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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
ホムンクルスは魔導兎の夢を見るか?
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ダイヤモンドの騎士


【王国暦123年10月21日 10:28】


 今日は、朝も早くから騎士団団長の四名が迷宮にやってきている。

 エミーが呼びつけたからなんだけど、前々から気になっていた、ファリスの武器と防具を持って来てもらって、調査することにした。


「いやあ……これは凄い剣だねぇ……」

 半透明の剣を工房で掲げて、思わず嘆息する。ちなみに剣の持ち主は、私たちに装備を預けて、応接室で会議中。

「水晶を削りだしたみたいですね!」

 あまり芸術方面には才能が発揮されないサリーが、珍しくウットリしている。やはり、宝石は女性の心を捉えて離さないものなのかしら。

 この半透明の剣は、『鑑定』によれば、やはり材質は炭素――――ダイヤモンド。ただ、サリーの言うような結晶ではなく、ガラス化したものみたい。っていうか、そんなこと出来るんだ……? さすがに私の理解を超える工業技術というやつかしら……。

「つまり、粉にして溶かして、剣の形状に固めたもの」

「え、そうなんですか?」

「うん、多分ね、結晶だとかえって脆いのかも。美を競うものとして作られたんじゃなくて、実用としてなら、このくらいの透明度になっちゃうんだろうね」

 もっと言えば、刀身までダイヤモンドである必要はない。刃の部分だけで有用なはず。それこそ粘りのある金属と組み合わせていかねば。高熱に耐えられるだけというのが利点ではあるけど……。

「む……高熱対策、金属ではない……」

 案外、ダイヤモンドの剣こそが、本物の光剣……光精霊剣を実現させてくれるものなのでは……?

 おっと、いまは調査に集中しよう。

「この半透明の剣は、黒鋼の短剣を壊したんですよね……?」

「うん、欠けたね。重量もあるだろうけど……半透明の剣だって少しは傷ついたはず……」

 とは言うものの、剣戟を合わせた箇所には目立った傷は……。

「小さな傷があります」

 高周波ソードで付けた傷みたい。でも、もうちょっと深く傷付けた気がするんだけどな……。

「あれ、(グリップ)の奥に魔法陣がある」

「姉さん、これは……読み取れないですけど……グラスメイドとかに使う流体ガラスの固定魔法陣に近いような……」

 うん、そうかも。なるほど、流体ガラスの魔法陣を、ケイ素とかじゃなくて炭素でやったということね。


「凄いことを考えるなぁ」

 実用って言ったけど、これはロマンだ。誰だってダイヤモンドの騎士には憧れるものね。この半透明の剣はブノア家の家宝らしいんだけど、恐らくは古代の遺産で……迷宮からの発掘品だろうと思う。だから少なくとも千年は前の代物ということ。

「材質の違いさえ魔法陣に読み込ませれば、再現は可能そうですね」

 サリーは自信満々に言った。

「こういう、単純な思いつきの方が面白いものができたりするよね。魔道具の基本はさ、あったら便利だなーとか、こうなるといいなーとか、綺麗なのが欲しいなーとか。そういう願望だと思うのよ。曰く、柔軟な発想というのかな」

 サリーに足りないのは発想力だと言えた。このロマン武器に何かを感じ取ってくれたら、お馬鹿な魔道具を作るようになるかも。そして、お馬鹿の先には真実が……あったりなかったり。


「たまには馬鹿な魔道具も作れと言うんですね」

「うん、まあ、危ないものもあるだろうけどさ。ラシーンいるー?」

《はい、マスター》

 ラシーンは魔術師ギルドが入居している『塔』エリアにいるらしい。

「ちょっと工房に来てくれるかしら。三人組も連れて」

《了解しました、マスター》

「姉さん、ラシーンたちの……改造ですか!」

「いや改造じゃないし」

 語尾に草が生えちゃうよ。



【王国暦123年10月21日 10:39】


「お呼びですか、マスター」

「参上しました、マスター」

「来ました、マスター」

「ここに、マスター」

 ハ○イダー四人衆がこうして傅いているのを見ると、自分がプ○フェッサー・ギルになったような気分になるわね。

「みんな、このサリーは知ってるね。えーとね、サリー。錬金術師ギルドのギルドマスターになって?」

「えっ? 私が?」

「うん。今のところ、錬金術師ギルドは魔術師ギルドと合併しているから、一部門でしかないんだけどね。肩書きそのものは魔術師ギルドの錬金術部門の長、ってことになるけど、手狭だったり、爺がエロかったりしたら分離させていいから」

「じゃあ、魔術師ギルドに所属、ということですか」

「うん、細かいことは、元ギルドマスターの、このラシーンに丸投げでいいよ。この四冊の錬金術関連書の中身を理解して、検証して、書き加えたりできるのは、サリー以外にいない」

「姉さん……わかりました。お受けします」

 サリーは一瞬だけ顔をしかめて、すぐに顔を上げて、錬金術部門の長になることを了承した。

「うん、ありがとう」

「ラシーンさん。貴女を副ギルドマスターに任命します。知識や実力は勝っていても、私はまだ経験が足りません。その点を補助してくれると嬉しいです」

「過分なお言葉です、ギルマス。謹んで拝命致します。将来の分離に備えて、ギルマスをお助けしたく思います」

 これでいいんですね、マスター、とラシーンはコケティッシュな仕草で見上げてくるけど、ハカ○ダーにニッコリされても全然嬉しくないわね。


 ところでサリーはポートマットでお仕事があるので、ここへは常駐せず、普段はカッパで活動するそうな。四人衆は四人とも、ここを動かずに活動させるらしい。

「ま、後で魔術師ギルドに顔を出すことにしよう。ファリスの装備の検証が先」

「はい、姉さん」

「では、私共は戻ります」

 ハカイダ○軍団が持ち場に戻り、私とサリーは作業に戻った。



【王国暦123年10月21日 12:55】


 ファリスの装備でもう一つ気になっていたのはミスリル銀の防具だ。これは迷宮からの発掘品ではなく、王都にある防具専門店の品物らしい。この防具は騎士団支給品でもないし、ファリスが冒険者時代に発注して着ていた品だという。

「フルプレートでこの軽さ。驚異的だなぁ」

「重ねた板金の積層にしては防御力が……これが匠の仕事なんですか」

 小さい魔法陣を描くのは技術がいる。それほどの腕を持つ職人がいるとは、世界は広いなぁ……。

 と思っていたら、どうも、一定の角度に固定すると、分割されていた魔法陣が合わさって、魔法陣として機能するようになってる。だから魔法陣の記述そのものは極小でなくてもいいのか。これは発想が素晴らしい。この分割魔法陣は一番外側の板の裏に記述されていて、たとえば、左腕の前腕を折り曲げたポーズを取ると魔法陣として成立して、発動するようになっている。

 それは『硬化』だったり『障壁』だったりと色々なんだけど、盾を持った時にしっかり支えられるよう、外骨格の役目を果たしたり、使う人のことをよく考えている。ファリス自身が自分の使い勝手がいいように調整しつつ完成したものだということがわかる。

 そういった、魔力通りの良さを考えてミスリル銀なんだろうけど、本来、この素材は衝撃に強いわけじゃないし、防具にも武器にも向かない。魔力を通してこそ一流の素材になるという点をよく理解している。


「力業で魔道具を作るのもアリだけど、こういう、技術の積み重ねが見える職人の仕事はワクワクするよね」

「はい、姉さん! 何事も工夫ということですね!」

「うんうん。じゃあ、私は騎士団の皆さんにちょっと()()()くるから。これ、錬金術の本。一応、門外不出というか、他人には見せないようにしてちょうだい。再現できる人間がいるとは思えないけど、錬金術は学問だからさ。その考え方が広まるのは良いことだとは思えないのよね」

「『一巻(はじめての)』は読みました。確かに、人を人とも思わないのは、ちょっと怖いです」

「うん、人は人だと思っていじらないといけないね」

「同感です、姉さん」

 フフフフ、と暗い笑みを見せた師弟だった。



【王国暦123年10月21日 16:21】


 日課になっている騎士団の皆さんと、貴族の皆さんへのインプラント作業は、今日で一度打ち切り。

 周辺の衛星都市に配属されていた騎士団員も一時召喚してまで迷宮に連れてきたし、これで、ほぼ全員の王都騎士団員が迷宮を大好きになってくれた。

 埋め込んだ貴族は、基本的に何らかの役職に就いていたり、市の役人だったりした人で、貴族位の貴賤はあまり関係ない。跡継ぎの人間もチラホラいて、この辺り、選抜を任せてあったマッコーの調査網はなかなかのものだと感嘆してしまう。

 流れ作業を終えて、応接室に戻ると、エミーと四人の騎士団長が灰になっていた。


「これは……何事?」

「ああ、お姉様……」

 ちょっと疲れたエミーはかなりそそる。ブリジット姉さんみたいな色気じゃなくて、優等生の委員長がちょっと見せた女っぽさみたいな?


 で、朝っぱらから何を会議していたのかというと、騎士団の編成について討議してたんだとさ。

 元々、グリテン王国の軍隊は農民から徴兵するようなことはしないで、職業軍人(騎士)による常備軍が基本なわけだけど、正式に海軍を設立するにあたって、一般市民に向けて募集をかけることになったそうな。


 で、誰が海軍担当になるのか、というところで軽く揉めて、それを保留にして募集要項だとか、人数はどうするんだとか、船はどうするんだとか、エミーの試算した数字を元に話し合って、大体が決まったところで、また担当者をどうするんだ、って話になり……ループして、灰になったらしい。


「海軍設立の重要性はわかる。そこの長となれば栄誉じゃないの?」

「メイスフィールド卿にお願いしたのですが……」

 パスカルが拒否したのか。

「何か問題が?」

 パスカルに小声で訊いてみる。と、パスカルは少し困ったように、同じく小声で、私の耳元で囁いた。

「ずっと船に乗っていれば、人形のない暮らしを強いられてしまい……それに耐えられないのです」

 趣味を優先させたいと仰いますか。


「『道具箱』にでも何でも入れておけばいいじゃないですか。それとも携帯できる人形でも作りますか?」

「小型の人形ですか?」

「いえ、風船のように膨らませる人形です。船員たちの役にも立ちますよ」

 空気嫁をダッチワイフとは呼ばせない。グリテンワイフとかって呼び名になるのはどうも不名誉な気もするけど……。

「黒魔女殿……! 貴女は神の使いですか!?」

 パスカルは目の幅の涙を流して私の手を取った。それを見て、エミーがムッとした。


 海軍の創設に伴い、騎士団は以下のように再編されることになった。


・第一騎士団……陸軍

・第二騎士団……警察機構

・近衛騎士団……王族護衛専門

・海洋騎士団……海軍


 なお、海軍については、外洋船の在籍がないため、当分は沿岸警備が主任務になる。エミーの目が懇願モードになっていたので、きっと船も造らされるんだろうと、引き攣った笑みを返しておいた。

 とまあ、元々のパスカル率いる第二騎士団を縮小して、余剰分を新第一、第二騎士団で吸収するということらしい。

 陸軍は今のところエミーは明らかにしていないけど、警察機構以外の陸軍となれば、それは外征軍ということになる。防衛軍にせよ、戦争準備に他ならない。

 元々の政変だけでも外国から干渉を受ける要因になるのに、それに加えてエミーが王位に即位すれば、これはもう完璧なクーデターで、女王ということもあるから、まず攻められるだろう。エミーの性格からして、攻められる要因になるのは心苦しいとは思っているはずだけど、むしろ跳ね返して盤石な政権基盤を作ろうともしているわけね。

 ふっ、黒い、黒いぞ聖女様……!



【王国暦123年10月21日 17:08】


 騎士団絡みの話が終わったところで、ファリスに、預かっていた装備を返却する。

「如何でしたか?」

「興味深いですねぇ。まさか装備で差がついているとは思いませんでしたよ」

 事実、黒鋼の短剣は欠けて、ファリスは優位に立っていたのだから。

「量産に向くとは思えませんけどね」

「それはそうですけどね。ああ、そうだ。ブノア騎士団長は居合いを使いましたよね? あれはどこかで学んだものですか?」

「いえ、そうではありません。そのう、昔話にあったのですよ」

「ああ、『勇者ノブ』の『見えない剣』だな」

 ダニエルが補足する。曰く、鞘から出していないのに、相手が真っ二つになっている――――。そういう昔話があったんだとさ。勇者ノブというのは、昔話になるような人で、実在の人物だったらしい。この辺りはクレイトンと似てるんだけど、もう少し前の時代の人だという。


「そこで一つ提案があるんですけど、あの技、もう少し極めてみませんか?」

「と、仰いますと?」

「あの技は、本来、直剣ではやりにくいんです。技に合った剣を作れば、一対一ではもう一段階上にいけますよ?」

 ファリスとて武人の端くれ。武威を高められると聞いては興奮を隠せないみたいね。

「是非お願いします」

 ファリスは合掌してお辞儀をした。

 ダニエルとリアムは、自分たちには何もないのかな……? と、物欲しそうな顔をしていた。これ、何かあげないと駄目な雰囲気?


「け……警察用装備と、近衛用装備を考えます……」



――――プレッシャーに負けて、私は余計な仕事を背負い込んだ。





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