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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
王都で奇食巡り
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料理の準備


「そう、こんなに肉をもらえるなんて嬉しいわ!」

 まさにアーサ宅の台所は肉だらけになっていた。

 アールクマー、フラワーサース、極めつけはエレクトリックサンダー。

「熊は味噌仕立てにしましょう」

 明日に行う『祝いの会』用メインのスープを、今から仕込んでいる。量が量なので、前日から仕込まないと完成しないのだ。薄切りにした熊肉(半頭分)を薄切りにして、お湯で下茹で。アクを取り切ったら本茹でに入る。

 全部茹でられないので、余った熊肉は別途、味噌に漬け込んで、ステーキ風に焼こうということになった。


 サースは脇腹肉をタレに漬け込む。即席のグリルを庭に作って、そこでバーベキュー風にするつもり。サースのもも肉は生ハムにするのが一番なんだけど、あれは年単位で時間がかかる。ので、今回はアーサ宅のストックのハムを放出することにした。

 サース肉の残りは、紐をして、これも下茹で。茹で豚にしよう、という私の提案。かけるタレは醤油ベースの予定。


 エレクトリックサンダーは薄切りにして塩漬けにしておく。これも本当はベーコンみたいにしたかったんだけど、アーサお婆ちゃん曰く、これだけ旨みが強いと、一晩塩漬けにするだけでも十分に美味しいという判断をされた。茹でる鍋のもう一つは、エレ骨を砕いて煮込んだスープ。これは、ラーメンのスープベースになる。

 台所に熱気と湿気が溢れる。


「そうね。パン屋さんに五十人前のパンを注文お願いね。あとお酒ね。余ってもいいから大量にお願い。お野菜はイモを二袋くらい。後は適当に買ってきてね」

「えっと、はい!」

 張り切るアーサお婆ちゃんに応えようと、私は注文を記憶して、ダッシュで夕焼け通りに飛び出した。


「―――『風走』」

 あー、調味料も足りないかな。味噌と醤油と砂糖、あと油も買っておこう。

 まずはサトウ商店で砂糖。ここは砂糖専門店と言い切っていいよね。

 ハミルトンの店にいって、レモン、リンゴ。国産の果物はそんなものか。ジク(イチジク)は季節じゃないらしくて在庫なし。

 ギンザ通りから少し離れて、調味料と油の専門店であるメラーズ商店で塩、味噌、醤油と食用亜麻油を買う。お、これは……『南国の木の実油』と札が……色からしてオリーブオイルっぽいのでこれも購入。

 乳製品を扱っているハリス商店で牛乳二瓶、生クリーム一瓶、チーズを数種類。生クリームはチーズの前段階であるらしく、一般的ではないけども、生クリームの状態で売ってもらった。店主は怪訝そうな顔をしていた。

 コンドリフ雑穀店はパスして、ライバルのベロ―雑穀店へ。ここで小麦粉を一袋。

 八百屋のコールマン商店でイモ、ニンジン、キャベツ、タマネギ、長ネギ、を大人買い。

 パンはいつもドロシーが注文しているダルトン製パンに明日の昼過ぎに届けてくれるように大量注文。ここで私は店主から秘密の粉を一握り貰う。大量注文が幸いしてか、快く譲ってくれた。

 お酒は、これも普段から通っているドノヴァン酒店でオーク樽のニャック三十本、ワインのニャック三十本、透明のニャック十本、赤ワイン六十本、白ワイン六十本、ロゼ三十本。在庫がなくなっちまうよ! という声を無視してにこやかに大量買い。『道具箱』に全部入った。

 よし、もどるぞっ。


「ただいま戻りました!」

「そう! 早いわね!」

「とりあえず、地下室に置いておきます!」

「そう! よろしくね!」


 本来、この台所にはベッキーもいるはずだったのだけど、彼女は冒険者ギルドに行っていたりする。

 というのは、フェイが二日酔いでダウンしたからだった。あっはっは、ごめんなさい。

 なんでもフェイはトーマスに、素材関係の調達を依頼しようとしていたらしく、今日の午前中に来てほしい、と事前に言っていたみたい。支部長室に到着したトーマスが、困っていた冒険者ギルドの職員たちを見かねてドロシー経由でベッキーに休日出勤を要請したと。フェイはうわごとのように、私にやられたと呟いていたそうで、執着と怨念が感じられる呻き声に、ベッキーが一肌脱いだ、というわけだ。


 式の前日まで働いているなんて、勤勉な夫婦だなぁ。半分は私のせいだけど。

 それにしても、ベッキーは『しょうがないわねぇ』と二つ返事だったし、アーサお婆ちゃんも『そう、仕方ないわ、助けにいってらっしゃい』と快く送り出したわけで。

 この母娘のフェイに対する感情は、父親とか、別れた旦那みたいな、そんなイメージにも映るのだけど、どうなんだろうか。


「あの、支部長って、ご家族っているんですか?」

 虎の尾を踏みそうなので慎重にカマを掛けてみる。

「そうねぇ……娘さんがいるとは聞いた事があるわ。奥さんがどうなっているのかは知らないわ」

「へ、へえ……」

 既婚者で娘アリ、というのは周知されてるわけか。だけどもその正体を誰も知らないと。


「そう? どうして?」

 そんなことを訊くんだ? と訊かれてしまう。

「支部長に対する暖かい感情のようなものが感じられたので……」

 うわ、直訳文章みたいだ。我ながら語彙の不足を感じる。

「そうねぇ………。うーん……。私はともかく、ベッキーは父親みたいに思ってるはずよ」

 それに対応する言葉を紡ぐと、きっと虎の尾を踏むと確信して、私は話題を変える。


「そうなんですか。アーサさん、お魚は?」

 誤魔化しきれたかな? いや無理だろうけど。アーサお婆ちゃんがフェイに少なからず好意を持っていたのは間違いないわけで、それが男と女の感情であれば、要らぬ火種になる。しまっておいた方がいい感情っていうのもある。

「そうね、明日の朝一番で港で直接買うわ」

「あ、なるほど」

 鮮度重視ということね。いいでしょう、買いにいきましょう。


 これだけ肉ばっかりだと華やかではあるけど、肉が苦手な人は……まあいないか……魚が欲しくなる。アーサお婆ちゃんにして忘れていたわけではないはずだから、元からそのつもりだったんだろう。

 何だか全てを察したような笑みを浮かべて、アーサお婆ちゃんはさらに話題を変えてくれた。

「そうねぇ、庭のグリルをお願いできるかしら」

「了解です」


 私が、『アーサお婆ちゃんがフェイをどう思っているのか』なんて下世話な疑問を持ったことに気付いていても、それを咎めることもしなかった。あれが寛容さってやつなのかな。これが長く生きるってことなのかな、なんて漫然と思う。


 建物を出て、グリル設置に適した場所を探す。

 この家は住宅街にあって、他の家よりも明らかに敷地が広いのだけど、庭園(みるもの)ではなく、菜園(くいもの)に囲まれている感じ。元の世界でいうと、田舎の農家みたいな。敷地の全域に地下室を掘ったら相当な広さになるかもしれないけど、所詮はアーサお婆ちゃんの土地だし、魔改造はしないでおこう。今のところは。


 建物に近く、ちょうど良さそうな空間を見つけたので、そこにグリルを設置することにする。土系魔法で即席に作ってもいいんだけど、どうせだから煉瓦を積み上げていく。大きくなくていいし、手持ちの煉瓦でコト足りる。

 高さ五十センチほどの小さなグリルが組み上がると、鉄のインゴットを水刃で細く切ってから格子状に組み上げる。これは網の代わり。まあ、編んだ方がいいんだけど、時間をかけてもいられない。

 場所の選定から完成まで三十分。まあまあね。


「グリルできましたー」

「そう? どれどれ……」

 アーサお婆ちゃんに報告に行くと、仕上がりを見たい、と外に飛び出して、カマドを見つめた。

「そう……こんな立派なグリルが? いま? 作ったの?」

「はい、まだセメントが乾いてないですけど」

 冬の寒さも峠を越えて、暖かい日が増えてきた。この暖かさなら、明日の昼、使用時には乾いているだろう。

「そう。冒険者じゃなくて大工とか石工で食べていけそうね?」

「あはは……」

 できれば私もそうしたい。物作りで奔走できる生活。なんて素晴らしい!

 しかし、この穏やかな暮らしがいつまで保つだろうか。おっと、ネガティブな事を考えてはいけない。このお婆ちゃんに心配させてはいけない。

「時間がなかったので、これが網の代わりです。直火で焼いた肉はそれはもう美味しいでしょうね……」

「そう、そうね。明日には肉もタレに馴染んでいると思うわ」

 フッフッフ、とアーサお婆ちゃんと笑いながら、台所に戻る。


「あ、もう熊は下茹でが済んでるんですね」

「そうね。ちょっと火加減だけ見ておいてもらえるかしら。私は買い物にいってくるわ」

「え、買い物なら私が」

「そう、でもいいの。頼んでおいたものを受け取りにいかないといけないから」

 ははぁ、と何となく『頼んでおいた物』のアタリをつけて、私は娘を思う母の気持ちに暖かい気持ちになった。

「はい、見ておきます。いってらっしゃい」

 アーサお婆ちゃんを見送ると、台所に一人取り残された。

 ワーカホリックな性分が災いしてか、この間に出来ることを思いつく。

 うん、ラーメンの試作をしてみよう。


「うーん」

 作業手順を考える。

 よし、まずは麺からかしら。


 ダルトン製パンの主人から貰った秘密の粉。一握りだけれども、これがダルトン製パンの白パン作りに欠かせず、ふわふわ感の元でもある、魔法の粉。あまり食べ物方面には五月蠅くないトーマスが目を付けない方向の添加剤。

 ボウルに粉をひとつまみ。水を少量入れる。塩と卵を入れる。疑似的ではあるし、成分的には異論もあるかもしれないけど、かんすいの代わりを作る。かんすいの代用としては、海水を煮込んで結晶させた残り―――にがり―――を使う方法もあるのだけど、塩分調整がしにくそうなので、今回はこっちの方法を取った。

 小麦粉の袋を開ける。以前に試したところ、一般に売っている小麦粉は強力粉と中力粉の間くらい。グリテンでは大麦も同じくらい消費するみたいだけれども、例の白パンのお陰で、小麦粉の需要が高まっている。今後の穀倉地帯の作付け配分も変わってきそう。

 計量カップで小麦粉を正確に量り、ボウルへ。疑似かんすいは塩を含んでいるので、ほんの少量の塩だけを追加。水もちゃんと計量して、ちょろちょろ加水しながら練り上げていく。丸くまとまったところで一旦、濡れ布巾をして放置。


「………………」

 粉を練るの、面白いな!

 調子に乗ってもう一種類いってみようっと。

 メラーズ商店で買ってきた『南国の木の実油』とやらの瓶を開封して、匂いを嗅いでみる。

 うん、精製のあまい、粗野な感じではあるけど、これはオリーブオイルだね。ということはパスタがいいかしらね。

 疑似かんすいの代わりにオリーブオイルを混ぜる。緑がかって、オリーブのいい香りがする。トマトが欲しくなるけど、ないものはないか。鶏卵を混ぜる分の水を減らして調整、そして練る。

 おー、パスタっぽい。これも練り終わったら濡れ布巾をして放置。


 寝かせていたかんすい含みの生地をもう一回こねる。うん、ツヤツヤしてきた。かんすいはアルカリ生地にしてしまうので、長く寝かせるのは本来駄目なんだと聞いた事があった。まあ、元の世界では色んな嗜好の人がいるから、麺を寝かせるラーメン屋がいてもいいんだろう。


 リビングのテーブルを片付けてよく拭いて、粉を打つ。麺棒は棍棒……いかついけどしょうがない……で、四角に広げていく。


 あれっ、なんで、私、こんな事できるんだ?


 スキルとかないよね? 蕎麦打ちLV1とか。じゃあ、これは元の世界由来の、素の私のスキル、いや技術なのか。え、じゃあなに、元の世界では蕎麦打ち職人だったとか? 建築関係だとばっかり思っていたんだけどなぁ……。少なくとも芸術方面じゃないのはわかっているけど、うーん、どうなんだろうか。


 そんな悩んでいる間にも生地は四角になっていく。手が、勝手にそうしてる感じ。生地を折ってまとめる。ん、風刃で切っちゃえば綺麗だろうか。いや、ここは敢えて、素の私の技術を確認してみよう。刃の重い刃物はなかったので、ルーサー師作の柳刃で切ることにして、まっすぐそうな板をガイドにして、リズミカルに細く切っていく。

 うおおお、何だこの熟練の技は? 包丁三日、延ばし三月、木鉢三年、だっけか。なんだ、包丁が一番簡単なのか。あはははは。

 しかし、細く、美しく仕上がった麺には愛着さえ感じる。


―――生産系スキル:製麺LV1を習得しました

―――生産系スキル:製麺LV3を習得しました(LV1>LV3)


 なにっ!

 製麺所が開設できるかもしれない!

 大興奮しながら、ちょっと茹でて試食してみることにする。

「んっ!」

 ちょっと疑似かんすいが強かったか。しかしこれは紛れもなく中華麺だ。

 風味がグリテン、いやポートマットで受け入れられるかは別問題だけれども、元の世界から来た人間には涙が出そうな風味だ。

 中華麺は茹でる前の状態でまとめて壺に入れて、『道具箱』に保管。


 続いてパスタ。パスタそのものはグリテンにも存在するのだけど、小麦粉はパンにするもの、という常識があるようで、あまり普及していない。まあ、打ち粉とか使うし、無駄に粉を消費するものね。だから贅沢料理っていう印象なのかもしれない。

 だけど敢えて今回は作る。だってーフェットゥチーネ食べたいんだよー。


 製麺スキルを習得したお陰か、前回よりもさらにスムーズに生地が四角に広げられる。流れるように太麺が完成。太麺は作り過ぎたけど、まあいいか。

 これも壺に入れて『道具箱』にしまい、白くなったテーブルを片付けていると、アーサお婆ちゃんが戻ってきた。


「そう、もどったわ。ただいま」

「おかえりなさーい」

「そう、夕ご飯にしましょうか。味見を兼ねて」

 そっか、もうそんな時間か。

「そういえば、先日の鶏のスープはまだ残ってましたよね?」

「そうね。食べきれる量じゃなかったし」

 テヘッとアーサお婆ちゃんが笑う。

「あ、じゃあ、付け合わせを作るのに使いますので、頂いてもいいでしょうか?」

「そうね、構わないわ。じゃあ、今日は熊肉三昧にするから!」

 熊肉が好物なのかな……。目が爛々と光っている気がする。


 アーサお婆ちゃんが熊肉スープの味を調整している間に、根菜を茹でていく。イモはそのまま食卓に。ニンジンは茹でたあとに鶏のスープと砂糖と塩でグラッセに。タマネギも鶏スープで煮る。

 ついでに、長ネギを例のエレ骨スープに入れて臭み取り。

 おー、グツグツいってる。骨を煮ると、とても臭いので台所の換気をする。こういうときに風系魔法は便利。換気のための風量調整も慣れてきた感があるわね。


 一応、味見の意味でパスタも茹でておこう。結構太麺なので十分くらい茹でないといけないかな?


「ただいまー」

 と、付け合わせの調理が終わったところで、ベッキーが戻ってきた。

「もうねー、支部長が甘えちゃってねぇ……」

「えー?」

 嫁入り前に娘に甘える父親の図、そのものじゃないか。

「結婚二度目だっていうのに。仕事そのものは副支部長が居て何とかなったんだけどね」

「副支部長って……?」

「そうね、ええと…………何さんだっけ?」

「うん、影の薄い人。ボリスさん。支部長が倒れて、副支部長はどこー! って職員全員で探してたの。一刻くらい探してもなかなか見つからなくてね。諦めて隣の席を見たら、隣にいた人が副支部長のボリスさんだったの」

 すごい影の薄さだ。中年ヒューマンであること以外、全然顔が思い浮かばない。

「すみません、私が支部長にお酒を勧めたばっかりに」

「あはは、あの人はたまにそういうことさせないとね」

 基本的にインドアだからなぁ、フェイは。

「そうね。じゃあ、お夕食にしましょう」


 明日の味見よ、とアーサお婆ちゃんは言って、熊肉のスープというか煮込みを出してきた。

 私は付け合わせを持っていって、茹で上がったパスタは、お湯を切ってオリーブオイルと塩と削ったチーズで和えたものをドン、とテーブルに出した。

「そう、これは………」

「パスタね」

「そうです。明日の付け合わせは、これにキャベツを茹でたもの、という感じでいいでしょうか?」

「そう………………」

「これは…………」

 ジュチュルルルル、と熊肉には目もくれずに、パスタに食いついたアーサお婆ちゃんとベッキーを見て、ちょっと目を丸くしてしまう。

「大丈夫でしたか? 茹で具合とか」

「そうね、絶品だわ」

「うんうん」

 好評なようでなによりです。製麺スキル万歳……。

 その後、私はパスタをもう一回茹でて、作っていた分が無くなってしまい…………明日の分も作らなければならなくなったのでした。



―――パスタの国にはフォークが一本しかなくて、ですね。





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