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異世界でカボチャプリン  作者: マーブル
神託は都合がいいとは限らない
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ファリスの提案


【王国暦123年10月1日 2:11】


 王都三層には冒険者ギルド本部も商業ギルド本部あったりするし、民間の重要な施設はこの層に集まっていると言っても過言ではない。

 だから慎重に、建物を壊さないようにゆっくり走り抜ける。


 先行していたラシーンたちは無事に三層に侵入、さらに二層にまで入り込んだ、と短文が来た。

 ラシーンは、その新しい素体(からだ)に秘められた力に驚いているようで、合間の短文に、こんな文章が混じる。

《運動性能、隠密性能ともに素晴らしい》

《内蔵機能が実に有用》

 と、べた褒めを貰った。元々、ラシーンを助けるための改造手術だったんだけど、喜んでるからいいかな。他の三人からは感想なんて来ないけど、ラシーンは自分の体だというのにかなり客観視出来てるのよね。


《ラルフ氏との模擬戦はしているが対人戦には未知数》

 うん、全くその通り。同等以上の存在と長時間の戦闘は魔核に貯蓄してある魔力の関係で難しい、という結論が出ていた。こうやって偵察行動なら長時間運用も出来る。緊急避難的措置だけど、素体はミスリル銀で出来た魔法陣の塊でしかないから、戦闘に向くとは言い切れないのよね。軽量化と重装甲化は相反する要件であるが故に、もう少しバランスを戦闘向きにするオプションを開発しなければならない、そう心に決めた。


 さて、そんなラシーンたちは騎士団駐屯地のある二層に軽々と侵入して、周囲の様子を伝えてくる。ケリーたちにチクってもらっていた魔術師ギルドの位置は西側で、目標と思われる建物にラシーンとモンローが侵入していた。

《無人、もぬけの殻、羊皮紙一枚さえない。完全な空き家》

 との報告があった。元々、公的な建物が連なる二層で、マッコーの私的組織ともいえる魔術師ギルドが存在するというのは違和感があった。

 魔術師ギルドは武力行使が出来る面々を次々に処分していったから、残っているのは研究組だけだというし、組織も変わってしまったのかも。

 とにかく、引っ越ししていて、この場所には何もない。敵の巣を急襲は空振り、か。


《騎士団駐屯地に待機中の騎士団員は十名ほど。殆どが出払っていると思われる》

《二層に展開中の部隊の殆どは一層への壁周辺に点在》


 別働隊であるローズマリーとシーラからも報告が上がる。

 つまり、ノックス周辺に展開している部隊と、今し方接触した四層~三層の門にいる、パスカル率いる真っ白な心の部隊の他、殆どは……王都内、それも一層を囲むように展開しているということか。


「うーん、状況が見えないねぇ」

「パッと見ただけでは、どれが第一で第二で第三なのか、わかりませんしね」

 エミーの言うとおりで、わかりやすい目印なんかついていない。だから、どの部隊がどんな動きをしているのかはわからない。建物の内部にいるとして、私が行けば『魔力感知』やら『気配探知』やらで何とかわかるけど、もう少し近づかないと漫然としすぎていて判別は難しい。


「門が、見えて、きた」

 ラルフが辿々しく伝えてきた。各種センサーとラルフの感覚は直結しているから、混乱していただろうに、この短時間で会話が出来るようになったのは慣れた方だと思う。


 三層から二層に入るところの門が、ラルフの言う通り遠目に見えてきた。ここは『ホテル・ロイヤル・ロンデニオン』が脇にある門だ。ゲイのためなら女房を泣かす門番がいたっけ。彼は今頃どうしているのやら。


「お姉様、また飛びますか?」

「最終的にはそうしよう。一応、門番に一声掛けてからにしよう」

「騎士団が屈したという実績が必要なんですね?」

「うん、黙って通過してもいいんだけどさ。向こうにも撤退や降伏の口実が必要でしょ?」

「まあっ! お姉様、優しいです……」

 ええ……優しさとは違うと思うんだけどなぁ。まあいいや。


 だなんてほのぼのした会話をコックピット内部で続けていたら、門前に到着した。

 タロス03は聖領域を維持しているので、ボンヤリ光っているから、遠距離からではいい的だろう。でも、闇精霊防御フィールドを破れるとは思えないけどね!


 じゃあ、エミー、宣言を……と言おうとしたら、またまた『拡声』スキルによる大声が響いた。


《こちらは第一騎士団騎士団長、ファリス・ニコライ・ブノアである! そこの巨人よ! 提案がある! お耳を拝借したい!》


 おおっと、ファリスだ。

 イケメンが何の用だろうねぇ? 騎士口調のファリスの声は、凛々しくて格好いいわね。

「お姉様、聞いた方がいいですか? 無視しますか?」

「騎士団長様の提案だそうだから聞いてみようよ」

 エミーは頷くと、コックピットに備え付けの『拡声』魔法陣を起動した。


《こちらは迷宮管理者の一人、エマ・ヴィヴィアン・ミカエル・ワイアットです。伺いましょう》

《エマ………! コホン。感謝する。その巨人には『ラーヴァ』が同乗しているはずだ》

 なんだ、ファリスもパスカルと同じようにエミーの名前を聞いて驚いてるなぁ。何でだろうねぇ?


《解答を拒否します》

 この言い方だと、遠回しに肯定しているなぁ。

《いる、と解釈して提案を申し上げる。我、ファリス・ニコライ・ブノアは『ラーヴァ』と一騎討ちを所望する!》

 ちっ…………。タイマンやろうって? おいおい、本宮ひろ志の世界じゃないんだよ?


 それに、上級冒険者相当(ファリスは元冒険者でもあるけど)とはいえ、勝てる自信がある、とでもいうのかしら。見くびられたものだわ。

 エミーが厳しい表情で頷いた。この世界で騎士が一騎討ちを求めるというのは死の覚悟あってのこと。別に私は騎士じゃないし、非道の暗殺者なんだから断ってもいいんだけど…………。雰囲気がそれを許してくれなさそう。これは受けなければ礼を失する。


「イケメンが世界から失われるのは痛い。だけど行ってくる」

「ムッ。お姉様、ああいう御仁がお好みなんですか?」

 イケメンが通じたのが凄い。それ以上にエミーのジェラシービームが凄い。

「顔はいいけど他がダメな男……。腹が立つより可愛いじゃないか……」

 キシ○ア少将(十九歳)みたいなことを言ってみる。

「男の人が可愛い……?」

 エミーはチラっとラルフを見てから、小さく首を横に振った。一瞬の葛藤が見えて微笑ましい。エミーのお相手って、強烈な父性の持ち主か、逆に母性本能を刺激する人か、どっちかじゃないかしら。私は案外後者が好みなのかなぁ。外見は、ギャップを産むためのスパイスに過ぎない気がしているけどさ。


「色んな男がいるものさ。案外ファリスの中身は雄々しいケダモノかもしれないよ?」

 いやいや、兄弟父親共々、ロリコンだとは聞いていますが! まあ、この世界に限らず、元の世界の中世とかでも早婚が一般的だから、適齢期の女性というのは自然にロリータになるのか。エミーの母親と言われているヴィヴィアン妃も、最初の子供であるヴェロニカを産んだ年齢を逆算するととんでもないもんね。スチュワート王もロリコン認定だな! ついでに言えばファリスはMっ気もあるよね!


「ケダモノ……!」

「ケダモノ!」

 何故かラルフも反応した。操縦に集中したまえ。


「まあ、ケダモノは良いとして、ちょっと行ってくるよ。『ラーヴァ』は迷宮に関係しているようでしてないような、半端な関わり方ってことになってるから―――――『隠蔽』。一瞬だけコックピットハッチを開けてちょうだいな」

「はい、お姉様。お気を付けて」

 エミーはさほど心配してなさそうに言って、ハッチを開いた。

 私は隠蔽状態のまま、コックピットから降りた。



【王国暦123年10月1日 2:32】


 石畳の舗装路に降りると、私は『隠蔽』を解除した。

 それに合わせるかのように、三層の門が開き、深夜だというのに、門上に並んだ騎士団員たちがラッパを鳴らした。


パッパッ、パッパッ、パッパッパッパ、パッパパッパパッパパー


 あれ、これ聞いたことあるなぁ。米軍が起床時に使ってるやつ? 突撃ラッパってやつ?

 そうかぁ、管楽器はこういうところから発展したのか……。


 そんな戦闘に関係の無いことを考えながら、黒鋼の短剣と高周波ソードを取り出す。

 開いた門からは………………。

 おおう、蹄の音!

 白馬だ! そして乗っているのはイケメンの騎士団長!

 おお……なんて絵になるんだろう。童話の挿絵みたいな、颯爽とした風情は、これから死地に向かう者だとは感じさせない。勝利を信じている顔だ。


 白馬の騎士は『聖領域』と『灯り』に照らされた薄明かりの中、ゆっくりと近づいてきた。

 ひらり、と馬を降りる。馬は行儀良くその場で待っていたものの、ファリスに促されて門の中へと戻っていった。

 この時点で門は開いている。そして、中にいただろう騎士団員がゾロゾロと出てきた。門上でラッパを吹いているのが十名ほど、今出てきたのが二十名ほど。タロス03の足止めにしては少ないと言える。唯一、止める手段は、私との一騎討ち。いや、正確には私は馬に乗ってないから一騎じゃないんだけどさ。


「一騎討ちを受けて頂き、感謝の念に堪えない」

「受けるとは言っていない」

 もう、この時点で受けてるようなものだけどね。ファリスは白い鎧を着ていた。いやあ、外見だけは素晴らしい。いや……ちょっと待てよ……。これミスリル銀の鎧じゃないかい? そんなものが現存するのか……。


「受けて頂く。我、ファリス・ニコライ・ブノアは神に誓う! 正々堂々戦い、勝利を我が手にもたらさんことを!」

「ウォーーーー!」

 後にいる騎士団員たちが歓声を上げる。何あれ、ギャラリーなの?

「………………」

 名乗りなんか知るか……。黙ったままでいると、ファリスが句を継いだ。

「どうした、名を名乗るがいい!」

 おっと、ファリスが格好良い。『魅了』でも使っているのかしら……。凛とした出で立ち……。あれ、まだ剣を持ってないぞ?


「私に名はない」

「『ラーヴァ』ではないのか?」

「その名は私が名乗った訳ではない」

「そうか。ならば『ラーヴァ』でよいな?」

「何でもいい」

 ぶっきらぼうに私が答えると、ファリスは無手のまま、スタスタ……と近づいてきた。腰に小剣はある。居合いでもするのか……。

「いくぞ、ラーヴァ!」

 急に駆け出したファリスは、自身の『道具箱』から何かを取り出した。

「……?」

 それは剣の持ち手……柄の部分だけに見えた。それを右手に握り、左手には鎧とお揃いなのか、白い小楯を持っていた。

 右手を隠したままファリスが近づく。

 速い!

 居合い……………?

 ファリスは素早い踏み込みから、先に左手の小盾を前面に出して、こちらの視線を遮り、攻撃が届く距離になると、右手を動かした。

 何だ? 右腕の角度からは、私の首元を狙ってきているのがわかった。柄だけの剣を――――。


ヒョウッ


「!?」

 いや! 刀身がある! 見えない剣!?

 剣を受けるかどうかで一瞬迷う。受けちゃいけない気がして、大袈裟にバックステップ。

 半透明の刃が横薙ぎに振られているのが見えた。というかギリギリで回避できた。半透明の………何アレ!?


 ファリスが持っていたのは、大きな水晶の塊に見えた。それが剣の形をしていた。

 半透明の剣をくるん、と引き戻し、体勢を崩している私に向かって突き出してくる。あくまで喉元を狙っている。これは避けられない!

「っ」

 右手に持っていた黒鋼の短剣でガード。


キイイイイイィィン


 剣が鳴った。金属音が響く。

 なんと! あの硬い黒鋼の短剣の刃が欠けた! 馬鹿な!

 もしかして、あの剣って、水晶じゃなくてダイヤモンド………? そんなものを加工する技術があるのか!


 驚きと共に大警戒、ファリスを中心に円を描くように反時計回りに移動、背後に回ろうとする。

 半透明の剣は小剣よりも長く、長剣よりは短い。片手剣だ。この半端な長さというのは余り見かけない。『筋力強化』を付与しているだろうとはいえ、筋力だけで振れる剣ではない。


 荒々しく洗練されていない、ケダモノの剣筋。最終的に振るわれるまで、筋肉の緊張の方向が刻々と変わり、こちらに読ませない工夫がある。そうだった。ファリスは元冒険者、剣の師匠に習ったのではなく、自ら編み出した我流の剣なのか。

 そして、剣先が見えないので次が予測しづらい。何という初見殺し。そうか、だからなるべく刀身を見せずに接近してきたのか。ずるい騎士ずるい! 正々堂々が聞いて呆れるわね!


 その剣の振るわれる方向は腕の角度でしかわからず、それもフェイントがかかりまくっている。肩関節をはじめ、鞭のように振るわれる右腕から、変幻自在に私の先端部を狙ってくる。


 いやこれ、弟の結婚してくれ星人(オースティン)より強いわ! ノクスフォド領地の跡取り息子だったのに冒険者になっていたということは出奔したということで、それでも縁切りされていないということは、ファリスの才覚を惜しんだということか。


 グッと踏み込んできたファリスの剣が上段から弧を描いて袈裟斬りにしようと振るわれた。定石である左側に回ろうとしたところで、剣筋が変化、私を追ってきた。


ガッ!


 避けきれず、左手の短剣で受けるも、またまた黒鋼の短剣が欠けた。

 これは防戦一方ではやられる。しかし向こうの剣筋が見えなければ隙が作れない。

 純粋に剣技だけでは向こうの方が上ということか。



――――迂闊! まさか、イケメンが一番の伏兵だったとは……!





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