うのだから、手段に不足しているのなら生着するはずがないのにね。


「スカーレル=マウス、バット・ドッグ、ロッテンゴブリン、マッドマン、ビッグベイビー……戦闘には役立ちそうにないねぇ。ミネルヴァから見て、これらは何かの役に立つと思う?」

 醜悪なキメラ不死者たちが腐臭を撒き散らしながらゆっくりと徘徊する様は、見ていて気分の良い物ではない。ま、気分の良くなる不死者なんていないか。


「……思いません」

「そっか。じゃあ、ちゃんと昇天してもらおう。――――『浄化』」

 蠢くだけの不死者を、手当たり次第に浄化して回る。不死者には魔核がない場合があるんだけど、ここにいるのは人造の魔物なので、()()に魔核を保有している。だから、個体によっては二個の魔核を持っている時もある。

『浄化』は魔核ごと霧散させてしまうこともあるし、ちゃんと残る時もある。感覚的には半々くらいかしら。倒した数よりは明らかに多い魔核を入手することには変わりない、かな。


「ふぅん……」

 魔核に彫られた魔法陣を見て、この技術が、ケリーたちを通じて、ポートマット迷宮で、私に対して張られた罠の仕込みに使われたのか、と納得する。

 ウィザー城西迷宮は、通常の人間が、外から得られる情報だけを基に、一から組み立てた迷宮でもある。マッコーの父親が関わってるんだとか何とか言ってたっけ。なるほど、魔術師ギルドが()()()()()()迷宮を欲していたのは、この迷宮が不完全で、運営ノウハウが欲しかった、というのがよくわかる。

 元の世界から来た私にはわからない感覚だけど、この世界の人にとって迷宮はロストテクノロジーで、発掘すればするだけ叡智が手に入る。


「周囲に敵影なし。全部『浄化』できたかな」

「……残念ながら浄化されてしまいましたね」

「なあ、黒魔女様よ。明らかに人間と馬が合体したのもいたよな?」

「ああ、原形保ってたねぇ。人馬(ケンタウロス)を目指してたんだと思うよ?」

 ケンタウロスが許されるのは鋼鉄ジーグくらいだと思うのよね。

 豚人間(オーク)牛人間(ミノタウロス)がいるから、馬人間がいても不思議じゃないのに、どうも見かけない。ついでに犬人間も猫人間も見ないなぁ。魚人間はシェミーがそうか。魔族も魔物もキメラみたいなのは時々見る……。うーん……ブリスト南迷宮の標本にあった研究がもっと進歩していれば、魔物も魔族も人為的に発生した、なんて大胆仮説が浮かんでくるんだろうけど、あの研究がされていたころにはすでに迷宮はあったわけで、ミノタウロスもオークもいたはず。

 ちょっと時期が合わないわよねぇ……。それとも、千年前にすでに迷宮がロストテクノロジーだったとか? それなら辻褄は合わなくはないけど。



【王国暦123年10月26日 22:31】


 第七階層に降りてきた。

 扉の前で小休止、軽食を摂る。

 その間に私も準備を進める。

 右手には雷の杖、左手には大盾、『雷の籠手』を填めたままの第三腕には『光精霊の剣』、第四腕には銅弾を数発持たせた。籠手は指先が器用には動かないのでコントロールは多少甘くなるけど、まあ、大丈夫。

「中にいるのは最低でも三体。仕切りはなさそうだから、一度にやってくると思った方がいいわね」

 ゴクリ、と全員の喉が鳴った。

 今回に限っては私が真面目に準備をしているものだから、ちょっと空気が違う、と感じてくれたみたい。


「それと……ミネルヴァ、今回は働いてもらうよ」

「…………何をすれば、いいでしょうか?」

 ここまで協力的ではないミネルヴァも、場の空気に当てられたのか、従順な事を言った。やっと、この迷宮が敵性迷宮だということを、頭でも心でも理解したのかしらね。


「盾の人は中に入ったら全力で防御。ミネルヴァは盾の人に全力で『治癒』を続けて。ギヒヒはミネルヴァを守って。二刀の人は指示があるまで盾に守られてちょうだいな」

 全員が頷いた。

「よし、扉を開けるよ――――――――」

 バン、と扉を開けると、盾の人はすぐに盾を構え、私は『障壁』を盛大に展開した。


ズババババババ

ドガガガガガガ


 部屋の中は真っ暗で、その中からよくわからないけど色んなものが飛んできて、盾や『障壁』に阻まれている。

「うおおおおお」

 盾の人が叫ぶ。私は防御が上手く機能していることを確認しつつ、全員に『暗視』を付与した。

「むっ……」

 正面には石のゴーレムが三体いて、それらが自身の体を削って、ドデカイ石の矢を放ってきていた。矢の発射装置はいわゆるバリスタで、連打に次ぐ連打が行われている。給弾装置がゴーレムそのものである……なるほど、ああいう使い方もあるのか、と感心してしまう。しかしゴーレムは魔物としてカウントされないはずなんだけど…………。

 じゃあ、()()三体いるのか!


「周囲を警戒!」

 思わず叫ぶ。

 と、上から何かが降ってきた。

「キシャアアアアアア!」

 体高一メトルほど、異形の人型が、曲刀(シミタ―)を持って、上空から攻めてきた。

「キメラ!?」

 うん、キメラといえなくもないわね。爬虫類……リザードマンか! 動きが速い!


-----------------

【リザードマン・アサシン】

LV:58

種族:爬虫類

二足歩行をする爬虫類。知能が高く独自言語による意思疎通が可能。

筋力も高く、集団戦で真価を発揮する。


アサシン:速度と隠密に特化した個体

-----------------


「――――『風切り』」

 私が直上に向けて魔法を放つも、狙いが散漫で外れてしまう。

「シャアアアア!」

 落下速度を利用した攻撃。ということは扉の上に立って待ってたのか。

「むん」

 第三腕を真上に振るう。『光精霊の剣』は筋を描いて大きな刃となり、リザードマンを曲刀ごと両断した。


 盾の人はさすが、慌てずに正面をキープしている。

「ミネルヴァ、火精霊に言って、部屋の中の温度を下げて」

「……了解しましたっ」

 ピリピリとした空気が有無を言わせない。ミネルヴァは盾男に施していた『治癒』を止めて、周囲にいる火精霊たちに訴えかけた。精霊魔法は精霊にお願いして何かをしてもらう……ので、明確にスキルの名前になっていないことが多い。焦っているミネルヴァは、急激に部屋の温度を下げ始めた。


 とは言っても、ここは迷宮の一階層をまるまる一部屋に使っているから、それなりに広い空間がある。完全に冷却するには時間がかかりそう。

「!」

 寒くなりかけの部屋に突然魔力が湧いた。

「魔法防御! ――――『魔法盾』」

「はっっっ!」

 盾男がさらに気合いを入れた。こうしている間にも、ほとんど攻城用に匹敵するようなバリスタ三つの攻撃を受け続けている。すごいなぁ、カレンに匹敵するんじゃ……?


「!」

 危険な兆候、魔力の急激な高まり。

 上級魔法相当の範囲攻撃――――火系だから『火域』――――が放たれたのを感じる。

 なるほど、温度が下がってるから、それを解消するために暖を取るのは理に適ってるわね。知能が高い、ってわざわざ書かれてたもんね。


ゴアッ


 空気を焼く音が迫ってくる。この狭い空間で高温を発する魔法を使うとか、酸欠で死んでまうわ! っていうか、これって殆ど自爆攻撃じゃなかろうか。

 ああ、それでゴーレムの攻撃が主軸になっているわけか!

 空いている右手を高く掲げる。


「――――『魔力吸収』」

 渦を巻いて、『火域』が私の掌に吸い込まれていく。温度が上がった空気は、燃やす媒体がなくなり、霧散していく。

 今のところ攻撃を受けきってはいるけど、このままじゃジリ貧なのは間違いない。盾の人の集中力もそのうち切れる。伏兵もまだどこかにいるだろうし。

《ふふん……?》

 この場をどうしてくれようか、と思案していると、頭の中の精霊たちが、自分たちにやらせろ、と言ってきた。



――――精霊たちに任せようっと。





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