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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
神託は都合がいいとは限らない
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嘆きの海神

柄にもなく次話に期待を持たせてみた!


【王国暦123年10月1日 3:23】


 お堀の水から姿を現したものは、見るからに生物ではなく、金属の板を貼り合わせた異形の人型だった。

 ぶっちゃけ――――ロボットにしか見えない。


 ロボってっていうか……バビル○世の三つのしもべの一つ、海神だよね、あれ……………。

 私が作るのならまだしも、どうしてこんなものがこんなところに……? それも再現度が尋常じゃないな! あんまり想像したくないことだけど、海神がいるなら、超音波を吐く怪鳥と、地を駆ける黒豹もいるんだろうなぁ!


挿絵(By みてみん)


 海神はお堀の中から体を起こし、両手の指先を、動けないままのタロス03に向けた。

「ウォールト卿、防御を頼むよ」

《ふふふ……?》

 闇精霊たちがタロス03の正面に闇フィールドを展開すると同時に、海神は指先から勢いよく放水を開始した。あれ、ビームじゃなかったっけ?


 しかし、その水流は馬鹿に出来る威力ではなく、闇フィールドが全てを吸収できず、その余波は背にしている壁にまで及んだ。

「エミー、壁にいる全員に退避を促して。エミーの言葉なら聞くと思う」

「はい、お姉様」

 エミーが『拡声』で一層全域に響き渡るほどの大音量で注意を促した。


《壁の上にいる者、近くにいる者は、死にたくなければすぐに退避なさい!》


 あまりの音量に、それは優しい促しではなく恐ろしい脅しにしか聞こえなかったはずだけど、その音量に負けて、水流の勢いが落ちた。

「この海神……水精霊? が操ってたりする?」

《ありうる話じゃのう?》

「エミー、うん、何でもいいのでちょっと大声で何か言って?」

「何かって……」

「歌っぽいのでもいい」

 エミーは首を捻りながら、特に歌を思いつかなかったのか、


《ラーーーーーーーーーーーーーーーーー》


 と、世界の調律者(ラーゼフォン)みたいなことをしてくれた。

 海神が怯む。あら、本当に調律されてるのかしら?


「ラルフ、ファンネル展開、あのゴーレムみたいなのの足元に集中攻撃」

「直撃させなくていいんだな?」

「うん、足元でいい」

 タロス03の周囲はモニタリング出来ている。ラルフは指示通り、八つのファンネルもどきを展開させた。不思議な力場の展開により、短時間の浮遊が可能だ。


「てえっ」

 正面を向いたままのラルフが格好良い掛け声。ファンネルは方向を調整して、収納されていた実体弾を高速で射出した。


ババババババ!


 いかに深い堀とはいえ、過剰に加わった衝撃で、海神の足元に窪みができる。

 足を取られて、がくん、と体勢を崩す海神。しかし足元に渦巻きが現れ、海神は体勢を立て直す。


 邪魔だ、と言わんばかりに海神は指先のウルトラ水流でファンネルを狙う。

 おお、異種格闘技みたいなワクワク感があるなぁ!

 闇フィールドで本体が守られているからか、ラルフは安心して、余裕を持ってファンネルを操作し、水流を回避した。一度に九つの物体を操作していることになるんだけど、そこは補助用に人工魔核が装備されていたりする。タロス03は無駄に高機能なのだッ!

 海神は目をチカチカ、とさせた。まさか原作にはない目からビーム? と思いきや、何らかのコミュニケーションを取っている様子だった。


 海神は一度ウルトラ水流を止めて腕を上に上げた。

「うん………?」

 一体何をするのかと思ったら、水流を発しながら、腕を振り下ろし、水刃のように水流を使ってきた。何てことだ、知恵がある!


「あうっ」

 ラルフが小さく声を上げた。ファンネルが一基、撃墜されたのだ。このまま牽制攻撃だけを続けていてはタロス03は攻撃手段を失う。

「ノーム爺さん、背後の壁の石材を頂戴しよう。巨大な土槍を作って攻撃してみよう」

《うむ。やってみるかのう。しかし、主が直接触れておらんと生成ができんぞ?》

「じゃあ、外に出てみるか」

「危ないです、お姉様。あの水刃は侮れません」

 エミーが心配してくる。ママっぽいね!

「大丈夫、『障壁』で何とかする」

「全然大丈夫じゃないです!」

 うん、私も大丈夫じゃないと思うわ。


「当たらなければどうということはない……」

 言ってみたかったんだなぁー、これ。

「ラルフはあのゴーレム……海神の足元を狙って、足止めに徹して」

「わかった」

「お姉様……」

「大丈夫、大丈夫」


 渋るエミーを強引に説き伏せて、コックピットから出る。ハッチは後頭部にあるので、そのまま塀に降り立った。闇フィールドで防御しきれなかった水の爪痕は塀にちゃんと残っていて、ザクザクに石材が切れていた。

 これはシャレにならない威力だなぁ……。怪鳥が出てくる前に片を付けないとヤバイかも。


《土槍も恐らく防がれるぞい? 堀の水に水精霊が満ちておるわ。どうするんじゃ?》

「うん、一層の壁を全部使っていいから、お堀を埋めちゃおう」

《ほう……面白いのう……?》

 精霊には表情はないけど、土精霊たちが面白がっているのがわかった。


 サッと周囲を見渡す。『魔力感知』でもエミーの警告が効いたのか、騎士団員はいないようだ。

「よし、始めよう」


 タロス03はファンネルを回避させながら海神の足元に射撃を続けている。海神はタロス03に意識を向けている。チャンスだ。

 身を屈めて塀の頂上に手を添える。槍のイメージは伝えた。投擲するのはシルフが従える風精霊たち。


《いくぞい?》

《いくわよ?》

 添えた手の周囲にある石材がグニョン、と形を変えて、先の尖った槍になる。実は微妙に下方が平滑にしてある。ついでに微妙に平べったい。少し揚力を足してやろうという、風精霊に優しい形状ね。

「いい形状ね。さすが土精霊」


ベギギッ!


ビョン!


 土槍……いや石槍が塀から離れて、海神へと飛んでいく。


 海神は慌てたようで、ファンネルが放った、足元への攻撃によろめく。

 石槍は海神の背後に着弾した。ちょうど榴弾のように曲線を描いたことになる。


「いいね、風精霊、良い仕事する」

 両精霊たちへのフォローを忘れない私は、身を屈めたまま、ペタ、ペタと塀の上を触りながら歩き出す。

 触ったところから塀は槍に形を変えて、次々に飛んでいく。


ドン、ドン、ドン


 巨大な質量を持つ石槍が海神の周囲に杭のように穿たれていく。

 囲まれている、との認識は海神にあるようで、指先からの水刃を使って石槍を切り裂いているのが見えた。


バジャッ!


 私がタロス03から離れて攻撃している、というのがわかったのだろう。知恵の回る海神は、私の予想進路に向けて水流を放ってきた。危険な速度、水圧を持った攻撃だ。


「ちっ、シルフ!」

《容易いことよ?》

 石槍の射出を止めて、シルフたち風精霊は、水流の正面に移動した。

 ぶわ、と風によって空気の壁ができる。水流は壁に阻まれて外側に曲げられて、私には届かなかった。


 バシャッ、と水の塊が周囲に落ちる。水の精霊たちは、その水塊の中には殆どいなかった。放たれた後は水精霊たちの制御から離れた水だ、ということね。確かに水精霊たちは海神の周囲に集中している。少なくとも、海神がいる場所から、私がいる塀までの距離を、水精霊たちで満たすことは出来ないということか。


「シルフ、今度はあの辺りに。水を涸らす」

《わかったわよ?》

 私の指示通りの場所――――堀に堰を作るように――――に、再度、石槍の投擲を始める。

「今度はあの辺」

 塀を一周する間に石槍が投擲され続け、海神の周囲から、そこに満ちていた水が堰き止められて、水量を失っていく。

 海神の周囲には水精霊たちが密集しているのが『精霊視』で見えた。水がないと水精霊は動けない、ってわけじゃないんだろうけど、その方が水精霊が動きやすいのは確か。そうじゃなければ、海神がお堀の中、なんて不思議な場所に登場したりはしないだろうから。


 海神の背の高さになるまで石槍が積まれると、海神は腕を上げて、指先だけを曲げて攻撃してきた。本当に知恵が回る……。その攻撃は私の方を向いてきた。精霊の密集している方向がわかるのかもしれない。もしくは、そもそも目視なんてしてないのかも。

「くっ」

 運悪く石槍を射出した後で、風フィールドによる防御は間に合わない。闇フィールドをタロス03から移動させて、防御をさせる。

 それを見越していたのか、海神の、もう一方の指先はタロス03の方を向いた。


バジャッ!


 タロス03に直撃! ガコッ、とミスリル銀の装甲が割れる音がした。

 幸いにも腕でガードしていて、頭部には損壊はないようだった。しかしタロス03は胴部にまで達する穴が空いていた。何という貫通力だろう。


「接近する。ウォールト卿はタロスの防御に専念お願い」

《フフフ……わかったぞ?》

 低くなった塀から降りる。石槍によって堀の内部には足場ができていて、そこを飛ぶように渡る。海神が腕を伸ばして攻撃している以上、近づくにつれて射角が取れなくなる。

「うわっ」

 それでも海神は必死に精霊の密集している場所――――私の方を狙ってくる。ついに私が石槍の側に辿り着くと、諦めたのか、ついに周囲の水分がなくなったのか、攻撃が止んだ。


 お堀に刺さっている石槍を見上げる。

 こうやって杭を円形に並べて、中の水分を抜き、そこに橋脚などを建てるのは、以前、ポートマットからブリスト南迷宮への道程にあった橋を造った時の工法だ。海神は自分で水分を抜いてくれたことになる。

 ここからはお互いに有効な攻撃は行えない。


《どうするんじゃ?》

《どうするの?》

《妾には考えつかんの……?》

 出番がなかったライト・ザ・ブライトまでが疑問符を私に投げてきた。

「うん」

 石槍に手を触れる。


 この石槍は、海神を囲む直径二十メトルほどの円周の一部。

 そこから高さ二十メトルほどの『円筒形』を()()する。

 どうせ液状のモノは入らないから……、それ以外のモノを……。


「ふんっ」

《何を! 馬鹿な馬鹿な! こんな面倒なことを!?》

 石槍の壁越しにウンディーネの悲鳴が聞こえてきた。うん、やっぱり、この海神は、ウンディーネが操っていたわけね。叫んでいるけど無視ね。


「ふんっ、ぬぬぬ………」

 石槍ごと、海神ごと、ウンディーネごと、その円筒形の土地を、私は。

「むん!」

『道具箱』に収納した。


ボゴッ


 穴が空く音がして、私が触れていた石槍は消え、足元には円筒形の空間が姿を現した。排除しきれなかったお堀の水が、穴に落ちていく。あれ、なんか下に空間がある……?

 ウンディーネを飲み込んだつもりだけど、水精霊LV10を習得した、というログは流れない。ということは未だウンディーネとマッコーとの契約は切れていない。ただし大量の水精霊を飲み込んだ。彼らは魔力を内包したまま、『道具箱』の中で大人しくしている。というか、いきなりウンディーネとのリンクを切られたためか、困惑して動けていない。


 今までの精霊と比べても変な動きをしているなぁ……水精霊はちょっと特殊なのかしら?

《否定はせんの……?》

 一番変な精霊だと思うライト・ザ・ブライトが嘆息したように言った。呼吸をしていないくせに仕草はまるで人間だもんなぁ。

《のう、主よ。もしかして、傷付けずにこの海神とやらを入手したかっただけかの……?》

 私が頷くと、契約している精霊たち、全員が呆れてくれた。



――――うん、この芸術のような海神、欲しかったのよね。





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